第四百六十二話 安倍晴明という化け物
情報を取る選択を取った俺達はは羽ばたいた八咫烏様達の報告を待とうとしていた。
「ぐっ・・・!!」
だが、そんな余裕を安倍晴明が与えてくれるはずがなく
勢いを跳ね返された青さん達はすぐさま追い込まれ始めた。
「なんだよ・・・。衰えたか?」
強大な力を持つ晴明に使役されており、供給される力を存分に使いながら
暴れていた当時の実力から劣っていてもおかしくはない。
「こやつ・・・強くなっているのか・・・?」
遠回しに俺達の力不足と言っているのかもしれないが、相手は伝説の陰陽師だ。
混沌を極めていた平安時代を都を守っていた男と比べられても仕方がないと
自身の喪失にはつながらない。
「・・潮時です。引いてください。」
俺達は今からこの人を倒さなければならない。これ以上の消耗は看過できないと
撤退の指示を送る。
「仕方が無いか・・・。下がるぞ。」
俺の指示を受けた三体は大人しく俺達の元へ戻ってきてくれる。青さんや白虎は
物分かりが良いが、騰蛇さえ素直に戻ってくるとなると、相当な実力差を感じたに違いない。
「なんだよ。遊びはもう終わりか?楽しかったんだがなぁ・・・。」
退いていく青さん達の姿を残念そうに見つめる晴明だが、踏み込む気配はない。
受け身で俺達の実力を測る算段なのだろう。
「じゃあ・・・次はご主人様が俺の相手をしてくれるのか?」
そして、わざわざ俺を指名してきた。どうやら歯ごたえのある戦いを御所望らしい。
「・・俺と戦いたいみたいだが、誘いには乗れないな。」
俺も男だ。格上と思われる陰陽師相手に何も考えずに単騎で戦いたい気持ちはある。
だが、そんな個人の感情を優先して有利を放棄するのはあまりに愚か。
ここは仲間達と共に戦う。それが俺の下した決断だ。
『動けない三人を後ろに配置。千夏さんはその前に立って援護をお願いします。』
残りの純恋達は俺ととも戦ってもらうが、奴の狙いは俺。
各個撃破など簡単に狙う事が出来る相手を前にすれば、俺が前に立つのは必然。
「おっ?なんだなんだ?誘いに乗らないといいつつ、前に出てきてくれるじゃないか。」
噛みしめるように踏み出した足。そして、札から黄衣を取り出し見せつけながら身に着ける。
「しかも、だ。初めから全力を見せてくれるなんて嬉しいねぇ。」
「あなたほどの相手を前にして手加減は出来ません。」
・・強大な相手だ。この人の前に立ち、敵意を受けて初めて分かる強さ。
(こりゃ・・・やばいな。)
賀茂忠行以来だろうか。一目見ただけで勝てないかもしれないと思ったのは。
実際に戦い、その厄介さを実感してそう思う事自体は何度かあった。
平安京の守護者、安倍晴明。青さん達を軽く捻るのも頷ける。
「いいねぇ・・・。俺も同じだ。強者相手に手を抜くなんて無礼を働くに気にはなれない。」
腕を回しながら臨戦態勢を整える。青さん達との戦いは準備運動にすらならなかったのだろう。
「・・俺もですよ。」
どう戦うかを人間相手に考える事など初めてだ。踏み込む、魔術を放つ。
どうやって戦っても返り討ちに会うイメージしか湧かない。
いつもであれば仲間を頼りにして連携で打開してきたが、これだけの相手に攻撃を行い
狙われてしまえば守り切れる保証は一切ない。
それにだ。俺は啖呵を切って一人で前に出てきた。安倍晴明の言っていた通り、
男の戦いで初めから仲間に頼るなんて無礼をしたくはない。
(・・・・・・やるしかないな。)
こうなってしまった以上、正面から打ち合う他ない。安倍晴明に勝てなければ、
師である賀茂忠行に勝てるはずもない。
辺りの空気を掴み、いつも通り黒い風の弾を作り上げながらゆっくりと近づく。
「・・ほう、面白いな。」
腰に差した得物の柄に指を掛けながら足を踏み出すを俺を見て、
晴明は腕を組みながら顎に手を添えて呟く。
何も仕掛けることなくゆっくりと近づくこと自体に興味をそそられたのか、
それとも俺の魔術に興味を示したのか。どちらにせよ、気にする必要はない。
「兎歩か・・・。まさか現代まで伝わっているとはな。」
俺が踏みだそうとした瞬間、思いもよらない言葉が放たれる。
まさか・・・・・平安時代に一兎流が存在していたというのか?
