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第五百六十二話 攻めきれない現状

手痛い一撃をもらったヌトス=カアンブルを救うため、カエルスに空気のクッションを

作り出させる。そしてその間、俺は奴との距離を詰め始めた。


(抽象的か・・・・・。)


奴へ六壬式盤が機能していない事は分かった。だがそれは奴が放つ体液など宇宙の力が強いものに

対してのみだと考える。その理由はやはり先ほどの兼兄達の救出の一幕。

あそこで敷かれている水を使わない理由は無く、恐らくあの水は俺の封印を受けている。


『気を付けろよ。』


宇宙の力を使うのは接近戦のみ。それを封じることが出来れば勝機を手繰り寄せられる。

だがそれにはそれ相応のリスクがある。単騎で近づきには危険だ。


「分かってる。」


後方からの援護。そして阻まれた中の味方が共にいれば心強い。近接戦を仕掛ける前提として

濃い宇宙の力に耐性を持つ者が好ましいが、俺以外に該当するのが二人いる。


「・・猛!!真奈美!!!」


阻んだ壁の中から出てきたのは込められている神の姿をした二人。

陀金とハイドラが姿を現し、忠行へと近づいていく。


「貴様らか。」


クトゥルフがいない間、信仰を集めるために働いていた陀金。一説にはクトゥルフではなく、

陀金を主神として崇めていた教団もあったと言われている。

教団が壊滅した今、その力の全てを発揮出来はしないだろうがその逸話が残っている限り

それなりの力は発揮してくれる。そして妻であるハイドラもその力に呼応して

力を発揮してくれる。俺と共に突っ込むには最も適しているだろう。


「主に背くとでもいうつもりか!?」


二体は挟撃の形で忠行に向かっていく。未だ恒星に体が吸い込まれており、

このままいけばこの形を受け入れるしかない。その場合、正面から迫る俺を阻むのはさらに

難しく、ダメージを覚悟するしかないが奴には未だ驚異的な回復力がある。

その謎を掴まなければまともなダメージが取れない。


「そうだ。王として使える者をお前達は間違えた。それを今から証明してやろう。」


力の消費の期待は出来るが、これだけの長期戦を仕掛けてもガス欠を起こす気配を見せない奴に

それを期待するのは流石に厳しい。やはり一歩ずつ、猛達に頼りながら奴の秘密を探るしかない。


「黒牛の群流星タウリッド!!!」


迫る二人への援護も兼ねた奴への一撃を打つ放つ。神術で作り上げた黒牛は鼻息荒く、

宙を駆ける踏み込みは辺り衝撃波を放つほどに強化されている。

三方向からの攻めに対し、奴は俺だけに触手を向け挟む二人には子孫達の力を向ける。

俺に対して明らかな警戒を示し、それと同時に猛達をひどく舐めている。

主との繋がりに楔を打ち、反旗を翻す配下を軽く捻るつもりだ。


「舐めんなよ・・・!!!」


だが猛や陀金、真奈美やハイドラは舐められるほどの実力ではない。

それは元主である奴もよく分かっているはず。あの子孫達の力だけで終わるはずがない。

だからこそ俺の攻撃を通さなければならない。向かってくる触手を破壊し、

奴に迫れば俺への意識に集中しなければならない。

その僅かな隙でも猛達には十分。必ず奴に一撃を加えてくれるはず。


「行け・・・!!!」


黒牛の角を回転させ、向かってくる触手を破壊しにかかるが黒い恒星ブラックホール

であっても最後まで破壊されなかった驚異的な回復力の前に強靭な踏み込みの勢いが削られ

なんと止まる寸前まで追い込まれてしまう。


「マジかよ・・・!!!」


恒星の風は風向きを内側へ吸い込む特性であり、中心に近づけば近づくほど破壊が強まるが

奴の驚異的な回復量と巨体を前に最深部へと誘い込むことが出来ず本来の力を

発揮する事は出来なかった。それに比べ、黒牛の角は外側へと打ち放つため

目の前にある物体へ最大火力を叩きこむことができる。だが、それでも間に合わず

向かってくる触手の束に、とうとう完全に足を止めてしまう。

破壊が間に合わず、触手が黒牛の角へとまとわりつき始める。このままでは

完全に押し切られ、猛達へ十分な対処が出来てしまう。


(・・・・・ん!?)


