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第五百五十二話 無念の撤退

影から見る忠行。目の前に迫る凶刃から身を護る素振りさえ見せず、ただ受け入れようと

している様に思えるが奴がそんなことをするはずがない。

必ず何かがあるはず。だが流れに身を任せた三人が敵を目の前にして得物を止める事など

出来るはずがない。ここは俺も飛び出ししかないと奴の背後に回り込み、

同じ様に得物を振り上げる。


「フッ・・・!!」


分かりやすい奇襲は奴の意識をさらに散らす。もし何かしようとしているなら

動きを中断する可能性を引き出すことができる。だが奴は幾度となく勝利を収めてきた。

そんな分かりやすい動きの意図を簡単に悟ってくるだろう。

だからこそ、辺りに黒い風と吹雪で作り上げた白い風を準備しつつ大胆に命を狙う

袈裟切りを試みた。


「・・・・・・・・・。」


おかしい。奴はそれでも動かない。俺達の凶刃を受け入れようとしている。

その行動の意図が分からず、得物を振るう腕に迷いがよぎるが腕を断ち切った時のことが

フラッシュバックの様に頭の中を駆け巡る。


「・・・・・!!!」


その瞬間、全てを理解した俺の脳が腕を振り抜けと必死に警告する。

そして、奴の体に向けて吹雪の弾丸を打ち放つ。


「・・気付いたか。」


ここに来て、忠行は時間稼ぎを行うとしている。そしてその代償として俺達の凶刃を

受け入れる気だ。


(逃げ道・・・!!)


