第四百六十七話 楓ならではの戦い方
楓の一撃を喰らった晴明は笑顔を浮かべている。
それは体に伝わる衝撃や痛みに対してではないだろう。
「面白いじゃねぇか・・・!!!」
俺達は明らかに警戒をしていた。接近戦はしてはならないと。
それは奴の剛腕に勝る力や実力を持った者がいない証だった。
「さあ、やりましょう。」
それは晴明も分かっていた。だからこそ、踏み込みに警戒はせずにいた。
先の戦いもある。まだ戦いの序盤でそれだけのリスクを負う必要はない。
「とんだ大馬鹿もんがいたもんだ。」
笑顔を向けた晴明は、音を立てて首を回しながら楓に近づいていく。
「それが・・・何か?」
「ふふっ・・・。自覚済みか。だが、悪くはない。一度見ただけで退くような
腰抜け達より何倍も良い立ち回りだ。」
意表を突くとはまさにこのことだろう。踏み込みを恐れて、遠くから立ち回れば
確かに致命傷は喰らわずに済むかもしれないが、晴明が俺達の力を消費させる立ち回りに
切り替えれば、確実に後の戦いに響くだろう。
それを楓は察して距離の近い立ち回りを選び、死地に踏み込んだ。
「だが・・・俺と戦えるだけの実力はあるのか?どうやら白虎には
好かれているようだが・・・。」
敵の意表を突くことは出来たが、成果はたったそれだけ。
下手をすると・・・楓は命を奪われる。
「・・劣っている事が、勝負負けたという訳ではありません。」
楓がどういう結末を迎えるか。それは周りにいる俺達次第。
意を決した楓の決断を無駄にするわけにはいかないと風を巻き起こす。
「私には頼れる仲間達がいます。力を合わせれば・・・必ず勝てる。」
毛皮や爪、耳を持ったなどの白虎の要素を持った楓の体が黒く染まっていく。
白い毛皮が黒く、俺の魔力の影響を受けていく。
「ほお・・・。かなり深い関係を築いている様だな。確かにあの風は厄介だ。
だが、奴の風は俺の首にかすりもしなかったぞ?」
そして黒い風を身に纏った楓は再び踏み込んだが、すぐさま反応した晴明も
拳で応える。見た所、大国主の力を取り戻しつつある。破壊の風で少しはダメージを
与えられるかもしれないが、絶大な効果は期待できない。
(なら・・・・・。)
隙をついての攻撃が無駄で終わる可能性が高いのなら、ここは楓の援護に徹するべき。
晴明が放つ拳の周りの空気を動かしにかかる。
先程は空気を固めただけではだめだった。奴の強靭な肉体と神力での
神体強化は強力。それを打ち破るのは難しいだろう。だが・・・威力を弱めること自体は
可能なはずだ。
「・・主神の吐息。」
破壊の風を奴が打ち放とうとしている体に向けて勢いよく吹き付ける。
すさまじい突風に襲われた奴の体には重力に似た目に見えない重みを感じているだろう。
「ふっ・・・!!!」
それでも動きをわずかに鈍らせるだけに留まる。どれだけの力を
あの体に有しているのだろうか?だが、その僅かな差は楓にとって十分すぎる隙に繋がる。
迎え撃とうと拳を打ち放つ体勢を整えていた楓はすぐさま動きを変え、
小さな体で低く踏み出し奴の足元に潜り込むと、片腕を地面に突き立て体を伸ばし、
下から晴明の顎を鋭いケリが貫いた。
「くっ・・・!!!」
予想外の一撃。俺の行動の意図を完全に読み切った上での一撃を決めてくれた楓もさすがだ。
重い一撃を喰らった晴明だが、体勢は崩れずすぐさま反撃を試みる。
だが、楓の一撃によって逸らされた視線は下に向けられた時。そこには楓の姿はなく
今度は十分に距離を取っていた。
「・・小さな体を武器にするか。」
「使えるものは全て使うのが戦いですからね。」
立ち回りは抜群。だが、俺達同様に大きなダメージは与えられていない。
