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第五百四十四話 氷の爆弾

倒れない。どれだけ攻勢を仕掛けても倒れる素振りを見せない所か

余裕を見せ続けているその理由。それは九つの脳によって導き出される最適解。

上下左右を全て見渡す子孫達の顔に付けられた目から得た情報によって奴は動きを変えている。


「まだだ・・・・・!!!」


怒りに任せ得物や炎を吐く竜次先生の攻勢であっても怖気づくことなく全てをいなす。

それだけでも異常だが、奴は細かな反撃を行い兼兄達さえも体に近づけない。

そんな奴が再び自らの領地である深海を取り戻せば鬼に金棒。

影という兼兄だけの領域と深海がぶつかった時、どうなるか分からないが全滅もあり得る。

ここまで戦ってきた全員が体に傷を負いながらも必死に避けていた奴の領域を

再び取り戻させてはならないと願いを込めて撃ち放った氷の塊は、

腐食しひび割れていた黄金に向かっていく。


「・・終わりだな。」


体に傷を負わせながらも急所をつけない兼兄達に対し、忠行は小さく呟く。

人間という小さな体に込められた強打な力。そして深海を取り寄せた上にこれだけの

距離を詰めていればからめとることは容易。奴が浮かべたたった一つの不敵な笑みは、

それだけの情報を俺達に与えてくる。


『・・奴や兼定とお前の違い。分かるか?』


重要な場面の中。ハスターは俺に尋ねてくる。


「違い?」


『先ほど、お前は影の質量を尋ねたな?確かに奴が使う影の質量は多い。

だが、何故奴が不意を打ているのか。そしてクトゥルフの奴がお前に一度不意を打てたか。

それは決して質量の差ではない。』


兼兄や忠行、そしてクトゥルフと俺の差。それをハスターは語り始める。


『お前は昔から空気操作を青に仕込まれた。水の雫から水蒸気。

細かな操作を仕込まれた事で空気という目に見えない分子の操作を可能にした。』


「・・・・・そうだ。」


『それが今のお前を支えているのは事実。だが、それゆえの代償をお前は支払わされている。

いや、大気のもろさを突かれている。』


それは・・・初期動作の事だろう。空気はそれ一つだけでは武器にはならない。

動かし、固め、そして打ち放つ。それは俺の弱点として何度も突かれてきた。


「・・どうすればいい?」


『簡単な事。空気を動かす速度に緩急をつけるんだ。空気を動かし続けるのではなく、

奴らと言えど気付かれないほどの速度で術式を練り上げればいい。』


言葉で表せば簡単だが、現実はそうではない。速度を上げるには込める力を上げ、且つ

正確な操作が必要になる。ハスターの力を神術で扱う様になり速度を増したが

それでも足りないとハスターは言う。


『威力は十分。後は速度。どうだ?簡単だろう?』


「・・どうだろうな。」


『自信が無い様だな。であれば・・・俺の吹雪を使え。』


今度はイタカが口を開き、自らの術式を頭の中に流し込んでくる。


『水を風で氷へ変える原理はお前なら分かるだろう。今まで風を風でしか使ってこなかった

お前だからこそ、氷の術式は成長を促す事に繋がるだろう。』


イタカの言っている意味が俺には分からないが、既に氷の塊を打ち放っている。

あれが作用しなければすぐさま次の神術を打ち放たなければならないが、

今はその結末を見届けるしかできない。

腐食が進み、ひび割れた隙間から今まさに海水が漏れようとしている。

ノエルさんが他の黄金を使い閉じようと試みるが、操作で鉱石を繋ぐのは時間がかかる。

このままでマズいと苦しそうな表情を浮かべていたノエルさん前を、打ち放たれた

氷が通り、腐食した黄金を突き破り海の中へと入っていく。


「・・凍れ(フリーズ)。」


水を凍らせるほどの風を生み出す方法は二つ。一つは風を循環させ続け、低い温度を

維持した所に水を作り上げる方法。水と風で氷を作り上げる際に多く使われる方法だが

これでは凍らせるまでに多くの時間がかかり、効率が悪い。

そもそもこれは戦闘向きの術式ではなく、あえて使うとすれば戦場をあらかじめ

凍らせるなど、長時間の待機を前提とした罠などに使用される。

