第五百五十四話 先祖達の謎
先祖達の謎。時間は無いが、それを暴いて勝利を収めなければこの先の勝ち筋が見えてくる。
それにはみんなの力が多く必要になってくる。
俺の風で止めを刺す場合、奴らの全てを破壊してしまう。
「・・頼むぞ。」
それに俺の風、そして創造はあまりに汎用性が高く吹雪のような例外を除いて
他の属性を使う必要がなくなるほど汎用性が高い。
敵への研究にはあまりに向かない破壊力はむしろ足を引っ張ってしまう。
「・・・・・行きます。」
立て直された二人を前に踏み込んだのは沖田。何よりも欲していた活躍の場、
そして地震の不甲斐なさを発散できる状況において、前に出ない理由は無い。
その後ろについて行くのは桃子。連携を取るために控えたというよりか、一人で突っ込むのは
あまりに危ないと援護を行うために遅れながら飛び出した形だ。
「・・陽菜。」
片方目掛けて飛び出した沖田達だが牽制など一切ないただの踏み込みは
包囲される危険性を大きくさらけ出してしまっている。
「ったく、おもりをしろという事だな?」
俺の指示を待たず、出てしまった未熟者のけつの始末をつけろとでも言うのかと
呆れながらこちらを見つめてくる。
「そういう事だ。頼む。」
策を聞かない部下の教育はしておけと文句を吐きながら陽菜も飛び出していく。
沖田の実力は決して未熟ではないが、戦場において私情を優先するのは流石に
赤子と言われても仕方がない。
残った楓は早く指示を出してくれと横目でこちらを見つめてくる。
だが、焦って飛び出した沖田以外にも前線に合流して来る人達は多くいる。
「・・楓。」
今か今かと待っていた楓に出した指示。それは今からやってくる仲間達と合流し、
共に先祖達に当たり色々探ってくれという曖昧な指示。
「探れですか・・・。」
「奴はあれを抜かしても六個の脳を持っているからな。忠行本人が使用する脳を
抜かしても他の五体と俺達は戦わなきゃいけないかもしれない。
あれの再生を止める方法を持っているのかいないのかで戦況は多く変わるだろうな。」
術式の弱点を探る一番の方法はその術式を理解する事。
ただ炎を打ち放つにしても、炎を着火し、そして打ち放つという二つの動作が必要になる。
それ以外に動きを生み出すとなるとさらに複雑になり、細かい操作も要求されるが
それはあくまで全てを一から組み上げた術式に限る。
「・・・・・水を差して申し訳ありませんが、かなり難しいと思いますよ?」
戦況に大きく関わると言う俺の提案に対してわざわざ指摘してきたのは、
魔道、神道の発展により術式が簡易で洗礼されたものへと変わっていったことが理由だ。
中、長距離を主戦場として身を置いてきた魔術や神術の使い手に取って
詠唱時間は自らの命を危険にさらす時間となる。あえて距離を取って配置されることから
察しられるように術式を操る者達は近距離戦を得意としていない。
俺達の様にどの距離でもある程度は戦える者達ばかりではなく、
詠唱時間を減らし距離を詰めさせず凶刃から身を護り、足を止めさせたところで
前線に立つ者達や追撃の術式を打ち放つ事が彼らの掟。
それを守らなければすぐさま距離を詰められる事となり、詠唱時間の短縮は
魔道、神道共通の大きな課題となっていた。
「・・分かっている。」
その問題を解決するため開発されたのは簡易術式。一つの動作に対し、
二つ以上の意味を持たせる事で詠唱時間を短縮する事が出来たが
比較的最近生まれた技術であり、その数は使用者と同等の数が存在する簡易術式の
解剖も戦いの中で行るほど簡単に作られた術式じゃない。
「しかも奴らが使っていたのは現代で目にすることが無い簡易術式。
彼らがどの時代で命を奪われたかは分からないが、簡易術式を認識しているだけでも
そこまで古くない人達があの体の中に縛り付けられている。」
「それを・・・私に見て来いと。」
「出来るだけ・・・な。まあこれは奴らの再生とはあまり関係ないかもしれない。
だが、その糸口になるかもしれないと俺は思っている。」
そもそもあの体の中に複数の魂が込められているのかさえ怪しいと思っている。
全ての生物の理。一つの体に一つの魂。式神との神融和や楓の魂魄融合など
例外はあるが、神融和は魂の器にある余裕の隙間を上手く埋めながら行う高等技術。
そして魂魄融合は欠けた魂を繋ぎ合わせて一つにする超高等技術だ。
