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第五百五十五話 祓戸の陣

飛び出してきた先輩達。指示を無視した形だが、何か秘策を持っているに違いないと

咎めることなくそのまま前に立たせる。


「さて・・・千夏。」


様子を伺う三人を見ると、どうやら引き連れてきたのは千夏さん。

回復魔術を使う千夏さんであれば奴らの弱点に気付いていてもおかしくはない。


「・・・・・・・・・・・・・。」


だが、気付いていたのなら長である俺に一言いうべき。部隊の率いる以上、情報共有は必須。

子供の様に駄々を捏ねている様に思われるかもしれないが、貴重な情報を一切連絡せず

前線に出てきたのははっきり言ってあまり気分がよろしくは無い。


『・・言えばいいではないか。』


俺が悶々としている事に気が付いたハスターは至極真っ当な指摘を飛ばすが

一度承認した以上、筋を通さなければ本当に子どもの我が儘になってしまう。


「・・・・・青さんが一緒に居る。何か考えがあるのは間違いない。」


それでも言わなければならない。ここは一度我慢して全てが終わった後で

文句を言わせてもらう。その時に言えばいいと青さんが言ってくる姿が目に浮かぶが、

そもそもあの人達が何も言わずに、しかも人数を引き抜いて出てきたことが悪い。


『長とは面倒だなものだな。』


そう。部隊の長は全ての責任を負わなければならない。身勝手な行動をした隊員たちの

後始末をつけるのが俺の役目。これまで統率が取れていたのは間違いなく指令役である

千夏さん達のおかげだが、いつも後ろでケツを拭いている俺の身にもなって欲しい。


『・・龍穂。始まるぞ。』


イタカが子供だなと呟いた気がしたが、そんなことは気にせず千夏さん達は突っ込んでいく。

何が起きてもいい様に辺りの風を支配しつつ、千夏さん達が打ち立てた策を見せてもらおうと

様子を見る。沖田のみを残し陽菜と桃子を引かせた所を見ると、援護の役目を

自分達に変えて突っ込ませるつもりだろう。


「行きましょう。」


・・いや、そうじゃない。沖田の隣に立ったのは千夏さん。

武術が出来ない訳じゃないだろうが、あのレベル相手を押し切れるかと言われれば流石に

無理がある。だからこそ今まで自ら後ろに下がっていた。それに謙太郎さんを含めた

三人の方が前線で戦えるのは間違いない。一体何故リスクのある前線に出る判断を下したのか。

遠くから見つめる俺にはその何故が解けるはずがない。


「・・・・・ええ。」


大きく変わった状況の中であっても先祖達は様子を見ながら足を動かすことは無い。

何かしらの指示を受けているのかもしれないが、基本的には受け身で戦う事で

統一されているのだろう。時間稼ぎの可能性も十分にある。焦る気持ちが無いとは言わないが

何か掴むきっかけを模索しているのならじっくり戦うのが一番だ。

何が起きてもいい様に準備を終えたその時、待っていたかのように二人が踏み込む。

沖田は刀、そして千夏さんは錫杖で突っ込んでいく所を見るとやはり接近戦を

仕掛けるつもりであり、先祖達も拳を構えるが先に仕掛けたのはなんと千夏さん。


「・・・・・ッ!!!」


手に持った錫杖を思いっきり先祖達に向けて投げつける。戦うための得物を自ら

手放すという愚行。千夏さんが徒手空拳を使えるのであれば話は違うが、もし使えるのだと

しても先祖達を上回っているとは思えない。


「封水・祓戸のふうすい・はらえどのじん!!」


そんな俺の考えが間違っていたことを千夏さんは行動で示してくれる。

錫杖には神術が込められており、空気の床に突き刺さった瞬間に陣が展開される。

祓戸とは祓戸四神を奉っている神社に置かれる社であり、そこには祓戸四神の役割が

刻まれている。瀬織津姫を含めた他の三神が該当されるがそもそも瀬織津姫の存在が

秘匿とされており、祓戸が設置されている神社は限られているのだろう。

封印の神として絶大な力を持つ四神の力が込められた陣は俺の含めたことの場にいる全員を

