↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
574/639

第五百七十四話 閉じた瞳

「・・やっとだな。」


たった一人になった戦場で奴は何か小さく呟いている。

今から隠していた何かを仕掛けるつもりなのだろう。そんなことを・・・させる訳にはいかない。


「・・・・・よう。」


不意打ちはもういらない。堂々と、隠れもせずに忠行の前に出る。


「・・なんだ。てっきり尻尾を撒いたのだと思ったぞ。」


背中を向けていた奴は触手をこちらに向けながらゆっくりと振り返る。

もはや警戒などする必要がない。そんなことをしなくとも、見つけ次第殺せると思っている。

その事実は当たっている。奴の攻撃をいなし続けるほどの力は・・・俺達に残されていない。

それでも、前に立たなければならない理由はたった一つ。希望として、俺は

この場に立ち続けなければならない。


「そんな真似、今更できっかよ。」


制服のパンツに付いたポケットに手を突っ込みながら、強気に言い返す。

俺達に抗う力が残されていないのは奴も分かっているだろう。だからこその挑発。

抗う事が出来ずとも、立ち回り次第では時間を稼ぐことはできる。

そのためにも、奴から仕掛けてもらう必要がある。


「何か仕掛けようとしていたみたいだな。お前の事だ、しょうもない罠でも仕掛ける気

だったんじゃないか?」


「・・・・何?」


「何か隠しているんだろ?どうせ、皇の力を抑える術式とかだろうな。

その時点で後手。東京結界が敷かれていたのが良い証拠だ。それだけ長く生きているのに

目的である皇を護るための都が何故結界で護れているんだ?」


こいつが日ノ本の王になるという野心をもう少し早く表に出していれば

結界を阻止する事が出来た。いや、そもそもその時点ですでに後手に回っていたのだろう。

そもそも奠都自体は江戸中期から提起されており、東京以外にも大阪もその候補となっていた。

だが徳川家が江戸から駿府に移されると東京奠都の候補として上がったが

公にされることなく、行幸として当時の皇が東京に訪れると突然奠都が発表された。


「貴様・・・・・!!」


忠行は明らかな苛立ちを見せる。この話しは以前、純恋から聞いた話しだ。

その時はただ漠然と聞いていたが・・・もしかすると、その突然の発表には

目の前にいるこいつが絡んでいたのかもしれない。

賀茂忠行の存在が日ノ本の中核に知らされたのは江戸時代。当時の陰陽寮からここまで

その存在は密かに紡がれてきた。当然、徳川最期の将軍の耳にも入っているはず。


「京に敷いた罠をここにも敷く気か?日ノ本を我が物にするための罠だったが、

結局は意味を成さなかった。賀茂御祖神社という拠点を維持する意味も無くなり、

泣く泣く東京に移った後、まんまと裏切られたはお笑いだよ。」


嫌に頭が冴えるのか、それともこじつけなのか。すらすらと出てくる煽りを

受けた忠行は目に見えて怒りを露わにする。


「気になっていたんだよ。兼兄から聞いていた情報とお前の口ぶりがかみ合わない。

寿命が残り少なくなったから王を目指したなんて聞いていたが、今の今まで

ずっと王の座を狙っていた様な言葉がぽつぽつ出ていた。これまでお前は

失敗し続けてきたんだな。何度も王の座を目指し、挫折していた。

表に出ていない所を見るに、どうやら子孫達の戦いの時点でやられていたみたいだな。

だから俺を誘った。下手に戦えば手痛い反撃を受けるからだ。

そしてそれ以上に信頼できる配下を従える事も出来なかった。どれだけ配下を従えても

お前について行く者にはそれなりの野望がある。姿を潜めなければならないお前には

そいつらの制御が出来なかった。だからお前は日ノ本を取れなかったんだ。」


繋がっていく。こいつが日ノ本を取れなかった理由の全てを理解する。

忠行は根を枯らせなかった。日ノ本の王の座に根付いた歴史を。


「必死だよな?これ以上の無い好機だ。今までと同じ轍を踏まないように慎重に

慎重を重ねた結果がこれだ。こうして考えると・・・可愛らしいもんだな。」


こんな奴が神なわけがない。正真正銘、人間だ。神とは傲慢でなければならない。

人間という生物より高等な存在はどこまで行っても心のどこかで俺達を舐めてかかる。

そここそが唯一の勝機である。知恵を絞り、打開できる隙のはず。


「人間だよ。やっぱり、お前は。」


傲慢は後悔を生むことは無い。何故ならどの道を辿ろうと成功の道に繋がっている。

例え茨で溢れかえっていようと、神はその上を堂々と踏む。


「・・・・・死にたい様だな。」


奴の意識が俺だけに集中する。これなら・・・最悪味方を逃がせる。

既に触手は再生しており、子孫達も姿を現している。これから・・・俺にはあの術式の雨が

降り注ぐのだろう。とはいえ、それを防ぎ切る方法は無い。

出来るのは立ち回る事だが、それでは置いて行かれる仲間達が危険にさらされる。


「・・女神の鏡(アイギスのたて)。」


残された俺の力、ミネルウァを呼び寄せ姿を変える。ミネルウァと同一視される女神アテナ。

そのアテナが持っているのがアイギスの盾。ありとあらゆる災厄を祓うとされる

