第四百七十四話 グラーキ
道長も体から出た水蒸気は雲に変わろうとしている。
これはマズイ。全体にダメージを与え、大きく崩れる可能性もある。
(・・風だ。)
すぐさま援護を行うため、風を操ろうとするがそれを察した晴明がこちらに飛んでくる。
「させるかよ!!」
拳を突き出し、こちらに突っ込んでくる。すぐさま風の壁を作り出し、
稼いだ時間で指先に風の弾を作り上げ奴に向かって撃ち放つが、奴はそれを察しており
手に持った札から大量の水を打ち放ってくる。
(・・・・・面倒だな。)
風を使い、分子レベルにまで吹き飛ばすことはできる。だが、それでは
上に作られた酸の雲に水分を送ることになってしまう。
雨が降り注ぎ、純恋達の体に当たれば終わり。
対処自体は簡単にできるが、炎などで安易に対処すれば雲が循環するだけであり、
これを吹き飛ばさなければ脅威にさらされ続ける。
『・・楓。』
向こうからの仕掛けに来たことで少し焦ったが、風を使えるのは俺だけじゃない。
楓の指示を出し、目の前に迫る水を止める。
「チッ・・・。焦ってくれねぇか。」
強い神力が込められた水だ。これも神の力を持った水なのだろう。
俺の指示を受けた楓は黒い風を巻き起こし、雲をどかしていく。
冷静になれば簡単に対処できる場面だからこそ、部隊の核である俺の混乱を誘ったのだろう。
『阿保。毎度簡単に思考を奪われるな。』
不甲斐ない姿を見たハスターに怒られる。もう少し仲間を信頼して立ち回れと
叱られるが、そんな俺達を尻目に戦場は動き続けている。
「拓郎!!一度退け!!!」
道長に仕掛けた拓郎に対し、陽菜がすぐさま退けと言い放つ。
爆発的に面積を広げた水蒸気は近くにいた拓郎のすぐそばまで迫っており、
口元を隠しながら縮地を使い距離を取った。
「・・前線、そのまま維持。第二部隊、行きましょう。」
陽菜の元にたどり着いたことを確認した千夏さんが指示を送ると
ちーさんとゆーさんも動き出す。大きな動揺を見せていた二人だが、しっかりとした
視線で手に持った小銃に付いたスコープを覗いており、引き金を引く。
打ち放たれた銃弾は燃え上がる道長へと突き刺さるが、柔らかい胴体を貫くことなく
体内に残っている様で、僅かな間を置いた後変化が訪れた。
「グラーキの厄介な所は汚染だ。そこをまずは何とかするよ。」
炎の中から飛び出してきたのは大量の土。弾丸に込められいたのは札と同じ要領の
封印術であり、大量の土が込められていた様で体内の水分を吸い取った土が
炎によって乾いていく。
「・・私の出番、まだ?」
「逸るなよ。あれは近づくだけで厄介な奴だ。アンタは千夏の指示があってから
飛び出すんだ。」
地獄の炎は燻る様子を見せず、奴の体を焼いている。
これでは体内に土を埋め込む理由が無い様に見えるが、あれは体内からの水分の放出を
未然に防いでいるのだろう。汚染された体。それをちーさんが恐れている証拠だ。
「・・・・・あの土。どれくらい体液を吸えますか?」
「かなり吸えるだろうけど、信用してもらっちゃ困る。あれは栓だよ。一時的なね。」
「そうですか・・・・・。」
「千夏。私らを買いかぶりすぎだし、奴を甘く見過ぎだ。あんなもので
優位を取れたなんて考えちゃいけない。グラーキってのは旧支配者の一柱。
カタノゾーアとシュド=メルと同等の力を持っているんだ。」
二人の喉が響かせる空気の震えから聞く内容。それはグラーキの実力を測りかねている様子。
陽菜と拓郎の主とした攻勢。木で拘束し、炎で体を燃やす。
光は二人の補助役としてついて行ったのだろう。
あの様子から察するに、奇襲の内容としては定まっていたのは陽菜達の連携だけであり、
ちーさんの一撃は恐らくアドリブ。
「分かっています。引き続き、遠距離からの攻撃は任せますので
私が出来ることがあればすぐに言ってください。」
リスクある行動に対して曖昧な策を敷く事を千夏さんは嫌う。
情報の無い相手にあえて大まかな指示を出していない所を見るに、はやりちーさん達を
信頼している事を再認識する。
「真奈美さん。そちらはどうですか?」
千夏さんが足元の影を靴のつま先で叩くと、影から真奈美が顔を出す。
確かに姿を見せていなかったが、どうやら俺達とは別行動をしていたようで
その報告を千夏さんは求めていた。
「・・別段動きはありませんねぇ。」
「承知しました。続けて調査をお願いします。」
「真奈美。それとは別にグラーキの影を探してくれ。もしかすると
遠くに逃げるかもしれない。」
ちーさんの頼みも聞いた真奈美は再び影に沈んでいく。
召喚陣があったこと以外、遺跡に対しての情報は無い。
何か新たな発見があったのか、それともめぼしい情報を探し続けているのか分からないが、
あの人は無駄な事はしない。余裕がある時に尋ねる事にしよう。
「なかなかにいい選択を取るな。道長殿相手に善戦するとは・・・。」
俺に迫ってきた晴明は、少し距離を置きつつ千夏さん達の様子を伺っていた。
「・・あの人達は人間。人間の身で地球上の神の力を使い戦っています。」
現代とは環境の違う古代の時代にクトゥルフを追い払った神々。
今はクトゥルフによって次元が隔たれたが、その役目は人類に引き継がれた。
それを示すには千夏さん達の勝利が必要。今までも証明してきたと言われるかもしれないが、
結局は宇宙の神の力を使う俺が止めを刺してきたからだ。
「奴らが道長殿を倒すことに意味がある。そう言いたいんだな?」
俺の方を向いてくる。その表情は穏やかだが殺気は未だ残されている。
「ええ。そして・・・あなたは宇宙の神によって再び命を落とす。
さあ、早くかかってきてください。念願でしょう?」
奴は踏み込めば俺に拳を向けられる。だが、踏み込んでくる気配はない。
「お言葉に甘えたい所だが・・・・・もし踏み込めば後ろから視線を送ってきている
奴らに背中を刺されそうなんでな。」
千夏さん達以外の仲間達が、飛びかかった瞬間を狙っている。
もし一撃を叩きこめば、言葉通り背中を刺される事だろう。
「しかし・・・冷静だな。攻勢に出てもすぐさま対応される。しかも、
お前が手を貸さんでもな。」
式神であるグラーキもとい、道長がいれば簡単に倒せるとふんだ晴明のミスだ。
奴の言う通り、このまま追い込むことも可能。
「小競り合いをしただけでしょう。嫌に弱気ではありませんか。」
「負け戦が嫌いなもんでね。手の内を全て出していない状況で負け筋を歩むのは
将に合わないだよ。」
・・頭が冷えてしまった。冷静な晴明ほど、厄介なものではないだろう。
「ご指摘通り。次の手を打たせてもらおう。」
取り出した札。一体何枚持っているんだ?
このまま道長を押し込む算段をつけていた中、晴明は再び次なる一手を差してきた。
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