そのような時間は俺には残されておらず、全てが間に合わない。


「・・・・・!!!」


漏れ出した海水が、後衛の二人を襲おうとするがその瞬間一瞬で凍り付く。

俺が作り出したのはもう一つの方法。瞬時に氷を生み出すための高度な技術。

空気の中に含まれる二酸化炭素をかき集め、それを素早く循環させる事で個体へと変える。

俗にいうドライアイス。冷媒と呼ばれる物質へと変わった二酸化炭素に絶えず

空気の循環を行う事で冷気を放出させ続ける。その周りを水で固めた物を

海水の中にいれれば・・・・・氷の爆弾の出来上がり。


「これは・・・・・。」


腐食した金属の下から突き上げられ姿を現したのは氷の塊。鈍くとがった氷塊は全て俺が

作り上げた沈黙の氷が凍らせたものであり、二酸化炭素を個体として維持するためには

相当な風の循環が必要。まるでピストンの様に爆発的な循環を

イタカとハスターが俺に教えたかったのだろうか?


「・・・・・奴か。」


襲い掛かろうとしていた海水を全て凍らせた。水という力を使って。乗っ取られず出来た

という事実は俺にしてみれば何よりの収穫。そして・・・その成果は兼兄達にも届く。


「ナイスだ龍穂・・・!!」


窮地を止めた。押し込まれる手前で止めた事が何よりも大きいと立ち回りを大きく変える。

恐らく兼兄も気付いていたのだろう。黄金の蓋が長く続かない事を。

俺では分からない焦りをクトゥルフは捉えており、冷静に立ち回って結果

攻めをギリギリで躱すことが出来た。


「だけどこれは・・・。」


長くは続かない。氷の力を使った事で理解する。風と水で作り上げた氷は

神術操作の対象にならず、風を送り込むことでしか氷を維持できない。

そもそも二つの力を合わせて氷を作り出しているだけであり、細かな操作や

神力を送り込んでも強くなるのは風と水のみ。


『次だ。早く送りこめ。』


そして氷を放り込んだことで改めて実感する。奴はあの場に本当に海を作り出した。

何十メートルと深い海をあの小さな氷の爆弾では全てを凍り付かせない。


「分かってるよ・・・!!」


これでは凍り付いた下にある海にすぐさま打ち破られる。未だ兼兄達は窮地を脱していない。

すぐさま空気中の二酸化炭素を集め、そして水と駆け合わせて凍り付かせる。

空気の中から選別し、そしてすぐさま凍り付かせる動作を繰り返すと頭が

壊れそうになる。


『この瞬発力だ。覚えておけ。』


かき分け取り出し、凍らせ打ち放つ。その繰り返しが俺には必要だとハスターは語る。


「覚えておけったって・・・・・!!」


『いいか?お前が学ぶのは決して分子からの取り出しではない。

急速に冷凍させる豪風のイメージを掴んでおけ。』


凍らせるための風。少しでも熱を持った風が入れば凍り付くことは無く、

循環し続けるために瞬発で、激しい風を取り込み続ける。


『攻撃を察されては対応される。空気を掴みすぐさま打ち放つ。威力は求めるな。

兼定の影は地面だけ警戒していれば問題ないが、お前の場合は全方位。』


それが出来れば俺でも不意は打てる。そう言い放ったイタカだが、俺の頭では

その全てを処理すのは難しい。


「なら・・・・・!!」


脳が足りない。奴と俺の圧倒的な差を埋めるためには作り出すしかないと神術を練り上げる。


「アフリカのアフリクス!!!」


アフリカの風。冬の風を司るローマ神話の冬の象徴。神を創造し、俺が作り出した

氷の爆弾を託しながら戦場に降りていく。


『近づくのか?』


「ああ・・・!!」


打開が出来ない状況をどうにかするため、兼兄達との連携に乗り出す。

ノエルさんに一度止められたが、もう我慢できない。


『今の一度でコツを掴んだと思ったか?もう少し学んだ方が・・・。』


この攻めあぐねを放置はできない。ここで怒られるのなら逆に文句を言うしかない。

降りていく俺の頬を撫でる風。冷えた風が頬に当たるが、降りていくにつれ酷く冷たくなっていった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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