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第五百二十五話 楔の効果

「くっ・・・・・!!」


兼定を一番の脅威とみなし、狙い始めた忠行。もちろん白達もただ黙ってみている訳じゃない。

狙われた兼定を助けるため、一斉に襲い掛かる子孫達の攻撃や

忠行自身の猛攻に対し、逆に抑え込まれてしまう。


「さあ、どうするんだ?」


東京結界を破壊がもうすぐと察した忠行は動かない兼定を狙う事で

新たな手札を引き出そうと試みている。

それに対し、大きく動こうせずに防戦一方の姿を見た忠行は勝機を感じていた。


「まさか・・・奴の完全に手中に収めていない様だな。」


兼定が使役する這い寄る混沌。ニャルラトホテプは自由奔放であり天邪鬼。

そしてそのあまりある強大な力を全て押さえつけるなど出来ない事をクトゥルフは

身に染みてわかっている。

だが、だからこそ手出しが出来ない。もし、ニャルラトホテプが一度動くと決めたその時。

外なる神であるその力を全て発揮すればハスターと同等の障壁となる事を理解していた。

だからこそ、大きく攻め込むことはせずに警戒だけしつつ放置していたが、

ここまで動く気配を見せない所見て、愛想を尽かされたのだと攻勢に出ていた。


「クソッ・・・!!!兼定!!まだか!?」


同調を続ける白達をまとめる長が動く気配を見せず、周りにいる隊員たちが血を流している

姿を共に応戦していた竜次は苛立ちを露わにする。


「・・・・・・・・・・・・・。」


それでも、動かない。仲間達が必死に戦っている姿を見てもなお、動かない。

このままではまた仲間達を失う事になる。それだけは避けなければと

首にかけたペンダントに手を伸ばしたその時。竜次の視界の片隅に青い光が写った。


「天狼のてんろうのきば!!!」


瓦礫の山に広がる黒い海。その中に浮かぶように小さく出来た岩の陸地。

その影から放たれた青い炎の一撃は、忠行の不意を打つ夜空に浮かぶ天狼を模した炎。


「・・・・・・!!!」


水の探知に反応の無い場所から炎に、攻めの姿勢を見せていた忠行は対応できず、

飛び込んだ天狼は醜い体目掛けて大きく口を開き、鋭い牙で噛みついた。


「・・面倒だな。」


広がる海を動かし、瓦礫の島をすぐさま飲み込むがそこには術者の姿はない。

どうやって探知にかからずに移動し、そして逃げていったか。

そんなことを考えるは忠行にはなく、すぐさま体の再生にかかる。


「お前、これを待っていたのか?」


強大な一撃だが、忠行の体は治る。それが水の長けたクトゥルフの体。

異次元なほどの再生力だが、その体に異変が起こる。

再生した体に浮かぶ表情が苦悶一つ浮かべず、力無く動かない。

攻め込んでいた白達だったが、その体に触れることはあっても顔への一撃は一度も無かった。


「・・俺達じゃ不意は打てないからな。あれだけの数の脳みそと水の探知があっちゃ、

姿を隠してもすぐに見つかる。」


忠行の頭の中に、離れた部隊の存在は確かにあった。

だが、龍穂の強大な力を感じ取ってしまった事で部隊の存在は龍穂ただ一人という

認識に変わってしまっていた。

自らを仕留めに龍穂は動いている。陽動を仕掛ける気かもしれないが、位置は分かる。

これまでの戦いで人を失う事への恐怖を植え付けた。陽動をしていたとしても、

動くのは部隊単位。周りの人間も少数で動くことを望まないと踏んでいた。


「ふむ・・・。お前ら以外にこの体に一撃を加えられる奴がいるとはな。」


そして・・・忠行の一番の思い違いは龍穂の周りにいる人間の実力だった。

命を奪われ、そして奪う。自らの信仰し、そして崇拝してきた信者や配下達と

戦ってきた白以外に、不意を打たれたとはいえクトゥルフの力を入れた体が

傷つけられることなどないと思い込んでいた。


「効いたようだが・・・何も変わらないぞ。」


それでも、たった一撃。変化はあったとはいえ、有効打とは言えないほどの微弱な変化。

そして既に立ち直っており、今まさにこちらに向かってくるぞと竜次が

得物を構えるが、そうはならなかった。


「・・・・・・?」


こない。忠行は触手を伸ばし、魔術を打ち放とうとして来ない。


「・・あいつらを警戒しているのか?」


「みたいだな。」


体は再生した。何も変わっていない。では何故、兼定を襲ってこないのか竜次には

その理由が分からない。


「・・全体を動かすぞ。俺も出る。」


隣にいる春に指示を出し、得物を引き抜く兼定。


「・・・・・おい。」


「なんだ?」


たった一撃で動きを鈍らせた理由について、竜次は聞かなければならなかった。

何かしら確証があって龍穂達の動きを待っていたのは明らか。


「何で黙ってた?」


「黙ってたわけじゃない。確証がなかった。そんで・・・まだ晴れていない。」


春は各部隊に指示を出し、部隊ごとの距離や連携を確認していく。


「だとしても————————」


「奴の弱点だと思われる所を知れば、お前はそこ目掛けて突っ込むだろ?

