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第五百六十五話 生命線

大津波は何とか防いだ。だが、俺達を待っていたのは残酷な結果。

援護に入った謙太郎さん。そして・・・猛達は倒れてしまっている。


「ふん。他愛のない。」


決して対処に時間がかかった訳じゃない。むしろあの大津波への対処であれば

最短と言ってもいい。だが、それでも奴は猛や真奈美、そして謙太郎さん達を倒した。


『息はあるぞ。』


まだ助けられる。ここで立て直せれば大崩れはしない。まだ壁の中に味方達はいる。

だが出て来れなかった所を見るに、相当早く追い込まれている。

接近戦で謙太郎さん達と猛達を簡単なぎ倒す相手に近づかなければ助けられないが、

奴の謎を暴くためにも情報を取らなければならない。


「・・陽菜、来てくれるか。」


一人で突っ込むのはマズい。近くにいる楓の背中を叩きながら陽菜を呼び出す。

化け物相手だ。こちらもそれ相応の味方を連れてかなければならない。

後方にいた陽菜は縮地でこちらに飛び込んでくるが、その表情は死地に向かう覚悟を

既に決めている。


「・・・・・すまないな。」


行けるかなど聞く方が無粋。戦場の中でも最も危険で、最悪のタイミングで

呼び出したことについて謝る事しか出来ない。


「阿保か、今更だ。」


本来なら言葉をかけることなく踏み込むのが正解なのだろう。

予想通り、陽菜からは小さな罵声が飛んでくる。だが、それでも言わなければならない。

ここからは命の保証はなく、いつ命を落としてもしょうがないのだから。


「じゃあ、行くぞ。」


時間は無い。奴が俺達を誘っているのだとしてもいかなければならない。

再び津波を起こされる可能性は十分にある。その謎をどうにかして突き留めなければ

また足止めを喰らい、仲間達が倒れてしまう。それにあの結界術は何度もできるわけじゃない。

速くしなければ・・・敗北へと繋がる。


「ふふっ・・・忙しいな。」


迫ろうとする俺達を見た忠行は再び余裕を見せる。奴が何故津波を起こしたのか・・・。

心当たりは・・・ある。五行陣で引っかからなかったのは奴の体から直接出した水のみ。

という事は奴には”他に味方がいるか、伸ばした触手が他にある”。

可能性が高いのは後者。前者であるとすれば、あれほどの津波を呼び出す者が

他にいるのなら落とし子が呼び出されることは無かった。

そんな奴がいるのなら、兼兄達を取りこぼすなんてことは無かったからだ。

可能性の高い後者だが、一つ問題がある。本体である奴は五行陣の支配から逃れられていない。

あの津波を他に奴が使える者がいるはずがないが、その奴が何故津波を引き起こせたのか。


「・・俺が隙を作る。」


恐らく・・・”奴の特殊な体”がそれを可能にしている。

厄介だが、ここはやるしかない。ヘッドセットのマイクを軽く叩き、風となって踏み込む。


「ほう・・・。良いのか?仲間をさらけ出して。」


黒牛も既にいなくなっており、堂々と正面から踏み込んだ俺達を見て忠行は触手を向ける。

陽菜と楓は戦う準備を済ませているが、何をしても再生する奴の触手に対して

二人は何も打つ手はない。


「ッ・・・・・!!!」


そもそもだ。奴は兼兄達や白と戦い続けて何故未だ力を持っている?

