第五百三十四話 勝利を手繰り寄せる提案
一人で忠行の前に降り立った兼兄。そして・・・なんと膠着状態を作り上げている。
「一応言っておくが・・・俺から仕掛けることは無い。」
仕掛けてこいと煙を吐き、挑発を続ける。
「・・何故、時間を稼ぐ。必要なのか?」
あからさまな時間稼ぎ。だが、仕掛けない。忠行に対して時間稼ぎはもはや無駄。
それだけ時間をかけようと奴の寿命を削り切れることは無く、焦りを生む事も出来ない。
「・・・・・みんな、攻勢に出るぞ。」
では何故時間を稼ぐ必要があるのか。忠行の焦りを生む必要がないとなると・・・
迎撃態勢を整えろと言うのだろう。
「さっき見ただろ。俺の半端な攻撃は効かない。立ち回るための細かい神術が
効果を成さない所か奴に利用される事になる。」
「・・だから我らの力が必要なのは理解できる。だが、先ほどの攻防を見ただろう。
あれをいなせたのは龍穂だからこそだ。」
私達では傷を一つ付けることができないのではないかと陽菜は言う。
それはその通りなのかもしれない。それで済めばの話しだが。
「それにに加えてもう一つ。あの時、奴は龍穂君の攻撃を受けていました。」
千夏さんが一つ事実を述べ始める。
「その時、龍穂君は牽制用の弾丸を打ち放ったはずです。ただ仕留めるのなら
あそこで乗っ取ればよかったはず。奴はそれをしなかった。その事実について
少し考えるべかと思います。」
そう言われれば・・・確かにそうだ。明確に決着をつけられる場面がつい先ほどあった。
それは奴が俺の神術を乗っ取る姿を見せたことで事実だ。
先程のちーさんを説得した様に半ば強引に千夏さんを説き伏せる事は出来るかもしれないが、
その時とは状況があまりに違う。
「・・・・・・・・・・・。」
あの時は猛や真奈美を戦場に出さずに手をかける事が出来た。不安要素を排除することが
出来た状況であったが、今は違う。
不安要素など一切排除できない。奴と戦うとなればずっと付きまとう問題だ。
「・・決着をつけられたというのは一つの憶測でしかありません。」
確かにここまで見てきた現実と照らし合わせれば、理論上それが出来たのかもしれない。
「先程ハスターと話しをしました。確かに俺の空気を深き者どもに変えた。
ですが、恐らく条件があるはずです。全てが全て乗っ取られる訳ではないと思っています。」
だが、あれは兵団。命ある者をイメージした神術。
「千夏さんの不安も分かります。このまま突っ込むなんてことはしません。
ここからは空気中の水分を排除し、奴に打ち放つ事を考えています。」
やはり先ほどの一幕はみんなに不安を与えている。
いくら言葉で説明しようと実際に大丈夫だと言う場面を見せなければ踏み込むことは難しい。
「・・少しいいか?」
行動を起こす前に出来る限り不安を取り除こうとした俺の姿を見ていたであろう
千夏さんと神融和をしていた青さんが精神の前に出して口を開く。
「賀茂家との戦いで奴は同じような事をしていた場面に遭遇した記憶がない。
幾度となく奴と対面してきたわしが言っているんだ。間違いない。」
「先程ハスターも言っていました。賀茂家の血と同じ宇宙の神。
その二つの共通点が俺達が使う術式を酷似させたと。」
「ふむ・・・。それは非常に興味深いが・・・・・偶然と偶然の掛け合わせで
生まれたものだ。何かを変える事で防ぐことは可能。
龍穂、お前にはそれを見せる義務がある。分かっているな?」
全員の不安を晴らすのは長の役目。青さんに対し、大きく頷いて返す。
「俺の中でこの先の方針が出たことで少し焦りました。
今、兼兄が前に出て時間を稼いでくれています。ここは一つ一つ解決していきましょう。」
これまでもそうだが、やはり兼兄は頼りになる。あの人が一体どこまで見ているのか分からず、
一体何かを考えているのか分からなかった。
「・・部隊として、完成しつつありますね。私が方針について口を挟む必要は
もう無いようです。」
だが一つ。確実なのは仲間達のために動いているという事実は変わりない。
その中には当然俺達も含まれている。
「いえ、毛利先生には一つお願いしたいことがあります。」
だからこそ、一つずつ考えを深めていかなければならない。目の前の出来事ばかりに
囚われていては兼兄の目的にたどり着くことは無い。
「何でしょう?」
「ちーさん達を連れて立ち回ってもらいたいんです。出来ることなら・・・そのまま
白達と合流し、忠行に対して攻勢に行ってもらいたい。」
「・・待て。要の龍穂が率いるこの部隊の厚みを減らす事を意味を分かっているのか?
