第五百六十四話 術式変換
視界に広がる大津波。奴は・・・これを狙っていたのか・・・・・。
兼兄が俺に好機を逃すなと言っていたのはこの事・・・なのか?
「どうしてくれるんだ?」
奴の力を考えれば当然だった。封印を受けているのはこの場所だけ。
なら・・・”範囲外”から水を操ればいい。理屈としては簡単だが話しはそれだけでは済まない。
五行陣の封印を受けている奴は水と禁、宇宙の力を使う事が出来ない。
範囲外の操作を行おうにも神力や魔力を発せないのであればあのような大津波は起こせないはず。
『・・やるしかないぞ。』
何か仕掛けがあるはず。だが、今はそんな事を考えている暇はない。
あれほどの津波が俺達を飲み込めばそれで終わり。そしてそれは東京も同じだ。
既に海岸沿いは一度被害に会っている。これ以上、この都市を壊させれてはマズい。
だが、迎え撃とうにも俺はこの場の支配にかなりのリソースを使っている。
例え黒牛やカエルスを使ったとしてもあの大津波を何とかするほどの術式を練るには
あまりに時間が足りなすぎる。それでも、どうにかしなければならない。
「さて?ずいぶんと器用な立ち回っているが、そのどれかを捨てれば
どうにかなるんじゃないか?」
忠行はこの場の支配を解くか、それとも攻撃の手を緩めろと煽ってくる。
聞きたくはないが・・・それ以外の選択肢が思いつかない。
一番の負担は二つの陣。五行陣と六壬式盤の操作はリソースの約半分を占めている。
この二つは奴にとって大きな障害となっている事から操作を解くのは避けたいが、
奴の津波がこの場に入り封印が作動したとしてもすでに入り込んでいる大量の水は
そのまま俺達に襲い掛かってくる。そんな事態になるのなら陣に割いている力や操作を
津波を阻むために使えばいいと思いたい所だが、二つの陣を一度解けば風の床の下に
敷かれている海水が暴れ出し味方が危険にさらされる。
(どうする・・・・・。)
もし、早急に津波を食い止め再展開を狙おうにも奴がそれを許すはずがない。
それでも・・・・・この日ノ本の中核を守るには・・・・・。
「・・・・・!!!」
やむを得ず陣を解き、その力で迫る大津波に対処しようとしたその時。
目の前に見慣れた棒状の何かが突き刺さり、後から風を切る音が聞こえてくる。
「・・焦るな。共にやるぞ。」
突き刺さったのは錫杖。千夏さんと青さんが使う得物であり、その中には以前見た
封印術が込められている。
振り返る間もなく、千夏さんの体を借りて言葉を放った青さんが俺の隣に立ち封印術を
発動する。俺より範囲が狭く、そして同じ効力を持つ封印術を発動した所で意味がない。
だが青さんは俺の心配をよそに封印術を発動する。
何も失うわけにはいかない俺は尋ねる事さえ出来ず、ただただ動きに合わせて
共に封印術を発動する。
「前に説明したな?封印術とは結界を伴う。」
「それは・・・分かっていますけど・・・・・。」
「その部分を”上手く使う”。だがわしの力だけじゃ無理だ。手を貸せ。」
結界術を伴う所を上手く使う・・・か。青さんがやりたいことは分かった。
「・・楓。」
だが今の俺ではあの大津波を止める事は出来るとは言い難い。
もう一人、出来れば手を貸して欲しいと俺と青さんとシナジーのある楓を呼ぶ。
戦場で戦う楓を呼んでしまえば黒牛に負担がかかるが、それだけで済むなら今は良い。
俺の呼びかけに楓は白虎を残し影に沈む。
「俺の出番だな!!!」
俺達の動きから何かを察した謙太郎さんが飛び跳ねて戦場に向かってくれるがあまりに無謀だと
伊達さんや藤野さん、そして雑賀さんも同じ様に飛び跳ね触手に向かっていく。
「お前・・・!!死にたいんか!!!」
水が封じられている状況であの人の炎は有効。だが、これまでの戦いで多くの力を消費しており
既にガス欠気味の謙太郎さんを周りの人たちが支援しなければ雑賀さんの言う通り
簡単に命を落としてしまう。
それでも・・・それだけでも十分。このタイミングで前に出てくれるだけでもありがたい。
あの人達を早く助けるためにも早く青さんの策を形にしなければならない。
「戻りました。」
俺の隣に立った楓は俺達を見ただけで何がしたいのか理解したのか錫杖に触れながら
神力を込め始める。この封印は範囲下で効果を発揮する術式が組まれており、
結界術且つ封印術が組み合わされている。青さんが言っているのはこの結界術だけを使い
津波を阻もうとしているようだが、そもそもこの二つは組み合わさることが前提で組まれている
術式であり、結界術だけを発動するのは理論上不可能。
(なら・・・・・!!)
