第五百五十七話 封印とは
沖田と共に奴らと相対する。ここで仕掛けない意味。それには一つの理由があった。
敵は時間を稼ぎ俺達に当たってこない。互いが動かなければ静寂が訪れるのは必然。
その時間が・・・俺には必要だった。
(・・・・・・・・・・・。)
祓戸の陣。指定された場所内部において封印を施す陣。いわば結界術と封印術を
掛け合わした陣になるが、その術式は俺が今もっとも欲する術式の一つ。
何故水の属性を阻むことができるのか。それがどこまで有効なのか。
あの祓戸を俺なりの術式に創造する事で忠行に対する一つの有効手段に昇華できる。
『・・どうだ?』
膠着状態の中、陣を空気で触れ、直視で様子を観察する。
封印術に対し、俺は少し勘違いをしていた。術式の対象を指定し力を抑え込むのが封印術であり
かなり大掛かりで複雑な術式の構築が必要だと思っていた。
だが敷かれている祓戸の陣の術式は俺が思っていた以上に簡素な術式であり、
これがこの場にある水の効果を全て封じているとは思えないほどだった。
『想像以上・・・いや、以下だな。』
決して千夏さん達の事を貶める様な意味合いではない。これなら俺にも作れると確信できる
術式の内容だが、だからこそ何故ここまでの効果を放っているのかを理解しなくてはならない。
封印術の中身としてはやはり指定した何かの力を抑え込むことにある。
範囲と作用の指定。そしてどれだけの力を使い抑え込むか。
千夏さんの術式が簡素である理由は範囲と指定が省略されているのではなく、
どれだけの力を使うかの術式が簡潔に済まされている点にあった。
『楔・・・に近いな。』
力の指定が簡潔という事は指定する部分が効果的な部分に集約されているという事だ。
だとすればこれは・・・封印というよりかは楔近い構造になっている。
たったそれだけでもこれだけの効果を発揮できるとは・・・封印術に対して
俺の認識が大きく変わった瞬間だった。
「・・単純に考えろ。」
前に出ている千夏さんから普段聞くことの無い口調が聞こえてくる。
「わざわざ千夏が無理をしてお前に見せたんじゃ。簡単に考えようとしているが、
肝心な所で周りを見過ぎる。」
いつもの悪い癖・・・いや、立場が俺を急かしている。
全ては悪い方向へ向かってしまっている。どうにかして・・・・。
「お前が立て直す必要はない。立て直させるのが我らの仕事だ。
・・そうではありませんか?」
これは・・・青さんか、それとも千夏さんか。わざわざ俺を引き締めさせるために
マネをしたのか。それとも最後だけ変わったのか。
「・・・・・ええ。」
今はそんな事どうでもいい。今は善戦に立っている。他はみんなが補助してくれている。
あの封印術は水という属性に対してにのみ力を抑え込んだが、よくよく考えれば
それほどの大きな対象に対してどうやって効果的に封印を施したのか。それが肝になる。
俺が操作する空気にも含まれる水分。この地球という惑星の七割を占める水という
物質は嫌というほどこの場に溢れかえっている。
その水を対象にしているのになぜ簡素?謎は・・・深まっていく。
(・・直接触れたい。)
言った何故水の力を封じられるのか。空気で触れたとしても、ここから直接見たとしても
その理屈が理解できない。
「・・・・・・・・・・・・。」
視線を逸らし、錫杖へと足を進める。敵前で一番やってはいけない行動だが・・・
俺はその謎を知る必要がある。
「・・・・・!!!」
術式で理解はしていても、想像するにはその真髄を肌で感じるのが一番。本能から来る探求心が足を踏み出させた瞬間、先祖達が一斉に動き出す。俺が動き出したことで警戒が高まっただろうが、それ以上に俺が錫杖に触れることが如何に危険だと本能が警鐘を鳴らした。
前線にいた奴らと共に、後にいた虚ろな目をした奴らも一斉に動き出し
俺の行動を阻止しにかかってくる。
「来たな・・・!!」
その瞬間、警戒していた謙太郎さんが後衛たちに炎を打ち放つ。再生の使えない中
あのすさまじい炎を喰らい火傷を負えば後に響く。
流石に喰らう事は出来ないと飛び跳ねて距離を取るが、その間に生まれた距離に
伊達さんと藤野さんが入り込んだ。
「さて・・・・・。」
「地獄だなこりゃ・・・。」
前衛と後衛を阻むのは得策だが、かなりのリスクがある行動。自ら挟まれにいく危険性を二人は十分に理解しながら飛び込んだんだ。
「そりゃいいな!!!」
青い炎を打ち放った後、謙太郎さんは大きく跳ねあがり二人間に着地する。
