第五百三十三話 賀茂家への特効
腕を伸ばした忠行を向ける。空気の流れを感じ、俺達の周りに空気の弾丸を作り上げて
再び踏み込んできても対応できるように準備を整えた。
「ふむ・・・・・。」
だが、奴は踏み込んで来ない。腕を伸ばしただこちらを見つめるだけ。
俺の準備を察し、踏み込むことを躊躇しているのだろうか?
(なら・・・やらせてもらおう。)
足を止めるのであればこちらから仕掛けるのみ。
「勇ましき英雄達。」
忠行の周りに空気で作り上げた兵団を作り上げ周りを囲む。
騎兵、歩兵。槍や剣など装備はかなり古いが一人一人が猛者として作り上げた
屈強な兵団はじりじりと距離を詰め、一斉に駆け出し仕留めにかかる。
『お前にしては些か貧弱な兵隊を作り上げたな。』
ハスターの指摘通り、今まで作り上げてきた神々からすれば古代ローマ帝国の兵隊を
参考に作り上げた部隊はどうしても劣って見えてしまう。
『いいんだよ。あくまで様子見だ。』
忠行の様子を伺う。奴が何故動きを止めたのかの真意を見定めなければこちらも
対応が出来ない。
『様子見か・・・・・。』
俺の行動にハスターは不満げに呟く。
『果たしてそれが出来ればいいが。』
その不満が的中したかのように、とある異変が兵隊達を襲う。
槍を突き、剣で切りかかろうと動かした空気の操作が徐々に乱れ、動かなくなっていく。
「これは・・・・・。」
今までにない感覚。いや、そんなことがあるはずないと思っていた。
魔術操作を奪うには圧倒的な魔力と術者を上回るほどの操作が必要。
俺はそれを神術へと応用し使っており、通常の神術とは異なる術式を使ったうえで
俺の神力を上回らなければ操作を奪えない。
『我ら兄弟はお前らが言う所の四大属性をそれぞれ司る。俺であれば大気。そして奴は水だ。』
操作を失った兵隊達がただ立ち尽くしていると、静かに揺れていた深海の水が
彼らに覆いかぶさり飲み込んでいく。
そして・・・再び姿を現したその時。なんと深き者共へと姿を変えていた。
「なっ・・・!?」
『我らの様な強大な力を持つ者は他の属性にも干渉することができる。お前が作り上げ、
操作する事によって生命の様に動く兵士であっても術式を乗っ取ることが可能だ。』
俺が操作せずとも、兵団だった者達が足を動かし高台にいる俺達に向かって
ゆっくりと動き始める。
『・・厄介だな。』
今のやり取りで分かったことが二つ。一つは乗っ取られてしまえば俺の神力は無駄になる。
作り上げたものを自らの配下に変えてしまうのは当然だが、半端な創造は奴には無駄。
むしろ敵を増やしてしまう事になる。
『奴は・・・俺より力が強いってことか・・・・・。』
そして二つ目。これが一番大きい。攻勢にしては半端な創造だったことは事実だが、
それでも奴は俺の風を上回った。これまで作り上げた神々であればどうなるかは分からないが、
力が上回っている事を念頭に立ち回らなければならない。
「優しいのだな。短期で戦う私に味方を与えるか。」
今まで戦ってきた深き者ども達とは格段に強力な軍勢を率いる事が出来た忠行。
だが、これは決して敵に塩を送ったのではなく一つの情報が取れたと頭を切り替える。
『・・通常の魔術や神融和も乗っ取られるのか?』
『いや、龍穂だけと考えていい。俺とクトゥルフ、そして忠行と龍穂。
血の繋がりとは難儀なものだ。乗っ取りが可能なほど、力と術式が似ているのだからな。』
どれだけ長けた者でも魔術や神術を見ただけで分かる者などいない。
長く生きた忠行でさえも例外ではないが、今まで倒してきた子孫達の傾向をあってか
俺の神術を理解したのだろう。
『こりゃ・・・策の練り直しだな・・・・・。』
俺を中心に戦うとばかり考えていたが、牽制に使う神術が全て奪い取られるとなると
立ち回るほど奴の有利になってしまう。
『だが、どうする?お前の援護がなければ仲間達は無防備になる。
それに奴らは全てを晒していない。攻撃に速度の無い奴らがあのスピードの
餌食になるのは目に見えているぞ?』
・・答えは出ない。出すとすれば俺が最短で奴に奪われないほどの神術で
全員を援護ことだが・・・奴の手札を全て見ていないのに出力を上げれば
奴に止めが刺せるほどの力は残せない。
「・・・・・・・・・・・・。」
そこまでにたどり着くまでに誰かが倒れるよりかはいいのかもしれない。