脳に複数の魂が封じられている事だけでも疑いの目を向けなければならないのに
その魂が一つの体に収められている事実は不思議でたまらない。
それ自体が不可能と考えさせない賀茂忠行という男の異常さを改めて実感するが、
そんな関心を敵に向けている暇はない。
「・・簡易術式の中身を見れば確かに使用者が生きていた時代が特定できる。
日々進化を重ね続けている技術ですからその姿を見る事で範囲を絞れますからね。」
「俺の予想じゃかなり広い年代且つ様々な属性を操るはずだ。
そもそも使わない事もあるかもしれない。そんな情報だけでもいい。持って帰ってきて
くれると大いに助かる。」
楓の指示を出しながら、ヘッドセットの先にいるちーさん達に声をかけ
家系図の有りかを尋ねる。恐らく、毛利先生から兼兄の手に渡っているはず。
あの家系図は何かしらの条件で刻まれている文字が反応していた。
あれが・・・近くにいる魂に反応しているのなら、あの体の中誰が入っているのか
分かるはず。今はそれがないから分からないが、なぜあの家系図が存在しているのかが
再生の鍵になるのではないかと、俺は睨みそこまでの時間稼ぎともし家系図が手に元に
無い場合に出来る限りの情報を自分なり集めようと楓に指示を出した。
「・・・・・承知しました。ですがさすがに限度があります。
戦闘のついでに引き出すくらいにとどめ、戦闘の中で再生の謎を見つける方向が
私は良いと思いますが・・・如何でしょう?」
楓の提案は至極全う。全ての事柄がまるで歯車の様に意味を持っている訳ではない。
あの家系図だって単に犠牲になった人達が忘れられない様に記しただけなのかもしれない。
そんな俺の希望的観測を押し付けるにはあまりに情報が少なすぎる。
「・・それで頼む。」
指示を終えたその時。上空や後ろから合流するために迫る仲間達の気配を感じとる。
当然楓も気付いており、頼みを引き受けるために頷いた顔を俺の後方や上空へわずかながら
向けられると先祖達に向けて駆けだした。
『・・考え自体は悪くない。』
俺の予想を聞いていたハスターはその考えを肯定する言葉をくれる。
「悪くないってのは・・・どういうことだ?」
『奴らの魂を封じ込めている脳や体は忠行とクトゥルフから生まれたもの。
奴らの異常な回復力は奴らの能力から来ているという安易の考えは思考を放棄しているのと
同義だからな。』
クトゥルフと忠行の体。だから再生しているというのは十中八九間違いない。
だがそれだけの理由で体が再生できるほど、魂と術式は簡単じゃないと言う事だ。
『いくら奴らの体から生まれたとしても、その体を動かすのは魂であり術式だ。
決して体が問題ではなく、契約や術式も必ず関わっている。』
得物を振るう沖田。どうやら体に慣れていなかったご先祖達はその特徴を理解したのか
沖田の攻撃よけることなく肉を断たせるどころか骨を断たせながら距離を詰めている。
恐怖とは生への縋り。どうやっても命を奪われないと知れば凶刃なんてなんのその。
「くっ・・・!!」
避ける必要が無い事を理解したご先祖達の行動が今まで戦ってきた者達とあまりに
かけ離れており、その異様さについて行けない沖田は徐々に後退し始める。
その援護にいた桃子は沖田の狙う腕や足を切り落とし致命傷は避けようと必死に
得物を振るい、また陽菜も炎や奴らを焼くなどの支援を見せるが一向に効く気配を見せない。
マズい・・・訳ではない。俺がいる。だが何もできずにただ抑え込まれていく姿は
俺の心を揺さぶり、思わず風を使うために手を伸ばすがそれを上から優しく抑える細い腕が
俺の横を通り過ぎる。
「・・我慢です。」
通り過ぎたのは大きな翼を持ち、錫杖を手にした姿。そしてその後を追う
見慣れた三人組が後を追い、押し込まれ気味の沖田を襲う先祖達の横を取り得物を振るう。
「あれは・・・。」
前線に出るように指示を送っていたのは謙太郎さんのみ。他の三人は指示を出しておらず
俺の言葉を無視して出てきている。本来なら後衛の負担増加のため今すぐにでも後ろに
下がらせる所だが・・・あの人が無いも考えずに前に出てくるなんてことは考えにくい。
「やりますよ。」
先祖達を吹き飛ばして沖田達の前に立つ四人。先輩である千夏さん、謙太郎さん。
そして伊達さんと藤野さんが前衛として飛び出してきた。
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