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第五百六十一話 王とは

状況、有利・・・のだろうか?それでも、勝たなくてはならない。

ひとまず得ている情報はとして、奴は兼兄達への救出に水を使わず触手を使っていた。

光悦の表情からあれだけ様変わりしていたんだ。まさか力を抑えていたなんて事は無いだろう。

未だ確信はないが、恐らく五行陣は効いている。


「・・・・・・・・。」


何度も言い聞かせているのは自信が無い表れ。だが、自覚しているだけ十分。

警戒はいくらしてもいい。問題は気にしすぎて手狭にならないこと。


「・・天の支配者カエルス


まずは場の支配の強化。このまま突っ込めばいずれ隙を突かれた上空にある陣と式盤を

やられてしまう。警戒し過ぎと兼兄に言われてしまうかもしれないが、既に仲間達は

壁の向こうで俺の指示を待っている。危険にさらされている以上、場の支配だけは

失ってはならない。


「さて・・・やる気十分な所申し訳ないが、一つだけ聞いておかねばならない事がある。」


後は突っ込むだけ。俺の存在が全員を護る。だがそんな俺の心中を察してか

忠行が声をかけてくる。


「・・・・・・・なんだ。」


「これは我が子孫全員に聞いている事だ。まあ、一言一句同じ答えが返ってきたがな。

決まり文句だと思って聞いてくれ。」


・・異様だ。恐らく奴は味方達が入り込んでいる事を知っている。

俺を目の前にして且つ囲まれているにも関わらず、なぜここまで落ち着いていられるのか。

何か仕掛けているのか。それとも歴戦の余裕か。今まで余裕を崩した場面よりも

格段にマズい状況にあるはずだ。一体何がそうさせるのか。


「どうだ?私と共に歩まないか?」


そして・・・あり得ない提案を長い触手をこちらに伸ばしながら言い放つ。


「私がお前に差し出すのは不死の力だ。長きに渡る生は耐えがたい苦痛が伴うが、

野望ある者からすれば永久の時間は喉から手が出るほど得難い。

どうだ?お前にも野望くらいはあるだろう。」


馬鹿にされている。俺の野望くらい、こいつは分かっているはずだ。

これに対して取り込んだ子孫達が同じ答えを返したのは理解できる。何故なら、

目の前で俺の手を差し伸ばしているこいつを倒す事こそが俺達の野望。


「・・・・・俺は何を差し出すんだ?」


何があろうと。こいつの手を俺が掴むことは無い。だが、返す答えが分かっているものほど

素直に返すのは癪に障る。


「ほう。興味があるのか。お前が差し出すのは・・・そうだな。

お前の中にいるハスターをもらおうか。不死の力の報酬としてはそれぐらいが丁度いい。」


・・頭に血が登っていく。やはり、端からこいつは不死の力など渡すつもりはない。

こいつは俺の反応を楽しんでいるのだろう。渡せない物を要求し、怒りのまま迫ろうとする

子孫達の首を断ち切ってきたのだろう。


『・・・・・・・・・・。』


ハスターは俺の様子を一切伺うことなく、ただただ視線の先にいるクトゥルフと忠行に対し

静かな殺気を放っている。イタカも同様、そして俺は・・・静かに六華の柄を掴む。


(・・・・・?)


すると何故か頭を熱した鼓動の高鳴りが一気に静まり返る。まるで誰かが落ち着けと

高鳴る心臓を優しくあやしているかの様に。


「・・・・・足りねえな。」


六華の中には・・・父さんと母さんがいる事を思い出す。

きっと、父さんも同じことを聞かれたのだろう。そして俺がハスターを要求されたように

隣に立つ母さんとハスターを要求されたはずだ。そして・・・手痛い反撃を受けた。

同じ様な目にあって欲しくはないと母さんが俺に願っている。


「・・何?」


「不死の力はクトゥルフの力なんだろ?そんな奴とハスターを比べてもらっちゃ困るな。」


ゆっくりと六華を抜き、幾度となく重ねられた輝く刀身で向けられた触手を優しく撫でる。

挑発の返しとして薄皮一枚剥いでやろうかと思ったが、あまりに切れ味に触れた瞬間

断ち切られた宿主は奴の海へと帰っていく。


「失礼だろ?ハスターに向かって。格下と同等にみられちゃ流石のハスターも

怒っちまうよ。」


俺の返した言葉を聞いたハスターは小さく鼻で笑う。幼稚な奴の仕掛けに対して

小馬鹿にするように。分かりやすい挑発は失敗に終わり、むしろ火傷を負った忠行達は

切り落とされた触手の行方に視線を送らず、俺達へ殺気を強めた。


「・・・・・格下・・だと?」


「実際そうだろ。ハスターは木星を侵略目前まで支配した。生命はおろか大地さえない太陽系の中でも巨大な惑星をだ。それに比べたお前はなんだ?侵略所か封印され、全て部下任せ。

