第五百三十九話 親父の背中
飛び立った龍穂の背中を見送る白達。
「・・・・・・・・・・・。」
その中に一人、傷一つない人影が現れる。
「あんた・・・・・。」
戦場に似合わないスーツを着た男性。上杉影定がそこにはいた。
「すまないな。苦労をかける。」
「苦労か・・・。まあ、そうだな。」
二人の会話を聞いたちーは驚きの表情で影定を見つめる。
「面識・・・あるの?」
「ん?ああ。お前達は直接目にしたことを覚えていないかもしれないが、
白達全員と俺は面識がある。」
「影定さんにはかなり世話になった。これ一つで返せないほど、恩は積もり積もっている。」
海外での活動が意味を成さないと理解した白達は兼定の故郷である日ノ本に帰還する選択を
取った時、その手引きをしたのが影定。
それ以外にも支援物資など、事あるごとに白達に目をかけており男の言う通り、
その記憶がある者達は影定を慕っていた。
「・・何の様だ?」
男は尋ねるが、返事は返ってこない。
「息子達が戦っているんだぞ?親父の背中を見せないのか?」
「・・・・・・・・・・・・・。」
煙草に火をつけ、戦場に向かう龍穂の背中を見つめる。
「・・悪かった。」
「いや、お前の言う通りだ。あいつらが大人の役目だと前に出るのなら、
その前に俺が立っているべき。それが筋だ。だが、俺には俺の役目がある。」
深く吸い込み、そして空気に吐きつける。自らの立場に苛立ちをぶつける様に。
「出来る限り・・・”有効に使いたい”。それがあのお方の願いだ。
そのために様子を見に来た。」
「・・なるほど。その時に背中を見せつける気か。」
「今更遅い。これから見せる背中なんて意味ねぇよ。ったく・・・。
重い立場なんて背負うんじゃなかったよ。」
「だが、それが兼定や龍穂を生かすことになった。自らを縛った鎖が
あの二人を護ったんだ。胸を張ってくれ。」
海の外で活動していた兼定は、その非合法的な活動から指名手配を受けることもあった。
彼らが海外から日ノ本に戻ってくる時。そのようなならず者を日ノ本で受け入れることは
公的には難しく、当時から神道省において影響力を持った影定の根回しが無ければ
兼定はおろか白達は日ノ本での活動が出来なかっただろう。
そして龍穂が千仞に狙われない様に八海に留めた。真田や伊達に魔道省が特級である
魔導士の資格を授けようとしている事を伝えたのも影定。
「・・どうだかな。」
「さっきも言ったが、ここにいる大半がアンタを慕っている。
そんな顔をされては休めるものの休めんよ。」
「ああ、そのことだが・・・。いや、まあいい。とにかくだ。
俺は戦えん。俺の代わりに大切な子供たちが戦ってくれる。情けないことにな。」
加えた煙草を地面に吐き捨て、力任せに踏みつける。
「状況は分かった。安全で効果的な場所もな。後は・・・あいつらに任せる。」
かつて天才と言われた男。それは決して才能だけで上り詰めたわけじゃない。
家のため、そして自分のため。いざという時に戦うために練り上げた心身や技術。
その全てを発揮するための舞台が今まさに目の前にあるというのに
自らの役目のために退かざるおえないこの状況に疲れていた。
「ノエル達に言っておいてくれ。ありがとうってな。
お前達に龍穂を合わせるように配慮してくれて感謝していると。」
そういうと影定は影に沈んでいく。父親として、龍穂への配慮に感謝を述べ去っていく。
「・・あんな影定さん、見たこと無いよ。」
いつも厳格な影定の姿から程遠い姿を見たちーは思わずつぶやく。
「あの人も疲れているんだ。こんな時ぐらい愚痴を吐きたくなる事もある。」
「こんな時って・・・。だからこそだよ。こんな緊迫した状況でなんであんな・・・・・。」
「・・”終わり”が近づいているって事だ。」
終わり。その言葉を聞いたちーはさらに深く考えだす。
一体何が終わるのか。忠行との戦いを指すのかそれとも・・・・・。
「・・・・・見ろ。」
様々な憶測がちーの頭の中を巡っている最中。戦場は大きく動き出す。
「・・・・!!」
轟音とともに視線を動かしたちー達の視界には、白達が生み出した最終戦争を模した
術式と比較したとしても、遥かに上回る地獄がそこには広がっていた。
————————————————————————————————————————————————————————————————————————————
白達と別れ、戦場へ向かって俺の視界に映ったのは見たことの無い景色。
