第五百三十八話 一つの現実
火花を散らす忠行と兼兄達。古き英雄達が本気を出そうとしている。
その意識は完全に千夏さん達から離れており、このままいけば無防備な所へ
攻撃を打ち放つことができる。
「ぐっ・・・!!」
だが思っていた以上に武装した深き者ども達に苦戦を強いられている。
俺の力で作り出した古代ローマ兵を模した兵団。相当な力を持っている。
「あれは・・・・・。」
戦うみんなに訪れている変化。楔を打った純恋はもちろんの事、前に出て戦う楓は
姿を大きく変化させている。黒い翼を持ったサキュバスの姿に近いが・・・今まで見てきた
姿とは格段に力を有している。だが、その力をうまくコントロールできず、その隙を突かれ
押し込まれている。
そして楓と共に前線に出た桃子は禍々しい力とは程遠い透き通ったような力を有しており、
感じたことがある神力から、どうやら平将門の力が戻ってきている様だった。
『変化がある様だが・・・お前が気にするのはそっちじゃぞ。』
想定外の状況を何とか脱しようとする楓たちの姿に視線を奪われていると、
海からすさまじい衝撃音が鳴り響く。
「・・・・・!!!」
外していた視線は俺の脳に驚きを与え、すぐさま戻すとそこには忠行にぶつかった竜次先生の
姿がある。背丈をゆうに超える長さを持つグンニグルが小さく見えるほどに
竜に近くなった姿を見せた竜次先生は急接近の勢いのまま鋭く分厚い爪を振り下ろすが
忠行は両腕を使い何とか受け止める。
「やるな・・・・・!!」
これまでの戦いで余裕を離さなかった忠行だが、すさまじい一撃をまともに受けた瞬間
余裕を手から離してしまっている。
「まだだよ・・・!!!」
それでも衝撃を両腕で完ぺきに受け止めた忠行に対し、背中には生えた大きく、
そして多くの傷を持った巨大な羽を羽ばたかせて押し込みにかかった。
「・・・!!!」
水面に立っていた忠行は狂気的な押し込みに耐えきれず、受け止める事を止めて
海面に飛び込んでいく。戦略的撤退ではなく、単純な力による後退を初めて見せた光景に
驚きを隠せない。
「・・行くぞ。」
奴は自らのテリトリーに入った。いくら竜次先生と言えど、あの深海に飛び込むことはせず、
少し離れた位置から忠行の様子を伺う。
あのまま待っていれば奴は海水の形を変え、竜次先生を撃ち落としにかかるだろう。
それを防ぐには俺の風の力が必要だと急降下を始める。
「・・・!!」
その視界の先。見下ろした戦場の先に見えた景色にはこちらに手をかざすノエルさんの姿。
俺の力が必要ないとジェスチャーを送ってきている。
『・・任せるか?』
「そうするしかないよ。」
あの五人が近くに寄るなというのであれば従うしかない。だが、ただ眺めていては
得るものがない。
「・・・・・?」
手のひらをこちらに見せていたノエルさんは手の形を変え人差し指で白達がいる方向を指す。
『・・行くのか?』
あの場所に・・・何かあるのだろうか?わざわざ指を指すと言う事はきっとそこに
俺を必要としている人達がいるのだろう。
あの五人と戦えば純恋達へ攻撃を加えている暇はない。苦戦している中、
離れるのは心苦しいが戦場を駆ける選択をとる。
「・・・・・来てくれ。」
兼兄達を支援するため、役目を終えたカエルスを呼び戻し上空からの支援を任せる。
そして、俺が向かう先。そこには疲労した白や業達と合流したちーさん達がいた。
「手当・・・クソッ!!」
「落ち着きなよ。全部やっていたら時間が足りない。」
傷つき、疲弊する白や業達が崩れた瓦礫の影に座り込んでいる。
俺がここに来るまで時間を支えてくれていた現実がそこにはあった。
「・・・・・・・・。」
手当をしようとするちーさんとそれを無駄だと悟らせるゆーさん。
大丈夫かと声をかけられた白の一員はまだ戦えるから大丈夫だと施しを受ける気はない。
犠牲を体現した景色の中、着地をするがかける言葉さえ見つからない。
俺は・・・・・この人達に一皮むける必要があると言っていたのか・・・・・。
「・・・・・龍穂。」
何知らない自分の情けなさに心を蝕まれながらも、ただ立っているわけにはいかないと
ちーさん達の元へ歩く。
「何してんのさ。アンタ、忠行と戦うんだろ?」
その通り。俺は・・・忠行と戦わなければならない。
「ちーちゃん。龍穂がただここに来たわけじゃない事は分かっているでしょ?