長い月日をかけて力を溜めていたとしても、あの人達と戦い続けて未だ底の見えない

力には必ず謎があるはず。

二人を狙い触手が伸ばされた瞬間、楓が自身の影の中に陽菜を引き寄せ回避を行う。


「そうか。なら・・・・・。」


忠行は触手を引っ込め、仲間達へと突き立てようとする。助けないのならお望み通り殺してやると脅しをかけ始めた。


『やはりお前を呼び出すために止めを刺さなかったな。』


本当に殺す気なのであれば初めから止めを刺している。もしかすると・・・兼兄達も

俺を呼び出すために最後まで止めを指さなかったのかもしれない。

そうなると先ほどの前提が崩れてしまうが、今は予想を確信に変える方が先だ。


「殺してしま・・・・・!?」


周りを見ながら言葉を放つ忠行は俺に対して煽るが、その途中で異変を察する。

水と禁を封じられた奴は風となった俺を上手く捉えられなかった。

それはこの場の水の操作が絶たれているからこそであり、俺はその隙を突いた。


「・・・・・あれだ。」


俺がいるのは風の床下。奴の水を阻もうと蓋をした水面のすぐそばに立っている。

光も無く暗闇に包まれ、波の音だけが支配する空間に立つ一本の柱を確認した。


『これが奴の生命線か。』


柱は小さくうごめていており、それが瓦礫などではことは空気で伝わってくる。

ハスターの言う通り、これが奴の生命線。これがどこまでつながっているのかは

分からないが・・・恐らく外海へと繋がっているはずだ。

俺の空気探知が届かない外海なら津波を起こしても気付かない。

五行陣と六壬式盤に集中している今であれば、津波が押す空気の流れを察する事も難しい。


「・・頼むぞ。」


六華の柄にを握り、素早く触手を切りつけようと試みる。

奴は長らく深海に沈み、地球を支配できるタイミングを計っていた。そんな奴がただ

体を封じられるはずがない。テレパシーを使う傍ら、人類がたどり着いていない

深海の全てを支配していたとしたら・・・その海水を力に変え、

兼兄達と戦い続け、そして勝利するタフさを持っていてもおかしくはない。


『気を付けろ。バレたぞ。』


振るった六華の刀身が奴の生命線に触れる。切れてしまえば奴はこの星の七割を占める

奴の力の源を失う。切られることを前提に作り上げた触手と比べれば遥かに高い硬度を

誇っているはずだが、それでも刀身から来る感覚は一切なく振り切ってしまえば

このまま切りおとせる。そう確信したその時、静かなはずの水面から激しく荒立つ。


「くっ・・・・・!!!」


何かがやってくる。暗い視界から感じられるそれは空気操作では判明せず、

すぐさま動きを変え、空気と共になり回避行動をとる。

距離を取り、何が起こったのかを確認するとそこには鋭く形を変えた深海の水や

遅れてやってきた触手が辺り一面で暴れており、少し遅れれば致命傷になりかねなかった。


(クソッ・・・!!!)


回避の判断は間違っていなかった。奴の生命線が絶つ事も大事だが、一番は命を落とさない事が

重要。こんな所で致命傷を負えば奴は陣の効果が弱まり全てが終わる。


『いや、それでいい。』


操作が効かない分、奴は手当たり次第に暴れている。そして出てきた触手は生命線を

守るように配置され、近づくことは出来ない。


(少し刃を入れただけだぞ?あれだけじゃ・・・・・。)


『深い海の中の水を引き上げるための触手だぞ?そんなものに少しでも亀裂が入れば

どうなる?』


空気で感じ取ると、どうやら六華の刃は生命線の深部にわずかに届いており

外海へと繋がる長い管にかかった圧力が一点に集まっている。

周りの触手達が傷を塞ごうと集まっているが、どうやら再生ができない様で

感触以上の打撃を与えた様だ。


「・・回収できたよ。」


奴が俺に意識を向けた瞬間、ヘッドセットから聞こえてちーさんの声。

急所を狙われた奴は姿の見えない俺を止めようと躍起になっていただろう。

その隙を突き、ちーさん達に負傷した仲間達を回収してくれた。


「ありがとうございます。今もど———————————————————」


「出来るだけ早く戻りな。あいつ、少し様子がおかしいから。」


そういうと耳からすさまじい衝撃音が聞こえてくる。囮になった二人は影の中に入っている。

俺の敷いた風の壁の中にいた忠行に近い者達も先ほどの既に距離を取っていた。

ひとまずは大丈夫なはず。だが、奴が仕掛けてきたのならそれはマズイ。

風に紛れながら移動し、床に小さな穴を開けて戦場に戻る。


「なっ・・・・・!?」


目を離した隙に様がわりした戦場。それは奴の強大な力を改めて報せるものであり、

それと同時の生命線、喉元一度刃を突き立てた事を意味していた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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