第四百七十六話 青の助言通りの展開
勾玉を胸に突っ込んだ晴明。一体何をする気なのだろうか?
嫌な予感しかしない。だが、手を出すことは難しい。
(なら・・・。)
結局青さんの言う通りになってしまった。いや、それ以上か。
もう少し晴明を追い込む予定だった。だが、それが出来ない状況になった以上
味方をこちらに向けても仕方がない。
『・・全体に伝えてくれ。道長に集中してくれと。』
もし、このまま戦うのであれば他のみんなでは分が悪い。
今の所晴明に対して有効打を打てていないが・・・俺はまだ全力を出していない。
『そして、無茶言って申し訳ないが出来るだけ遠くに行ってほしい。
近くにいれば・・・・・巻き込むかもしれないからな。』
全力を出した時の威力を俺が把握できていない以上、巻き込んでしまう可能性は
十分にある。それにこれだけの相手だ。周りを考える暇なんて与えてくれるはずがない。
『・・まあ、分かったわ。でもあいつをどかす方法なんてあるんか?』
あの巨体。しかも言葉を放つ器官があるのか定かではなく、理解しているのかさえ分からない。
藤原道長の魂が入っている事だけは間違いないが、意志が宿っているのなら
言葉を介さずとも連携で来てもおかしくはない。
『いくつか思い浮かびますが・・・どうしても時間がかかりますね・・・・・。』
千夏さんと言えど、あの巨体を動かす策をすぐに考える事が出来ないようで
このままだと晴明との戦いに巻き込んでしまう。
(風で吹き飛ばすか・・・?)
無理やりどかそうかと検討するが、やはり繊細な操作が出来ない事が引っかかり
行動に移せない。
「いきますよぉ・・・。」
一体どうするか考えている俺達を尻目に動き出したのは知美。
俺の意図を汲んだのか、道長の影から顔を出すと何かを唱え始める。
「陰影堕とし(かげかげおとし)。」
すると道長の巨体が床に沈んでいく。いや、大きな巨体に付いてきている影に
沈んでいる。影の力は自らと繋がりのある者にしか使えないはず。
だが、影の力を巧みに操ることができる知美は奴を影渡りで移動させるつもりだ。
『・・我々も向かいます。こちらは気にせず、存分に戦ってください。』
影に縛られ、無抵抗のまま沈んでいく道長。そして知美がもう一つの大きな影を作り出すと、
その中に次々と入っていく。
『了解。俺は大丈夫です。みんな・・・・・頑張ってくれ。』
どちらも強敵だ。戦闘が始まればまともに連絡を取ることもできないだろう。
「ふぅ・・・・・。」
全員が影に沈み、この場に誰もいない事を確認した後晴明の方へ視線を向ける。
胸に突き刺さっていた手を引き抜くと、空いた穴から大量の血が溢れてくる。
「ったく・・・・・。こりゃ、きつくてたまらんな。」
胸に大穴を開けたんだ。当然相当な痛みに全身の細胞が悲鳴を上げているはず。
それなのに平然としていること自体に驚きだが、俺の意識は奴の変化を捉えていた。
「・・・・・・・・・・・・。」
ため息を吐く奴の体を観察すると、手のひらにあった勾玉が無くなっている。
あの様子だと、勾玉を体に埋め込んだのだろう。
自傷してまで行った奇行。その正体を明かさなければ勝利は手繰り寄せる事は出来ない。
「さて、一人になったな。ここまでしてお前の本気が見れるわけだ。」
「・・その勾玉で何をしようというのですか?」
「これか?紛い物には違いないが・・・・・紛れもなくこいつは八坂瓊之曲玉に近づいた
存在だ。それ相応の力を持ってることだけは違いない。分かるだろ?」
「それは理解できます。ですが、あなたほどの力を持った方が
ただ身体強化に使う様なマネをしないとふんでいるのです。」
「ふふっ・・・。察しが良い。」
血を流したまま、笑顔を向けてくるがその瞳の奥の殺気は変わらない。
あの様子だとこの先にもう一段階仕掛けがある様だ。
「こいつに足りないのは神力だと言ったな?それは間違いないが・・・実は
決定的に足りないものがあと一つある。何かわかるか?」
何をしようと紛い物は紛い物。本物の足元にさえたどり着けない。
たとえ同じ年月、材料、質。それらを合わせても紛い物には変わらない・・・はず。
だがそれらが合わさっていれば紛い物と言え、本物に成り代わることは出来るかもしれない。
成り代わることに必要な事。それが紛い物に決定的に足りないものなのだろう。
「・・・・・・・・逸話。」
「そうだな、逸話。歩んで来た、残してきた逸話がこいつには決定的に足りない。」
日ノ本の国の成り立ちに深く関わる八坂瓊之曲玉。確かに最上級の勾玉であることも
重要だが、その歴史こそが神器へと昇華させた。
例え強力な式神を込めようと、神話時代の神力を込めようとも。
それが八坂瓊之曲玉に成り代われない理由がそこにはある。
「こいつを八坂瓊之曲玉にするには今から過去に行って同じ場面に立ち会わせるか、
それとも同等の逸話を持たせるかのどちらかだが・・・・・あまりに馬鹿げた話だ。
俺もさすがにそんなことはしない。だがな、別の方法ぐらいは取れる。」
別の方法・・・。先ほどのような周りの神力を奪い去り、戦力を削ぎ落すつもりなら
そもそも体内に入れる意味がない。
(・・・・・・・・?)
