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第四百五十三話 唯一の逃げ場

「ふぅ・・・・・。」


古き英雄達の血を引く者と賀茂忠行との戦い。

東京の街を粉々にするほどの激しい戦いは、お互い誰一人として倒れることの無い

拮抗状態だった。


「・・互いに、拍子抜けと言った所か。」


瓦礫の上に立つ賀茂忠行は悠々と言葉を放つ。


「そうね。もう少し本気を出してくれると嬉しいのだけれど。」


龍穂がいない間に有利を取りに来る。そう呼んでいた竜次達。

時間が無いのは向こう側だ。精神的優位に立っている自分達が焦る必要ないと踏んでいたが

賀茂忠行は焦り一つ感じさせない立ち回りを演じていた。


「まあそう言うな。互いに謀がある。決着をつけるのはこの先だろう?」


東京湾に現れたルルイエ。不気味な島を使い何かを仕掛けようとしているのは明白。

だが、クトゥルフが封印されている島が放つ強烈な恐怖に誰も踏み込めていないのが現状。

敵の意図が読めているにも関わらず、何もできない状況に竜次達の心は蝕まれていく。


「それとも・・・そちらに策は無いのかな?」


見透かされている様な言葉を受けたが、竜次達は一切の動揺を受けない。


「それはどうかな?お互い、手の内に残されている札は少ない。

俺達も俺達でそれを有効に使うだけだよ。」


策などない。だが、強いて言えば龍穂達がそれにあたるのだろう。

姿を消した龍穂達は、泰国に会っていると春から報告を受けている。

それが本当であるのか定かではないが、泰国がそこにいるのなら何か仕掛けを打つはず。


「そうか・・・。期待しておこう。」


だがそれも賀茂忠行の策。想定の内であることも竜次達は知っている。

確実な策と、敵の手の内にある頼み綱。あまりに差のある状況に

必死に張った見栄も賀茂忠行には見え据えていた。


「だが・・・少々時間稼ぎも飽きた。少しは本気で--------------」


隙に生まれそうな竜次達に対し、余裕のある攻勢を仕掛けようと賀茂忠行が動いたその時。

東京の街に大きな変化が訪れる。


「これは・・・・・。」


失われていた東京結界が再び東京の空を覆い始めた。

原因不明で機能を停止していたと報告を受けていた竜次達に心を晴らすかのように。


「泰国の仕業だな・・・・・。」


龍穂達が東京結界を再展開するのは可能性が低い。

展開できるほどの力を有しているが、この東京を覆う結界を張る技術は龍穂達にない。


「まったく・・・やってくれるわい。

あやつらの術式を研究し、認識阻害で龍脈の機能を隠した上で

術式の封印を施したと言うのに・・・。」


忠行の言葉に、泰国の仕業だと竜次達は確信する。

この再展開は奴が仕掛けた策。そして・・・泰国が解除を試みた結果は

竜次達に希望を与えた。


「だが、これも想定内。遅い仕掛けだ。」


「・・いや、それはどうかな?」


東京内部に敵の拠点を侵入させてしまった時点で忠行の策は機能している。

この結界は蛇足。そう言いはる奴に対し、竜次達はにやりと微笑んだ。


「何・・・?」


「この結界。お前達に対して効果を発揮することは無いだろう。

それほどまでに、お前達が持っている力は強大だ。抑えきれるものじゃない。」


「そうじゃろうて。だから--------------」


「だが、俺達は違う。」


竜次が得物を持たない手を天に向かって伸ばすと、隠れていた部隊が姿を現す。

先ほどまでルルイエが放つ恐怖に心を支配されていた翼を持つ遊撃隊が

心の鎖を解き放ったかのように雄々しく翼を羽ばたかせ、忠行に対して殺気を突きつける。


「東京結界内にお前達がいる限り、その恐怖は俺達の心に届かない。」


日ノ本に対し、危機を及ぼす者の力を押さえつける効果を持つ結界。

あれだけ大きく皇を打ち倒すと宣言した忠行に対し、効果を発揮しないはずがない。


「これで・・・やっと仕掛けられるな。」


過程などどうでもいい。今は結果という追い風を背中に受け、翼を羽ばたかせるだけ。


(しかし・・・あいつは何をする気だ?)