(なら・・・・・。)
出鼻をくじかれる所だったが、兎歩を知っているのならそれなりのやり方がある。
僅かに音を立てながら地面を踏み、晴明目掛けて駆け出す。
「来るか・・・。」
縮地とは違い、兎歩は細かく跳ねながら敵に近づく。
見るからに身体能力の高い晴明は、動体視力だけで俺の姿を捉えてもおかしくはない。
「・・・・・・・・・・・・。」
周りを跳ねながら様子を伺う俺の姿を奴の視線が離れない。
じっと見つめ、俺が突っ込んでくる所を捉えるために膝を曲げて腕を曲げる。
(マジかよ・・・・・。)
まさか本当に肉眼で取られてくるとは思わなかったが、それなら好都合。
足の裏に力を籠め、一歩一歩の速度を上げて奴の視線から逃げようと試みる。
「早いな・・・・・。」
跳ねるたびに速度を上げ、緩急をつけると奴の視線が俺の残像へ向けられ始める。
これなら・・・いける。最大速度に達した瞬間、鞘にかけた指を押し上げ
抜刀の準備を行い奴の懐に飛び込んだ。
「・・そこだ!!!」
だが、何と安倍晴明は反応を見せ、飛び込んできた俺に向けて手を伸ばす。
「・・・・・残念。」
伸ばした手は俺の首元を的確につかもうと握られるが、奴が掴んだのは黒い空気。
最大速度に達した瞬間作り上げた空気の残像。足を床に付けた瞬間空気を
弾き足音をつけるなど、精密に作り上げた俺の残像にまんまと騙された。
「一兎流・・・!!」
俺を掴むために伸ばされた腕。奴の体は崩れている。残像を作り上げた瞬間影に潜り込んだ俺は
その隙を逃さまいと地面から飛び出し居待月を打ち放つ。
まさか影から飛び出してくるなんて思わない。この人達は奴に届く。
そう確信した俺は肌が切れる感触が柄に伝わる寸前、次の動きをどうするかを
反射的に思考し始める。
「ふっ!!!」
真正面からの奇襲は最低でも敵の肌に傷をつけ有利対面を取れる。
それが自然の摂理。敵の隙をついた一撃がいなされるはずがない。
だが、柄から伝わってくるはずの干渉は一切なく、代わりに空気を切り裂く風音だけが
俺の耳に伝わってくる。
「やるな!!!」
一体何が起きているのか。頭がそれを理解する前に視界の隅に見えた奴の足を
受け止めるため、刀身を立てて防御態勢を取った。
「重っ・・・!!!」
すさまじいケリが俺の目の前を襲う。六華で防いでいなければ吹き飛ばされていたどころか
その力と衝撃で上半身と下半身が離れていたかもしれない。
そう脳が判断してしまうほどの衝撃と反応速度。これは・・・人間技じゃない。
気付いた時には足が動き出し、晴明と距離を取る。奴の一撃を受け止めた腕は当然痺れ、
感覚ははるか遠くへ吹き飛ばされた。
刀がへし折れているか確認するため、刀身に視線を移すがこれまでの戦いを支えてくれた
六華の刃にはヒビはおろか刃こぼれさえない。
だが・・・奴は切れ味鋭い六花の刃に向けてケリを打ち放った事実は俺の衝撃を与え、
そして奴の脛には血や傷の跡が無く、本当に人間なのかと俺に再度考えさせる。
「これが現代の武術か!!面白い、もっと見せてくれ!!!」
ほんのわずかな小競り合い。たったそれだけでも分かる晴明の実力。
嬉々として俺を見つめる奴への認識を改める。現代に蘇った安倍晴明。
あれは・・・・・人間じゃない。今まで戦ってきた片野達や賀茂忠行と同類の化け物。
油断や隙を見せれば一撃で葬られる。そう理解した時、感覚の無い手を動かしながら
魔術を唱えていた。
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