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第五百四十話 クトゥルフを封じた者達の力

踏み出した竜次先生は手に持ったグングニルを忠行に向けて撃ち放つ。

人間の大きさへと姿を変えたクトゥルフがまともに喰らえば体に穴が開く程度で

済むはずがなく、四肢の大半を失う事になる。


「・・・・・・・・!!!」


流石のクトゥルフも受け止める選択を取れずに素早く跳ねあがるが、

空気を引き裂きながら疲れた槍の周りには衝撃波が放たれる。


「なっ・・・・!!!」


あまりの衝撃に、体が自然と構えを取ってしまう。魔術や神術でもなく、

ただの剛力によって圧縮された空気が飛ばされ辺りを吹き飛ばす。

ただただ暴力的な一撃に、俺は思わず唾を飲み込んでしまう。


「ふむ・・・。血を濃く引いているみたいだな。」


同じ龍であるはずの青さんでも、あれほどの一撃を放つことができない。

一体どれだけの力を持った竜の血を引いているのだろうか?

避けた忠行は接近戦は難しいと判断し距離を取りつつ敷いた海水を差し向けるが、

口からはいた炎によってすぐさま蒸発させる。


『・・すさまじいな。』


たった一度の攻防でも分かるほどの強大な力。なぜここまでこの力を使ってこなかったのかと

言いたくなるような圧倒的な姿。


「・・・・・・・・・・・・・。」


その圧倒的な姿を見て、少し気になる事が思い浮かぶ。すさまじい力だが、

どう見ても水の力を操る聖獣の姿には見えない。

竜とは川の化身である事が多く、そのどれもが強力な水の力を使う事が多い。

青さんは方角を司る神であるので例外ではあるが、その姿に当てはまらない

竜次先生の姿は、俺に一つの答えを導き出させる。


「・・西洋か。」


西洋と東洋では龍の存在意義が違っており、神聖な神として崇められる東洋とは違い、

西洋では邪悪で試練を与える怪物としての側面が強い。

その中でもこれだけ強い力が扱える竜は限られてくる。

そして・・・手に持った槍が大きなヒントになるだろう。


「小癪な・・・・・!!」


竜次先生の一撃を受け、明らかな苛立ちを見せた忠行は舞い上がった水蒸気を操り

鋭い刃として打ち放つ。高温の水をあそこまで素早く集め、しかも高速で打ち放てるのは

流石として言えないが、水の刃に異変が起こる。


「させませんよ・・・!!!」


何処からか現れた黄金に輝く刃が水に突き刺さり、なんと動きを止めてしまう。

あれは・・・金なのだろうか?


