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第五百二十話 二人の処遇

猛達を俺達に預けた理由。何も情報がなく預けられたので察する事さえ出来ないが、

何か心当たりがあったのだろうか?


『どうした?』


『気になる事・・・いや、ここから先で起こるであろうことを伝えておく

必要があると思ってな。』


忠行との戦いの事を指しているのだろう。この時点で予想できることは限られる。

分かっている事と言えば東京結界の破壊によってクトゥルフ本来の力と戦わなければならない事。

ハスターがそのことを指しているのなら、貴重な情報だ。


『・・聞かせてくれ。』


『簡単だ。八海の友人達。現状こやつらと”行動しない”方がいい。』


ハスターの言葉に、思わず足を緩めてしまう。


「・・龍穂君?」


俺の近くにいた千夏さんが異変に気付き、俺と足並みをそろえ様子を確認して来る。


『それは・・・・・裏切るってことか?』


『今のままではな。』


今のまま・・・。その言葉の意味を俺は租借しきれない。だがハスターは無駄な事は言わない。

俺達が何か行動を起こせば行動しない方がいい理由を潰すことができると言っているんだ。


「・・真奈美、猛。」


状況を確認するために緩やかになった部隊の中で足を止め、二人に話しかける。


「ど、どうした・・・?」


「本当に兼兄から何も伝えられていないんだな?」


二人の立場を悪くしたくはない。だが、はっきりとさせておかなければ

部隊の全員に影響が出てしまう。


「・・合流を果たせと言われただけ。本当よ?」


俺が何かを疑っている事を察した真奈美ははっきりと答えてくれる。

このわずかな時間でも、部隊の雰囲気は徐々に変わりつつあった。


「・・・・・龍穂。何があったんや?」


「ハスターから少し言われてな。詳細は全て終わってから伝えるが、

足を止めるに値する情報を今からもらう。」


ここで裏切る可能性があるなんて伝えたら雰囲気は最悪。

前科がある二人と俺達の中で険悪な雰囲気が流れるのは目に見えている。

詳細を語らない俺に対し、文句の一つや二つが出るかと思ったが、

真剣な表情から察したみんなは何も言わずに俺の言葉を待ってくれる。


『で、どういう事なんだ?』


『少し考えれば分かるはずだ。別にこの二人が龍穂に対して何かを企てていると

思ったわけではない。この中にいる二つの神がどういう神なのかをしっかりと考えろ。』


二人の神・・・陀金とハイドラ。夫婦である神は強力な二柱。

その力は忠行とクトゥルフに対抗するには必要な・・・・。


「クトゥルフ・・・・・。」


たった一つ言葉が俺の中で引っかかる。


「・・イタカ。」


クトゥルフとこの二柱の関係性。それについて、一つだけはっきりさせないと・・・いや、

手を打たなければこの先マズいことになるかもしれない。


「なんだ?」


俺の問いかけに出てきたイタカ。浮かんだ疑問を確信に変える答えを持っているはず。


「イタカはハスターの”眷属”なんだよな?」


「当然だ。ハスター様は私の王。それがどうした?」


「仮にだ。絶対にない事だとは思うが、ハスターの命令に背く事は出来るのか?」


そう。二人はクトゥルフの眷属だ。現状、俺達の味方をしてくれているが

クトゥルフの命令に背くことがあれば話が変わってくる。


「一時的に背くことは出来たとしても、王令として指示をされれば無理だな。」


イタカの言葉を聞いた全員が俺が足を止めた理由を察する。

王令。王としての命令。眷属であるイタカは背くことはできないのは分かる。


「それは・・・イタカの心持の話しか?それとも何かで縛られているのか?」


問題はここ。王令としての指示が何によって背くことはできないのか。

圧倒的忠誠心によるものなのか。それとも契約の影響で出来ないのか。


「それによっては・・・・・立ち回りの足を止めなければならない。

俺達のために戦おうとしてくれている二人が敵に回るのなら・・・・・

ここで二人を”処理”しなければいけないからな。」


こんなこと言いたくはない。二人はとてつもない罪をこれから償おうとしている。

はっきり言って、罪の全てを償う事なんて出来ないと思っている。

でも、それでも二人の働きは無駄ではない。いつの日か免罪符が張られるその時まで

二人の頑張りを支援しようと思っている。


「処理って・・・・・。」


「・・龍穂、本気か?」


桃子と純恋が心配の声をかけてくる。それは二人の扱いではなく、

俺が発した強い言葉を聞いての事だろう。


「正気だよ。これから忠行を前にするっていうのに不安の種を戦場に持ち込めない。

それが目を出し俺達を襲うなんてことが起きる前に、

二人を始末してしまった方がいいのは分かっているはずだ。」


二人が人を殺める、しかもそれが今度は俺達であったのなら・・・精神が壊れてしまうだろう。

そんな可能性があるのなら潰すべき。そして・・・・・二人もそう思うはず。

これ以上罪を重ねるのなら、俺自身がこの手で種を潰す事こそが二人のため。


「それは・・・・・。」