お前がやられれば勝機が無くなる。だからこそ、兼兄が前に出ているんだぞ。」
「それは分かっています。ですがちーさん、さっきの千夏さんの姿を見たでしょう?
要である俺の力が通じなかった事実は他の部隊にも影響を与えています
俺も色々試します。必ず、奴に通じる方法を見つけて信頼を取り戻す。
ですが・・・そこだけに集中してしまえばやられるのはこちらです。」
未だ忠行は仕掛ける様子を見せない。兼兄は一体何をしているのか分からないが、
この時間を最大限に有効活用しなけばならない。
「やられるのって・・・アンタが通用すればそれで———————————————————」
「じゃあ他の部隊の方々を全て俺の援護に向けてください。
俺だけが頼りなら、それで話は済むはずです。」
そうしない理由。各部隊を率いる長達も馬鹿じゃない。
「そんなこと、弱点を晒すようなもんだぞ!!」
「ええ。だからこそ、部隊を分散させている。俺だけを狙わせない様にしているのです。
他の役割もあるでしょう。援護をより効率的に行うために広く展開している。
ですが、現状忠行目線ではそうなってしまっているんですよ。」
先程の踏み込み。そして兼兄とのにらみ合いが全てを物語っている。
援護は厄介程度は思っているかもしれないが、心に押さえるべきは俺達だと
認識している証拠だ。
「先程の踏み込みは俺だけを狙って来ていた。押し返したから退いたとはいえ、
他のみんなを狙う選択肢も十分にあった訳です。俺との接近戦の感触の確認、
そしてスピードを見せつける事で俺以外の全員の足を縮こませることが奴の狙いでしょう。
分かりますか?舐められているんですよ。俺を基点に立ち回らせなければ大したことが無いと
忠行に思わせている現状を打破しない限り、この部隊の戦力は俺と兼兄だけに
なってしまうんです。」
竜次先生が簡単に落とされてしまった事も大きい。長があれだけ簡単に倒されれば
部下達が縮こまるのも当然の事。
「・・だからって肝心のアンタを護るための部隊を手薄にするのは違う。
あの二人に楔を打つ時は丸め込まれたけど、今回はそうはいかないよ。」
「俺を大切にしてくれるのは嬉しいです。ですが、あの時と同じことを言います。
リスクを取るべきです。兼兄と同じく、俺達もリスクを取らなければ勝機は訪れない。」
傷を負ってでも奴に見せつけるべきだとちーさんを説得する。
俺たち全員が武器を持っている。少しでも意識を逸らせば首元に突きつけるぞと
警告するべきだと主張した。
「そのためになら、俺は標的になっていい。ちーさん達のへの優しさで
言っているわけじゃないんです。勝利への道筋を探す。ただそれだけなんです。」
これだけの人数を集めてやることが俺と兼兄を送り出すだけでは意味がない。
それに・・・やりようによっては脅威となれる。
「・・でも、どうする気?私達と毛利先生が合流しても忠行とクトゥルフに対しての
有効打を打てるとは思えないよ?」
「まずはその意識を変える必要があります。確かに白と業の方々は奴と戦い自身を
へし折られている。そこに拍車をかけに来たんです。毛利先生、各長に連絡を。
失った自信をもう一度取り戻すための攻勢に出ると伝えてください。」
これまで奴が積み上げたものを全て戻す。見せかけの優勢、折れた自身。
兼兄と俺がリスクを負ってでも取り戻す必要がある。
俺の指示を受けたちーさんに視線を送っている。
「・・・・・一つだけ言っておく。それだけ言うのなら責任は取れよ。」
承諾を得たが、返ってきたのは責任という言葉。
個の決戦において重い言葉だが・・・・・今更重圧に負ける気はさらさらない。
「ええ。全ての責任は俺が負います。ですので指示通りに動いてください。」
とどめの一言でちーさんは分かったと頷き、毛利先生とゆーさんと共に白と業達の元へ
影渡りを行う。
「・・龍穂君。あなたが頼りです。影渡りでの移動は奴も察している。
今すぐにでもこちらにやってきてもおかしくはありません。」
千夏さんが警戒を促す。まだ兼兄と対峙しているが、いつこちらにやってきても
おかしくはない。
「大丈夫です。俺がいます。」
明らかな過緊張に陥っている千夏さんの背中を叩きながら前に出る。
奴の視界に入っているはずだが、仕掛ける様子はない。
「猛達が帰ってきたら行動を開始します。各々、全力で行きましょう。」
俺が置いた印から猛達が返ってきたことは確認済み。そろそろ帰ってくる頃だろう。
致命傷を負わないために体を張っている兼兄を助けるため、行動を開始させた。
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