まるで鏡の様に磨かれた無敵の盾。英雄ペルセウスがこの盾を使い、怪物である

メドゥーサを討伐したのは有名な話であり、その首を括りつけた盾は全ての防御を防ぎ、

そして直視した者を石へと変える攻守ともに最強の盾となった。


「そんなに死にたいのなら、この手で殺してやろう。」


再び展開された曼荼羅。そして鳴り響く術式を練る声と共に術式の雨が俺達に降り注ぐ。

メドゥーサの石化は再現できなかったが、そのすさまじい防御力だけは作り上げることが

出来た。俺達に注がれるはずの術式達はアイギスの盾によって防がれるが、

幾度となく組み込まれた術式は力の消費が激しく、維持できなくなるのは時間の問題。


「大日招来(だいにちしょうらい)!!!」


俺の状況を察した全員が盾の影から最後の反撃に出る。


「水つ早の垂水(みつはのたるみ)!!!」


各々、今出せる最後の力を振り絞る。


「魔刃葬送(まじんそうそう)!!!」


「大叫喚地獄(だいきょうかんじごく)!!!」


思えば・・・良く付いてきてくれたものだ。俺の無茶な戦いに、五体満足で。

四人のすさまじい力は曼荼羅達の術式を貫き、忠行の体にぶつかる。

凄まじい気が込められた一撃達は奴の体を貫くが、それではダメ。

さらけ出された肉はすぐさま動き出し、簡単に穴が埋まってしまう。


「ッ・・・・・!!!」


「歯がゆいか?これが神だ。お前達とは違う。生きている次元が違うのだ。」


なんとまあ、強がりな言葉な事だ。結局、まとも打開策は見いだせなかった。

もう少しだけ、時間があれば違ったのかもしれない。そのヒントを俺たちは持っていたが、

有効に使う時間を奴が取らせなかった。


「・・ありがとう。」


全ての力を使い果たした四人はその場に膝を突く。これではまともに動けない。

このまま俺が近くにいればもろとも命を落とす。それに、まだやれることはある。


「少し出てくる。」


これではもう四人と共にいる意味はないと、わずかな希望を追うため盾の影から飛び出す。


「馬鹿ッ・・・・・!!!」


後ろから純恋の声が聞こえてきたのかもしれないが、振り返る事だけは出来ない。

宙を浮かぶことは難しいが、一瞬であれば空気を固めることはできる。

飛び出した俺を仕留めるため、奴は術式を向けるが固めた空気を踏み台にしながら

兎歩で空を駆ける。


「終わりだ。」


俺に向かって飛んできている術式は全て強力。まともに喰らえば命を落とす所か体が消し炭に

なる様な物ばかり。奴の寿命が短いのは事実だ。俺の血肉を喰らう事で長らえられるが・・・・・散々煽った甲斐があった。


『・・両親と同じ道を歩むつもりか?』


今なら・・・六華に入っている両親の気持ちが十分に理解できる。

絶望の中に見出す光には、それなりの対価が必要だ。俺がここで体を残さないほどに

死ぬとしよう。そうすれば奴は長らえる事は出来ず、いずれ寿命で死ぬ。

このまま皇が現れず、命を繋ぐことができるのならいずれ奴は死に、日ノ本は再び

息を吹き返す。


「どうだかな・・・。俺はまだ、希望を失っていないぞ?」


駆ける足が酷く痛む。俺が思っていた以上に鎧を貫く術式が強力だったのかもしれない。

恐らく、ここに来る前に対峙した子孫達は奴に最後まで抵抗した人達。

未だ奴の体残っている奴らは・・・どうやら俺を引き込みたいらしい。

そんなのは御免だ。俺は最後まで足掻く。足掻いて・・・わずかな希望を追い続ける。

後少しで・・・兼兄達が来るかもしれない。奴の中にある力が尽きるかもしれない。

もしかすると、忠行の寿命はすぐそこまで・・・。


「・・・・・!!!」


踏み出した足に火掻き棒を押し付けられた様な熱が爆発する。

見ると、思う様に動かなくなった足が奴の術式にからめとられていた。


「取った。」


止まった足。もう、動けない。そう悟った瞬間、空気操作は乱れ体は重力に従い落ちていく。

意識を失えばみんなを護る盾や支える床、そして空中に展開した陣と式盤が消え

純恋達は命を落としてしまう。逃げられるだけの隙を作るには最後まで

意識を残さなければならない。


「グッ・・・ガッ・・・・・!!!」


我先にと向かってきた術式がわき腹や腕を捕らえる。防御すらできない体を、それは

いとも簡単に貫き、酷い熱が脳に警鐘を鳴らす。

このまま死ぬのかもしれない。だが、最後まで希望を追った。

もはや詰みだったが、それでも何かを起こさなければと行動し、時間を稼いだ。

後は幕切れ。最後に呆気なく・・・体をこの世から消え去るだけ。

視界に広がる無数の術式達がその役目を果たしてくれる。これなら痛みは一瞬だ。


「・・・・・・・・・・。」


もう何もできない。目を閉じ、ただその時を待つ。視界が暗黒へと包まれ聴覚が鮮明になる。

聞こえてきたのは・・・・死を告げる風切り音だけだった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

少しでも興味を持っていただけたのなら評価やブックマーク等を付けていただけると

励みになりますのでよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。