「・・まずはイタカの話しを聞こう。別に対処できないと決まったわけではない。」


俺が話したのは最悪の結末。だが、決して可能性が薄い訳じゃない。

この事実に気づけたのは大きい。ハスターやここに二人を送ってくれた兼兄のおかげだ。


「結論から言う。我らは王への敬意と忠誠の証として、”黄印”を体に刻んでいる。」


イタカは手の甲を俺達の見せる。そこには見慣れた模様、三つ巴のような紋が刻まれている。


「貴様で言えば式神契約に近い。主君と眷属、その名の通りハスター様が上で俺が下。

手の甲に刻まれてはいるが、これは体全体に刻み込まれた術式であり

脳へ命令を行い体の自由を奪う事も出来る。」


「・・待った。そんな事、式神契約じゃ出来へんで。」


説明途中、純恋が割って入る。


「式神契約にそんな強い効力があるなんて聞いていない。立場を明確にすることはあっても、

契約相手の行動を縛るなんてことが出来たら大変なことになるやんか。」


イタカの言う事が本当なら、式神契約自体が禁術になってもおかしくはない。

何故なら人間の体を操るなんて術は軒並み禁術として使用を禁じられているからだ。


「・・出来ますよ。」


そんな真っ当な言い分を引き裂いたのは千夏さん。


「厳密に言えばやろうと思えば出来ると言った方が正しいですね。」


「えっ・・・?」


そんなことは聞いたことがない。日ノ本最高峰の学び舎の一つである国學館の授業でも

聞いたことがない事実に俺達は驚きを隠せない。


「我々の身近にある式神契約。この契約が命尽きるまでの強力な契約なのに対して

言葉を交わさずとも会話ができる念と互いの位置を知れる程度の認識に収まっているのは

その効果が隠されているからなのです。」


「そんな・・・・・。」


「ここに伊達様がいれば話が早いのですが・・・仕方がありません。

では何故神道省には式神課という部署が設置されているのか分かりますか?」


それは・・・式神を管理するから。そうとして言う事が出来ない自らの浅さを

改めて実感しつつ、千夏さんの答えを待つ。


「式神の管理。それは間違いない。ですがなぜそのようなことをしなければならないのは

式神を悪用して起こる犯罪のため。日ノ本ではあまりにも根強い技術であり、生活と共にある

式神との契約を禁術指定が難しいと判断した武道省は当時の陰陽寮に強力を仰ぎ

式神を監視する部門を設立しました。式神を使った犯罪が起こった際、

武道省と連携を取り事件を解決するための部門として動いていましたが、

竜のような珍しい式神の保護など時代の移り変わりにより

多くの仕事を扱う様になったのです。」


式神課の設立にそんな理由があったのか・・・。

だが、その理由を聞いて俺に頭には一つの疑問が浮かぶ。


「・・関係の無い話しをして申し訳ないですが、

俺は式神課に式神の登録をした記憶がありません。」


俺がその理由を知らなかった大きな理由として、式神登録をした記憶がない点があげられる。

木霊、青さん、イタカ、八咫烏様。三体の式神を使役してきたが、ハスターが封じられていた

木霊でさえ登録した記憶がなかった。


「それは龍穂君だからです。自覚があると言う前提でお話ししますが、

あなた自身の存在が業案件。すなわち日ノ本の表舞台から

隠さなければならない存在であるからです。」


「・・・・・そうですね。」


まあ・・・そりゃそうだ。俺の存在が表に出て、何かしらの拍子でその素性が調べられれば

大変なことになるのは目に見えている。


「・・一つ付け加えさせてもらおう。」


千夏さんと神融和を行っていた青さんが融和を解き、俺の前に立つ。


「お前が契約している式神全てが業案件に該当するのも一つの理由じゃ。

十二天将であるわし。ハスターの眷属であるイタカ、それに日ノ本神話に登場する八咫烏。

そして・・・・・ハスターが封じられていた木霊なぞ表に出せるはずがない。

影定、そして兼定がお前が知らんうちに業案件として伊達に報告し、

式神登録を業で処理していたんじゃ。」


納得しかできない答えが返ってくる。俺の存在はもちろん、確かに強力な神を持った者が

現代にいると分かれば式神課が動き出す所か、様々な部門が俺の身柄を

確保しに来るのは分かり切っていた。


「ありがとうございます。納得しました、話しを戻してください。」


「分かりました。式神課の設立というのは式神契約の影響。

では何故我々は式神契約という術式本来の効果を知らないのか。

それは・・・・・”八海上杉家”が関わっています。」


「・・・・えっ?」


八海上杉家。まさかこんな所で育ちの家の名が出てくるとは思えなかった。

迅速に対処しなければならない案件の一つである二人への対処。

その過程で日ノ本の歴史が明かされる事になると思ってもおらず、

本来なら全てを聞く必要はないにも関わらず、俺の耳は千夏さんの話しに耳を傾けていた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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