あの三人であれば大丈夫だろうが・・・・・いや、今はそんなことを考えてはいけない。
俺は役目を果たすため、陣を敷いている錫杖に近寄り手を伸ばす。
魔術を放つと説明を受けていたはずだが、こんなことを出来る様に作ってくれた
雑賀さんに感謝しつつ先に触れると、その全てが俺の中に伝わってくる。
(・・・・・・・・なるほど。)
これは・・・・・水自体に封印を施している訳じゃない。”水に必ず含まれる術式を狙い、
操作自体を封印”している。魔術も神術も術式を使い、それらを組み合わせて撃ち放つ。
今となってはあまり使用しないが、術式を言葉に放ち打ち放つ事が基本中の基本。
呪文や祝詞それに当てはまるが、四大属性を扱う時は必ず属性を指定する呪文を使用する。
それは現代でも古代でも変わらず、言語が違えど絶対に使わなければならない。
それを千夏さんは封印し、奴らの再生を阻んでいる。
『・・理解できたか?』
「・・・ああ。」
これが楔と似ていると思った理由。封印術をより効果的に扱うための技術。
これなら・・・確かに俺でも使える。
「来ますよ!!!」
顔を上げ、辺りを見渡そうとしたその時。視界には俺に迫ろうとする先祖達に
対応する沖田や千夏さんの姿があった。
先祖達の手には先ほどまでなかった得物が携えられており、沖田は足を使いながら
何とか避けているが、千夏さんは守りには不向きな大刀で必死にいなしている。
一体どこから得物を取り出したのかと見ると、奴らの得物の刀身は鋼ではなく
体と同じ色をした何かを振るっている。どうやら先ほど切り落とした体の形を変え、
得物として扱っているようだがいくら切れ味が良かったとはいえ切り落とされた肉が
大刀と鍔迫り合いを行えるような業物に変わる訳が無い。
『硬化させたな。再生が出来ないと分かったと知り行動を変えてきたぞ。』
どうやら・・・・・再生しない体で得物相手に拳を振るうのはリスクが高いと判断し、
先ほど切り落とした体の利用し得物に変えてきた。
やはり複数の魂が込められているだけあって武道の心得が十分にあり、刀を振るう姿は
熟練された達人そのもの。沖田は攻めあぐね、千夏さんは簡単に追い込まれる。
「・・・・・・・・・!!!」
助けに行かなければならないと足を踏み出そうとするが俺の背後からすさまじい勢いで
誰かが飛び込み千夏さんの首と狙う凶刃を間に得物をねじ込んだ。
「させへんで・・・!!!」
やってきたのは桃子。得物を突き立て力を押し込み距離を取らせようと試みる。
だが相手も簡単には引き下がらない。手首と動きで剛力を受け流しその場に留まってしまう。
こうなれば背負う者がいる桃子が不利。技術で押し込まれれば守る千夏さんとの板挟みになり
手狭になってしまう。
「ッ・・・!!!」
その危険を察知していた千夏さんは桃子の脇から大刀を先祖向けて突き放つが
その動きさえ予想していた先祖は突きを上からはたきつけて床に打ちつける。
大刀の利点である間合いの長さを生かした不意打ちの狙いは良かったが、突きが上からの
衝撃に弱い点を突いた先祖が未だ一歩上。武術では敵わない相手だと思い知らされた二人は
不利を押し付けられそうになるが、先祖が突然横に跳ねる。
一体何が起きたのかと桃子は目を丸くするが、後からその様子を見ていた千夏さんは
桃子の服を引っ張ると、共に後ろに跳ねて距離を取る。
奴が跳ねた理由は空気を裂きながら瓦礫に衝突すると大きなコンクリートの塊に
大きなヒビが生まれる。そしてその中央には柄だけ見えるクナイの姿。
桃子と共に援護に躍り出た楓が沖田を助ける前に先祖に向けて撃ち放っていたのだろう。
あまりの馬鹿力に刀身が完全に埋まってしまっている。
「退くよ!!!」
上手くいかない沖田の援護に入った楓は一度立て直すために後ろに跳ねる。
奥では謙太郎さん達も戦闘を行っており、一進一退の様相を見せている。
このまま千夏さん達の攻防が続く。狙い通りの長期戦、俺が前に出る様子はなくうまくいけば
一人や二人道連れに出来る。そう・・・先祖達は思ったはずだ。
「・・・・・・・・・・。」
だがそうはいかない。俺はみんなの長。これ以上傷つけられないための一手を打つ必要がある。
この陣の術式を単に理解するのではなく、体で感じることが出来た。
後は俺なりに想像するのみ。忠行にも通ずるであろう術式を、俺は頭の中で練り上げていた。
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