第五百四十三話 多重神融和
イタカからの提案。それは予想さえできない不可解なもの。
「神融和って・・・・・。俺は今ハスターとしているんだぞ?」
大前提、俺は現在ハスターをこの身に宿している。そこイタカを加えろと言っているのだろうか?
「・・そうだ。その上で、神融和を行えと言っている。」
そもそも、魂とは二つの属性で構成されていると言われている。
それこそが陰陽。神融和とは、その片方を神に預け一つになる事で行える秘術。
その中にもう一つ加えるとなると、魂という器の中に三つの魂を留める事になる。
相当な無理をしなければならないが、確かにできない事は無い。
『・・・・・いいのか?』
まずは第一に無理をして魂に留めるため、神同士の相性が肝心。
主従と臣下という関係値であるため相性自体は良いのだろうが、臣下が主人と
並び立つ事をハスターが許すかどうかを確認しなければならない。
『別にいい。奴の話しは的を得ているからな。』
少しでも嫌がればこの話しは無かった事にしようと思ったが、俺の予想と反して
ハスターは快く受け入れる。
この状況を冷静に判断したイタカの事を深く信頼しており、それはイタカも同じ。
であれば・・・断る理由は無い。
「・・ハスターは良いと言っている。だけど、少し聞きたいことがある。」
「なんだ?」
「最悪の状況の打開だ。イタカがどう考え、どう打開するか知っておきたい。」
信頼を欠いている訳じゃない。だが、先ほどの態度は俺の心を逆なでた。
苛立つ心をイタカが持つ道理で収めてもらうため、見えた道筋の開示を要求する。
「簡単だ。俺とハスター様、そして龍穂の力を合わせる。それだけで十分だ。」
・・本当に簡単に言ってくれる。二体と一人の力を合わせるだけで打開できるのなら
良いだろう。
「お前な・・・。本当は神融和したいだけじゃないのか?」
頭の中に浮かんだ言葉をそのままイタカに伝える。俺の問いに答えずにただこちらに
迫ってきているが、おそらく図星なのだろう。
「まあ・・・・・ひとまずだ。気付かせてくれて感謝するよ。」
この事実を黄金を操るノエルさんが知らない訳がない。おそらく四人にも伝わっている。
それでも対処せずに攻め続けている所を見ると、どうやら奴が敷く深海の対処を
俺に任せている様に思える。
「感謝は必要ない。」
今はやるべきことを言い放つイタカ。気付いていなければ、兼兄達が一瞬のうちに
窮地に落ち行ったかもしれない。
いや、まだ窮地が来るとも、そして対処できるとも決まったわけじゃない。
『・・・・・やるぞ。』
人型となったイタカは俺の目の前に立ち、胸に手を伸ばす。
先程は魂の器と言ったが、正確に言えば心の積載量とでも言えばいいか。
人一人に決まった大きさの魂しか込められない訳ではなく、心が強くなれば
当然魂の積載量を増やすことができる。
「ったく・・・・・。」
もう少し早く、そして素直に言ってくれれば苛立つことは無かった。
文句を呟きながらイタカの顔を見ると、嬉しそうな表情の中、わずかな恐怖が混じっている。
(・・・・・そうか。)
先程俺が行った神融和がしたいだけという言葉は嘘じゃないのだろう。
主君と並び立つのではなく、隣に立ち支えると言うのは何よりの名誉。だがそれ以上に
イタカの口を塞いでいたのは恐怖。主君と共になった俺への進言。
恐らくイタカは俺へすぐに提案したかったのだろう。そうすれば何かしらの打開が
見えるかもしれない。だが、それは同時に主君への無礼になる。
下手をすれば消されてしまうかもしれない。その恐怖と戦いながら、
それでも俺のためだと進言してくれた。
「・・・・・・・・・・・。」
イタカの指が服の上から突きつけられたその時。取り込んだ魂からイタカの心情の
詳細が伝わってきた。だが今更謝るつもりもない。
俺という魂の器に二つの魂を込める。決して簡単な事ではなく、互いが互いを
尊重しなければならない。一人が器の主を主張すればたちまち魂が壊れてしまう。
ただの神融和とは違い、三つの魂が完全なる信頼の元で一つにならなければならない。
イタカの魂、神格が俺の中に入り込んでいる。
『・・・・・・・・・・。』
調和。全てが平等で釣り合わなければならないが、大きな問題はイタカとハスター。
俺の中にいるハスターがイタカの提案に口を出さなかった時点で文句は無いのだろう。
魂という座に共に座ることを認めている。だが、イタカは違う。
格上であるハスターに少しでも怯え、謙遜をすれば座から降りたとみなされ神融和は解かれる。
存在を自ら主張しなければならないが、それをイタカがし続けるのが課題。
『・・あまり卑下をするな。』
忠誠を誓っているイタカにとってはあまりに苦行。魂が震え、このままでは
神融和が解かれてしまうのではないかと思っていた所でハスターが声をかける。
『イタカ。お前は私の配下だ。それは決して変わらぬ事実。
だが配下とはただ後ろに立つだけが役目ではない。時には私の前に立ち、
身を挺して戦う事もまた一つの役目。』
『・・分かっております。』
『役目、役割とは時と場合によって立ち位置を変える。今は私の隣に立つことがそれだ。
お前はそれを全うできるだけの実力を備えている。それともなんだ?
