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第五百五十六話 千夏の負ったリスクの意味

水を封印を行う陣を発動した千夏さんは沖田と共に切りかかる。

再生が出来ない先祖達はすぐに距離を取るが、二人はお構いなしに踏み込んでいく。

一番の長所であり、俺達からしたら一番厄介な能力を消したことは大きいが、

範囲攻撃にはデメリットも当然ある。

青さんが使用していた際、魔帯刀である大刀からは水の斬撃を放っていた。

だが、今は水の属性が効果を発揮しない状況であり、どれだけ振ったとしても斬撃が

飛ぶことは無い。魔帯刀という武器は魔力を込めた持ち主が最も得意な属性が

刀に帯びる。あれを千夏さんが握る限り斬撃が出ることなく、間合いの取れる接近戦は難しい。


「・・どうする。」


それを既に察していた陽菜は俺に指示を仰ぐが、千夏さんがそこを分かっていないはずがない。


「様子を見るが・・・一応準備をしておいてくれ。」


共に連れてきた謙太郎さん達は水を得意としておらず、各々が別の属性を主に扱う。

ともに踏み込まない事が気がかりだが、援護を行うつもりで連れてきたのだろう。

それでも何があってもいい様に風の操作は怠らず、そして共にいる

楓や陽菜達にいつでも出れるようにと指示を送っていた。


(・・本当に珍しいな。)


明らかなミスはしない人だ。とにかくまめであり、準備不足があったことは無い。

不測の事態でさえも予想するほど気が回る人が魔帯刀で得意属性が仕えないなんて事は

絶対にない。


「・・・・・・・・・・。」


俺に何か伝えようとしている。言葉ではなく、行動を何かを示そうとしている。

だからこそ、あれだけのリスクを負って前に出ている。


「・・いや、違うな。」


子供じみた事をしている場合じゃない。味方がリスクを負っている場面で共に

その道を歩まない長がどこにいる。


「陽菜。ここの指揮を任せる。」


風を使い、浮かび上がる。謙太郎さん達がいるからなんだ。前線に出なければ

俺がここにいる意味がない。


「・・いいのか?」


「ああ。細かい判断は任せる。二人は陽菜の指示に従って動いてくれ。」


後方支援に部隊には純恋がいる。太陽という大きな力に足りない部分は純恋がよく分かっている。


「純恋。後ろの指示、任せていいか?」


ヘッドセットから純恋に尋ねる。太陽の熱は激しいが、自らが燃えない様に操作を怠っていなければマイクは溶けていないはず。


「やっとか・・・。ええで。」


俺の指示を待っていたと言わんばかりにため息交じりの返答が返ってきた。


「どうせ自分の力じゃ何とかどうとか考えていたんやろ?」


「・・・そうだ。」


「それは間違っていないと思うで。やけど私達の長は龍穂で、切り札も龍穂や。

アンタが何も出来なきゃ私達はもっと何も出来ん。忠行にちょっとばかり風を乗っ取られた

だけで縮こまるような事をされれば困るんやで?」


・・ごもっともだ。確かに、俺は縮こまっていた。


「まあ、私達の力が増したことでさらに信頼された証やから悪い気はしないで?

