第四百七十五話 紛い物の勾玉
「追い込まれる前に札を出す。戦いの定石だな。」
札を取り出した晴明。道長を呼び出した後も優勢に事を進めていた
俺達に対し、さらなる一手を繰り出そうとしている。
「・・来るな!!!」
札に込めれている神力は甚大。今まで感じたことの無いほどの力がそれには込められている。
それを感じた瞬間、晴明に攻撃を仕掛けようとしていた全員に声を上げる。
「良い判断だ。だが・・・こいつの前ではそうはいかない。」
札の封印術が解放されると、奴の手の平には大きな勾玉が携えられている。
これがすさまじい神力の正体。だが、それが一体何なのか、俺には判らない。
「本物じゃないんだがな・・・。まあ、それでもこいつはヤバイ。」
ヤバい・・・か。ここまでの力を持っている物は見たことが無い。
現代の日ノ本ではありえないほどの遺物を模した物なのだろうか?
となると・・・・・”神話の時代に存在した様な代物”になる。
(・・まさかそんなことは無いよな。)
神代の勾玉と聞けば出てくるのは一つ。だが、それを模した物が作られる事さえ
現実にありあえるのかとさえ思ってしまうほどの代物。
「・・・・・いや。」
目の前の安倍晴明を見て、俺は何を考えているんだとすぐさま風を奴の手の中に集める。
あり得ない事なんてあり得ない。それを俺は今日一日で嫌というほど体験してきたはずだ。
「すさまじい力だ。だが・・・・。」
風を集め、勾玉を破壊しにかかる。すさまじい空気圧は勾玉に圧力を与え、
そして風を巻き起こし削り取りにかかる。
『・・・・・固いな。』
俺の風に触れたはずの勾玉。神術操作によって削り取られるはずだが
伝わってくる感触は何も変わることは無い。
「こいつは神代に存在した鉱石を何年も削ってできた物。
そう簡単には破壊できんよ。」
代わりと言われるほどの代物にはそう呼ばれる理由がある。それをまざまざと見せつけられる。
(落ち着け・・・・・。)
神代の力を持つ勾玉。だが、それを持った所で一体何が出来るのだろうか?
勾玉を媒体にして神術を使うのかもしれないが、晴明であれば札で同じことが出来るだろう。
「・・・・・ん!?」
どうやって対応する?奴が仕掛けてくる前に押さえるにはさらなる力が必要だ。
勾玉を破壊するために強力な神術を準備していると、周りで変化が訪れる。
「何が起きている・・・!?」
異変が現れたのはグラーキとなった道長と戦う陽菜達。
見ると式神と重ねている体の神力が小さくなっており、神融和が薄くなっている。
「こうなるからあまり出せないんだよな・・・。素材は完璧。
古来の手法通りで作り上げた代物。足りないのは・・・・・神代の神力。」
模造品として作られた勾玉には恐らく付喪神が作られている。
本物になろうと、自らに足りないものを自覚しているからこそ力を補うために
動き出している。
「・・黒い恒星」
今の所大きな影響を受けているのは陽菜達だけだが、このままだと他のみんなにも
影響が出始めるのは明白。すぐさま何とかしなければと、一点集中型の攻撃にシフトする。
「うおっ!!!」
俺の攻撃を手の中に受けた晴明は、すぐさま手を離す。
神術によって強化されたブラックホールは本物の命の灯が消えそうな恒星の様に
辺りの空気を全て吸い込み始める。
このまま手のひらの上に収めていれば奴の神力での身体強化と言えど全てを持っていかれる。
すぐさま腕を引っ込めたのは当然だが、伝わってくる感触は手ごたえとは程遠い。
「ぐっ・・・!!!」
壊せない。いや、壊すと言う概念が通じないとさえ感じてしまうほどの硬度。
初めての感覚だ。こいつを破壊するのは概念的に無理だと分からさせれてしまった。
「勾玉で使われる素材には翡翠や瑪瑙、琥珀などがある。」
これ以上は無駄だと判断してブラックホールを止め、地面に落ちた勾玉を拾い上げながら
晴明は口を開く。
「こいつは鼈甲で作られた物だ。業の手伝いで大国主を助け出した時にもらった特別な物。」
業・・・か。力を持つ者である晴明が業に関わっているのは分かるが、
問題はそれで得た代物。
「知っているか?大国主には白い亀と白い蛇の使いがいる。
長く使えていた亀が体調を崩し、どうにかして欲しいと依頼を受けてな。
手を施したが寿命には抗えず、亡くなった後感謝の気持ちとして亀の甲羅を受け取った。
