第四百六十四話 馬鹿げている童の姿
辺りの空気を操作し、黒く染め上げる。
「ふむ・・・。やはりだ。感じたことの無い力だな。」
安倍晴明が知らない魔術。その力を存分に見せつける様に。
「神の力を感じたが・・・やはり別の力の様だな。」
それは一体何なんだと尋ねてくる。有利を取るために不必要な情報を与えない方が
良いのだろうかと一瞬ためらうが、ここはあえて魔力という存在が世界にあると
教えることを選択した。
「古来の日ノ本には無い・・・いや、必要とされなかった力、魔力です。
神の力を頼りにせず、人間が使う事が出来る力は日ノ本の海の外で多く使われました。」
「唐・・・から来た技術では見なかったな・・・。」
「当然じゃ。貴様がこの世から去って約千年後に入ってきた技術。
さあ、龍穂。思い知らせてやれ。」
魔術と神術。同じような力を発揮する技術だが、その中身は大きく異なる。
「・・天の黒牡牛」
黒い風の牡牛を作りあげ、晴明へと突進させた。魔術と神術の大きな違いは
詠唱速度と出力にある。簡単な呪文であれば誰でも使え、しかも無詠唱でも
発動できる魔術と発動にかなりの動作が必要になる神術。
それだけ神術の威力が高いと言う証だが、発動に時間がかかるので手数では俺の方が有利。
「ほお・・・さらに面白いことをしてくれるな。」
神術で戦う者と戦う場合は詠唱を阻害を行うか、詠唱をさせないために
早期決着の狙うのが常套手段。だが、魔術を極めれば神術に近づくと言われており、
早期決着を狙わずとも手数と威力で押し込める事が出来る。
そんなことが出来るのは日ノ本どころか世界でも指折りの猛者だけだろうが、
俺の風も神術相手に十分に戦える。その自負はある。
「ここまで来ると・・・もはや神術だな。何も語らなければ
そう勘違いする者も多いだろう。」
伝説の陰陽師からもお墨付きをいただいたが、破壊の風をまとっているグガランナ相手に
地に足をつけており、逃げる素振りは一切ない。
「恐み恐み・・・・。」
懐から一枚の札を取り出すと、自らの胸に張りつけ祝詞を唱える。
「・・良し!!!」
そしてしこを踏み腰をかがめると、迫るグガランナの角に向けて両腕を伸ばした。
(・・・・・本気か?)
破壊の風は触れるだけで何もかもを破壊する。無知ゆえの行動だろうが、あれだけの
実力者であればグガランナが危険な存在であることぐらいは察することができるだろう。
それでも受け止める判断をつけた理由。自分の実力なら受け止められると思ったのか、
それとも何か策があるのか。いずれにせよ、俺からすればありがたい事この上ない。
「やれ。」
避けに来るとばかり思っていて多少の方向転換が聞く様に余力を持たせていたが、
受け止めてくれるのであれば問題ないと全速力で踏み出させる。
その瞬間、辺りに衝撃波を放ちながらの突進で強大な角を晴明に突き放った。
「オラッ・・・!!!」
音速を超える突進を避けることなく晴明は受け止める。
破壊の角を、しかも素手で受け止めた手は吹き飛ぶことは無く、しかも若干後ろに押し出される
だけでその勢いを体幹だけで止めてしまった。
「マジか・・・!?」
あれだけの衝撃を受けて無事であること自体も驚きだが、何より本当に受け止めたことが
信じられない。あれを受け止めたのはいずれも人の姿を保っていない化け物達。
いや、晴明も十分に化け物だが、それでも神に体を預けていない。
「あやつ・・・大国主の力を借りおったな・・・。」
大国主と言えば出雲王朝を作り上げた神であり、皇の子孫にあたる日ノ本に置いて
重要な役割を持った一柱。
奉る神社の数もけた違いであり、その多くは縁結びの神として奉っているが
日ノ本を守る守護の神としての役割を持っている。
「守護の神・・・ではありますが、それはこの日ノ本の国土に対してであり、
一個人の人間を守るなんて事が可能なのでしょうか?」
「大は小を兼ねると言うが・・・護国ほどの力を個人の対象へ縮小させるのは
相当な技術が必要となる。あれは奴にしかできない技術。厄介だぞ。」
そもそも大国主は多くの力を持つ強大な神。それを防御のみに特化かせ且つ
対象を一個人へに集中させるなど、大国主との信頼関係を深く築いていなければ
最低限スタートラインに立てないほどの技術。
「なかなか・・・やるじゃねぇか・・・!!!」
勢いを殺されてしまったグガランナも負けずと掴まれている角を回転させて
状況の打破を試みる。破壊の風が晴明の手を削り取ろうとするが
守護の加護をまとった奴の手は皮膚が剥がれ、肉が削ぎ落されるどころか
しっかりと角を受け止め回転を止めにかかろうとしている。
「若い頃は力比べなんぞいい・・・こうして牛を投げ飛ばしたもんだ・・・!!!」
腕には血管が浮き出てきており、持てる限りの力をグガランナに向けて放っている事が
俺達からも分かる。そして・・・角の回転が収まりつつあることと、
漆黒の巨体が浮きつつあることも。
「ありえないだろ・・・。」
「・・龍穂。考えを改めろ。奴は不可能を可能にして来た男だ。」
青さんの言葉通りの結末が、眼前に生まれつつある。
「ドッ・・・セイ!!!!」
角の回転を完全に止め、グガランナを持ち上げてしまう。
そして頭上に大きく掲げると、そのまま後ろに倒れる勢いのままに投げ飛ばしてしまった。
「あっはっは!!!我、力は健在なり!!!」
倒れた晴明は体をゆっくり起こし、振り返りながらひっくり返ったグガランナを見ると
片膝を立てて満面の笑顔で高笑いを響かせる。
その力。人間とは思えないほどの力を発揮した自らの実力を確認できた喜び様は、
まるで無邪気遊ぶ子供だった。
「いいねぇいいねぇ!!やっぱり戦いってのはこうでなくっちゃな!!!」
力比べに負け、消えていくグガランナ。そして・・・嬉しそうに立ち上がる晴明。
平安時代でもこのように敵をなぎ倒していたのかもしれないが、
倒された相手はなんともやるせない気分になった事だろう。
自らの渾身の一撃を子供の様に無邪気で、そして圧倒的な力によってねじ伏られれば
戦う気など起きる訳がない。それほどまでに晴明との実力差、そして戦いそのものへの
認識の違いは今までの鍛錬を鼻で笑われている様に思えるからだ。
「さあ・・・次はなんだ?」
次なる手を待ち望んでいる晴明。俺を・・・自分を満足させてくれるおもちゃとでも
思っているのだろう。
「・・いいよ。」
「ん?」
「アンタを満足させる奴を・・・出してやる。」
こうも馬鹿にされれば俺も黙っていられない。ここは何とかしてでも
こいつの余裕は剥がしてやる。靴の先で地面を叩き合図を送ると、
俺の背後から準備を整えた純恋が姿を現す。
「・・ほお。また、懐かしい顔がいるな。」
背中に太陽の環を携えた純恋。玉藻の前と神融和を果たした姿で俺の背後に立つ。
そしてその隣には・・・調査を終えた八咫烏様もおり、
太陽の化身として真の力を発揮した姿がそこにはあった。
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