第四百六十八話 古代の神の力
「・・・・・・・・・・・・・。」
一人。犠牲者がでた。腹部を貫いた拳が証明している。
楓の一撃を庇った誰かが命を散らした。
あまりにあっけない結末を迎え、拳を打ち放った晴明さえも驚きの表情を浮かべるが
すぐさま歓喜の笑顔を浮かべにかかる。
「クソッ・・・!!!」
誰かが身代わりとなった代わりに打ち放つことが出来た鋭い爪は
同じく晴明の丹田に打ち放たれるが、鍛え抜かれた筋肉によって内臓まで届くことなく
途中で止まってしまう。
「まずは・・・一人だな。」
想定外。連携を重視することのない立ち回りの代償が俺達の目の前に映し出されていた。
人数は未だにこちらの有利となっているが、この代償はあまりに大きく
俺達の心に大きな傷を与える。
(誰だ・・・?)
一体誰が犠牲になったのか。飛び交う星々がその姿を隠し確認が出来ない。
急いで風を動かし、事実を確認するが・・・その姿を見た途端、不可解な身代わりの意図を
すぐさま理解した。
「さて・・・次は・・・!?」
拳を引き抜こうとした晴明の腕が突然炎に包まれる。肌に張り巡らされた痛覚が上げた悲鳴が
異常事態を報せ、急いで手を引き抜く。
「逃がさねぇよ・・・!!!」
腹部に穴をあけながら、晴明の腕を掴み炎で包み込む。
楓を助けに入ったのは火嶽。確かに火嶽の炎の体であれば、無暗に庇う事や
敵の攻撃を受けることができる。
「な・・んだこいつは・・・・・!!!」
次々と襲い掛かる予想外の展開に、晴明はとうとう苛立ちを露わにしだす。
火嶽の体から襲い掛かる火の手を払おうと拳を振るうが、意識が削がれた結果
打ち放たれる星々が体を削りにかかった。
「ぐっ・・・・・!!!」
当たる寸前に接近に気が付き、何とか体を逸らしにかかるが重力の影響もあり
避けきることが出来ずに肉を抉り取っていく。
近くには火嶽だけではなく楓もおり、タリウッドと火嶽達の両方に対応するのは
難しい状況にまで追い込んでいた。
「じゃあ・・・こっちだ!!!」
これはチャンスだと純恋も攻撃を行おうとしていたが、すぐさま切り替えた晴明が
火嶽達から距離を離し、懐から札を取り出す。
「朝霧を払う吐息!!!」
距離を離さまいと星々を向けるが、流星群に向かって放たれた札からすさまじい突風が
吹き荒れる。その風の中には強大な神力が込められており、それが神によって
放たれた風であることが離れてる俺達にも簡単に察することができるほどだった。
「・・打開してきたな。」
全部を相手にすることはできない。まずは片方を潰す必要がある。
苛立ちの中に隠された冷静な判断力が晴明の体を動かした。
そして・・・まともに喰らえば致命傷は免れない俺の風を一番に対処するという判断を下した。
だが、そんな俺の破壊の風はそう簡単に対処できるような代物じゃない。
それなりの強力な力をぶつける必要がある。
「ったく・・・こんな所で志那都比古神を使うなんてな。
かなり貴重なんだぜ?」
志那都比古神。伊邪那美と伊邪那岐の神産みによって生まれた大神であり、
日ノ本の島にかかっていた朝露を払うために伊邪那美が吹いた吐息から生まれた風の神。
鎌倉時代に他国から襲われた時に吹かれた神風は志那都比古神の力と言われており、
その力は絶大と言われている。
ここに来てさらなる手札。しかも国生みの神の力を使ってきた事には驚いたが
何はともあれ俺達の攻撃が奴の首元まで迫った事は大きな事実。
「良い弟子を育てたな。青龍よ。」
「そうじゃろう。だが・・・お前さんと同じく、龍穂も本気を出していないぞ?」
嬉しそうに青さんは語るが、別に全力を出していない訳ではない。
戦いとは初手から全力を出すものではなく、相手をおし量る様に徐々に手札を出していくべき。
隣に居る青さんからそう教わってきた事がこれまで続いている。
「本気ね・・・。まあ、お前さんの事だ。初めから飛ばすなと口酸っぱく言って
来たんだろう。」
「そうじゃ。貴様の様に全てをすり潰す様な戦いをするような奴は碌な奴にならん。
戦いとは敵の技量をほんの少し上回っていれば良い。
実力なんぞひけらかすほど邪魔な奴らが寄ってくるだけじゃ。」
晴明の言葉から察するに昔からこんな感じなのだろうが、
今まで賀茂家を支えてきた経験が実力を隠す教育を加速させたのだろう。
賀茂家という事が知られれば忠行が命を奪いに来る。
実力が成熟する前に襲われればひとたまりもない。だからこそ、日頃から
穏便に過ごすように教えてきたはずだ。
「分からんでもないが・・・実力を証明しなければ得るものも得られまい。
時には圧倒し、こいつには敵わないと周りに認めさせるのも大事なんじゃないか?」
「うるさい・・・と言いたい所だが、一理ある。まさか、貴様に諭される時が来るなんてな。」
・・徐々に戻りつつある晴明を守る大国主の加護。だが、未だ完璧には戻っていない。
青さんとの会話の途中、銃弾を受けた周辺を庇う様に触っている所を見ると
楔は未だ取れておらず、かなり有効であることが見て取れる。
「・・お話しはそこまでにしましょう。」
何時楔を引き抜かれるかはわからない。だが、ちーさん達の事だ。
また攻めあぐねることがあれば使ってくれるはず。
「青さん。」
焦ることは無い。確実な一撃を晴明相手に叩きこむことだけを今は考えればいい。
手札はまだある。それらを有効に使うため、青さんに声をかける。
「・・承知した。」
遠くにいる千夏さんの補助だと伝えずとも、翼を羽ばたかせて移動し始めた。
「いいのか?青龍は強力だ。それに・・・お前の師でもある。
近くに置いておくだけでも有効なはずだぞ?」
「ええ、その通りです。ですが・・・元使役者である貴方では有利に働くか分からない。
それに・・・・・。」
俺の影から新たに増援が現れる。禍々しい鎧。背中には煮えたぎるように
深く、そして強く燃える炎を背負った頼もしい味方。
「・・ほお。これまた珍しい。」
「あなたに教えてあげますよ。現代の陰陽師の強さを。」
山本五郎座衛門と騰蛇の二体童子の神融和を行った桃子が姿を現した。
「それは・・・ぜひ、教えていただきたいもんだな。」
純恋、桃子。そして楓に火嶽。俺を含めた五人は安倍晴明と再び相対する。
各々が強力な式神との神融和や特異な力を持つ異端な力持つ者達で構成された部隊。
それと・・・離れた千夏さんは、残された奴らを率いて何かを仕掛ける準備を
整えている。
「・・やるぞ。」
この木星の部隊を率い、まずはあの神産みの力を持つ晴明を圧倒しなければならない。
そのための魔術を新たに準備し始めた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
少しでも興味を持っていただけたのなら評価やブックマーク等を付けていただけると
励みになりますのでよろしくお願いします!




