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第五百三十話 関東の危機に立ち上がる神々

頭上に広がる津波。俺達を飲み込もうとする津波には忠行の力が込められていた。


「なんや・・・これは・・・・・。」


これが俺達の体を飲み込めばただでは済まない。ハスターを体に秘めた俺や

式神契約で繋がっているみんなは何とかなるかもしれないが、それ以外のみんなは

耐性を持っておらず深き者どもになってしまう。

それで済めばまだいい方。東京を飲み込んだ後、勢いそのまま突き進んだ津波に

飲み込まれた人々も姿を変えれば関東全土が奴の支配下になるのは時間の問題。


『やるしかないな。』


巨大な津波。これを止められるのは俺しかいない。辺りの空気を総動員し、

何とか止めるしかない。奴は未だに下で燃やされているが、あの様子では

何時炎の抜けだして攻勢に出てきてもおかしくはない。

その状況だけでも圧があるにも関わらず、その上で膨大な空気操作を行わなければならない。

純恋達を隣に立たせて対応してもらう事も考えたが、奴の攻撃を完璧に

受けられるのかとなると首を縦に振れない。


(全部やるしかない・・・!)


すべて一人で対応するしかない。すぐさま空気の壁を作り上げようとしたその時。

頭上から何かが降ってくる。


「最後に・・・これだけでも・・・・・!!!」


それは・・・東京結界を強化してくれていた将門公。

穴が開いた後も何とか維持しようと奮闘していたが、崩壊を止める事は出来ず

力尽きて落ちてきてしまった。


「相馬の古内裏そうまのふるだいり・・・!!!」


だが、尽きそうな命の灯を振るい平さんが出したガシャドクロを召喚し津波をせき止めようと

試みる。最後の最後まで、関東管領としての役目を果たそうとする姿は見事だが

東京全土を覆おうとする津波にはどうしても大きさが足りない。


『あれでは足りん。すぐに飲み込まれるぞ。』


見て分かる事をハスターは呟くが、肝心なのはそこじゃない。


『そうだろうな。なら・・・手助けするだけだ。』


ここまで忠行の力を抑え込んでくれた。その功績は俺達には十分に伝わっているが

怨霊と呼ばれている側面を覆すほどの眼に見えた功績ではないだろう。

東京結界の維持。そのお礼として、最後に日ノ本を守ったと民から慕われるほどの

大きな功績一つ上げないと割に合わないだろう。


新皇しんこう 平将門たいらのまさかど。」


巨大なガシャドクロに風をまとわせ肉付きさせる。生前、苦しむ民のため自らを新皇と名乗り

朝廷と戦った将門公。当然朝敵として扱われ、怨霊として恐れられてきたが

今目の前に広がっている津波は間違いなく関東の民を苦しめる。

そんな光景を前にし、立ち上がった姿こそ本来の将門公。肉付きをした姿は

弓矢を得意とした将門公が来ていたと思われる大鎧を着た鎧武者が

手に持った大弓と黒い矢を迫る津波に向けて引いていく。


「・・恩に着る。」


神力を感じ取り、体の動きに合わせて肉を動かしていると平将門が小さく口を開いた。


「勿体ないお言葉、大変感謝いたします。」


将門公が引いた弓が放たれると、黒い破壊の矢が大津波へ打ち放たれる。

物量では歯が立たないが、民を思う将門公の全身全霊の神力と俺の力が合わさり、

穴どころか津波に二つに分けるほどのすさまじい一撃を放った。


「民を・・・関東の民・・・を・・・・・。」


打ち放った瞬間、空気の肉に囲まれていた将門公の体が崩れていく。

東京結界が無ければ、俺達はとっくのとうに殺されていただろう。


「・・分かっています。」


将門公の意志を託された俺達はこの津波をどうにかしなければならない。

二つの割れたとはいえ、全てをいなしたわけじゃない。


「我々が片方をやります。ですから龍穂君は———————————————————」


迫る津波に対し、臨戦態勢を整えていた千夏さんが口を開く。

だが、俺はその提案に対し首を横に振った。


「いえ、我々は出ません。」


既に対応に走っている。先ほど地面に削った印は影渡りの印。

今まで影を使う事でしか移動できなかったが、それを空気で再現する事で

影がない場所でも移動を可能にした。


「・・では、どうするのですか?」


迫る津波を前にしても、千夏さんは焦らない。俺の言葉で、既に事が終わっていることを

察していたからだ。先程の肉付きで空気を操作した際、二つの印を空気で作り出した。


「”二人にやってもらいます”。あの二人ならいけるでしょう。」


将門公を様子見に使った訳じゃない。流れとしてそうなってしまったが

あの方が放った一撃は一つの指標となった。


「さあ・・・出番だぞ!!!」


あれほどの一撃を放てる者は数少ない。当然だ。あの方は関東を護る守護神なのだから。