だから伝えていなかったんだよ。」


警戒されては確証を掴む事さえ出来なくなる。だからこそ言わなかったと伝えられた

竜次の苛立ちはさらに増していくが、近づいてきたアルが肩に手を置き慰め始めた。


「ごめんなさいね。そう進言したのは私とノエルなの。」


共に付いてきたノエルが申し訳なさそうに竜次の手を握ると、

兼定に向けられていた怒りが逃げ場を無くし、舌打ちに変わり視線を逸らした。


「確証に変わるのは龍穂がこちらに来てからだ。それまでに東京結界が

持つと良いが・・・流石に難しいな。」


兼定が動かなかったのはクトゥルフの気を引くため。

まさか不意打ちを龍穂が選択するとは思わなかったが、弱点を突かれた忠行は

周りへの警戒をせざるおえなくなり、先ほどのような大胆な動きは出来なくなった。

このまま耐えて東京結界の破壊を待つつもりだろうが、

今まで狙い続けていた弱点に確証が持てたとなれば、離れた位置に立ち意識を

削ぐ必要はない。


(・・・・・まあ、さすが俺達に弟と言っておこうか。)


そして、謙太郎達の不意打ちは兼定にとって何よりの朗報だった。

クトゥルフが接近に気が付かなかった理由。それは認識阻害の術式を龍穂が理解したという

証であり、そこまでたどり着いたのならあと一歩。


「ったく・・・。でもいいのかよ。警戒をするべき場所を増やしたのは事実だが、

奴の手数を減らしていないぞ。」


「そうだな。だが、俺達と春が加わる。こちらの手数は増える。」


自分と泰国には出来なかった・・・いや、時間が足りなかった。

楔を作り上げたのは泰国。だが、それを扱う事が出来ず誰にも教える事さえ出来なかった。


「何とかしましょう。破壊前になるべく叩くのです。」


さらに動きを変える白。持久戦は何度も経験してきた。まだ戦える。


「・・部隊に伝えておけ。」


龍穂ならたどり着ける。泰国の領域へと。


「必ずだ。奴は動揺する。その隙を逃すなよ。」


ちーがいるのなら、送り込んだ猛と真奈美の存在を危険視する。

それを龍穂が受け入れる訳がない。

友人のため、そして勝利のため。自らが成し得なかった楔にたどり着くことを確信した

兼定は部隊を大きく動かした。


—————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————


俺の頭の中に響いた何かが切れた音。楔が入った音にしてはあまりに

大きな音に驚いたが、それ以上の安堵が襲ってくる。


「・・・・・どうなったんだ?」


俺達の様子を伺っていたちーさんが真剣な表情で尋ねてくる。


「成功・・・したんだと思います。」


「したんだとじゃ困るよ。あれだけの事を言ったんだ。絶対成功してもらわなきゃ。」


あの大きな音が楔を打った音であるなら、もう少し穏やかでもいいのではないかと思い

どうしても確証が持てない。

それに・・・楔を打つ所か断ち切ってしまった可能性もある。

その事実を聞くには楔を打ち込んだ二人に聞くしかない。


「・・猛、真奈美。」


服を正しながら呼ばれた俺の方を向く二人の表情は動揺を隠せておらず、

一体何が起きたのだと千夏さんが尋ねる。


「い、いや・・・・・なんか、体の縛りが取れた・・・・・。」


その言葉を聞いた俺はさらなる安堵を手に入れるが、一つ確認しなければならない。


「契約が切れたってことは無いよな?」


「・・ええ。ハイドラが大丈夫だと言っているわ。」


あれだけの音がして断ち切れていないなんて相当太く深い契約を結んでいたのだろう。


『それが眷属契約というものだ。人間とは遥かに長い寿命を持つ神が生涯結ぶ契約。

それにお前は楔を打った。それだけの衝撃があっても当然の事。』


ひとまず・・・なんにせよ、楔を打つことが出来た。後は行動するだけだが・・・

そろそろ楓達が帰ってくる。


「・・戻りました。」


生きた情報を持って帰ってくる仲間を出迎えからの方が動きやすいと思っていた所で

影から楓達が帰ってくる。五体満足所か、傷一つ付いていない状態を見て

成功したのだと察しつつ、戦場の様子を伺った。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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