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第四百五十五話 正気を失いかけている人物

体を伸ばし、悠長に構える兼兄は俺達に向かって口を開いた。


「俺がルルイエから脱出したもう一つ理由。

それは・・・俺があそこにいても意味がないからだ。」


「意味が・・・ない?」


意味がないなんてことはあり得ない。兼兄ほどの実力なら、もしあの内部に

賀茂忠行の配下がいたとしても対等以上に戦える。


「どういうことだ・・・?」


「ルルイエ内部はほぼもぬけの殻。クトゥルフを守る神々はおらず、

クトゥルフ本体すらいなかった。」


取れる情報が無いから帰ってきたという事か・・・。

であれば、ルルイエはなぜ浮上してきたというのだろうか?


「竜次達が戦っているのにこれ以上用の無い場所に居座ることができないと

退いてきたが・・・帰ってくる直前、面白い者を見た。」


「面白いって・・・そんな悠長な事言っている場合じゃないだろ?

少しでも情報を持って帰らないと———————」


悠長な行動は敗北に通ずる。ちーさんの怒りも当然だが、兼兄は構わず口を開く。


「話しを聞け。俺がここに来る決断をつけたのはそいつを見たからだ。

俺ではなく、”お前達をルルイエに向かってもらう”ために。」


俺達があの場にいなけばならないと判断できるほどの情報。

その情報に・・・俺達は覚えがある。


「・・安倍晴明か。」


「ご名答。奴があそこに入ってきてな。恐らく、俺がいたことも分かっているんだろう。

だが殺気を向けることなく、奥へ進んでいった。お前達は待つためにな。」


相応しい地で待つといいどこかへ去った安倍晴明。まさかルルイエが

奴の言う場所であったらしい。だが、もぬけの殻となったルルイエをわざわざ選んだ理由。

俺を賀茂忠行の元へ行かせない罠である予感を、ひしひしと感じていた。


「・・・・・無視はできないのか?」


構うことはない。竜次先生達と合流し、賀茂忠行と戦えばいい。

ただ浮上してきたルルイエが東京結界で機能を失った今、わざわざ乗り込む理由は存在しない。


「そうしたいのは山々だ。だが、あそこはクトゥルフが封じられていた島。

神が留まった島であるため陰の力の神力が豊富に蓄えられている。

それを・・・陰陽の神ともいえる安倍晴明が使えば何が起こるか分からない。

出来れば、対処するべきであると俺は思う。」


・・腑に落ちない。それでも、俺は兼兄に対して疑いを向け続けてしまう。

いかにも納得せざるおえない理由を俺達に押し付け、賀茂忠行と距離を取らせようと

しているように見えて仕方がない。


「思うって・・・今になってそんないい加減な事を言っている場合じゃ——————————」


既に戦いは始まっている所か、敵にいいようにされているんだ。

何を迷っている暇があるんだと声を張り上げようとするが、突然足裏の感覚が失われる。


「・・行くんだ。」


目線を合っていた兼兄が突然大きくなっていく。いや、これは・・・俺達が落ちている?


「なっ・・・!?」


何が起きているのか分からないが、このまま落ちる訳にはいかないと

空気を操ろうとするが魔術操作が上手くできず、視界が真っ暗に包まれる。

何もわからないまま、影へと落ちていく俺の脳裏には申し訳なさそうな表情で見つめる

兼兄の表情が焼き付いていた。


----------------------------------------------------------------------------------


「・・見事な裏切りですねぇ。」


龍穂達を奈落の底に落とした兼定の影が独りでに口を開く。


「ですが・・・間違ってはいないと思いますよ?最善であるかは置いておきますが。」


ルルイエにクトゥルフがいなかった事実は、兼定にとって大きな衝撃だった。


「・・・・・・・・・。」


「私にはわかりますとも。あなたの献身的な行動の意味。大切な弟。そして家族達。

そして何より・・・恋人のため。自らの手でこの長き戦いに終止符を打とうとするのは

当然の判断です。」


単独でルルイエに赴いた理由。それは・・・クトゥルフの討伐。

浮上したルルイエに潜むクトゥルフを倒し、賀茂忠行の目論見を全て破壊しようと企んでいた。


「あれだけ龍穂達を慎重に育てていたのに、自らただ焦って空回り。

正気を失った恋人を見たのか・・・。それとも、失った親友の仇討ちに走ったのか。

私には判りかねますが、なんとも人間らしい無様な姿です。」


「・・・・・黙れ。」


「そう拗ねないでください。私は褒めているのですよ?

ここまで付いてきた甲斐があったというものです。」


黒い影は立ち上がり、兼定の前に立ちふさがる。逃がさない。こちらを見ろと言わんばかりに。


「あの研究所で見たその時。あなたという人間がどう”壊れていく”が

私の心の興味をそそった。旅の途中、仲間を次々と失っていったあなたの精神が

削れていく様は私の興味をそそり続けた。」


光悦の表情を浮かべ、両手を両頬を掴むように天を仰ぐ。


「この十数年・・・。まるで葡萄酒を作っている様な感覚でしたよ。

砕き、発酵、圧縮して・・・樽に摘める。全ての工程をすべて一人で、私が作り上げた葡萄酒が今・・・完成されようとしている。今にもあなたは狂い、そして・・・

今までの全てを捨て去ろうとしている姿はまさに人間の愚の骨頂。理性など捨て、

感情的に破滅の道を歩むあなたは・・・一体どんな最期を迎えるのでしょうね?」


人間は追い込まれると、感情に支配される。理性など何もない。

業の長の立場も、白の長である立場も全て捨て去り、正気とは考えられない判断をつけた。

それは気が狂い始めている証。きっかけは一体いつだったのか。

もはや兼定本人すら、分かっていない。


「俺は・・・クトゥルフを殺す。お前はついてこい。」


初めからなのか。それともつい先ほどなのか。崩れかけた精神はあと一押しで粉々に崩れ去る。

もはや目的も薄れかけ、ただ怒りだけを指針として再び彷徨としたその時。


「いた・・・!!」


影に沈んでいく兼定の服を、掴もうと手を伸ばす人物がそこにはいた。




ここまで読んでいただきありがとうございます!

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