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第五百二十八話 挟撃

力を探知されない様に移動を始め、クトゥルフ達が戦う戦場へと戻ってくる。

海と・・・血の匂い。そしてさらに強くなった死の香りが俺達の鼻を襲う。


「一点突破を狙う!!ついてこい!!!」


竜次先生を筆頭に、毛利先生や兼兄が奴に一太刀浴びせようと距離を詰めており、

激しい攻撃を前に忠行は防戦一方。


「・・これならもう一回行けそうだね。」


此方に意識は向いていない。うねる触手が辺りを見渡しているように見えるが

一切こちらに向いていない所を見ると、こちらに気付いていない。


「見えますか?あの分散した小島の数々を。」


楓の言う通り、小島がいくつか浮かんでいるがどれも水面ギリギリ。

やはりあそこに立った瞬間、海で飲み込むつもりだ。

それを証拠に白や業達はあの足場に立とうとすらしない。兼兄達の指示があっての事だろう。


「あそこに立った瞬間、その振動で探知されそうやな。」


あれだけ激しい戦いであっても海水は風に揺られて穏やか。

ここか跳ねて着地をしてしまえば、姿の見えない状態でも察されてしまう。


「そうだな。なら、こうするだけだ。」


指を鳴らし、全員の足に空気をまとわせる。


「少し感覚が鈍るかもしれないが、これなら音が出ない。」


振動を感じさせない様に工夫を凝らせば奴に見つかることは無い。そして、

すぐさま離脱できる策もすでに用意してある。


「では、先ほどの指示通りで行きます。」


時間が無い中、練り上げた策は用意できなかった。やることは単純。

射程距離が短い者を前に、長くなるにつれ後ろに配置した小部隊をいくつか作り上げる。

そして・・・打ち放った後すぐさま逃げる。これが俺が立てた策。


「了解。」


指示を受けた全員が一斉に動き出す。この策の最大の課題は後がない事。

結局ヒットアンドアウェイでしかなく、もし奴が認識阻害に対する対処を完璧に行うことが

出来るのであれば次は頭を出せない。

ただの不意打ちとしてしか完結しない策になってしまったが、そこは俺の出番。

射程距離の長い俺が後方にいる事で全てをカバーする。

この策の肝は俺達の一撃ではなく、強固な守りを崩して兼兄達のカバーをすること。

もし大崩れするようであれば俺が残り距離を取りつつ攻める。

そして、みんなの合流を待って攻めあがる。結界の破壊がいつになるか分からない状況で

悠長な作戦かと思われてしまうかもしれないが、これが今できる最善。

誰も欠けずに行える最大限の策であることは間違いない。


「・・龍穂君、ちょっといいですか?」


此方に向かう前に全員に支給されたヘッドセットから千夏さんの声が聞こえてくる。


「何でしょう。」


「着地に成功し、忠行がこちらに気付いていない事を確認しました。

ですが・・・こちらからでは白の動きがよく分かりません。ですので

そちらから攻撃の指示を送っていただけると助かります。」


一斉攻撃の指示は下にいる千夏さんにお願いしていたが、忠行の大きな影によって

視界が奪われタイミングが図れない。

白達の攻撃に合わせて不意を打つ。認識阻害の対象外である兼兄達が俺達の存在に

気が付いているはずだが、一度不意を打たれている忠行がわずかな変化に気が付き

辺りへの警戒に動けばマズいと意識せずに戦ってくれている。


「分かりました。」


その様子を全て確認できるのは俺しかいない。高台いる俺であれば重要なタイミングも

しっかりと出すことができる。


「・・・・・・・・・・・。」


波状攻撃を仕掛ける兼兄は圧倒的物量を武器にして攻め立てており、

そのおかげで奴の足は完全に止まっている。


『・・どう思う?』


この現状を見て、思わずハスターに尋ねてしまう。


『どうとは、なんだ?』


全てお見通しと言わんばかりな質問が返ってきた。


『分かるだろ?”誘われている”気がする。』


ここまでの道中で、奴の動きについてちーさんに尋ねた。

こちらが攻勢を緩めていない事もあるが、奴は戦場を離れる気配がない。

機敏な動きさえ見せておらず、ただここで攻撃を受けている。


『もう手遅れだが・・・奴がここに留まる理由を調べても良かったのかもしれない。

そう思わせないためにただ攻撃を受けていると思えてきた。』


星空が奴と戦っている最中。俺はその大半を回復に捧げており、

意識が無かった時の出来事を事後報告で把握するしかなかった。


『情報を集めておけばよかったとでもいうつもりか?それはお前の役目ではない。

意識ある者がやっておくべきことだ。』


