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第五百三十六話 強化の条件

全員の強化が必須。しかも忠行との戦いの中でだ。

困難だが・・・俺にはそれを全うしなければらない理由がある。


「・・・・・・・・・・・・・。」


難しいだろう。それこそ俺の様に何かきっかけを掴まなければならない。

だが・・・みんなならできるはずだ。


「純恋。一つ聞いていいか?」


この中で一番強力且つ、伸びしろがあるのは純恋だ。魔術を神術に変えることが出来れば

強力な太陽の力をさらに伸ばすことができる。


「・・何で神術を使わんのかって話しやろ?」


俺の言いたいことをすでに去っている純恋は語り始める。


「情けない話しやけど・・・あんまうまく使えへんねん。それに時間もかかる。

今みたいな奇襲はどうしても魔術を優先してしまうんや。」


「・・・そうか。」


「分かっとる。何とかするわ。」


苦しそうに呟く純恋だが、何とかできるのなら既にしているだろう。

逃げてと言っていたが・・・神術を使えない理由があるはず。


(・・確か兼兄達が純恋の護国人柱に関わっているって言ってたな。)


記憶の封印など、純恋にも多くの封印が施されている。

あの人達が神術を使えない様に細工をしている可能性は十分にある。


「・・まあまあ、そんな怖い顔しなさんな。」


もしかするとと純恋の様子を伺おうとしたその時。その口調が大きく変わる。


「玉藻か。」


「そうやでぇ?なかなか面白いことしてるみたいやなぁ。」


国を傾けたと言われるほどの悪行を行った玉藻の前。護国人柱として封印指定されるほどの

力を兼兄達は危惧したと考えれば筋が通る。


「まあ、お察しの通りや。私と純恋の契約には少し細工がしてあってなぁ。

神術がまともに使えへんねん。」


「・・楔を打てってか?」


「話しが早いなぁ。いつでもええよ?」


あの二人が危惧した力だ。こんな時でなければ慎重に事を進めるだろう。

玉藻の俺達が置かれている状況を把握した上での発言だ。選択肢は残されていない。


「・・八咫烏様。」


だが、数あるの中でも最善を選ぶ権利はある。純恋と共にいた八咫烏様に声をかけると

此方に飛び立ち肩の上に乗ってくる。


「なんだ?」


「楔を打ちますが・・・面倒ごとは避けたい。今まさに国が傾きかけている最中です。

奴が動ない保証はないですから。」


国を手にしようとするには絶好の機会。そんな化け物を放置しては全体に負荷がかかる。


「非常時に抑え込めと言うのだな?」


「ええ。お願いしたい。」


この二人は相性が悪いが、それは八咫烏様が日ノ本を導く神であり、玉藻が国を傾ける

化け物であるため。決して混ざり合う事が無い二人だが、同じ天照と関係があり

属性としては抜群の相性を持つ。


「・・一つ貸しだぞ。」


断れるはずの無い頼みだ。八咫烏様に申し訳ないと謝罪すると、珍しい一言が飛んできた。


「何でも言ってください。」


八咫烏様のような厳格な神様にしては軽い一言だ。少しは信頼してもらえている証だろう。

猛達に警戒を頼み、玉藻の元へ歩いていくと前髪をゆっくりと上げる。


「・・っ!」


その瞬間、先ほどの玉藻から想像できない程に初心な様子へと変わる。

こいつ・・・俺が何をしようとしているか分かって中に戻ったな。


「ちょっと痛いかもしれないが、我慢してくれ。」


別にやましいことをする気はない。純恋の額に優しく親指の腹を押しあて封印に楔を打つ。

先程の攻防で生まれた生傷から出た鮮血が指の腹にはついており、

二人の契約に仕組まれた術式に楔を打った。

その瞬間、八咫烏様が俺の式神契約を伝い純恋の中に入ると、体光に包まれる。


「これは・・・・。」


護国人柱という強力な術式を元に結ばれた式神契約。玉藻単体で動く時に力を抑え込む様な

特殊な契約の弱点。簡単だ。神融和で体を乗っ取られることが無ければ

本来の力を引き出しながら行動が出来ない。

背中から黒い大きな翼を持つ新たな姿に変わった純恋の姿がそこにはあった。


「八咫烏・・・・・。」


「そういう事だ。」


生意気な小娘と八咫烏様は言っていたが、その潜在能力は認めていた。

だからこそ、こうしてすんなり神融和をしてくれたんだ。


(・・・・・?)


