第五百六十話 倒れた大人達
最悪の結末。それが俺達の前に広がっている。頭の中では倒れている想定模していた。
だが、思考の隅で兼兄達が立っていると思っていた。
「・・・・・・・・・・・・・。」
あの人達が負けるはずがない。そう本能が訴えかけていた。
俺達を支え、大きな背中を見せ続けてくれていた人達がそう簡単に負けるはずがない。
壁の中で一体何があったのか。忠行があの人達をどう圧倒したのか。
視界から得た情報を脳が処理してしまったその時。後方からすさまじい光が放たれる。
「愛日!!!」
後ろに控えさせていた太陽とわずかに残っていた木で出来た鏡の光を集め
勝利の愉悦に浸っている忠行に向けて純恋は打ち放つ。
その光は俺の脳にも突き刺さり、このまま足を止めていたら何も意味がないと
俺につられ足を止めていた仲間達に向けて大声を放ちながら再び駆け出す。
「行くぞ!!!!」
挟撃は無理だった。なら助けなければならない。空気で掴めば体を浮かせはすれど、
奴の触手が傷ついた体を叩き落しにかかるだろう。最低でも近づいて援護をしつつ
安全な場所まで運ぶことが必要。
『・・本当にそれでいいのか?』
「分かっているよ・・・!!」
嬉々とながらも、奴の意識は迫る俺達を捕らえている。この光景を見れば俺達が
踏み込んでくることぐらい奴は分かっている。
「・・動けますか?」
この光景を見た白達は当然動き出すだろう。大切な家族達が命の危機にさらされているんだ。
命を懸けてでも回収に走るはずだと出来た隙で連絡を試みる。
「動く。」
そして聞こえてきたのは短く、決意ある言葉。姿を潜めて体を休めていた白達が
長の危機を目にして一斉に動き出す。
「こうしてみれば・・・ひどく呆気なかったな・・・・・。」
だが、奴は依然として態度を変えない。嬉々とした表情で空を見上げ、
天を仰ぎながら目の前の勝利に浸っている。
「な・・んやあいつ・・・!!!」
純恋が放った太陽の光に体を焼かれているのにも関わらず、奴は一切気にせずに
未だ優越感に浸っている。俺達を舐めているのか。それとも奴に俺の陣が効かずに体を
再生されてしまっているのか。どちらにせよ、確認する必要がある。
『・・やるぞ。』
奴は大きな隙を見せている。俺の一撃で深くまで踏み込むのは容易。
「・・六壬神課。」
せっかく陣を作り出したんだ。ここは陰陽師らしく戦う必要がある天から情報を取り出すための
道具として扱われてきた六壬式盤を陣の周りに作り出す。
本来は太陽の位置などを用い、未来を占い術式として使われてきたが時代が進むごとに
必要とされなくなった機具。そも天から得られる情報があまりに少なく、
そして時代が進むごとに有用な術式が生まれたことで存在意義が少なくなった。
その盤を模した術式の用途も同じ様に少ないなどという訳ではなく、
五行陣と合わせる事でこの場の支配をするためのこの場を盤上として支配するための術式。
「・・楔。」
上空に広がる盤に空気の柱を打ち込む。そこは忠行がいる場所であり
指定された位置には黒い空気の塊が生まれる。それは依然作り出した黒い恒星と同じ
ブラックホール。飲み込む者を破壊する風の塊は忠行の動きを止める。
「今です。」
その瞬間、未だ奴の水を封じられているかは分からない中、風の床を作り上げた所に
白達が一切に降り立ち倒れている長達を助けようと試みる。
「・・邪魔をするな!!!」
兼兄達を奪われると察した忠行はやっと動き出すが、水は使わず触手と
子孫達の力を体から打ち放ってくる。
「その程度なら・・・!!!」
六壬式盤の上に風のインクで線を書き込むと、黒い風の壁が現れる。
飛び込んで来た白達の姿を隠し、そして飛び込んでくる触手の行方を阻む。
水を使ってこない所を見ると、やはり五行陣の効果はある様だが子孫達の契約は
どうやら水と金の属性に引っかかっていない様だ。
緊急事態とはいえ、これだけの情報を取れたことは大きい。兼兄達にたどり着いた白達は
傷つき動けなくなった体を持ち上げ戦線を離脱していくが、その中でも一人白の手を払い
動こうとする人影がある。
「離せ・・・・・。」
兼兄だ。ここまで忠行と戦い続けていた。他の誰より体はボロボロなはず。
それでも・・・あの人は戦場に残ろうとしている。白の手を払い、影の中に沈んでいく。
