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第五百三十七話 古き英雄達の役目

「おいおい・・・・・。」


兼定の防御で忠行の猛攻を凌ぎ切った竜次は対面のいる木星達を見て思わずつぶやく。

その原因は部隊から離れていく長である龍穂の姿があったからだった。


「なんで部隊を離れる?仲間達が狙われるじゃねぇか。」


皆を護ると宣言した龍穂がとってはいけない行動であると竜次は呟く。


「・・果たしてそうでしょうか?」


その木星と合流していた春が口を開きながら合流する。

龍穂の宣言はヘッドセットから聞いており、当然春が退いたことも耳に入れていた。


「春。お前、奴らの援護に向かったんだろ?なんで龍穂が部隊から離れてんだ?」


「聞いていませんでしたか?彼らなりの考えがあってだと。

龍穂君が近くにいては全力が出し切れない。いえ、出す必要がなくなるため

千夏さんは一か八かの賭けに出たのですよ。」


龍穂はその詳細を聞いてはいなかったが、どう立ち回ろうと龍穂がいない部隊では

後手に回るのが目に見えている。そんな中苛烈な攻撃を喰らえばひとたまりもない。


「ったく・・・。言っていた話しと違うじゃねぇか・・・・・。」


「状況は変わります。彼らは彼らなりに希望を探っている。

先程も叱られたでしょう?彼らを信じるのです。」


春やノエルは苛立つ竜次を宥めにかかる。無茶をさせずにここまで連れてきた自負はある。

もちろん対応が遅れる部分やむしろ追い込ませる場面こそあったが、

命に関わる様な場面には手助けする体制は整えていた自負を竜次は持っていた。


「・・・・・・・・・・。」


「・・引きずり過ぎですよ。私達も割り切った訳じゃない。彼らを失いたくない気持ちは

分かりますが、過保護は辞めましょう。何度でも言いますが、彼らに失礼です。」


これまでの道のりで命を散らしていった者達の影。竜次の脳裏にこびりつき

離して離れてくれない亡霊たちが思考を縛り付けていた。

共に歩んで来た春達に脳裏にも当然焼き付いているが、同じ過ちを繰り返さないと決めた

決心が過去との決別させていた。


「分かっているよ・・・。」


「分かっているのなら、行動で証明しましょう。龍穂が離れた今、あの子達は

危険にさらされる。当然龍穂もカバーする気でしょうけど、相手は忠行とクトゥルフよ。

私達も一段階ギアを上げなきゃあいつの意識を寄せられないわ。」


白達はひどく消耗している。彼らにこれ以上動けと言えば、次は命に関わってくる。

だが、白達も覚悟を決めている。彼らは命を捨てるつもりでここに来ていた。


「・・我々だけで出ましょう。今はそれが良い。」


彼らを今善戦に出す事を竜次は認めないだろう。ここは自分達だけで戦う事こそが

最善だと戦う兼定を見つめながら春は言う。


「彼らに今は休息を。力を溜めてもらい、時が来たら再び前線へ。

これ以上ギアを上げるには今のままでは難しい。」


「そうね。私達の方が引き出しはある。この時のために戦ってくれた子達のために

振るうのがいいわ。」


「もう少し早めに切った方が良かったんじゃないか?」


「切っていたとしても状況は変わらなかったでしょう。全てを耐えきられた。

むしろ状況が悪かったかもしれません。」


四人で語っている最中、春は千夏から密かに受け取っていた家系図を手に取る。


「・・取り込まれた子孫達ですか。」


「ええ。奴の体には脳が九つ。そして・・・心臓が三つ。

それらに刻まれた彼らを封じる術式を少しでも取り除くことが勝利への一歩となります。」


奴の体の秘密。人間にしてはあまりに膨大な契約を持つ体を秘密を証明する家系図。


「それを・・・龍穂は知っているのか?」


「どうでしょう。ですが彼ほどの実力者であれば察してるかもしれません。

どうやら彼は楔を打つことが出来ます。ですがそのような役目を担ってもらうより

彼らしく大胆に立ち回ってもらった方が我々としてはやりやすい。」


忠行の意識が兼定から逸れ始める。そして向けられたのは龍穂ではなく、

案の定千夏に長の役目が引き継がれた木星達。


「手遅れになる前に行きましょう。我らで奴の力を削ぐのです。」


春の指示で高台から飛び込んでいく四人。脳裏に焼き付いた惨劇の景色。

自ら亡霊を作り上げたトラウマを払拭するため、各々得物を抜いた。


————————————————————————————————————————————————————————————————————————————


『・・狙いに来たな。』


