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第五百二十四話 イザサワケの真価

「瀬織津姫様とヌトス=カアンブルが名を変えた。兼兄がどうやってヌトス=カアンブルの

使役に成功したかの経緯まで考えればキリがありませんので、ここは確定事項として

飛ばさせていただきます。」


二人がイザサワケによって名を変えたのは納得してもらえた。

だが、それでも俺の推理には粗がある。それを今から話す必要がある。


「恐らくですが・・・桃子の山本五郎座衛門に掛けられていたイザサワケとは少し異なる

特殊な術式が掛けられていた。そうですよね?」


山本五郎座衛門の場合、架空の存在の名を平将門と入れ替えることによって姿を隠していた。

だが、この二柱の場合はそもそも名前が隠されていた。

名を隠す必要がなく、その代わりに二つの神には俺達がイザサワケと異なる状況が起きていた。


「ああ。なにしろ・・・我には瀬織津姫様の姿が与えられたが、

”ヌトス=カアンブルとしての記憶”もある。当然、エルダーサインの術式が

頭の中にある状態で瀬織津姫の力が仕える状況だ。」


「だから改良できた。それが答えです。合っていますか?」


エルダーサインの改良。クトゥルフの力を持つ賀茂忠行との契約に楔を打てるほどの

効力を持った特別な印が生まれたという訳だ。


「少し付け加えるなら、正確に言えばクトゥルフに通用する印は完成しなかった。

だが、力を一点に集めれば奴らの力を押さえつけられる

術式なら作り上げることが出来たんじゃ。」


「確かに・・・楔として使うには打ってつけだね・・・・。」


「ああ。だが、耐久性はあまりなく奴らの力であれば時間をかければ破壊される。

だからこそ我が元主である泰国と現主である兼定は使い所を見定めていた。

奥の手のさらに奥、お前達と会うために龍脈に使った楔。

そして・・・・・まさに今、この時のために兼定は私をここへ送りこんだわけだ。」


・・俺がこの事実にたどり着かなければ、猛達は俺達を裏切っていたかもしれない。

俺を買いかぶりすぎだと文句を言いたい所だが、それはこの戦いに勝利してからだ。


「・・・・・最後に二つだけ。聞いておきたい。」


後一手。ここを詰めればちーさんは納得する。二つの疑問を答えるため、俺達は大きく頷く。


「一つ。耐久性があまりないって言ってたけど・・・もし奴らが楔を壊しに来たらどうする?」


「そうならないためにお前達がいる。それにだ。私と本当の瀬織津姫も戦場にいる。

仮にそうなったとしてもすぐさま楔を打ちつける準備を整えておこう。」


対応は十分にできる。後は俺達が忠行の猛攻をどれだけ受け止め、そして負けずに

戦うかが重要になってくる。


「・・二つ目。どうやって泰兄はあなたと使役関係を結んだのか。それが聞きたい。」


ドリームランドという異世界にいた神とどうやって契約を結び、そして

この地に降り立たせることが出来たのか。俺も気になっていたが、

それを全て知るには時間が足りないのだろうと頭の片隅に置いていた。


「それは少々話が長くなる。全てを語るには時間が足りん。楔を打ちながらでもよければ

少しは語れるが・・・それでも良いか?」


今できる最大限の譲歩を受けたちーさんはやっと大きく頷く。

この人が恐れる全滅という可能性。その恐怖が・・・一体どこからやってきたのか。

俺には分からない。


「・・では、やりましょう。」


大切な仲間達。純恋や、桃子。千夏さんや楓とは深い信頼と絆で結ばれていると

言っていいほどの関係値を築いてきた。暗い過去を知り、そしてみんなで支え合ってきた。

だけど・・・大切仲間達が増えた今、まだ知り足りないことが多くあると実感する。


「承知した。」


瀬織津姫の殻を持ったヌトス=カアンブルと共に二柱の元へ歩む。

それを知るためには・・・勝たなければならない。

暗い過去を振り返るのは簡単な事じゃない。俺はそれを・・・千夏さんや純恋、桃子と共に

歩むことで強く実感した。ちーさん達はこの三人以上に暗い過去を持っているのかもしれない。

でもいつか、この先の未来を歩む時にともに振り返れればいいなと強く望んでいる。


「待ちくたびれたぞ。」


猛の体を使っている陀金とハイドラが俺達を待ち受ける。


「・・瀬織津姫様。」


「分かっている。自分でやりたいと言うのだろう?」


風で飛んできた札に刻まれた印。それに触れた瞬間、印の術式が頭の中に流れ込んで来た。


『これが・・・ハスターの力なのか?』


『いや、違うな。確かに俺は大気を司る神だ。そんな俺が空気で触れたものは