だが、俺が率いる大半の者達が神と共にあるか、神と遜色ない力を持つ者ばかり。

その中でも・・・罪を清算しなければならない者がいる。


「猛!!真奈美!!」


空中に作り上げた印の中から出てきたのは猛と真奈美。

日ノ本の民を護ると言う使命を、二人に引き継がせたのは少しでも二人を贖罪の道へと

歩ませるため。誰でもよかったわけじゃない。あの津波を短時間で対処できるのは

木星の中でも一握り。その中で最適な人選だと思い、二人を選んだ。


「・・この状況を読んでいたのか?」


近くにいた陽菜が俺に尋ねてくる。


「いや?ここまで読めるほど俺はこの戦場に長く立っていないよ。」


二人はこの場に連れてきていない理由。契約に楔を打っていたが、繋がっていた名残で

探知されてもおかしくはない。認識阻害下でもわずかに感じ取られてしまえば全てが

台無しになると、後方でもいつでも動ける様に待機の指示を出していた。

結果として計ったように見えただけ。だが、それが最善の動きへ導いてくれた。


(こりゃ・・・いいな。)


部隊が大きくなったことでとれる選択肢が多くなった。

後方に何人か控えさせておくことで対処の幅が広くなった事を実感するが、

その肝となっているのは俺の力。創造の力で幅広く使える様になった影の力による

移動の強さを改めて実感した。


「やるぞ真奈美!!」


「ええ!!!」


気合十分の二人は神の力をその身に宿し、陀金とハイドラへと姿を変える。

そして、自らより何倍も大きな津波へと立ち向かった。


「おおおおぉぉぉぉぉ!!!」


まず動き出したのは猛と陀金。目の前に迫る大津波に向けて駆けだすと勢いそのまま

突っ込んでいく。傍から見ればただ飲み込まれに行ったように見えたが、

猛には猛なりの策があるのだろう。


「ったく・・・こっちはアンタ次第なのよ・・・・・!!!」


一方真奈美とハイドラは静かに波が来るのを待っている。

対照的な二人だが、互いの存在を必要としている証だ。

父なるダゴンと母なるハイドラ。クトゥルフが封印されている中、深き者ども達を従えていた

彼らはダゴン教団を立ち上げ、世界各地で密かに信仰を集めていた。

その信仰を一身に担い力を増したダゴンはクトゥルフと同一視されることもあり、

全盛期では相当な力を有していた事だろう。


「・・・・・・・・・・・。」


一体どんな対応を見せてくれるのかと見つめていると、東京を飲み込んでいく津波がピタリと

動きを止める。すでに上陸を許しており、土砂と共に迫ってきていた津波の支配が

猛の手中へと変わった瞬間だった。


「嵐の大洋オーシャンオブストーム!!!」


操作を奪った猛は波の中から水を動かし、大きな竜巻へと変えていく。

その力は強大であり、クトゥルフと同一視されていた神である事を俺達に証明してくれる。


「来たわね・・・!」


そしてその姿を確認した真奈美はハイドラの力を開放し、迫る津波へと相対する。

先程とは比較にならないほどの強大な力。伴侶である陀金の力に呼応したハイドラが

その真価を発揮する。


「蛇のサーペントオーシャン!!!」


真奈美が神術を唱えると、迫る津波に大きな印が刻まれる。

すると津波が突然動きを変えると、長く太い姿へと変わっていく。

そのまま真奈美へ突っ込んでいくが、津波だったものに鱗のようなが浮き出ると

方向転換を行い真奈美を包み込むように流れていく。


「ふん・・・!」


そして・・・津波が蛇へと姿を変え、なんと調伏した様にその顔を優しく撫でていた。


「すごいな・・・・・。」


完全なる対応。三体に神が関東を瞬く間に救ってしまった。

猛達が使った神術。その二つの名を持つ海が示すのは地球の衛星である月の海。

地球の支配を試みた陀金は逸話の中では月に関連付けられており、

彼らが使う神術の中に月が関連するのは当然の事だろう。

忠行の策は対応した。依然として、竜の炎に晒されている。


「まだだ・・・。まだ、乾く・・・。」


それでも余裕が剥がれる様子は見せない。だが、それも時間の問題。

俺達にはまだ手札がある。東京結界が壊れたもやれると今の攻防で自信が付けられた。

これならやれる。そう確信しようとしたその瞬間、すぐさま現実が俺達に襲い掛かる。


「なっ・・・・・!!」


声を上げたのは竜次先生。竜達を従える長が声を上げた。

その原因は当然忠行。水分の欠片も許さないほどの高温の炎の中。

突然間欠泉のようなしぶきが舞い上がる。

予想外の出来事に竜達は炎を吐くのを止め、すぐさま距離を取る。

あり得ない状況を確認するために落とした視線の先には、さらなる驚きが姿を現していた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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