必死・・・いや、決死だ。兼兄は退く選択を持っていない。
だが・・・・・はっきり言ってあの状態で戦場に残るのは基点になる以外の要素がない。
前に出るにしても、補助に回るにしても狙われるのは確実。
「・・ちーさん。白全体に次いで下さい。」
長達を護り、そして兼兄を見つけ次第絶対に退かせて回復に専念させてくれと指示を送る。
見れば落とし子の姿は無い。そこまでやってくれているのなら十分。
俺達に繋いでくれた事でこの状況が生まれている。体のいたる所から出血が見られたので
例え回復を行ったとしても全回復は難しい。だからこそ兼兄は何とかして
残ろうと思ったのだろうが・・・あの人の立場を考えれば生きてもらうしかない。
「こちらは俺達で何とかします。ですから・・・・・。」
「分かってる!!!」
長の回収に白達も必死だ。俺が言わなくても分かっている。
兼兄を除いた全員が回収されたことを確認し、俺のみが見える状態で壁を維持しつつ
六壬式盤にある黒い風のインクを消す。
「・・・・・よう。」
残るは奴のみ。あれほどの姿をしていたんだ。忠行もただで済んでいるはずがない。
奴の驚異的な回復力で傷は無いかもしれないが、力はかなり消費しているはず。
「・・見たか?我が盟友の宿敵の姿を。」
先程明らかな殺気を向けていた。だが、目の前にいる俺を見た瞬間、光悦の表情を
再び浮かべ、しかも自慢までしようとしている。
「盟友と出会い、いくつかの年月を過ごした。心身ともに互いに手足の様に
動かせるようになったその時。盟友の奥底にある深く、そして濃い恐怖を見つけた。
それはこの星を我が物にしようと侵略を進めようとしていたその時。
羽虫を払う様に捻る潰せると考えていた神々の抵抗に苦戦していた時ではなく、
簡単に制圧できない事実を主に報せれる恐怖でもない。
個の強大な力を持つクトゥルフが初めて心の奥底から恐怖を抱いた相手。
それこそが貴様ら古き英雄と呼ぶ者達が命に刃を突き立ててきたその瞬間他ならない。」
忠行はただ語る。それは決してこれから起こる戦いの前口上ではない。
ただ盟友と呼ぶクトゥルフの苦い過去を俺達に語る。友として仇を討てたことをただ
喜んでいる様にしか見えない。
「死を覚悟した。上位存在である神が抱く恐怖とは人とは比べ物にならない。
絶対的な隠した。命など落とすはずがないと高をくくっていた相手に追い込まれていく屈辱。
今まで歩んでいた生が全て否定され、ただただ命を脅かされる恐怖。
その心情に触れた私は考えた。この者達を屠れば日ノ本はおろか世界が手に入ると。」
大きく出た・・・とは言い切れない。あの人達を超える実力を持った者が
この地球に後どれほどいるのだろうか?見当がつかず、言っている事もあながち間違いないと
思えてしまう。
「当時の私からすれば日ノ本自体が世界だった。まあ、それ以上に世界が広がっていることを
クトゥルフから知ったが、日ノ本以上の国を私は知らん。
神代に最も高い姿を残した島国。ここを支配すれば・・・地球を支配できる。」
配置は終わり。再度攻め込むことは可能。だが、これだけ無謀に語る姿を見ても
簡単に指示を出すことはできない。
「奴らは終わりだ。命をこの手で砕くことは出来なかったが、放っておいても問題ない。
だが・・・・・少し昔の事だ。事情が変わった。」
それは徐々に俺に敵意を向けていたからだ。いや、正確に言えば俺とハスターに向けて
鋭い殺気が向けられており、それは徐々に大きくなってきている。
「お前の両親を相対したその時。深くに眠っていた不快感が蘇った。
盟友により強大で、そして絶大な能力を持つ兄弟の存在に強い嫉妬を抱いていたことを。
奴らを倒したことで傷は癒えた。後は・・・この不快感を取り除くだけ。」
不快感の原因はハスター。そして・・・それを使役している俺も当然その中に入る。
「落とし子には済まない事をした。眼をかけていたが・・・奴ら相手ではさすがに分が悪い。
だが、奴らは終わり。後はお前だけだ。」
光悦は既にそこにはなく、残されたのは純粋な鋭い殺気。
本当の、本当に最後の戦い。残されたものを全て出し切る戦いが幕を開けた。
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