それにしてはあまりにスムーズすぎると心の中で引っかかる。

まるで神融和をしたかのような違和感。だがむしろ今は都合がいい。


「これで神術は使えそうか?」


純恋の太陽の威力が上がれば申し分ない。これでみんなの力を上げる時間を作り上げることも

出来るだろう。


「・・厄介だな。」


だが離れた距離からでも格段に上がった純恋の存在に気が付いた忠行が黙っている訳が無く、

配下達をこちらに差し向けてくる。

高く跳ね、俺達の前に着地した深き者共達の手には俺が作り上げた剣や盾、

そして槍などが携えられており、連携を取られれば厄介な存在となるだろう。


「・・・・・・・・・・・・。」


全員が一つギアを上げるにはちょうどいい相手だと指示を送ろうとするが、

口を動かす前に足を踏み出したのは楓。


「少し・・・・・速いかもしれませんが、龍穂さんの期待に応えるのであれば

出し惜しみはいけませんね。」


そしてその後ろに付くのは桃子。その体には禍々しい鎧が身に着けられているが、

何故か神力が安定せずにいる。


「・・桃子さんも行きますか?」


「ああ。行かせてもらうわ。」


何かを仕掛けようとする楓と、変化の予兆が見られる桃子。

二人であれば十分に戦えるだろうが、出来る事ならもう一人後衛が欲しい。


「・・・・・・・・。」


俺の視線に気が付く千夏さん。いつもなら状況を察して出てくれるが、どうやら

何か不安がある様だ。


「・・行ってくれないのですか?」


「お二人に任せれば十分なのは龍穂君も分かっているはず。不慣れな力に慣れようとする

楓さんと桃子さんとは違い、私は魔術を神術へとギアを上げるだけ。」


・・自分は前に出る気はない。遠回しに言えば雑魚狩りに力を使う気はないと言っている。


「・・・・・意地悪な言いかたですね。」


「青さんに叱られたのですよ。あまり先を見過ぎるなと。」


「・・・・・・?」


「矛盾していると思ったでしょう。何故だと思いますか?」


・・何かを俺に求めている。こんな場面で拗ねている訳がないが・・・・・。


「・・何かが策があるのですか?」


「一応、私なりに考えています。ですがそれには皆さんの力が必要です。」


なるほど。策を提案したかったのか。今までは木星の部隊を任されていたが、

今は全部隊を護ると言う責任が俺にはある。その重圧を気にして策の提案を

してこなかったのだろう。


「それはどれくらいの規模を想定していますか?」


「木星のみ。もし、策通りにいけば有利は取れないですが奴に一撃が入れられるかと。」


一撃か・・・。それが反撃の狼煙となればいいが、これまで白達の攻撃を耐えきった

奴のタフさであればそう簡単にはいかないだろう。


「その中には龍穂君が含まれていますが、出来る限り最低限の動きで済まそうと

考えています。」


「・・その間、部隊を離れ単体で動いても?」


「私の指示があった時に従っていただければ何をしていただいても大丈夫です。」


それが出来たら向こう岸のカバーに入れる。だが、いくら千夏さんの策と言えど

全員の力を引き出す前にそんな賭けをしては木星の全滅もあり得る。


「・・申し訳なく思っているのです。」


決断をつけられずにいると、突然謝罪の言葉が耳に届く。


「やはり・・・あなたが近くにいては無意識に甘えてしまう。特別な事情があったとはいえ、

純恋さんであっても龍穂君への補助を大前提に魔術を選択しました。

龍穂君の安心感は我々に妥協を与えてしまう。」


・・否定はできない。どれだけ口で言っても、奴から奇襲を受ければ体が勝手に

最善を選択してしまう。状況における決断としては一切間違っていないが、

先を考えれば最悪の決断だろう。


「・・なるほど。だから先を見るために目の前を見つめる必要があると。」


俺の問いに黙ってうなずく。その決断を、俺は背中を押す必要がある。


「分かりました。一時的に木星の長の権限を託します。」


俺が近くにいる状況を無くすにはこれしかない。いなくなった隙に奴が襲い掛かる可能性は

十分にある。だが、ここは劇薬を飲んでもらうしかない。


「あなたの決意を揺らがせる様な決断を、承諾していただき感謝します。」


俺の意志を尊重し続けてくれた千夏さんは再び俺に謝罪を向ける。

だが、俺はこれを受け入れてはいけない。


「・・必ず無事で。」


いくら揺らいでもいいが、俺の根本には全員が無事で帰る事がある。

そこだけは揺らぐことは一切ない。


『・・いいのか?』


部隊から離れ、浮かんでいく俺の姿を全員が視線を向けてくる。

千夏さんの指示を受けているはずだが・・・仕方がない、受けれて欲しいと

思わず願ってしまう。


「・・・・・ああ。」


部隊から離れるが、決して援護しない訳じゃない。対面の仲間達への援護、

そして・・・・・奴が乗っ取る条件を深くまで知る必要がある。

それには仲間達へのカバー無しに立ち回るのが最高率。視界の片隅から向けられる視線を

受け入れながら、俺は空へ向けて飛び立った。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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