「それに・・・一つ聞きたい。俺に”何”をした?」
顎を擦りながら晴明は楓に尋ねる。一撃を喰らった場所には傷一つ付いていないが、
代わりに魔力の跡が残されていた。
「何、ですか?私はただ蹴りを————————」
「隠しても無駄だ。先程の蹴りや体当たりもそうだ。君に触れられた場所には
違和感を感じるんだよ。それに・・・君からは人間以外の匂いを感じる。
人の奥底に熟れた桃のような匂い・・・・・君は一体何者だ?」
まさか・・・触れただけで楓がただの人間ではないと感じ取ってしまった。
「・・・私は人間です。紛れもなく、人間以外の何者でもない。」
クイーンサキュバスの力。今までの戦いでその力が存分に発揮されたことは無かった。
それは吸魔の力があまりに限定的な状況でした使えなかった事。
そして・・・今のような接近戦があまり起こらなかった事があげられる。
今回の楓の攻撃はその全てが服や靴の上からの一撃。
肌と肌。体液と体液などの限定的な状況でしか効果が出なかったはずだが
それらが改善されているのなら・・・力の使いようでは楓は俺達の仲間でも
大きな役割を持つ事位なる。
「隠されるのは癪だが・・・いいだろう。それなら自分で謎を解き明かすだけだ。」
じわじわと力を吸収し追い詰めていく算段なのだろうが、晴明は魔術を使う事が出来ない。
吸魔での弱体化を期待できないが、そんなことを楓が分からないはずがない。
何か意図がある。その意図に応えるためも魔術の準備を怠らずに次の一手に備える。
「探らせてもらうぞ・・・!!」
興味をそそられた晴明は踏み込んでいく。当然風の重力は奴に体に吹き付けているので
動きには鈍っている。
「っ・・・・・!!」
それでも、奴の動きは速い。先ほどの一撃を喰らった事でギアを上げたのかもしれないが、
それはまだこいつが本気を出していない証拠。
俺達はまず、晴明を本気にさせる必要があるらしい。
「・・黒牛の群流星!!」
一度仕切り直された後、重力込みでも晴明相手に接近戦を一人で仕掛けるにはあまりに厳しいと
倒れていたグガランナの風を使い、風の流星群を浴びせにかかる。
当然楓には当たらない様に風を操作しているが、楓の元にたどり着いた晴明に
流れる星々が当たらない。
「オラッ!!!」
星を避けながら楓に対し、拳を打ち放つ。一体何故星々を避けられるのか。
視線は楓に向けられているはず。だが、全方向に目が付いているかのような正確な
動きの秘密を俺は知らなければならない。
「・・・・・・!!」
動きを鈍らせた一撃に対し、楓はしっかりと避けて懐から取り出していたクナイを投げつける。
星々に対し、意識は削がれている事は確実であり、さらなる負荷をかけてから仕掛ける気だ。
だが・・・・・晴明はクナイの存在を気にすることなくそのまま拳を打ち放つ。
鋭い歯が皮膚を裂き、肉に刺さったのにも関わらず・・・楓に拳を打ち放った。
楓も鋭い爪を突き立て襲い掛かろうとしているが、楓の馬鹿力があろうと
晴明の前ではあまりに非力。拳と爪では鍔迫り合いは出来ず、粉々に砕け散ってしまうだろう。
これはまずいと星々を集めて防ぎにかかろうとするが、
楓の視線がこちらに向いていることに気が付く。何か・・・企んでいる。
「・・こっちだ。」
爪と拳が当たる寸前。鋭い爪の軌道がずれていることに気が付く。
両方がぶつかることなく、拳が描く軌道の先には先ほどまで居なかった人影が一つ。
「・・・・・・・・・!!!」
打ち放たれた晴明の拳。拳が貫いたのは・・・・・胴体。
突然現れた人物の丹田を、拳が貫いていた。
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