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第五百五十三話 天才達の一瞬の攻防

二人の子孫の魂を持った者達と魂が無い虚ろな目をした者達。

強者の雰囲気をまとった奴らと対峙する。厄介なのは下が海となっている事。

俺の空気操作が奪われていない事で床を維持できているのが唯一の利点だが

先祖達が海を利用する可能性も十分にある。


(・・面白いな。)


先程の二人組は虚ろな目をした奴が前衛、そして先祖達が後衛だった。

だが今回は全くの逆。しっかりとした視線でこちらを見つめている二人が前衛を務めている。

魂が無い体ではまともな術式を汲めず、本能で戦えるからこそ前衛を務めていると

思っていたが、俺の見当違いだった様だ。


「龍穂、先に行くで。」


俺の隣を桃子と陽菜が突っ込んでいく。得物を持たず、拳を構えている一体に向けて

一直線に陽菜が突っ込み得物を振るうが、滑らかな足取りで脳天から股を切りつける

縦の一閃を悠々と躱す。だがそれは想定内だと言わんばかりにその後ろを兎歩で

駆けていく桃子が足の動きを見ながら確実に仕留めるための一撃を打ち放つ。


「フッ・・・!!」


平将門の力を取り戻した桃子は日ノ本を脅かす退魔の一閃で腰を断ち切り胴と足に

無理やり別れを告げさせる。忠行の体をも断ち切る一撃は先祖達をの体を簡単に切り伏せた。


「・・油断するな!!!」


楓吐息を合わせながら踏み込む俺の視界には断ち切られた事を意に介さず、

しっかりとした目線で近づいている桃子を捕らえる姿が映し出される。

視界から得た情報通り、奴は腕と手を素早く動かし手印で術式を汲み接近する桃子や

陽菜に向けて攻撃を仕掛けるつもりだ。


「助けますか?」


楓は懐からクナイを取り出しながら尋ねてくる。剛力から打ち放たれるクナイや

俺の風でも援護は出来るが、後から来ている援軍の存在にすでに気づいていた俺は

口を開かず背中を軽く叩いて返事を返す。


「ッ・・・!!」


手痛い反撃が来ると察した陽菜は弾正忠の業で桃子と自分の身を護ろうとするが、

俺と同じく既に察していた桃子は再び腰を落とし追撃の準備を整える。

手に込められた神力があとわずかで術式の完成すると告げるが、わずか一瞬でその気配が

全て無くなる。


「・・・・・・・・・・・。」


奴の手印を阻んだ正体。それは俺からの指示を受け、高台から遠距離の縮地でこちらに向かって

きた沖田が放った一閃。辛うじて人の形を保っていた先祖達であるなら

自らの実力を示せる。何もできず、慕う長や兄を目の前で傷つけられた無念を晴らすため、

弾けんばかりの熱を持っていたのは分かっていたが、打ち放たれた一閃は手印の急所である

手首の関節の隙間を完璧に通し、同じく切り落とされた胴と共に風の床へと

力無く落ちていく。


「退け!!!」


手印とは詠唱失くして術式を練る手段。脳で行う工程を手で行うがその供給源は

生命の動力である心臓。その供給を断つことで桃子達を救ったが

未だ床を足裏で捕えている下半身が縮地の勢いを受け止めるために足を止めていた

沖田を蹴り上げる。

元は忠行の体の一部。そこから自立して動いているのだから体を断ち切られたとしても

一人で動けるのは想像に容易い。だが何故そんなことができるのかが未だ理解できない。

二人組との決着は体を弾け飛ばし脳を潰したことで終わりを迎えた。

子孫を縛り付ける脳が悪さをしているのだけは間違いないだろうが、その理屈が分からない以上

早期決着を狙う事は難しい。

大きな隙を突かれた沖田だが、あいつが使う天然理心流は多くの型を持たず実戦超特化の流派。遅れて反応した足で跳ねあがると得物を床に突き刺しケリを躱してしまう。

狙った沖田の姿は得物に変わっており、勢いよく刀身を蹴り上げられるとなんとその勢いを

利用して得物を持ちながら宙返りを披露し、最後は勢いを利用した兜割で下半身を

真っ二つに割ってしまった。

なんという戦闘センス。遠距離の縮地は例え体を魔力や神力で強化していたとしても

下半身への負担は大きい。その衝撃を兎歩の要領で素早い足踏みで逃がし反撃をかわす所か