『それをさせないためにここに留まっていたのかもな。

今更こんなことを言っても遅いが・・・・・。』


それでも、警戒するのが俺の役目。引く手段は持ち合わせているとはいえ、

危険度でいえば前線にいるみんなの方が遥かに上。

何が起きてもいい様に出来る限りの想定をしておくのが長の仕事だ。


「・・準備できたで。」


最大火力を叩きこむため、神融和下での詠唱を全員が終える。

奴は気が付いている素振りさえ見せない。これなら打ち込んでも問題ない。


「よし。合図が出次第打ち込んでくれ。」


後はタイミングだけ。ここまであまりにスムーズだが、本番はここから。

何が起きてもいい様に準備を整えておきながら白達の動きを見ていると

波状攻撃を強めたその時。俺は全体に合図を出した。


「・・今だ。」


その瞬間、一気に力を開放した全員が一斉に攻撃を放つ。


「天狼のてんろうのやいば!!!」


「日輪煌々御来光にちりんこうごうごらいこう!!!」


謙太郎さんの青い炎。純恋の太陽。


乳公孫樹槍葬ちちいそんじゅそうそう!!!」


黒虎風拳こくこふうしょう!!!」


「死屍累々獄撃ししるいるいごくげき!!!」


千夏さんと青さん。楓に桃子。各々が全力の一撃を放つ。

全員の全力の一撃が忠行に向けられ、その瞬間を見た兼兄と竜次先生、そして毛利先生が

忠行目掛けて強く踏み込む。


「・・・!!!」


不意打ちに合わせた挟撃。俺達の攻撃に気が付いた忠行だが、目の前に迫る三人への対処も

強いられ対応が遅れる。

このままいけば両方とも中途半端に終わり、強力な挟撃を受けることになる。

ここに来て初めて奴へ有効な一撃を与えられる。だが、歴戦の感がそうさせたのは

俺達の方を向き、全力の一撃に対して攻勢に出た。


「魔の深海海域ディープ・バミューダ。」


攻撃が体に触れる寸前。海水が蠢きだし三角形の壁を作り上げる。

前と後ろ、どちらの攻撃を受けた方がダメージが少ないのか。それを瞬時に判断した忠行は

深海の壁で俺達の攻撃を防ぎにかかる。


「・・・!!!」


そしてその瞬間。動いた海面が浮かぶ小島を埋めにかかろうとした事を察し、

全員をすぐさま影へと落とす。

影渡りを行う先。それは俺の足元ではなく、先ほど削って作り上げた印。

少し離れた安全な場所に全員を避難させる。


『追撃だ。行けるか?』


俺達の攻撃は防がれたが、詰めた兼兄達が得物を振るい忠行の体に傷をつけている。


「当然・・・!!!」


残念ながら俺達の全力は奴の壁によって防がれた。恐らくあれがクトゥルフの力なのだろう。

奴は恐らく片方を受けきった代わりに受けた兼兄へ対処するはず。

あれだけ接近していれば、兼兄達と言えど対処は難しい。

だが、そんなタイミングだからこそ風は吹く。奴にさらなる追撃を与える勝機への風。

離れている俺に奴は気付いていない。近くにいる事自体は察しているだろうが、

兼兄達に向けられた意識は俺を捕らえてはいない。


「神の厄災のアッティラのつるぎ!!!」


奴の側面に向けて大きな剣を作り上げる。

遥か昔、欧州に恐怖を与えた遊牧民族であるフン族。その王であるアッティラが持っていた

とされる伝説の剣。諸説あるが、マルスの剣とも称される伝説の剣を持ったアッティラは

神が選定した罰者であるとされており、クトゥルフを倒すにはふさわしい伝説の剣だ。


「・・・・・!!」


再び危機が訪れた忠行は、俺への対処を行おうとするがそんなことをさせるはずがない。

作り上げた剣は本命であり、餌。反応させた上で奴を取り囲むように何本も作り上げる。

その全てを奴に向け一斉に打ち放つと、兼兄達が巻き込まれない様に距離を取る。

空気とは違い、水はあらかじめ用意していないと操作に遅れが出る。

そのための海だったが、先ほどの壁を作り上げた時の速度を見ており、

既に打ち放たれた剣を阻むには時間が足りないのは明白だった。


(次はどうする・・・。)


これで奴に一撃を与えられる。そして・・・認識阻害への対処も出来ていない。

ここまでの戦いで初めてと言っていいだろう有効打を叩きつけることが出来れば

戦いの流れが変わる。大きな転換点を前に、次の立ち回りを考え始めたその時。

上から大きな音が鳴り響く。


「来たか・・・!!!」


頭上から鳴り響いた音。それは・・・俺達にとっては角笛の音に等しい。

その音が鳴り響いた瞬間。比較的穏やかだった水面が荒れ狂い始め、

俺の作り上げた剣達が瞬く間に出来上がった波によって包み込まれた。



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