第五百五十八話 五行陣
封印術とは、その多くが禁忌の術式として禁術指定されている。
その理由は技術の取得は難しいが、一度発動してしまえばあまりに強大な作用があるからだ。
千夏さんのような属性の封印から始まり、俺達に賭けられていた記憶の封印までも出来てしまう。
多彩な使い道。そして汎用性。その全てが危険視されても十分に理解できる。
(術式・・・か。)
術式に対しての封印術。発想としてはピカ一であり、これ以上の無いカウンターだった。
それを証拠に奴らは傷をつけられることにひどく恐怖している。
その壁を越えなければならない俺はどのようなもの作り上げなければならないのか。
理想は・・・すでに思いついている。
たった一つの属性を封じたとしても、先ほどのような硬化を前にすればあの二人に
深く踏み込むことが出来なくなってしまう。やるなら徹底的に。
「やるぞ・・・!!」
術式に作用させるのなら同じことは出来る。だが、それでは忠行に対抗できるか分からない。
その理由はクトゥルフ。ハスターの術式を頭の中に入れた時、俺は理解できずに
頭が正常ではなくなった。あいつとの戦いで同じことが起きれば今度こそ命を取られる。
だからこそ、ここで対応策を打たなければならない。
指定された術式で頭の情報量が超えるのなら、もっと簡単なものへの指定に変えればいい。
例えば・・・・・”四大元素”。
『・・確かに術式を取り込むより元素の指定は容易い。掛け合わせがあるとはいえ、
使われるのは四つ。例えクトゥルフが扱う術式を封じられたとしても
古くから生きる忠行は元素の指定の術式を行くか持っていてもおかしくはない。
だが元素を封じるには相当な力が必要だ。それを消費しつつ立ち回るのは正気の沙汰じゃないぞ。』
そう。何故千夏さんが術式のみの封印に至った理由がそれだ。
範囲や対象の指定は力の出力に直結する。四大元素はこの地球上に溢れているが
その中でも水は突出している。どこにでもある水を止めるにはそれこそ空気操作なみの
指定が必要。
「・・お前の主と共に戦っているんだぞ?」
出来る。俺にならそれが出来る。何故なら空気操作を行っていたから。
正気の沙汰じゃない事を俺はやってのけてきた。辺りの空気に全て集中しながら戦ってきた
自負がそれを可能だと俺に教えてくれている。
『しいて言えば操作の範囲が莫大になるのが不安点だな。
重々承知の上だとは思うが・・・今度しくじれば次は無い。』
「・・正気の沙汰じゃないのかもな。」
行き当たりばったり。それも仕方がない。俺は・・・戦う旅に強くなっているのだから。
通常、戦いの日々に身をつける者は来る決戦に向けて準備を整える。
一日一日、練り、また練り上げる。一つ一つの動作を、一音を繋ぐ言葉を精錬させる。
だが・・・・・恐らく、俺のそれは他の人達と比べてかなり少ない。
八海では楓と共にいて、そして国學館にいても同じように要領のいい人達と共に
鍛錬していたのであまり気が付かなかったが、戦場で新たな術式を作り上げるなど
常人が出来ていいはずがない。俺は恵まれている。目の前いる先祖達が現代まで繋いでくれた
戦いの血が俺をここまで成長させた。
「ありがたく使わせてもらおう。」
自覚は無い。それに怠けているわけでもない。だが恐らく俺は人より何段も階段を飛ばして
ここへたどり着いている。それは決して俺だけの力ではなく、環境が俺をここまで強くしてくれた。それで・・・あの人達を救う。
「・・五行陣。」
今まで想像してきた神術は地球から見た木星の名を持った神話にハスター興味を持ち、
母と共に学んだ神々を作り上げた。だが、ここは先ほど学んだ封印術の真髄を模した術式を
練り上げる。五行。西洋で生まれた四大元素と比較される古代中国で生まれた思想。
水、土、火はあるものの風は入っておらず、代わりに木と金が加わっている。
思想とは環境に大きく作用される。恐らく古代中国の人々の暮らしに木と金が関わっていたの
かもしれない。
『・・いや、それは違うな。』
術式を練り上げていると、ハスターが声を上げる。
『俺と敵対したクトゥルフが俺の力を恐れて風という属性を加えなかったと聞いている。』
・・そんな理由で一つの属性が消えることがあっていいのだろうか?