部隊を離れ、単独行動を開始したすぐ。奴は動き出す。


「・・・・・ああ。」


狙いはやはり千夏達。俺にとって大切な人達を狙いに来た。


『戻るか?』


ここから切り返すことは可能。だが、みんなが望んで俺を切り離した。

その決意を俺が簡単に否定するわけにはいかない。


「戻らない。ここから対応する。」


幸い、奴への対応はぼんやりだが見えてきている。ここからでも対応は可能だ。

それに・・・・・下で戦う兼兄の元へ援軍が送られている。戻る必要はなおさらない。


『・・そうか。』


「今はやれることをやろう。一つずつ、だ。」


奴は簡単に倒せない。それに加え、一撃一撃が俺達を死へと誘う。

やれることを今はやるしかない。


「・・なあ。」


『なんだ?』


「あいつの体、どう思う?」


俺が倒れる前。奴を見ながらふと気づいたことを思い返す。あの不気味な体には

見覚えがあり、その生物が持つ特徴を奴が持っていたとすれば閉じ込められた子孫達の

説明が付く。


『やってみるといい。お前に任せる。』


いがみ合っていても血のつながりが切れることは無い。ハスターはクトゥルフの体の

秘密を知っているはずだが教える気は無い様だ。

今は俺を試す時ではないと思わず言いたくなるが、これにはきっと意味があると

深くは尋ねなかった。


「さて・・・・・。」


援軍に加わった竜次先生達。白の部隊は後方に控えており、援護の体勢を整えていない。

どうやらあの五人で戦うようだが・・・あの忠行が相手だ。今まで通りにはいかないだろう。


「・・古き英雄達か。」


俺が心配せずとも、あの五人はそれをよく知っている。それでも真正面に立った。


『再び視線が戻ったな。』


「ありゃ、純恋達への援護だな。」


あの人達の戦いを俺は数えるほどしか見ていない。その戦いの中であの人達が

全力を出した姿を俺は見ていない。古き英雄と称される三人の本気が一体

どれほどのものなのか。クトゥルフの支配が目の前まで迫った中、地球を救った

英雄たちの実力の全てを、今から見られるというのだろうか?


「今更のこのこやってきてどういうつもりだ?」


クトゥルフの問いに、三人は口を開かない。


「仲間達を消耗させ、やっと出てきたと思えばだんまりか。

威勢の良さぐらい見せたらどうだ?」


「・・お前をこうして目の前で見ると、体がうずくよ。」


やっと答えたのは竜次先生。その体に刻まれた遺伝子が、体や心を突き動かそうとしている。


「俺はな。正直言って、お前なんてどうでもいい。家族達と平穏に暮らせるのなら・・・

お前を殺さなくたっていい。」


「・・ずいぶんと遠回しな命乞いだな。」


「命乞いなどではありません。これが我らの思い。あなたのおかげで平穏が

尊いものだと知った。だからこそ、平穏を望む。」


「アンタ達が故郷から私達を連れ去らなければこうはならなかったのよ。

同じ種族の仲間達とただ暮らしていたの。」


取り返すことが無い一つの事実。この人達も、この戦いに巻き込まれた側だ。

俺と同じ。その血があの人達から戦いを離さなかった。ただそれだけの事。


「では帰ればいいではないか。今からでも遅くはない。」


「あら?変わった命乞いね。でも残念。私達はいるべき場所にいる。

新しくできた家族達と一緒に居たい。生きて帰るためにね。」


三人の姿が変わっていく。鱗を体に身に纏っていた竜次先生は手や足についている爪が

鋭くとがっていき、アルさんはどこからか生えてきた草木が体に巻き付いていく。


「互いに手遅れ。もう既に戦う運命。であるのなら、この身を流れに任せるまで。」


ノエルさんに体の変化は訪れないが、背後に光を放つ大きな陣が浮かび上がる。


「ふむ・・・。面白くなってきたな。」


「・・面白いか。どう思う?春。」


「まったく・・・面白みのない話しです。家族達が傷つく姿は見たくはありませんから。」


毛利先生は体から雷が放たれ始めるが、同時に風も吹き始める。

空気操作とはいえ、俺の力を上回るほどの強い風の力。見るとその体にはいつも以上の

神力が込められている。


「まったくだ。だが、やるしかないな。」


各々の力で浮いていた全員の足元に影を伸ばした兼兄は、全員を地に足をつけさせる。

俺の願い通り、ギアを上げた五人。古き英雄達とクトゥルフが今まさにぶつかろうとしていた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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