第四百五十六話 揺らぐ信頼と、久しいルルイエ
影に落とされた先。そこは・・・見覚えのある場所。
だが、決して安堵できる場所ではなくほとんどの人間が警戒態勢に入る。
「ここは・・・・?」
来たことが無い拓郎は薄暗い空間を見渡しているが、
火嶽や陽菜達は既にここがどこか察している。
「・・ルルイエだよ。」
クトゥルフが封印されている呪われた地。ルルイエ内部に俺達はいる。
「な・・・んで・・・?」
「なんでだろうな。俺にも分からない。」
あのまま賀茂忠行との決戦に持ち込めばいい。たったそれだけだったはず。
わざわざ敵がいると分かっている所に俺を送り込む意図が分からない。
「・・ひとまずだ。俺達は俺達のやるべきことをしよう。」
頭の中に溢れる怒りや不満を必死に抑え込み、泰兄が言っていた俺達がやるべきことを
するために動き出そうと辺りの捜査を行う。
「いや、どうしろって言うんですか!?俺達がここでやれる事なんて・・・。」
明らかな動揺を見せる拓郎。東京結界が再展開されたとはいえ、
ルルイエ内部に入ったことでクトゥルフの力に心を蝕まれているのかもしれない。
「・・阿保。しっかりしろ。」
何もできないと慌てる木下を落ち着かせるため、陽菜が頭に手刀を入れてくれる。
「思考を止めるな、考えろ。やるべきことが無いなどとほざくのは得物を自ら手放すと同義。
しっかりと前を見据えろ。」
いつもであれば陽菜の役目は火嶽が担っていた。だが、長であり頼れる兄であったはずの
兼兄の意味不明な行動を目にし、心の整理が付かない様子。
そして・・・それはちーさん達も同じ。あの人の身に、そして心に。
一体何が起きたのかと動揺を隠せない。
「・・周り人影なし。一応、兼兄の言う通りであれば安倍晴明がここにいるはずだが・・・
かなり遠くに陣取っているのかもな。」
「・・・・・龍穂。」
辺りの捜索を終え、報告を行った俺に対し、純恋が視線を向けてくる。
「どうした。」
「あまり言いたくはないんやけど・・・兼定さんは本物だったんか?」
それは・・・そうだと言いたい。いや、そうであった・・・・・はず。
もし、仮にだ。あの兼兄が偽物だったとして、敵であったとする。
そうであったのなら・・・俺達をここに留まらせるために安倍晴明の存在を仄めかしたと
純恋は俺の視線で訴えかけている。
「・・・・・・・・・・・。」
それだけではない。下手をすればここがルルイエによく似た別の地である
可能性も否定できない。
「・・不安になるのも分かる。俺も同じだ。
だが、陽菜も言っていただろ?前を見据えろ。やるべきことをやれるだけやろう。」
状況が把握できない時。一番の敵は不安。全ての行動に複数の結果が生まれる可能性と
戦わなければならない。
「こうなってしまえば、ここからの行動に正解はありません。
ですが・・・正解にすることは出来ます。」
千夏さんは不安そうな純恋の背中をさすり、悩みの種を小さくしようとしてくれている。
先程は精神的なもろさを見せていたが、何とか立て直したようだ。
本来ならすぐさま行動したい所だが、こういう時に頼りになるちーさん達が
見るからに動揺しており先頭を任せられる状況ではない。
「・・・・・楓。」
だが、落ち着くのを待っている時間も無い。
千夏さんに視線で訴えつつ、楓を呼んで共に先頭を進む決断を下す。
「陽菜。殿を頼めるか?」
「断りたい所だが・・・そうも言ってられんな。いいだろう。」
いつも頼りにしていた白の面々が意気消沈してしまっている現状を打破するには
どうしても時間がかかる。このまま千夏さんや落ち着いた拓郎に任せ、
ルルイエの捜索を開始した。
「・・どこを目指しますか?」
「まずは出入り口の確保。安倍晴明を倒しても先がある。脱出のための道を確保しよう。」