それを加工し、作り上げたのはこの勾玉。」
神の使いの亡骸によって作り上げた勾玉。大国主の使いと聞いて、嫌な予感が確信へと変わる。
「・・その勾玉。何を模して造られたんだ?」
確信を後押しさせる一言を晴明に対して尋ねる。
「分かっているだろう?これまでの歴史で作られた勾玉は数知れず。
その中で大きな意味を持って作られた物も多いだろうが・・・こいつの元となった物以上の
やつは存在しない。」
・・・・・そうか。やはりそうなのか。
だが、たとえそうであったとしてもだ。あの勾玉の逸話は全て神代での話。
しかも・・・・・日ノ本が誕生する時の話しだ。当時と現代では環境が大きく異なる。
逸話通りの出来事が起きれば厄介極まりないが、俺の一撃であっても破壊できない代物だ。
晴明と言えどかなり困難であり、俺達に対してあれが立ちはだかるとは思えない。
「八坂瓊之曲玉。三種の神器の一つ。
模造品だが・・・・・かなりうまくできているとは思わないか?」
想像通り。しかし、とんでもない物を作った物だ。
「・・何のために作ったんだ?見つかったらとんでもないことになるだろう。」
仲間達の迎撃態勢が整ったことを確認しつつ、再度尋ねる。
これほどの力を持った晴明相手に迂闊所か、警戒していても近づけさせる訳にはいかない。
「興味だよ。単純な興味。神代の物を現代で再現できるか、それを確かめたかった。」
「その結果は?」
「見ての様だ。ただ、力をため込むだけの装置にしかならなかった。
模造品はあくまで模造品。こいつから神なんて産むことは出来なかった。」
日ノ本神話についての記録はいくつかあるが、その過程はどうであれ
砕かれた八坂瓊之曲玉から複数の神が生まれたと記述があった。
「・・とんでもないことをするんだな。」
「それは自分でも思う。だが晩年の事だ。こいつの使い道を思いついてな。」
手に持った勾玉を投げながら晴明は語りだす。
使い道・・・・・。どういう使い道であれ、悪い予感しかしない。
「面白いことを思いついたんだがな・・・・。
心身ともに老いきった俺の肉体では耐える事が出来ないのは明らかだった。
なんで諦めてはいたんだが、今俺の肉体は全盛期に戻っている。」
肉体に負荷をかける何か・・・。想像もつかないが、それをやらせはしないと風で
奴に攻撃を仕掛ける。
「君とこいつの相性はすこぶる悪い。無駄だよ。」
だが、中にいる付喪神が反応したのか放たれた強い神力の前に阻まれてしまう。
これでは俺は晴明に手出しできない。
(何か考えなくちゃな・・・・。)
俺の攻撃がダメとなれば、仲間達に頼るしかない。
この場にいる全員が力を合わせれば何とかなる・・・と思いたいが、
倒すにはそれなりの時間がかかってしまう。あの力を吸いこむ勾玉を前に
時間を使うのはあまりに危険。とれる選択肢が限られてしまう。
「ああ、安心しろ。俺はこいつを持ちながら君達と戦う気はない。
こいつは無差別に神力を吸い込むんでね。俺も持っているとヤバイんだ。」
リスクを承知での行動。なら、何故それを持ち出した?
未だ謎に包まれている晴明の行動と手に持った勾玉。
だがそれならこちらに勝機はある。奴の身体強化を行っている神力が減っているのなら
接近戦では有利が取れるかもしれない。楓や桃子達が踏み込めるように
風の通りに道を作り出そうとしていたその時。
「二度目の人生だ。後悔の無い様にいかせてもらおう。」
晴明は装束の共衿をひっぱり胸部を晒すと、勢いよく手を胸に押し当てる。
「なっ・・・・・!!!」
その勢いはすさまじく、手は皮膚を突き破り厚みのある胸に突き刺さってしまっている。
明らかな自傷行為。不自然極まりない行為だが・・・奴の手にはあの勾玉が握られている。
「神に・・・・・なる気か?」
そうとしか考えられない行動。だが、神力があるだけでは人間は神になることは出来ない。
晴明の行動の真意を組むことが出来ず、その姿をじっと見つめていると
小さく何かつぶやいている姿が俺の視界に映し出されていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
少しでも興味を持っていただけたのなら評価やブックマーク等を付けていただけると
励みになりますのでよろしくお願いします!