だが、それでは勝利をどぶに捨てることと同義。
奴の力一つでこれだけ立ち回りを制限されるとは思わなかったが、ここは戦場。
何かを犠牲にしなければ勝利を掴み取る事など出来ない。
「・・全員、聞いてくれ。」
攻撃の軸は俺以外の全員。全力で援護をすると伝えようとすると戦場が大きく動き出す。
「・・・・・ん?」
軍勢を率いた忠行の前に影が一つ浮かび上がる。そして・・・その中から兼兄が
得物を持った状態で現れた。
「攻撃してこないんだな。優しいこった。」
竜次先生と同じように一人で忠行の前に立つ。上の白や業達の隊員は援護の構えを取るが
決して踏み込む気配を見せない。
「なんだ。弟の仇を取りに来たのか?」
「そんな所だ。」
口には煙草をくわえており、懐から取り出したライターで火をつけるが視線を外すことは無い。
「何やあれ・・・。」
傍から見ればただの大馬鹿者。視線を外してはいないものの、あれだけの速い踏み込みをした
忠行を前にして片手をライターで塞ぐ暴挙に出ている。
「踏み・・・こまない・・・・・?」
桃子が発した忠行の不自然な行動。あからさまな隙を何故つくことが無いのか。
一度踏み込み、ただ拳を入れるだけでも兼兄は吹き飛ぶだろう。
「来ないのか?頼りになる仲間も増えたんだろ?」
俺の仇と言わんばかりに煽る兼兄に対し、忠行は微動だにしない。
一体何があると言うのだろうか?
「・・あからさまな罠に突っ込めと?」
罠・・・?ただライターに火をつけただけだぞ?
「そう言っているんだが・・・分からないのか?」
あれだけ煽られても仕掛けない。強い警戒を敷いている。
俺達の元へ踏み込んできた時も奴は背後に警戒をしていた。それなのに今は
目の前にいる兼兄に対して意識の多くを割いている。俺の空気があるにも関わらずだ。
「・・みなさん。」
その謎を解けば俺はまた一つ成長できる気がする。仲間達を生かし、そして俺も生かせる様な
立ち回りが出来るかもしれないと戦場を見つめていると、近くで毛利先生の声が聞こえてきた。
「・・先生。」
「ここから私も援護します。よろしいですね?」
これから軸となる仲間達が増えてくれるのはありがたい。願ってもいない増援だ。
「ええ。お願いします。」
「木星の部隊の長は龍穂君。私はその指揮下に入ります。
ですがその前に、兼定から伝言がありますのでお伝えします。」
「兼兄から・・・ですか。」
「ええ。家系図を元に立ち回れ。そこに勝機はある。
そして・・・奴は賀茂家の子孫達と多く戦ってきた。龍穂君はもう既に分かっていると
思いますが、どれだけ強力な術式を持っていようと対応して来るだろうと。」
この言い方だと、俺が奴に対して軍勢を放つ前に毛利先生に伝えたのだろう。
「ここからは周りの皆さんの力が大切になってくる。後方に下がり支援などと
生ぬるい事をしていれば龍穂君を失う事になる。前線で、いつ命を落としても構わない覚悟で
挑めと言っていました。」
「・・・・・丁度、同じような指示をみんなに出そうとしていた所です。」
「都合がいいですね。そしてもう一つ。自分の戦い方を見ておけと。
後手に回るのを恐れるのは当然だが、広い視野を持てと兼定は言ってました。」
俺のレギオンは確かに奴に先手を取られない様に先んじて仕掛けたもの。
そこまで俺の行動を読んでいたとは・・・・・。
「・・よほど私達を傷つけたくないのだな。」
兼兄からの伝言を聞いた陽菜は未だ動く気配のない兼兄を見ながら呟いた。
「施しを受けて言うべきではないが・・・痛い目を見るのは一番の薬になる。」
「その薬で命を落としてはその効力を受けることはできないのですよ?
不機嫌なつぶやきに対し、毛利先生はすぐさま言い返す。
「それに・・・あなた方は未熟。我々の戦いを見て学ぶ事があれば勝機がぐっと近づく。
ですが一つ言わせてください。我らはそれ相応の覚悟を持ってこの戦場に望んでいるのだと。」
決して俺達への教育として使える相手ではない。だが、それでも俺達のために前に出た兼兄。
今は膠着状態だが、動きだせば物の十秒と経たずに決着がついてもおかしくはないだろう。
その貴重な瞬間を見逃さないようにするため、俺は空気操作を止めずに兼兄をじっと見つめた。
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