そしてもう片方の黒い風は逃げ道の確保のため、純恋の太陽の光によって開かれた穴を

広げるために打ち放つ。この狭い場所で人数不利を背負いながら忠行と戦うのは

あまりに分が悪い。一度退く選択を取らなければならないと逃げ道を広く確保する。


「だが、もう遅い。」


俺達の凶刃は忠行の体を捕らえ、奴の体を断ち切っていく。

楓の蛭は肉を貫くことが出来ず、陽菜の一太刀は奴の骨にぶつかり途中で止まる。

だが、俺と桃子の一太刀は肉と骨を断ち切り右足と胴を二つに分ける。


「刃が通らんか・・・!!だが、これならどうだ!!!」


骨を断ち切れなかった陽菜は体から炎を巻き上がらせ得物に伝えていく。

燃えた刀身が奴の体内へ熱を伝え内側から焼こうとするが、近くにいた楓を小脇に抱え、

風で桃子を持ち上げられた俺の相手腕に抱えられると刃は体から離れていった。


「なっ・・・・・!!」


このまま体を焼けば大きなダメージを残せるのは確実。そんな好機を俺が奪い去った事に対して

陽菜は驚きを隠せないが、この場に残る事こそが負け筋。


「龍穂!!何故だ!!!」


驚きが怒りに変わった陽菜。その怒りを俺にぶつけようとするが腕に抱えられ見えた

景色が口を閉ざさせる。


「距離を取るぞ・・・!!最悪退くことも頭に入れてくれ!!!」


断ち切られた四肢や足。それが今頃形を変え、人の姿をした肉塊へと変わっている事だろう。

兼兄達に攻められている落とし子。そして援護に向かわせない俺達。

中途半端な選択は状況を悪くすると察した忠行は、子孫達の魂を使い俺達を

引き剥がす選択を取った。


「追撃が来ますよ!!」


小脇で暴れる純恋達を手放し、体を反転させながら奴らへと視界を向けると

倒した肉塊と同じような奴らが俺達に向けて神術を打ち放つ姿が目に入る。

だが、以前と違うのはその数。視線をはっきり向けているのが二体。

そしておどろおどろしいのが二体と初めて相対した時とは倍の数が俺達に襲い掛かろうと

している。胴と右足。少なくとも、奴の体を三つに分けたはずだが合わない計算の

答えを導き出すほどの余裕は俺達にはない。急ぎ風を使い、向けられた神術に風の槍を向けて

相殺を狙う。つい先ほどの感覚を信じるのならこれで十分。ひとまず足を止め

押し引きの決断をつけるほどの時間を確保できるはずだったが現実は厳しい。


「効かな・・・!?」


先程の奴らとは段違いに威力の高い神術は、瞬発力だけを考えた俺の一撃を

簡単に弾き飛ばす。奴らの一撃は距離を取っても無駄だと言わんばかりに進路を変えず、

楓や陽菜、そして桃子が術式や得物を振るって何とか相殺するが次なる一撃を

準備している事だろう。奴らだけでならあの場に留まってでも対処できる。

だがそこには忠行がおり何人命を奪われるか分かったもんじゃない。


「助かる!!」


奥にいる忠行も追撃に来ているか確認するが姿はなく、どうやら落とし子への援護を

許してしまったらしい。


「奴らを連れて一度退くぞ!!!」


遠回りになったが奴の狙い通りの展開になった。だがこのような時こそ真に不意を打てる好機。

子孫達に足止めされていると確信した忠行の背中はがら空きなはず。背中を追えば

また一撃喰らわせる事が出来るかもしれないが、それは人数不利を楓達に渡してしまう事になり

さらに言えば一撃くらわしたとしても同じ様に敵を増やしてしまう事になる。


「・・・・・っ!!」


口惜しそうに忠行がいた場所を見つめる陽菜は素直に従った二人の後を追いながら

水の壁に出来た穴を抜けていく。この場に忠行がいなければ操作を奪われることは無いと

奴らの神術を兎まわる威力の弾丸を放ちつつ、こちらに飛びかかれるほどの距離を

維持しながら壁を抜け出す。


「何だあれは・・・。」


壁の外で俺の事を待ってくれていた陽菜達は姿を見せた子孫達の事について尋ねてくる。


「あれは・・・賀茂家の先祖の塊。忠行の体には恐らく九つの脳がある。

俺が一度腕を断ち切った時も同じ様な奴が出してきた。切り離された脳が自立するのかは

分からないが、その体には十数・・・・・いや、それ以上の魂が込められていて

その力の全てを使って襲い掛かってくる。」


切り離されたとはいえ、元は忠行の体。再生能力は健在であり強力。

半端な攻撃はすぐに傷が塞がると説明すると厄介そうな表情に変わっていく。


「・・面倒だな。」


「ああ。だがあれを出す状況まで追い込んだことは事実。

あれは決して俺達を倒すほどの実力はない。だが、あれに忠行が合わされば

面倒な事この上ない。」


再生能力を持っているとはいえ、傷を塞ぐには膨大な量の力が必要となる。

決して無限ではない。勝機はある。


「では、先ほど同じく私が前に出ましょうか?」


「いや、単騎はダメだ。」


水の壁の外に出れた。それすなわち、しっかりとした後方支援を受けることができる。

忠行との戦いの様に強力な前衛を集めた結果、四人で突っ込まないといけないなんて事は無い。


「後衛から何人か前線に来てもらう。後ろにいるにはもったいない人達が

何人もいるからな。」


敵は増えた。だが、実力は劣る。俺達だけで戦うより前線を増やした方が勝利を確実に

得ることができ、前線に残してきた兼兄達の元へ早くたどり着ける。


「・・お前だけでも向こうに行かないのか?」


ヘッドホンから後方の味方に向けて指示を出していると陽菜が支援に向かわなくても

良いのかと尋ねてくる。


「奴はこの状況を作るために落とし子を呼んだのかもしれんぞ?

明らかな弱点を見せつけ攻め込ませる。釣り野伏せのような策であればマズいのはあちらだ。」


釣り野伏せ。戦国時代、島津氏が得意とした偽装退却戦術の総称。敗走する部隊を用意し、

追走してきた敵部隊を不利な地形に誘い込み伏せていたもう一つの部隊と共に反転して

追い込む。あの落とし子は誘引する部隊である餌。忠行は俺達を引かせて

釣られた兼兄達を仕留める気だとしたら確かにマズイ。


「・・・・・後衛に圧をかけるように指示を出しておく。」


兼兄達を放置はできないが、とはいえこいつらを倒しておかなければ

背中を狙われる続けることになる。一つ一つ解決する事で勝機を掴める。

今は・・・そう信じたい。


「焦らず、そしてなるべく早くこいつらを叩くぞ。」


俺が倒した子孫達とはまた違った雰囲気。あいつらより一つも二つも上であるのが

伝わってくる。後衛からこちらに向かってくる仲間達の到着を待たずに

俺達は踏み込んだ。








ここまで読んでいただきありがとうございます!

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