余裕が生まれて思考の片隅に、同じく姿を消した兼定の行方の謎が収まる。

だが、今までまともに動くことができなかった家族達が得物に飛びかかるために

今か今かと指示を待つ視線を感じた竜次は、兼定の存在を頭から消し去る。


「・・・行け。」


万全とは言えないが、因縁の相手を目の前にして止めを掛ける理由は無いと

家族達の鎖を解く。だが、これが決して決定打を打つ目的ではなく、

あくまで龍穂の合流を待つ時間稼ぎでしかないと理解していた竜次達の心には

未だ闇が覆っていた。


———————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————


泰兄が姿を消した。これが・・・二度目の別れ。

それを理解した瞬間、体から一気に力が抜けるが膝が固い岩でできた床に付く前に

体が支えられる。


「・・・・・・・・・。」


声も出さずに支えてくれたのは・・・千夏さん。

泣き腫らしたその眼には決意の炎が刻み込められていた。


「・・・・・分かっています。」


悲しむ暇も、別れた現実を受け止める時間も、俺達には残されていない。

東京結界が張られた地上では大きな変化が起こっているはず。


「・・ひとまずだ。何はともあれ地上に出るよ。状況を確認しよう。」


東京結界を引けたとはいえ、俺への時間稼ぎが目的であった賀茂忠行によって

竜次先生達がどうなっているかもわからない。

賀茂忠行と決戦を行うのか。それとも有利な状況を築くための策を行うのか。

それらを決めるためには地上に出なければならないと、

目を赤くしたちーさんが先導を買って出てくれる。


「・・大丈夫か?」


階段を上がっていると、小声で純恋が尋ねてくる。

その表情は俺の酷く心配してくれており、泰兄を見送った俺の表情や態度が酷い姿であった事を

教えてくれていた。


「・・・・・ああ。」


「強がりはアカンで。あの人も言ってくれてたみたいに———————————」


最期まで言ってくれるなと、言葉を止めるために純恋の頭を乱暴に撫でる。


「頼らせてもらうよ。分かってる。」


これは・・・逃げだ。自らの情けなさからの逃げ。それを純恋に押し付けてしまい、

内心では申し訳ないと思っているが、それでも逃げずにはいられない。

分っているからだ。ここから先は・・・もう逃げ場などどこにもない。

虚勢を張ってでもみんなを支え、そして支えてもらわなければならないのだから。

このわずかな時間だけが、俺の逃げ場。そんな心情を察してか

いつもであればしっかりしろと突っ込みを入れる純恋が、背中を軽く叩くだけで収めてくれた。


「・・辛い所申し訳ないけど、ここから出た後のことを簡単に説明するよ。

まずはドアを出た後、安全を確保した後私達が連絡を取る。

そこで得た情報によって行動開始だ。いつでも動ける様にだけは準備を怠らないで。」


定石どおりの動きを指示してくれるちーさん。確かにそれが最善。

確実な情報を安全に得てからの行動は部隊を率いる者の務め。


「・・・・・やめましょう。」


だが、それは少なくとも俺達に余裕があってこその最善。


「・・何をだ?」


「泰兄を差し向けたのは賀茂忠行であるのなら、敵が待ち受けていてもおかしくはない。

安全の確保は同意ですが、奴がそんな悠長な暇を俺達に易々与えるとは思えない。」


未だこの地は賀茂忠行にとって優位な状況が敷かれている。ルルイエをどうにかしなければ

あの島から敵が大軍を押し寄せてくることも考えられる。


「じゃあ・・・どうするんだ?」


「お二人は我々が守ります。ですから、安全を確保を目指しつつ白達との連絡を試みる。

それと同時に知美と光は他の隊の状況を把握。これで行きましょう。」


敵の優位な場所で安全を確保できることを前提に動いてはならない。

ここは情報確保を優先するべきだ。


「ダメだ。安全は確保しなければならない。敵の奇襲も考えられる。」


「奇襲を受ける時点で安全ではありませんよ。

ここは安全な場所が無い事を前提に動くべきです。」


リスクある俺の提案に渋るちーさんの肩にゆーさんの手が置かれる。


「まあまあ。ちーちゃんの言う事も分かるけど、今回ばかりは龍穂に賛成だね。」


「・・ゆー。」


「別に面白いからじゃないよ。どこに危険があるか分からない所で安全な場所を探すよりも、

まずは情報収集を優先したほうが効率的だと思ったからさ。」


命を落とすことの無い行動を心掛けるちーさんにとって、俺に提案が飲み込めないは道理。

だが、それでも一手も二手も遅れる可能性がある。

敵の手のひらを駆けている状況で悠長な行動こそご法度だ。


「・・・・・了解した。龍穂の指示に従おう。」


渋々ちーさんが受け入れてくれた事で、俺達の行動指針が決まった。

目指すは・・・東京湾。そこに向けて駆けながら情報を集め、最終目的は竜次先生達と合流し、賀茂忠行との決戦に向かう。この場にいる全員に大まかな動きを伝え、

各々の役割を当てはめていく。

全てを当てはめたタイミングで扉の前にたどり着くと、全員が得物を手に持つ。

ここからはいつどこで戦闘が起きてもおかしくはない。警戒を解くことなくかけようと

声をかけ、ちーさんに勢いよく扉を開けてもらおうとしたその時。


「・・・・・待て。」


違和感を感じ、小さく呟く。張り詰めた緊張感だけが張り付く空間。

天井から滴る水滴が岩の床に落ちた音ともに送られてくる全員の視線。


「この先、誰かいるぞ。」


固く閉ざされた扉の先。空地操作によって探索すると、この先にいるはずの無い

人の姿があることに俺は気付いていた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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