鱗に覆われた竜次先生の体はもはや人間ではなく本物の竜と呼べるほどの巨体であり、
手に持っていたグングニルは長さや太さが格段に増している。
「なんだ・・・あれ・・・・・。」
アルさんの周りには国學館襲撃の際に見た妖精達が辺りを飛び回っているが、
その数は格段に多く、どこからか生やしていた木の正体であるすさまじい神力を持った
杖を手にもち忠行に相対する。
巨大な魔法陣を背にしていたノエルさんは小さな体に似合わないあまりに巨大で
仰々しい装飾に飾られた金槌を手に持ち、辺りにはこれまた強大な魔力が込められた
見るからに古い紙が飛んでいる。
『あれが古き英雄達の力。その身を犠牲に奴を封印へと追い込んだ人間と神の混血種。』
並び立つ毛利先生の首には見たことの無い首飾りが掛けられており、大きな二つの珠が
大きな印象を与える。そして・・・三人にも負けず劣らずの神力が体に込められており、
兼兄の体は漆黒の影に染め上げられていた。
「・・いつの日かを思い出す。お前達と同じ力を持った奴らに敗北を喫した。
名もなき神々との戦いの末、疲弊した隙を突かれ深海へと封印を施された。
今思い返しても腹が立つ。こざかしい奴らよ。」
当時の地球はまだ神と人間が共に暮らしていたはず。その時代の事を記した書物は
残されておらず、クトゥルフとの戦いは密かに言い伝えられてきたのだろう。
「なかなかの言い草ね。確かに手負いだったのかもしれないけど、
あなたは手も足も出なかった。私達のご先祖様にね。」
「手も足もか・・・。どのように伝えられてきたかは知らんが、貴様らによく似た
奴らはその身を投じて私を封じたのだぞ?」
これだけの力を持った者達であってもその身を投じなければならなかったほどと
考えると、やはりクトゥルフという神の力は強大。
「では何故、神と人間の世界を分けたんだ?人間と神の血が混ざった俺達の力を恐れ、
再びこの地に降りた際に二度と封じられることが無い様にしたんだろうよ。お前は。」
そうだ。こいつは恐れた。古き英雄達を恐れ、その世界を隔てた。
どれだけ口が上手かろうと、奴の行動がどれだけこの人達を恐れていたかを証明している。
そして、こいつの策は失敗に終わった。再び古き英雄達がこの地に降り立った。
「それにあなたは大きな勘違いをしている。あなたが隔てた世界。
それは当時の地球とは程遠いほどの力しか残されていない。神力と呼ばれる
神々が扱う力はほとんど残されていません。」
「それがどうした。そんなことはお前達も同じ。その薄れた血で何が出来る。」
「何ができるって?現実を見ていないんだな、お前は。」
五人の元へ駆けつけるか一瞬悩んだが、俺が差し向けたカエルスが上空で援護の体勢を
整えている。俺が奴の接近戦を警戒しているように見えてしまうのが癪だが、
今は距離を取る判断をつけた。
「何故純粋な神々に勝利を収め、人と神の混血である俺達に敗北を喫したか。
お前がよく分かっているだろう?」
純粋な神と混血の神では出せる出力に差が出てしまう。高いのは当然純粋な神。
では何故、奴は混血に敗北を喫したのか。
「純粋な神はその力を存分に発揮するために単純な術式を好む。
混血である我らが同じことをすれば火力負けを喫するのは目に見えている。」
「だけど、私達には知恵がある。神に劣る種族だからこそ、どうすれば彼らに対抗できるのか
考える機会を得たの。そして・・・世界が隔たれても、人間は知恵を絞ることを
止めなかった。」
魔力や神力を真に扱える人間は数少ない。だからこそその二つに頼らず近代化を行い
人類は発展を続けてきた。だが、それでも数少ない人間は技術を磨いた。
近代化の様に、誰もが便利に使える魔術から強大な力を複数人で扱う様な神術。
多種多様の技術の発展は、真に力を扱える人間にさらなる武器を与えた。
「・・・・・何が言いたい。」
口論で敗北を喫したクトゥルフはついには苛立ち、結論を急ぐ。
その瞬間、古き英雄の血を引く三人は襲い掛かる。
「お前は俺達に負けるってことだよ!!!」
踏み込む竜次先生。残された二人は距離を保ちながら鍛え抜かれた技術で襲い掛かる。
封印に留める事しか出来なかった先祖の無念を晴らす戦いは、
俺の予想をはるかに超え、形容する言葉がないほどの激しさを見せた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
少しでも興味を持っていただけたのなら評価やブックマーク等を付けていただけると
励みになりますのでよろしくお願いします!