何かしら事情があるんだよ。」
ここに来たのは・・・責任を果たすため。ギアを上げろと言った彼らに
少しでも奮起してもらおうと声をかけに来た。
「じゃあ・・・なんの用なんだよ。」
決して軽い気持ちで来たわけではない。心構えが足りなかったんだ。
よく考えれば分かった事だ。直視せずとも察する事は出来た。
「・・俺の口から直接お願いをしようと思い、こちらに来ました。」
戦っている兼兄達へカエルスが指示通り支援を行ってくれている。
チャンスはここしかない。俺の口から、彼らに伝える責任がある。
「・・・・・もっと頑張れとでも言いたいのか?」
恨めしそうにちーさんは俺に向かって言い放つ。
「ええ。そうです。俺の口から言うのが筋。そして・・・責任です。」
ノエルさんが指を指した意味。それは俺にこの言葉を言わせたかったのだろう。
ただ口にするのは簡単。だが、現状を見れば軽い言葉に重力がかかり、喉から出ようとしない。
「・・・・・・・・・・。」
それでも、言わなければならない。目の前で命を懸けて戦ってきた仲間達にであっても、
これは俺の口から必ず、言わなければならない。
「勝ちます。俺が奴を倒す。ですが・・・・・それには皆さんの力が必要です。
俺の部隊である木星や、皆さんの長である兼兄達の事ではなく、これまで命をかけてくれた
あなた方の力が必要なんです。」
・・今の俺に果たして説得力なんてあるのだろうか?この人達以上に命を懸けたことが
あるのだろうか?口を開き、舌を動かしながら疑問を抱く。
「・・これを言うために、ここに来たの?」
ゆーさんの問いも当然だ。今は戦いの最中。命を懸ける場面で余裕を見せる俺が
言う言葉じゃない。
「・・・・・・・・・・ええ。」
通せない筋を無理やり通すには、何が必要なのか。俺には分からない。
それでも、今は通すしかない。ちーさんの視線が俺に突き刺さる。
今までの発言全てを矛盾している行動に苛立ちを抑えられないのだろう。
ここまで白達が戦ってきた状況を知っていたからこその苛立ちだった。
「・・なかなか言うね~。」
許されない行為だが、ゆーさんは能天気に答えながら後ろで座る隊員達の方を向く。
すると・・・疲労困憊なはずの白達が大笑いを始めた。
「笑わせてくれるな。弟よ。」
その中でも大柄な肌の黒い男が俺に対して口を開く。恐らく、白達の中でも
長に次いで発言力のある人物なのだろう。
「若い頃の兼定にそっくりだよ。まあ、あいつはもっと幼かったがな。」
「そっくり・・・・・?」
怒られる所ではないと思っていた俺は、出ていた言葉をきょとんとした表情で返してしまう。
「ああ。似たような状況だったよ。当時の俺達もそこにいる可愛らしい妹みたいに
苛立っていたさ。」
「・・冗談言わないで。」
「冗談じゃない。本気だ。その時・・・笑顔を浮かべて立ち上がったのは五人だけだった。
一人はもう・・・・・この世にいない。」
・・そのうちの四人は向こうで戦っているのだろう。一体、何に対して笑ったのか。
今の俺には分からない。
「まあ、少し待ってくれ。休んだらまた戦う。お前さんの頼み通り、
一つギアを上げよう。そんで、奴を倒す。」
口から出たのは軽い言葉。だが、その傷ついた体が覚悟を物語っている。
「・・俺の言葉を信じてくれるんですか?」
「信じるさ。お前の話しは兼定やドーラ達からよく聞いている。
今の君だけを見て判断した訳じゃない。だから安心しろ。お前の兄や姉、
そして弟や妹は龍穂のための命を燃やそう。」
俺はどこかで家族という言葉を軽く見ていたのかもしれない。彼らは心で繋がっている。
血の繋がりではなく、思いで繋がっているんだ。
「・・・・・ありがとうございます。」
「感謝はいい。今は君の果たすべきことをしてくれ。」
思いとは、言葉とは。決して放たれた内容だけではなく、道のりが重さを与える。
そう改めて認識する。
「・・俺が出来る事は少ない。ですが一つだけ約束します。」
「なんだ?」
「未来を約束します。共に歩みましょう。」
俺に出来るのはそれだけ。責任という現実がこの身に重さを与えるが、そのたび
全てを決心が固くなる。再び体を浮かせ、兼兄達の元へと浮かび上がる。
「・・・・・ああ。」
後ろから聞こえてきた声を背中に受け、飛び立ったその時。誰かの足音が聞こえた気がした。
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