周りの神力。つまり晴明の体から神力を吸い取っている事になるが、
ここで一つの疑問が浮かび上がる。何故、目の前にいる晴明の体に異変が起きていないのか。
陽菜達の力を削ぐほどの吸引力だ。莫大な神力を持つ晴明と言えど
これだけの時間が経てば神力が底を尽きてもおかしくはない。
「俺はこいつを八坂瓊之曲玉として扱う事を諦めた。
その代わりに・・・・・利用させてもらう事にしたんだ。」
「利用・・・・・?」
神力を取り込んでいるのが勾玉の意志。本体が本物になろうとしている以上、
出来ることは限られているはず。
「確かに本物はなれない。だが・・・それ相応の姿を見せてやる。
俺の体内に植え付ける時、こいつと交渉したんだよ。」
・・嫌な予感がする。何をするつもりなのか分からないが辺りの空気操作を全力で行う。
「おっ・・・。今までに何ほどの力だな。その警戒は正しい。
何故なら、俺は今から”神になろう”としているんだからな。」
神・・・。俺達はここまで神と戦ってきた。さっきの道長も同じだ。
同じ経験を何度も重ねてきた。
「・・・・・・・・・・!!!」
晴明も同じ。なのに、なぜ体がこれだけの危機感を感じているのか。
それは恐らく・・・こいつが日ノ本史上最高の陰陽師だと理解しているからだろう。
「神には成れない。だが、神の力となり得るだけの力をこいつは持っている。
先ほど見せたが、俺は大国主の力を借りるだけの縁を持っているんだ。
それをだしにこいつを説得させた。」
「まさか・・・・・大国主に成るつもりか!?」
「そんなまさか。成る事は出来るかもしれんが、それでは君に勝てない。
言っただろ?負け戦は嫌いだって。」
成れない訳ではなく、成る事は出来ないと言い放ってきた。
大国主も日ノ本と言う国を作り上げた重要な神。それに成れると言い放ったとなると、
こいつはそれ以上の存在になろうとしている。
「紛い物とはいえ、こいつは八坂瓊之曲玉に成ろうとした。
その行為と俺の縁。この二つを上手く使う事で、俺は神に成れる。
いや、神に近い存在に成れると言った方が正しいな。」
大国主以上の神・・・。天津神意外に考えられない。
しかも相当上位の神である事は間違いない。それを・・・現代に呼び寄せるなんて正気か?
「・・黒牛の群流星。」
いや、正気だ。疑う余地なんて何一つない。辺りに漂わせた風を弾丸へ変え、
黒いほうき星として奴に打ち放つ。打ち放たれた星々は済まじい勢いで晴明に向かっており、
かすっただけでも体が吹き飛び、人間所か神でさえもただでは済まないだろう。
「かしこみかしこみ・・・・・。」
だが、奴はそんな状況でもお構いなしに何かを呟き両手を合わせている。
今から神に成ろうとしているようだが、このままいけばどう転がろうと勝利を手にするのは俺。
「行け!!!」
ほうき星達は晴明に向かってぶつかり、その威力は遺跡全体を揺らしていく。
これなら間違いない。奴が手札を切る前に勝利を掴み取る事が出来た。
「・・・・・・・・・・・・。」
そんな俺の願望をあざ笑うかのように、舞い上がった砂煙の中から晴明の力が
嫌というほど伝わってくる。
「・・荒神の力。存分に見せてもらおうか。」
そして聞こえてきた声。わずかな声の中にもすさまじい神力が込められている。
それは高天原にいるはずの神をその身に宿したと俺に理解させるには十分だった。
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