第四百六十五話 日ノ本の悪しき体制
安倍晴明を満足させるため。そのために余裕は剥がすために純恋を呼び出す。
背に太陽の環を携えた純恋は玉藻の前との神融和を行っていた。
「まだ現世に留まっていたのか。殺生石に封印したあげく、力を奪ってやったってのに。」
「たったそれだけで・・・この世を諦めるなんてもったいないやん。」
純恋の口調から、玉藻が意識の前面に出てきている事が分かる。
諸説あるが・・・玉藻の前を封印したのは安倍晴明とも言われており、
面識があってもおかしくはない。
「そうか?そこまでしてこの世に留まる意味が俺には分らん。
どれだけ登り詰めようと、結局は皇の隣に立つ事すら叶わんのだ。
師匠もお前もだ。結局は登り詰める事が出来ん世界で足掻く意味がないではないか。」
この言いかただと・・・きっと、晴明も一度は日ノ本の頂点を掴むことを
考えたのだろう。だが・・・結局はそれは不可能に近い事を理解している。
「お前さんの口からそのような言葉出るとはなぁ。野心から言葉と
真反対にいた男やと思ってたわ。」
「一度ぐらいはな。だが、俺が頂点に立ったところで混沌の時代が訪れるだけ。
平穏が訪れていた平安を乱す意味がない。」
当時でもこの力を発揮していたのなら、皇を襲いその地位に成り代わること自体は
可能だったのだろう。だが、皇に成り代わるほどの大義を得ることが出来なかった晴明は
どれだけ統治に力を入れようと、武力で制圧したという事実は民からの恐れに繋がる。
日ノ本の頂点に立つことが民のためにならないという事実を受け止めて晴明は、
民のために野心を捨て去ったのだろう。
「・・面白ないなぁ。何のための野心なんや。
自らの目的を果たすため、分け目も振らずに突き進むのが面白いやんか。」
「王とはそういうものなのか?人を率いる者の素質に、それがいるとは思えん。
野心を持つこと自体を否定する事はせん。だがな、それでは上に立つことが出来たとしても
その背中に人が付いてこないだろう。」
その言葉を聞いた玉藻は口を開くことはしない。
今までの経験から、晴明の言葉を否定できない。そして・・・俺も同意見だ。
「上に立つ者。そして立ち続ける者はな、人を惹きつけ続ける理由が必要だ。
それが力であるのか、人柄であるのか。それはどちらでよい。
それが無ければ人の上に立ち続ける事など出来っこない。」
「・・・・・久々に出てきたと思えば、口数が多いな。」
明らかな苛立ちを見せた玉藻は、小さな炎を手のひらの上に作り出して晴明向けて
打ち放つ。
「これまでの日ノ本には力無き者が頂点に立ってきたやないか。
それを・・・どう説明してくれる?」
光り輝く炎に包まれた晴明に向けて尋ねる。
力無き者というのは・・・皇の事を指しているのだろう。
「鳥羽の奴もそうだった。私欲に飲まれた奴を手玉に取るのは容易かったで?
力無き者が支配し続けた結果が、今の日ノ本や。内々に抱えていた癌を排除できず、
命を奪われかけとる。」
一度国を傾きかけさせた国賊の言葉であること間違いない。
だが、大きく否定も出来ない。それは・・・賀茂忠行が率いる千仞と戦ってきたからだろう。
「・・まったく。俺は敵だぞ?癌張本人に言ってどうするんだ・・・。」
燃え上がる炎の中、晴明の声が聞こえてくる。
「だからこそ、”格”があるんじゃないか。」
突然炎が急速に動き出したかと思うと、腕を横に振るったでろう晴明の姿が
炎の中から現れ、その動きに同調して巻き上げられた炎が天に昇って行った。
「格というのはその一族が如何に力を持っているかを示している。
過去の栄光とそれらを結ぶ強い絆。それらを示すことで皇という日ノ本の王を支える土台を
作り上げているんだ。確かに・・・栄光を掴んでおらず、過去の実績だけで
その椅子に座っているたわけもいる。だが、それでもだ。国にはそれが必要なんだよ。」
炎を簡単に跳ね返しつつ、玉藻の言葉の刃を返す。
「分かっているのではないか・・・。だったら———————————」
「だったらなんだ?それさえも破壊すればいいとでも言うのか?