もう一撃必要だと神術を練ろうとしたその時。俺の頭の中に何かが流れ込んでくる。

どす黒く、そして粘り気のある何かがゆっくりと侵食する様な感覚に襲われるが、

それが黒牛に触れた触手が原因であると理解するのに時間はかからなかった。


『奴の力が流れ込んで来たな。』


術式ではなく、俺自身を支配しにかかってきたのかと思いさらなる一手が打ち放てない。

まさか未だに奴の体に触れる事さえ叶わないのかと、頭の中で絶望が顔を覗かせたその時。

後ろから木の束が飛び込んでいった。


五十猛神イソタケルノミコト!!!」


全員が木々に覆われた巨人が腕を伸ばしながら忠行に迫る。

俺の代わりに奴を抑え込もうとする緑の巨人が踏んだ位置からまるで種をまいたように

木々が次々と生えてきており、俺の上に自らの領域を作り始める。

これは・・・千夏さんと青さんの力。木の神である五十猛神を模した術式を打ち放った。

全身の毛が木であると言われる神であり、日ノ本に生えている木々の種を撒いて回ったと

一部で言われている神の力は強大。

なるほど・・・・。奴が回復で俺達の足を止めるなら、瞬く間に生える木々で驚異的な

回復力を再現して奴に対抗しようとしているのか。


「無駄なあがきを。」


自らに迫る巨人の存在感を流石の忠行も無視はできない。

子孫達の力は猛達に向けているため、黒牛を止めている触手を動員し止めにかかるが

数の減らした触手相手に黒牛の足はわずかに前に進み始める。


「今です!!!」


その隙を見た千夏さんは大声で俺に合図を送ってくる。せっかく千夏さんが作ってくれた

隙を逃すわけがなく、再び動き出した黒牛の踏み込みは再び辺りに衝撃を生む。


「・・面倒だな。」


子孫達の力に足踏みさせられながらもその巨体で押し込みながら進む猛達。

そして正面からは緑の巨人と黒牛。このままでは三方向からの挟撃を決められてしまうと

猛達に向けていた力を緑の巨人に切り替え、封じられていない炎の龍を打ち放つ。

水が封印されており、止める術の無い龍の進撃をまともに喰らった巨人は黒く変わりながら

徐々に朽ちていく。生まれた隙を逃すことは無い猛達はさらに距離を詰めるが

朽ちていく姿を確認した忠行から再度向けられた攻撃に再び足踏みを喰らってしまう。

徐々詰めていくが力が封じられているにも関わらずこうして足止めされている現状。

縮地で簡単に詰められる距離が酷く長い道のりだと感じさせれるが、

それとはまた別の収穫が俺は掴み取っていた。


「・・・・・・・・・・。」


黒牛から流れ込んで来た奴の力。それは決して支配してやろうとする奴の策ではなく、

奴と俺に流れる血の繋がりとハスターとクトゥルフの繋がりが産んだ偶然だと直感が

訴えかけている。

宇宙の力とは、その術式とは。流れ込んで来た力には奴が言っていた抽象的という言葉の

意図を汲む鍵が潜んでおり、この力の解明が勝利の鍵になるとすぐに理解した。


『・・奴と俺の力。そして術式は大きく異なる。互いが互いを嫌悪した結果が

今のお前を苦しめているわけだが・・・・・。』


「ハスターは何一つ悪くはないだろ。気が合わない奴なんて狭い地球の中でさえ

ごまんといる。』


奴の力を感じ取っただけじゃ術式を読み取る事など出来るはずがない。

そもそも宇宙という太陽系をゆうに超える広さを持つ世界で構築された術式は

何千何万ではきかないほどにそんざいする。そもそもそれだけの知能を持った生物が

いるかは分からないが・・・・・それはそれとして、全く異なる術式を封じる術を

見つけるのは不可能に限りなく近い。

やはり抑えるのはその属性。だがそれをするには地球という惑星の中で使用される

属性を模した思想や陣では対応できないだろう。


(どうする・・・・・?)


陣や式盤の改良をすれば今抑え込んでいる力が解き放たれる。

そんなことすれば壁の隙間に隠れている仲間達へ一気に危険が押し寄せてしまう。

だが進みはしたが未だ近くまで攻め入れない黒牛を含めた奴に触れる事を全体にした

近接重視の立ち回りがほぼ不可能になる。

果たしてどうする事が正解なのか。ここしっかりと力の詳細をはっきりさせるのかそれtも

そんなことを無視して距離を置いた後世に切り替えるのか。

早くも決断の時を迫られている。


「・・・・・・・・・・・・・・。」


黒牛は少しずつ進んでいるが触手は戻り再び足を止めている。

猛達も同じく進んでいるが、この調子では猛達の方が早く付いてしまう。

速く下さなければ手遅れになる。悩む頭を必死に回転させている最中、

俺の足元に付いてきている影が動いたような気がした。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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