その詳細を把握できるほどに繊細で全てを感じとることができる。』


じゃあ、これは一体何なんだとハスターに尋ねる。術式まで感じ取れることが

出来るのは一体何故なのか。


『龍穂。お前は多くのものに触れてきた。それは物質だけではなく、人も同じ。

魔力、そして神力と多くのものに空気で触れ、そして疑問を持ってきた。

これは一体何なのか。何故こうなるのか。そしてそれを術式に当てはめてお前だけの

術式を生み出してきた。』


『それが・・・感じ取れるようになった原因なのか?』


『どうだろうな。俺も同じ空気操作ができる。質は龍穂以上。だが、感じ取ってきた

感触に疑問を持ったことは無い。この物質はこういうものだと、頭の中で勝手に理解してきた。

疑問さえ持たず、ただ漠然とそうしてきた。』


それまでに空気という力は万能だと言う事。探知、攻撃、防御。

操ることは難しいが、出来てしまえば他の属性などいらないほどの全てが行える。


『だがお前は疑問を持ち続けた。戦闘に集中していた時でさえ、

本能的に敵の術式が一体どのようなものなのかと頭を回し続けた。

無意識の内に行っていたので自覚がないかもしれないが、その疑問がお前をここまで

連れてきたのだ。』


『疑問・・・ね。』


確かに・・・そうなのかもしれない。敵が打ち放ってきた攻撃に対し、

しっかりと対応するためにその術を全て理解しようとしていた。


『これもまた、お前だけが扱える術式。いや、技術と言っていい。

創造デミウルゴスとでも名付けようか。』


創造・・・。俺が使う。俺だけが出来る技術。


「・・もう一度聞いておきたい。」


楔を俺なりに作り上げられるイメージは出来た。後は打ち込むだけ。

だが、その前にもう一度確認してなければならない。二柱が俺に楔を打ち込まれる意味。

そして・・・・・それでもなお戦う事を最後に確認しなければならない。


「ここから先、あちら側に寝返ることは俺が許さない。

もし、寝返ることがあったなら、俺はお前達をすり潰す。これは脅しで言っている訳じゃない。

物理的に、瞬時にすり潰す。俺の風で・・・お前達の野望もろともだ。」


破壊の風でその体を粉々にする。再生など一切させる気はない。


「そして・・・ある程度は従ってもらうぞ。それがお前達に楔を打つ対価。

いや、口約束の契約とでも言おうか。」


「・・初めに言っただろう。俺達の主に成り代わることは許さんと。」


「主じゃない。いうなれば・・・友人だ。この楔は友の証。それまでは友人として

俺の願いをかなえる。そっちの方が単純でいいだろ?」


きっと・・・猛達はこの言葉を欲していたはず。仲間じゃなく、友人。

お互い立場や見た目など、色々変わったが関係は変わらない。


「別にどちらが上とかを決めたい訳じゃないんだ。足並みをそろえたいって事。

この部隊に入っている以上、決断を下すのは俺。言い方が悪かったかもしれないが、

その指示に従ってほしいってことだ。」


それが共に戦うと言う事。それが楔を打つ最低限の条件。

猛と真奈美は分かっている事だろうが、二柱にも理解をしてもらう事で納得した上での

行動がスムーズになる。


「・・・・・分かった。」


神融和は体の中にいる式神と心を合わせることで真価を発揮する。

肝心なところで力を発揮しなければ元も子もない。

二柱から承諾を得た。ちーさんも納得させた。後は・・・印を俺なりに作り上げて

二人に打つだけ。


(・・・・・・・・あそこだ。)


空気操作で神融和をしている猛と真奈美の体を探る。どうやら・・・心臓に近い背中側に

眷属としての契約が刻まれている様だ。


『・・やれるか?』


エルダーサインをさらに複雑化した印だ。難しくない訳がない。だが・・・これならできる。

両の掌を広げ、作り上げた印を込めた空弾を作りだし強く握る。


「・・背を向けてくれ。」


二柱が背を向けたことを確認すると、近くにいたちーさんと千夏さんに服をまくるように

指示を送る。背中には感じた通り、二柱を縛り付ける印が刻まれており

今すぐにでも発動されてもおかしくはない。

ここに楔を打つ。一番効力のある部分を探し出し、核となる部分を見つけると

人差し指を伸ばし、ゆっくりと触れる。


『やれ。』


人差し指を先が印に触れた瞬間、手のひらに込めた楔が契約の核に突き刺さる。

その瞬間、二柱の体が大きく跳ねあがり、俺の頭の中には何かが断ち切れたような音が

鳴り響いた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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