『あやつらしいこざかしい策よ。』
そもそもこれは自然哲学だ。自然の摂理に風が入っているのなら誰かが必ず指摘するはず。
ハスターはクトゥルフへの悪態をついているが・・・まあ、これ以上は深く聞いてはならない。
五行とは自然摂理の思想。互いが互いを補い、一つ欠ければ循環しなくなる。
それすなわち地球に住む生命が滅ぶことと同義。今からそれを抑制するわけだが・・・
例え封印した所で陣の中の生命が滅ぶことは無い。
五行とは人間が作り上げた概念であり、その本懐は人間が感じた地球という惑星が持つ
力を定義した思想だからだ。
俺達人間が多少動きを抑制した所で広大な惑星に異常が出る事は無く、
その惑星に住む人間に与える影響などあまりに小さい。
『・・どこから行く?』
大きな五芒星を俺達の足元に描く。その星の先には五行が示す属性の文字が描かれている。
「そうだな・・・・・。」
必死で戦うみんなの姿を見ながらどの属性を抑制するかと頭を悩ませる。
封印術とは結界術を含めた術式であり、俺の支配下に置かれた全員の詳細な情報が
体に伝わってくる。空気操作は主に肉体や敵が扱う力の情報などを手に取ることが出来たが、
陣の場合は敵の体に込められている術式など、また違った情報が得ることができる。
「・・予行練習と行こうか。」
力を封じるのは敵にあって俺達ない力であることが基本。
であるのなら・・・ここで選択するのはただ一つ。
俺は空中に大きな黒い柱を作り出すと、金と描かれた文字に向けて撃ち放つ。
以前兼兄から習った宇宙の力についての話し。あの時は浅くしか理解できずただ興味深い話しを
効いていたにすぎなかったが、今であればよく分かる。
「・・・・・・!!!」
金・・・いや、”禁”を司る五芒星の一つが機能を失う。すると・・・後ろにいた
魂の無い虚ろな奴らの動きがピタリと止まり、そして糸の切れた人形の様に力無く
地面に伏せた。
『文字通り、木偶だったな。』
魂が込められていない以上、作り上げられた脳かそれとも外部からの力によって操られている
のは確実。その力はクトゥルフの力、水の力だけでは到達する事が出来ない肉の人形の
想像は奴の力があってこそ。その力を未知なる宇宙の力を封じ込めることによって
動きを停止し、そして先祖達は動きを止めるとまではいかないが、大きく鈍らせる事が出来た。
「忠行が関わっているか・・・。」
先祖の魂が縛られている脳と、その脳が指令を送る体にも当然クトゥルフが関わっている。
だが、完全に機能が停止されない所を見るにどうやら忠行による禁以外の力を使った
術式によってあの体を作り出している様だ。
『どうする?探るか?』
完全なる機能停止を狙うのなら結界内での空気操作で奴らの体の謎を探るのが一番。
だが、残念ながらその隙はもう生まれない。
「いや・・・いい。」
何故なら僅かな動きの鈍りは目の前にいる楓や沖田、桃子や千夏さんが逃すわけがない。
探る間もなく放たれた凶刃は既に奴らの首元を何度も掠めており、もはや
風の床に伏せるのは時間の問題。
強力な陣。これなら・・・忠行の力を抑え込むことができる。そう確信したその時、
俺の視線は戦う千夏さん達ではなく、水の壁に阻まれた中で死闘を繰り広げる兼兄達の
元へ自然と動いていった。
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