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第五百六十七話 繋がってくる立ち回り

「たつほ・・・たちは・・・・・?」


血まみれの中、手を伸ばす男。


「しゃべっちゃだめだよ~。今治療中だからね~。」


龍穂達が治療に使っていた拠点に運ばれた五人。後方に控えていた白達が魔術神術等々の

全力を治療を受けていた。


「ちーちゃんが向こうにいてくれているから最低限の情報は入ってきてる。

どうも奴が深海から水をくみ上げている触手に切れ目を入れる事に成功して、

それに激怒した忠行が暴れ出したみたいだね~。」


共に退き、術式以外の治療を行っていたゆーはちーから遅れていた近況を平静を装いながら

報告を行う。正確かつ、安堵を与える情報を選んでの報告だが兼定の表情は

強張りを解くことは無い。


「あばれて・・・ひいた・・のか・・・?」


「退く動きを見せたみたいだけど・・・途中で反転して攻勢を見せているよ~。」


素直に言うべきかと悩んだゆーだが、すぐさま考えなし全てを正直に答える。

落とし子の存在もあるが、それでも抑えきれなかった忠行が暴れたとなると

龍穂達でも抑えきれない。


「・・・・・・・・・・・・。」


状況は依然劣勢。好機を手繰り寄せたと思えば手からすり抜ける。

いったい何度繰り返せばいいのか。流石のゆーもこの戦いに疲れている。

そして何より、このような報告を受けた兼定はより一層表情を強張らせるだろうと

言ったことを後悔するほど。戦場においては感情を前に出してはならない。

必要な情報を隠してしまう温情など捨て去ることが必要。

だが疲労は心を緩ませ温情を前に出そうとする。厳しい訓練と実践の中で鍛え上げられた

ゆーでさえ弱音が心を支配しかけていた。


「・・・そうか。」


だが兼定の表情はこわばりを消し、むしろ安堵したものへと変わる。


「だい・・・じょうぶなの?あいつ、兼兄達でも勝てない相手だよ?」


「そう・・・だな。だが・・・・・かんじんなのはそこじゃない・・・。」


その言葉の真意を、ゆーは理解できない。


「肝心って・・・勝たなきゃいけないんでしょ?龍穂が死んでもいいの・・・?」


「そういうことをいっているわけじゃない・・・。だが、せいめいせんをきったとしても・・・

じょうきょうはけっしてこうてんしない・・・・・。」


「訳が・・・分からないよ。」


兼定の言葉はまるで勝利の前提が他にあると言わんばかりで純粋な勝利だけを

求めていたゆーはさらに混乱する。


「ただ勝てばいいんでしょ・・・?」


「ああ・・・。それができればいちばんよかった・・・・・。

・・ひとつ、わすれているぞ・・・。やつのもくてきを・・・・・。」


忠行の目的。それは日ノ本の頂点に立つ事。それはこの国の王となる事。


「ど・・どういう事・・・?」


ゆーは日ノ本生まれではない。そして白として世界を回っており、日ノ本という国の

歴史の根本を深くまで理解していなかった。


「ひとまず・・・だ。いまはちりょうにせんねん・・・・・。

たつほたちがふんばってくれて・・・”あのひと”がまえでてくるまえに・・・

せんじょうにもどる。」


そう呟くと、兼定は瞼を閉じる。とうに限界は超えている。

最善に立ち続けた。当然の事。だが、それでも戦場に立ち続けようとする兼定を縛るのは

失った友が残した呪いか、それとも立場か。


「・・・・・・・・・。」


はたまたその両方か。そのどれかであってもゆーは理解できない。

妹として、兄の仕事は大変だと一定の理解を示していた。だがこうして目の前で

死の匂いを感じさせられれば疲れ切った心は大きく揺さぶられる。


「・・・・・どうにかする。」


それでもゆーは兼定に理解を示す。それは自らの言葉では決して止まらないという

理解が裂けた肉を繋ぎ合わせる針を動かす。

戦場で何が起きようとかまわない。ここに自分がいる理由を全うするため、

ちーは分け目も振らずに手を動かした。


————————————————————————————————————————————————————————————————————————————


ミネルウァと梟を従えながら、伸びた距離を詰めていく。


「・・いいのか?」


後ろから声をかけてきたのは陽菜。これは最後の警告という事なのだろう。


「いい。ここは退けない。」