むしろ反撃し返すなんて発想はなかなか浮かばない。

戦闘動作の全てを型にはめ込んで来た武道の歴史の弱点と言えるが、

その中でも異質な天然理心流をここまで洗練された動きで使う姿を見せられれば

三道の中でも堅物と呼ばれる方々が多い武道省の高官達も天才と評価せざるおえないだろう。


「・・やるね。」


対人戦における才覚を見せつけられた楓は負けじと踏み込むと、

援護の様に取り出したクナイをもう一人の先祖達に向けて撃ち放つ。

真正面から隠しもせずに放たれたクナイは簡単に避けられ、迫る楓に対し同じく拳を固めながら

対応の構えを取るが既にそこに楓の姿は無い。

理性ある先祖は一体何が起きたのか理解できず、近くにいるはずの楓の姿を見つけるため

辺りを見渡す。上下左右、首の可動域を目一杯使い広げられた視野内に楓はおらず、

足を引いて振り向いたその瞬間、奴の視界には広がった青空に浮かぶ大小の太陽と二つの惑星。そして援護のために後方に控える豆粒のような純恋達の姿が順々に写った事だろう。

何故なら奴は拳を構えた瞬間既に首を跳ねられており、腰を落としながらも無くなった

首の先からクナイを手に持ちながら冷たい視線を先祖に向ける楓の頭が見えていた。


「私も・・・負けちゃいませんよ?」


一体何が起きたのか。奴はなぜ真正面から迫る楓の姿を見失ったのか。

隣にいた俺はその全てが見えていたが・・・楓もまた天才の一人であることを俺に

証明してくれていた。

楓が投げたクナイを奴は避けた。眼の高さに向かって投げられたが視線を逸らさない様に

ほんの僅か横に移動した。万全な構え。一切のミスの無い動きだが、それは常人が相手である

事を前提として見た時の評価。何故なら目の高さに投げられたクナイに動きを合わせた楓は

その細い両刃が顔の横を通り過ぎる時に出来る死角の中を移動し、

剛力によってどこまで行くか分からないほどの勢いを持ったクナイを奴の背後で

掴み取るとそのまま背後から首を跳ねてしまった。

沖田を実戦の天才と呼ぶのなら、楓も同じく実戦の天才と呼べるがその内容は正反対。

敵を倒す事に長けたのが沖田なら、楓は敵の命を奪う事に長けている。

常人ならつけるはずの無い一瞬の隙を突き、そして一撃で仕留める。楓もまた、天才の一人だ。


「・・・・・戻ってこい。」


俺の指示を聞いた楓は自身の影に沈みこちらに戻ってくる。沖田や桃子達も

此方に戻ってくるが、全員が気に食わないと言わんばかりの顔でこちらを見つめている。


「なんで止めを刺さないって顔だな。」


後ろの二人を倒せば終わるだろうと考えているのだろう。確かにあのまま攻めさせれば

援護然もできずにただ立っていた後衛の首を跳ねる事は出来た。


「その理由・・・すぐに分かる。」


だがそれだけでは決定打にならない。首を跳ねても、体をバラバラにしても

あいつらは体を再生させて再び立ち上がる。


「・・化け物だな。」


「そうだ。」


俺が風を使い、奴らの体を再起不能まで粉々にすれば勝負は決まっていたかもしれない。

だが、後にいた魂が無い奴らが床の下に敷かれた水を操り俺以外の全員を飲み込んでやろうと

企んでおり、途中まで楓と共にいた俺は見えない所で対処に追われていた。

それに・・・出来れば奴の再生の謎を少しでも掴んでおきたい。

あれは先祖達の体ではなく、忠行の体に脳の契約で縛った魂が込められている。

再生の謎を解くのは忠行との戦いで苦戦するだろう再生を防ぐ術に繋がるだろう。


「何故あそこまでバラバラにしても立ち上がれる・・・?」


この場にいる全員がその謎に興味を示している。


「・・それを暴こう。」


後方にいる純恋は兼兄達に向けて援護をしてくれている。

想定以上に時間がかかるかもしれないが・・・先を見据えれば当然の選択だ。


「実力はこっちが上だが・・・油断するなよ。」


タフな体の謎は必ず俺達の役に立つはず。その謎を知るため、再び足を踏み出した。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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