「永遠の不幸アンドヴァリ。」


ノエルさんの周りに漂う紙に描かれた文字が光り輝くと、辺りの瓦礫が先ほどの

刃同様黄金に輝きだす。


『・・ファフニールか。』


アンドヴァリ、そして黄金。この二つが示すのはただ一つ。竜に変化するドワーフ。

黄金を抱える者”、ファフニール”の力だ。

辺りを黄金に変えたノエルさんは大きな金槌を振るうと辺りが動き出す。

忠行も当然黙ってはいない。大量に敷かれた海水を再び動かすが、

それをさせまいと黄金を動かし防ぎにかかる。

風や火、そして土や水であれば水の入り込む隙間が存在するが、固く結ばれた黄金は

水を通さずまるで蓋をするように海面へと追い込んでいく。

一つ一つの繋がりが強ければ強いほど魔術や神術の操作の難易度が上がるが、

その筆頭が鉱石。だが、ノエルさんはまるで手足の様に不自由なく動かし

忠行とクトゥルフを追いこもうとしている。


「・・・・・やめろ。」


このままではマズイと忠行は体から子孫達を動かし、鉱石を止めるためにノエルさんに向けて

口を開こうとするが、その瞬間目にも止まらぬ速さの攻撃が飛び込んでくる。


「させないわよ!!!」


何かを撃ち込まれた子孫達は苦しそうに悲鳴を上げる。

目にも止まらぬ速さ。だがそれ以上に目立っていたのはまるで予知したような正確さで

放たれた何か。見るとアルさんが杖から何かを飛ばした様で、辺りに何か浮かんでいる。

見るとそこにはノエルさんが作り出した黄金が浮かんでいたが、固い黄金に

何かが付いている様で太陽に反射し小さく光っていた。


「未来と紡ぐスクルド!!」


スクルドと言えば神話の中に二つ出てくるが、使う技の名前から運命の女神であるスクルドの

力を使っている。未来をつかさどる女神。その力を存分に発揮したアルさんは

忠行の行動を全て先回りし何もさせず追い込んでいく。


「・・・・・・・・・・!!!」


手も足も出ない。この攻防で俺が抱いた印象。だが、そのどれもが奴の首元に

突き立てる事が出来ずにいる。忠行は応戦しながらしっかりと距離を取っており、

踏み込むことを常に警戒しているからこその結果だろう。

こういった時だからこそ、俺の力が必要だと神術の準備をするが

翼を使い飛び立っていた竜次先生が急降下で勝負を動かしにかかっており、

グングニルを突き立てながら口から炎を打ち放った。


「怒りに燃えるニーズヘッグ!!!」


荒立てた感情のまま、全てを吐き散らしながら竜次先生は突っ込んでいく。

世界樹の根を喰らい、ラグナロクを生き残った伝説の邪竜。ニーズヘッグの力を持った

竜次先生への援護は不要だと力で分からされる。

強大な力の前に小細工は不要。吐かれた炎が槍先に圧縮された空気の中にある酸素を喰らい、

まるで隕石のような姿で忠行に突っ込んでいった。


「うおっ・・・・・!!!」


その衝撃を目にした俺が真っ先に行ったのは仲間達を護る事。

空気の壁を作らなければその衝撃に耐えられず、そして当たった瞬間にまき散らされる

炎の一撃で消し炭にされる。

もしかすると自分達が暴れる事によっておこる衝撃に全員が巻き込まれる事を恐れて

この姿での戦闘を避けていたのかもしれない。

そう考えるほどに今まで頼りになっていた三人の実力が探知外に跳ねあがっており、

この三人の先祖がクトゥルフを封印した事を証明していた。


「ふむ・・・・・・・・・。」


海面は金で塞がれ、子孫達の力を使おうとも動こうとすれば先に防がれる。

後は竜次先生攻撃を受け入れるしかない。例え奴と言えどまともに受ければただでは済まない

はずなのに・・・不気味なほどの冷静だった。


「厄介だな。」


先程焦りは一体どこに行ったのか。もしかすると焦ったのは忠行だったのかもしれない。

だがクトゥルフと言えどこの状況を打破するのは難しい。仕留めきれるかは分からないが、

確実に戦況は大きく動く。この先の展開に対応できるようにカエルスと共に空気の準備を

行っていると、やっとクトゥルフが動き出した。

クトゥルフが両手を突くと、背中から人間という小さな体にはあまりに巨大な翼が生える。

鱗に包まれた不気味な翼は竜次先生を包み込むように動かされる。

だがそれだけでは竜次先生の勢いを止める事など到底不可能。

どうやっても喰らうしかない。そう思っていたその時、奴の思惑が目の前に広がった。


「大いなるおおいなるうみ。」


奴が小さく呟いた瞬間。クトゥルフの体から大量の海水が噴き出し竜次先生を包み込んでいく。

祝詞とは思えないほどの言葉だが、奴の体から海水が飛び出したとなると

自らを海の王と称する由来となった神術なのだろう。

包み込まれた竜次先生だが強力な炎が穂先にあり、すぐさま蒸発させてしまうだろうと

踏んでいた俺の予想は簡単に裏切られる。


「・・・・・・!!!」


触れた瞬間勢いもろとも全てを消し去った海水。その中に閉じ込められた竜次先生は

一気に窮地へと追い込まれた。


「これは・・・・・!」


マズい。大きな金槌を持っているノエルさんだが接近戦では竜次先生に劣る。

アルさんも接近戦は不得意。何とかして距離を取りながら竜次先生を開放しなければならないが

あれだけの衝撃を全て押さえるほどの海水を、二人が何とかできるだろうか?


「アル!!!」


いや、何とかしなければならない。これが出来なければ竜次先生は戦闘不能所か死に至る。

それだけならいい。もしかすると深き者ども達の様に配下となって俺達に襲い掛かる

かもしれない。


「落ち着け。」


二人が黄金や糸を差し向けようとした瞬間。後方に控えていた兼兄と毛利先生が

飛び出していく。這い寄る混沌、そして俺達が見たことの無い力を有した毛利先生は

警戒する忠行から竜次先生を取り戻すため、高まる神力と共に行動を開始した。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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