だからこそ打開するのは私達じゃなく、龍穂がしてもらわなきゃ困る。龍穂の足りない所を護るのが私達で、私達が足りない所を補うのが龍穂や。いつもそうして来たやろ?」


純恋達が成長した事で俺の意識が少し変わってきた。共に戦ってきた。

俺が前に出た事もあれば、純恋達が前に出たこともある。だが、それは戦いの状況に応じての

結果。打開できる状況なのであれば前線にいる俺が前に出ないでどうする。


「・・・・・そうだな。」


「弱気やな。何とかなるやろ。無理している千夏さんを早く助けに行かなアカンで。」


指示を出すつもりが背中を押されてしまった。長として率いるためには全ての隊員の力を

全て引き出す必要があると思っていた。確かにそれは理想。だが、それを追い続けて

後手に回り、気が付けば手遅れになっていたなんてことになれば全てが台無しになる。


「・・ありがとう。」


内心焦っていた。冷静という膜を心に張っていたが、その名にある焦りに自分で気が付けない程

平静を保てていなかった。戦場は経験してきたはず。それでも、やはり命に刃が

突き立てられる場面に直面したその時、未だ焦りが出てきてしまう。


『・・隠す必要はない。』


なんでこのような場面に直面しているのだろうかと自らの不甲斐なさを直視していると

心の中でハスターが声をかけてくる。


『お前の役目だ。長という言葉を大きく捉えすぎている。それでは本来ある責任

さらに重りつけ、自らが押しつぶしてしまう。』


責任・・・か。やはり泰兄を失い、綱秀を失いかけた経験を俺は未だ払拭できない。


『純恋達に言われた事をお前はまだ完全に理解していない。仲間を頼れ。お前も頼られろ。

そして支えろ。支えられろ。そのバランスが崩れた時、ああやって身を挺して気付かせてくれる

仲間がいるのなら、また頼ればいい。』


押し付けるのではなく、支え合えと改めて言われる。少しずつで良い。まだ間に合う。

得物を取り出し、慣れない得物を振るう千夏さんの元へ飛び込んでいく。


「くっ・・・!!!」


先ほどまで良い立ち回りをしていた沖田だが、踏み込みのタイミングを見極められ

ギリギリで切先を避けられむしろ踏み込まれ拳を突きつけられてしまうほど立ち回りへの

対策を強いられている。

そして肝心の千夏さんは慣れない大刀を上手く扱えず、簡単に追い込まれている。

その姿を見ても謙太郎さん達が動かない所を見ると、俺の援護を含めた動きを事前に

打ち合わせた様だ。


(我慢・・・か。)


このままではやられてしまう。風を身を任せながら接近している最中、

千夏さんが俺の伝えてきた我慢という言葉を反芻する。

あの状況では俺が突っ込むことを抑える意味合いで使ったように聞こえるが、

今聞けば違う意味合いになる。我慢とは・・・一体何に対して言っていたのだろうか?


「慣れ・・ないのはやはり・・・!!」


長い間合いを生かし、切り伏せようとした千夏さんだが素早い動きで太刀筋を見極め

余裕で躱しかと思えばなんと刀身を両手で受けて止められてしまう。


「・・・!!!」


そして蹴り上げられた魔帯刀は宙へ身を投げると柄を掴んでいた千夏さんは両腕が

跳ね上がり胴ががら空きになってしまい致命的な隙を見せてしまった。


『・・龍穂。』


腰を屈ませ命を奪う構えを取る先祖。捜査は狭いと風の中から姿を現し

宙を回転する魔帯刀の柄を掴み先祖の体に投げつける。

俺が現れたことを察した先祖は拳を打ち放つことを止め、すぐさま後方に飛んで出来た

スペースに着地し、風の床に突き刺さった魔帯刀のすぐさま引き抜き苦戦する

沖田への援護のため手に持った得物で突きを放つ。

俺の風を吸い取った魔帯刀の刀身は漆黒に染まると、破壊の風の斬撃は勢いよく飛び出し

先祖の体を破壊しようと試みるが、いつでも逃げられる間合いへと退いていた先祖は

すぐさま後ろに飛び跳ね避けられてしまった。


「・・お待たせしました。」


何とかしのいだ千夏さんは安堵した表情でこちらを見つめてくる。

ここまでリスクを取って俺に伝えたかった事、そして我慢の意味を俺は理解しなければならない。


「・・・・・理解してくれましたか?」


未だ出すことができない答えを、千夏さんは俺に尋ねてくる。


「・・立ち回りを変えることが一つ。もう一つについては・・・未だ答えを出せずにいます。」


支え合う事を伝えると、千夏さんは満足そうに微笑む。


「今はそれでいいのです。勝ち筋を狙うのは良いですが、私達にもその道筋を

共有していただかないと困りますから。」


千夏さんは俺の考えもっと知りたがっていた。だからこそ俺と同じような行動をとったんだ。


「・・すみません。」


「謝るのは後。敵は未だ後方支援を使っていない。手数を残しています。」


再生を失ったとはいえ、敵が動いているのは前衛のみ。確かに油断は禁物。


「後衛への対処は謙太郎君達に任せています。奴らが動き出したその時、行動してくれと

指示を出していますのでご安心を。」


「・・分かりました。」


「その代わり、龍穂君にお願いしたいことがあります。かなり難しいと思いますが・・・。」


千夏さんから告げられたのはとある策。いや、策とは言えないほどの提案だが

確かにこれが可能であれば奴らどころかその先の勝機を掴めるかもしれない。


「・・何とかして見ます。」


この策を聞いてみると、あの時我慢しろと言われた意味が分かる。

千夏さんは・・・俺にあの陣を離れた位置から見せたかったんだ。

その意味を理解し、再び相対する先祖達の手には拳ではなく見たことの無い得物が携えられており、後にいる虚ろな目をした奴らが何かを唱え始める。俺が援護に徹する事を止めたと察し、

全てを動員してでも仕留めに来た証だ。


「では・・・行きましょう。」


千夏さんを俺の後ろに下げ、沖田と共に得物を構える。千夏さんが取ったリスク。

その意味を成すためには奴ら相手に勝利以上の戦果を挙げなければならない。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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