以前ここへ来た時は海底に沈んでいたはず。
だが、片野との戦闘で海水は見ていない事を考えると・・・出入口は無いのかもしれない。
「・・・・・以前来た時——————————」
「安心しろ。風の通り道を見つけている。」
そう訴えかけようとして来た楓の不安をすぐさまふき取る。
外との干渉を阻む壁の隙間を流れる空気の流れをしっかりと感じ取っていた。
「・・では、大丈夫ですね。」
俺の返答を聞いた楓の表情からは不安が抜けていくが、ほんの少しの嘘を含ませていた。
(しかし・・・かなり広いな・・・。)
空気の魔術操作は範囲が広がれば広がるほど、魔力の消耗が激しくなる。
出来れば空気で触れて確定できる情報を全て取り切りたかったが、あまりに広い
遺跡に空気の操作を途中で断念してしまっていた。
それだけ広い空間だと、空気の寒暖差と広さで小さな風が起きる事もある。
空気の通り道を辿っても出口にたどり着かない可能性もあるが、
この状況で素直に伝えるべきではないと心の中にしまい込んだ。
(出来れば・・・・すぐさま外に出れれば一番良い。)
俺達を待っていると言っていたが、この状況で構っている暇などない。
ただ俺達と戦うためにいる奴など、無視するのが最善。
それが歴史上の偉人であり、陰陽師であれば一度は手合わせしてみたいと思うほどの人物だが、
ここは私情を優先するべきではない。
「・・本当に何もいなんやな。」
空気の流れに沿って歩いているが、クトゥルフの配下の神々所か深き者どもの姿も見えず
誰も襲われずにスムーズな移動が出来ている。
「・・・・・ああ。」
これが俺達にとって良い状況なのか、それとも罠に吸い込まれている様な悪い状況なのかさえ
何一つわからない。視界は確保しているのに暗闇の中を歩いている様な感覚のまま
ただただ足を動かす。
「なんでこんなとこに来さすねん。戻ったら毛利先生に言って
しっかり説教してもらわんとな。」
俺が純恋達に説得されている時、兼兄も毛利先生達から説得を受けていたと聞いた。
大切な者からの訴えを受けてなお、一人で動く理由は何なのだろうか?
思考の海に飛び込みそうになるが、空気の道が終わりを告げており現実に戻る。
「・・・・・ここだ。」
そこは・・・禍々しい模様が描かれている壁。
何かを示している壁画の様に見えるが、ここには空気が流れる隙間がいくつもある。
「なんやこれ。ここに何かあるっちゅうんか?」
「ここから空気の流れを感じる。おそらく・・・ここが出入口になる。」
「出入口って・・・これを破壊する気なんか?」
俺の言葉を信じ切れない純恋の答えに対し、あえて否定はせずに沈黙で返す。
外側から見ても分からないほど、内部は複雑に作られている様で
何か仕掛けがあるのは間違いないが、その仕掛けをわざわざ解く必要もない。
「・・一応、色々試す。だが、どうにもならなかった時、これを破壊して外に出よう。」
他の壁には隙間一つなく、深海の水圧に耐える所をみると相当頑丈な様だ。
弱い所を的確に突くことで、力を最小限に押さえつつ脱出が出来る。
この場所を先に開けてから安倍晴明に会う選択肢もあると、まずは仕掛けを解こうを
壁に近づき、見たことも無いおぞましい模様に触れようとするが、
「無視とは悲しいな。」
背後から聞こえてきた声に反応し、すぐさま体の向きを変える。
「ったく・・・。一応俺なりに気を使ったんだぜ?」
そこには・・・兼兄の言う通り、不機嫌な様子の安倍晴明が俺達を見つめながら
立ちふさがるように佇んでいた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
少しでも興味を持っていただけたのなら評価やブックマーク等を付けていただけると
励みになりますのでよろしくお願いします!