対象とした陣を展開すると、イタカの力が急激に弱まっていった。


『・・なるほど。』


イタカが司る力は氷・・・ではなく、水と風。俺やハスターにも陣の効果が適用されているが

効果は薄く、俺達に無くてイタカにある何かを考えた時、一つの答えがすぐに浮かびあがっていきた。


「感謝します。ヌトス=カアンブル様。」


祓戸の陣が力を封じたのは水の力。清らかな水を操るとされていた瀬織姫に名を変えられていた

ヌトス=カアンブルが千夏さんに力を貸し、水の力封じる陣を展開させた。

再生、そして回復は水の力を極めた先にいる究極の技術。その根本から千夏さんは

封印して奴らの再生を抑え込みにかかった。


「あれなら・・・打開できるか?」


陣の展開を確認した沖田は素早く踏み込むが先祖達は素早く距離を取ろうと

後ろに跳ね上がる。明らかに自らを狙う凶刃に対して恐怖を抱いている。

あの陣が敷かれている場では再生ができないのは確実であり、これなら忠行や

先祖達に対して有効に立ち回れることが可能かもしれない。


「・・どうだろうな。」


前線から離れる指示を受けた陽菜と桃子が視線を前に向けながら俺の元まで戻ってくる。

そしてその口からは不穏な言葉がやってきた。


「あれが忠行に対して効くとは限らん。祓いの神は四柱。それぞれが役割を持っている以上、

瀬織津姫だけの力では完全に封じることは難しいかもしれん。」


瀬織津姫以外の神について、正直に言えばあまりよく分からない。

日ノ本の歴史から姿を消した神の名を知るだけならまだしも、その力や役割など知る由も

無いのだから。


「龍穂。”大祓詞”ぐらいは知っているだろう?」


大祓詞とはその名の通り大祓の神事で唱えらえる言葉。聞いた者の無病息災など様々な

御利益があるとされるが、その中身は日ノ本における罪や穢れが祓い清めの言葉。

現代置いて神事の言葉などすべて覚えている者は限られており、ましてやその全文を知る者も少ない。実は俺もその中の一人であり、八海神社での神事に関わっていたものの

親父や定兄の式神である山祇様に関わる神事以外についての記憶はかなりあやふや。


「・・正直に言えば大まかな流れしか分からない。」


もう少しちゃんとやっておけばよかったと今更ながらに後悔をした。


「安心しろ。それは私も同じ。川の流れに穢れを乗せ、深海まで飲み込ませる。

そして黄泉の国まで吹き払い残りかすを遠くまでさすらわせて完全に消し去る。

それが大祓詞の簡単な内容。その中でも瀬織津姫ちうのは川に穢れを乗せる役目を担っている。」


穢れを払いの流れに乗せると言う重大な役目を瀬織津姫が担っているのは理解できた。

だが、肝心の払いの部分については他の神々の力が必要になってくる。


「完全に消し去るのではなく、封じるくらいであれば瀬織津姫でも十分にできる。

だが、奴は瀬織津姫であって、そうではない。」


「要は名前を与えられていた別の存在ってことだろ?」


確かに本体のほどの力は使えないだろうが、それでも神の力は強大であり

ある程度の信仰を受けていた神であればその力を使うことだって可能。

現に桃子は山本五郎座衛門や将門公の力を再び使っている。別の名を与えられていた将門公と

その殻の器として役目を果たした山本五郎座衛門。


「私みたいな例もあるからな。一概に弱体化されているなんて事は無いかもしれへんけど

忠行相手に効くかどうかについては分からんのは拭えないな。」


どうしても拭えない不安。それは仕方がない事。何せ相手はあの忠行とクトゥルフ。

確実に効果のある術式を持っているのであればここまで苦戦を強いられていない。

だが一つ確実なのは先祖達に対して絶大な効果を示している事。それをさらに

後押しするため、千夏さんは懐から札を取り出し魔帯刀を携えて沖田の後を追い

先祖達に切りかかった。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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