恐らく・・・ここを退いたら全てが終わりかねない。

何故兼兄が戦場に出張り続けたのか。恐らく、その理由がそこにある。


「お前なら分かっているだろう。ここから仕掛けるとなると再び踏み込むことを

考えなければならない。その意味、分かっているか?」


前に出てきた陽菜の後を追う様に純恋達もやってくる。

俺の力があればこの距離でも十分に戦える。だが、それは五行陣があるのが大前提。

仲間達の中には踏み込まなければ十分に力を発揮できない者もいる。


「・・あの深海に伸びた触手の事か?」


「それだけではない。意識の分散だ。決して得意な距離を押し付けるだけではない。

全ての距離に人数を配置する事で奴の不意を打てる状況をいつでも作り上げられる。」


俺の風が完全に奴に通用しない姿を陽菜は見てしまっている。

俺という存在感が出せる者がいれば距離を気にせずに意識を削ぐことはできるが、

それが出来ないのであれば距離を上手く使うしか勝機は無いと言ってくる。


「これ以上の犠牲はマズい。失いかけた者達はどれも主力級だ。

それでも・・・やるのか?」


謙太郎さんや猛達。あの場に出したのはみんなならやってくれると思っていたからだ。


「・・幸い、あの人達のおかげで俺達の傷は浅い。」


「だが力は消耗している。」


陽菜が上げる不安要素。そのどれもが敗北に直結することぐらい、俺は分かっている。


「それでもだ。これ以上、”劣勢を見せてはならない”。

もし、出てくるのならもっと追い込まなければならないからな。」


ミネルウァと梟は良い連携を見せながら触手をいなしていく。

この戦い。俺は俺だけの使命を持って戦っていた。だが、業や日ノ本全体から見たら違う。


「・・・・・何故だ。これは勝利を目指す道筋とは大きく外れている。」


「だろうな。だがそれは俺達の勝利だけ目指す道だ。決して日ノ本の勝利じゃない。」


これは日ノ本に根付いていた深く、血に塗れた呪い。その被害を受けていたのは俺達

賀茂家の一族だが。広く見れば国全体を縛り付ける呪いだ。

その対処を行うべきは・・・・・一人しかいない。


「どういう・・・・・。」


「らしくないな、陽菜。お前なら分かるはずだ。俺達が危機に陥れば・・・

出てこなければならない人が一人いるはずだ。」


その息子さんには何とか要求を呑んでもらった。だが、その人は必ずやってくる。

俺達、すなわち日ノ本の危機となれば必ず姿を現す。だからこそ奴は”止めを刺さなかった”。

何千年、何万年と血を繋ぎ、自らの命を絶つという使命を持った古き英雄達でさえ

止めを刺さず、こうして未だ俺達を追い込もうとしているのだから躍起だ。


「まさか・・・・・!!」


「そのまさかだよ。もしこの状況を何とかしようと出てきたら確実に終わる。

そしてその後は皇太子様の元へ行こうとするだろうな。」


あの人の親だ。俺も数回あっただけだが、それだけでも異例。

高齢であり、もし何かがあって崩御なんてことがあれば危険なのに身を挺て出てくるなんて事は

容易に考えられる。


「親父の事だ。きっとこの戦場の様子を見て出来る限り安全なタイミングを計っている。

だが、それはあくまで親父の意見。これ以上戦線を維持できない様なら

自らの身を挺して俺達を助けようと無理やり出てくるだろうな。」


日ノ本の太陽。神の力を継ぐ人の力は強大だと聞いている。

だが、依然会った時はそのような雰囲気は見えなかった。それを使うとすれば・・・・・

確実に命を削って使うに決まっている。


「・・・・・・・・・・・・。」


俺の言葉を聞いたのか、後にいた純恋は俺の隣に立つ。俺達はまだ戦える。

言葉ではなく、行動で証明する気だ。


「・・生命線を断った。ここから奴は立ち回りを変えてくるだろう。」


あからさまな時間稼ぎはいくらでも消耗しても大丈夫だと言う保険があっての事。

俺達とぶつかり、それを失ったからこそ奴も強がった。

だがここで退かないとなると、それ相応の痛手を見せなければならない。

まだ助かる。そう思わせる事で出てくる価値ありと思わせるためだ。


「・・ついてこい。」


死ぬ覚悟を固め、空気を動かす。死線を・・・越えなければならない。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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