それが不可能であるなら、それを前提として術式を組み直す必要がある。
封印術を主として扱う術式から、結界を主体とした術式へ組み成せば津波を食い止められる。
だがそれは一から術式を組むより格段に難易度が高く、一つ間違えれば正しい効果を
発揮できずに弱体化すればいい方。下手をすれば俺達に牙を剥く自傷の結界術の出来上がりだ。
それでも一から作り上げるよりか格段に速く展開できる。青さんは術式の組み換えは
一切やらず、ただただ力を籠めるだけ。俺に組み直せと言う様に。
多くの術式と操作。それに焦る心が俺の思考を崩そうとするが何とか頭を回し
術式の組み替えに取り掛かる。まずは大前提として結界術を前面に押し出すように変更し、
それによって効果が無くなったものや悪さをする術式を一つ一つ直していく。
全体を見つめながら、一つ一つ整えていく。封印術を最小に、水を阻む結界を組み替える。
だがその姿を易々と眺めている忠行ではなく、子孫達の力を俺に向けてくるが
純恋や桃子が俺への援護を行い、俺を阻む一撃がこの身に届くことは無い。
所々術式が足りない所は俺の創造で補いつつ、一つの結界術を完成させ打ち放つ。
「於上不葺御門!!!」
この戦場から少し離れ開けた場所に青さんの木の力で大きな鳥居を作り上げる。
古来から鳥居とは神と人間の世界を阻む結界であると言われているが、本来の力を
発揮するものは数少ない。起源は様々あるが、天照大御神を天岩戸から誘うため、
神前に鶏の止まり木を置いたとされるのが通説。
ここには鶏も天照大神もいないが、眼に見える結界術としては一番効果を発揮する
鳥居の扁額には瀬織津姫の文字が刻まれていた。
「大祓!!!」
目の前で手を突き、辺りに生じた破裂音が響くと迫る大津波を阻む一枚の結界が敷かれる。
瀬織津姫は多くを祓う秘匿の神だが水神や海神としての側面を持ち、水害を祓う事も出来る。
目の前に広がる津波は水害そのものであり、瓦礫を飲み込んだ大津波がぶつかると
揺れることなく衝撃を受け止め、岸へ帰るように指示を出したかのように津波は退いていく。
「・・やるな。」
この短時間で封印術を組み替え結界術にした手腕を青さんは褒めてくれるが
今はそれどころではない。他の術式の維持を出来たはいいが結界は俺の脳のリソースの
殆どを持って行った。他のみんなの安否され分からないほどに。
それに追撃が来ないなんてことはない。あの津波を完全に抑えるのなら
奴があれを作り出した原因を探る必要がある。俺の陣の範囲外に体が出るくらいしなければ
出すことはできないが、それを探る時間は今は無い。
退いていく津波には車や民家など、見るだけで被害の大きさが分かってしまう。
これを早めに防がなければ俺達も東京もろくな末路を追わないと再び忠行の方を見た時。
「ぐっ・・・・・!!!」
ほんの少し意識を逸らした。ただそれだけ。詠唱にはそこまで時間をかけなかったはず。
だが・・・・・戦場は既に大きく様変わりを見せており、先ほどまで跳ね飛んでいた
謙太郎さん達は既に膝をついており、その前に白い体が真っ赤に染まるほど傷を受けた
白虎が何とか立っている。そして・・・猛と真奈美は人の姿に戻っており、
忠行は二人を見下ろすようにじっと見つめていた。
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