俺にはそれは出来ない。日ノ本の全てを支えるぐらいではない・・・とな。」
先ほどまで互いに向けられていた視線が、俺に集まっていることに気が付く。
「・・なるほど。」
二人が語ったのは俺に向けての事だ。俺が今からどれだけの事をするのか分からせるために。
「・・わざわざ玉藻に変わってやったんやで。感謝しろや。」
まあ、玉藻自体も晴明も語りたいと言っていたのだろう。だが純恋がそれを許すことは無い。
俺のためになるならと許可を出したのだろう。
「どうやら、俺が思っていた以上に君を思う仲間が多い様だ。
同じ様な事を指摘する奴らもいた事だろう。だが、これだけは言える。
君が行おうとしている事はこれまで日ノ本が築き上げてきたことを全て壊す行為だ。
それでも・・・君は前に進もうとしている。」
「・・・・・はい。」
「確かめることもしない。だが・・・・・いや、これは時が来たら聞くとしよう。」
何かを尋ねようとした晴明だが、言い留めて俺へと相対する。
「その時が来ればいいんだが・・・な。」
その時というのは、俺が晴明を倒した時の事を指しているのだろう。
たった僅かな小競り合い。それでこの言葉が出たという事は、俺は舐めれている証拠だ。
「・・まだ本気を出していませんよ?」
「そうか。それは楽しみだ。」
玉藻との会話を終えた晴明の中から無邪気な純粋さが抜けている様に思える。
ただ俺との戦いを味わう事から、この国を変える者にふさわしいかを
確かめる気なのかもしれない。
「それにです。俺には・・・仲間達がいる。ここにいる純恋、そして影の中に潜む仲間達と共にあなたを打ち破る。俺の答えはそこにあります。」
既に答えを出している。それを・・・俺達は見せつけるだけ。
純恋の合図を送り、こちらも臨戦態勢に入る。この状況で一番恐れなければならないのは、
晴明の接近。奴が俺達の元へたどり着けば、まともに打ち合える者はいないからだ。
「じゃあ・・・見せてもらおうか!!!」
始めて仕掛けてきた晴明。縮地など、特殊な歩法を一切使わずとも目にもとまらぬ速さで
こちらに向かってきている姿は脅威でしかない。
「来るで・・・!!」
隣で声を上げる純恋を諫めるため、安心しろと声をかける。
奴がどれだけの力を持っていたとしても、やりようはある。
「・・・・・なんだ?」
大きな踏み込み。俺達が何もできないとふんだ晴明は何も気にせず踏み込んだが、
奴が切り裂いてくる空気は俺の支配下。全ての動きを全力で止め、接近を防ぎにかかる。
だが、わずかな違和感しか感じないほどの強靭な足腰で接近して来る晴明。
いずれここにたどり着くが・・・たった僅かな隙は俺達にとってまたとない好機だ。
「行け。」
動きが鈍った瞬間。何かが晴明の体にぶち当たる。空気を引き裂き、強靭な体に
ぶつかったそれは、現代の技術で作り上げられた弾丸。
「いっ・・・!!」
「これは効くようですね。何が基準かはわかりませんが・・・たったそれだけでも
俺達にとっては十分な収穫です。」
魔術は威力不足。だが・・・晴明が知らない技術が他にもある。
それらと俺達の力を組み合わせれば・・・・勝機は必ず見いだせる。
「さあ、やろうか。みんな。」
俺の言葉に答える様に、遠くから小さな音がいくつも聞こえてくる。
辺りの捜索は済んだ。後は・・・俺達らしく戦い、晴明を倒すだけだ。
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