そんなんだから裏切られる。愚かな王が辿る当然の末路だな。」


ここまでの戦い。奴に信頼できる部下などいただろうか?

強いて言えば片野が該当するだろうが、真に忠誠を誓う者はそれくらいだ。


「兼兄達を倒したからなんだ。器の小さい奴だな。あの喜ぶ姿は何千、何万年と深海の中で

ただその時を待っていたお前にお似合いだったぞ?」


幼稚とはすなわち実直である事。悪気さえなく、ただただ事実を突きつける事こそ

苛立つ者への最大の侮辱。


『なかなか言うな。だが、それでいい。』


王とは強さではなく立ち振る舞い。臣下達からの信頼無き王の玉座は脆い。

少しでも理性があるのなら、姿を現さない皇の事を馬鹿にしてくるのだろうが

そんな事さえ出来ない程、奴の頭は血で沸騰している。


「お前の手なんて取らない。一人で死ね。お前達にはお似合いの末路だよ。」


六壬式盤に黒い炭を一つ落とす。それは奴の拘束する黒い恒星をさらに強化する一手。

破壊の風のはずが奴の動きを留めるだけに留まっており、肝心の触手は押さえつけられておらず

このままだと控えている者達への脅威が高まると判断した寄せの一手だ。


「・・・・・フフッ。」


強まる恒星は奴の体を吸いこもうとするが、奴は一切気にすることなく只笑う。

沸騰した頭が脳に影響したのか、怒りが前面に出てくることは無くなった。


「ここまでコケにされたのは何時振りか。久しき感覚だ。」


これは・・・どちらのセリフだろうか?忠行か、それともクトゥルフか。

どちらにせよ、長い事身を潜めてきた同士だ。今更どちらでもいい。


「ハスターが教えたのか?良い煽りだ。だが、お前は大きな勘違いをしている。」


自らを縛る恒星に奴は触手を伸ばす。無限の質量を触れた者を破壊する風で再現した

恒星だが、なぜか奴の体を破壊する事は無い。


「まずは一つ。お前は五行の意味を知らん様だな。それだけでは私の力を

全て封じる事は叶わない。」


いや、よく見ると恒星は奴の触手を破壊している。それを驚異的な再生力によって

何事も無かったように見せているだけ。水と金は未だに封じている。

だが・・・・・それでも奴の再生力には影響はない。では何故、目の前に来ていた

触手は再生させなかった?


「所詮はこの惑星の力を封じているだけ。例え禁を封じたとしてもそれは”抽象的”であり

半端な封印だ。抜け道はいくらでもある。」


これは・・・仕掛けてくる。ヘッドセットから指示を出し、全体を動かし始める。


「そしてもう一つ。王とは不遜であるものだ。何者の縛りも受けず、そこにいるだけで

種の頂点である者こそが王。貴様の幼稚な指摘など、一切的を得ていない。」


まずはヌトス=カアンブルから。クトゥルフ達に対抗してきた神の力は強大。

不測の事態においても対応できると指示を出し、後方にも指示を出す。


「我はクトゥルフ。生命の源である水を支配する者であり、この惑星の頂に立つ者。

王の何たるかを知らぬ者達へ、細胞の隅々まで叩き込まねばならん様だな。」


襲い掛かったヌトス=カアンブルに対し、口と思われる部位から放ったのは漆黒の水。

その瞬間、鼻に飛び込んできたのはあまりに濃い生の漂う深いな匂い。

壁を開け、不意を突いたと確信したヌトス=カアンブルを吹き飛ばすすさまじい一撃は

俺達の衝撃を与える。そしてそれと同時に天空に広がる六壬式盤が機能していない事を

確信させた一撃に、俺の思考を一瞬止まりかけた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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