受け入れている私の隣に立てないとでも言いたいのか?』
認め、そして尋ねる。イタカを忠臣として認めているからこそのやり取りであり、
こうなればイタカは逃げる事さえ出来ず、意地でも俺の魂へと座り続けるだろう。
『・・・・・いえ。』
これが主君と配下。王と臣下。二人の関係値がよく分かる。
俺の思った通り、イタカは魂の中で存在を主張しだし安定し始める。
(これが・・・・。)
高等技術である神融和のさらに上。神道を極めた者の中でも使える者は稀。
三体童子の神融和である”多重神融和”。
信頼、そして調和。複数の式神と深い関係値を築いて尚、たどり着くのは難しい
秘術であり禁術。少し間違えれば自らの魂を傷つける所か、再起不能になってしまう事も
珍しくなく、自らの技術と式神への信頼を試すために行った未熟な者達を幾度となく
葬ってきた技術として禁じられてきた。
「こりゃ・・・こんな土壇場でやるもんじゃないな。」
青さんと初めて神融和をしてから魂を同期させる感覚に戸惑い、慣れるまでかなり時間が
かかった。青さんが俺の動きに合わせる事から始めた時の事を思い出す。
『当然だな。本来、魂とは一つの体に一つ。それを一つの器に無理やり詰め込んでいる。
あやつの様に無理やり体に縛り付けるようなことをしなければ負荷がかかるに決まっている。』
ぎこちなさは・・・どうしても若干体に残る。腕や足を動かした時、
ほんのわずかにズレを感じてしまう。だがそれでも、体に有している力は段違い。
イタカの力を取り込んだ細胞たちが嬉々としてはしゃいでいる様な感覚が襲う。
『・・・・・龍穂。』
イタカに下への警戒を促されると、そこには立ち回る兼兄達を支えていた黄金の
腐食がかなり進んでいる場面が視界に映る。
「くっ・・・!!!」
後方で支援をしていたノエルさんが何とか抑えようとするが、腐食している部分の
操作を失っているらしく、大きな蓋が今にも崩れ去りそうになっている。
『丁度いいな。動作確認と行こうか。』
何故か嬉しそうな様子のハスター。動作確認と言っても水と風を使い作り出す氷には
どうしても時間がかかる。純粋な氷魔術とは手順が多く、それ以上に奴の海水を
兼兄達を対象から排除しつつ全て凍らせられるのかどうかも怪しい。
『・・そう卑下するな。』
不安を抱える俺に対し、イタカは先ほど言われたセリフを今度は俺に対して言ってくる。
こいつ・・・ハスターに認められたことに調子づいている。
あのしおらしかった時とあまりに違う態度に新たな苛立ちが芽を出すが、
ここは一度しまっておこう。風を作り出し、温度を下げて辺りの空気を凍らせていく。
出来たのは一つの氷の塊。これが俺が作り出した初めての氷の塊。
「沈黙の氷。」
今にも朽ちそうな金の蓋に向けて撃ち放つ。これが・・・また一つ戦況を変える事を
願いながら兼兄達の元へ届けた。
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