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第四百五十話 忘れないために、許さない

俺達の元へやってきた泰兄。これが・・・本当に最後の別れだ。


『・・千夏さん。こちらを向けますか?』


優しく声をかけてくれるが、千夏さんは俺の胸から顔を離す素振りさえ見せない。

別れたくない。すぐそこにある現実から必死に目を背けている。


「・・・・・・・・。」


その姿を見た俺は、抱えている肩を叩いて顔を上げてくれと催促する。


「・・お気持ちは十分に分かります。でも、泰兄と話せる機会はもうありません。

これ以上、千夏さんが後悔する姿は見たくないんです。顔を・・・上げてください。」


賀茂忠行の策とはいえ、俺達は再び泰兄と出会う事が出来た。

この機会を逃すしてしまえば、今度こそ千夏さんは立ちあがれないかもしれない。


「っ・・・・・・・。」


それでも、千夏さんは顔を上げようとしない。

一度深い悲しみに落ちた経験が防衛本能として体を固めている。

でも・・・ダメだ。どう考えても千夏さんが心から後悔する姿が目に浮かんでしまう。

無理やりにでも・・・顔を向けなければならない。


「・・千夏さんが悪いんですからね。」


胸を借りている千夏さんの体を強く抱きしめる。みんなの前だが・・・これも全て

顔を上げない千夏さんのせいだ。


「・・もう一度言います。顔を上げてください。」


べそべそしている場合じゃない。泰兄には時間が迫っている。

逃げられない様に体を抑え、耳元でささやく。


「でも・・・。」


「俺達は一度、泰兄と別れました。悲しい別れだったのは俺達もよく分かっています。

ですが・・・あの人は俺達を守って命を落としたのです。それは泰兄にとっても

悲しい別れだったはず。その傷を、互いに深く抉る気ですか?」


言葉で動かなければ、後は強硬手段。手で無理やり引き剥がして泰兄に向ける。

そう決意していたが・・・胸に押し付けられていた顔が横に振られる。


「じゃあ、顔を上げてください。そうしないと・・・無理やり引き剥がしますよ。」


泣き顔でも何でもいい。とにかく・・・出来るだけ後悔しない方向へ千夏さんを

導かなければならない。ゆっくりと抱きしめる腕の力を緩めると、

胸から顔が離されていく。その動きと連動して俺の服を握る手には力が籠められるが、

ぶるぶると震えるその手は心に潜む負の感情と戦っている事を示していた。


「・・・・・・・・・。」


『やっと・・・本心の顔を見せてくれましたね。』


ゆっくりと顔向けた先には、満面の笑顔で迎える泰兄がいる。


「あっ・・・・・。」


その表情を見た瞬間、手の震えが一気に収まってしまう。

以前聞いた二人の出会い。布団にもぐっていた千夏さんが覗いた先に見えた表情と・・・

きっと同じなのだろう。


『私が命を落とし、封じられていた記憶を取り戻した時。

一番悲しむのはあなたであると分かっていました。』


「何故・・・。」


『・・貴方は私と居るべきではなかった。ただそれだけの事なのですよ。』


そうじゃないと小さく呟く千夏さんの姿は我慢する子供。

言いたいことを隠し切れず、本音が漏れ出している。


「いるべきじゃないとか・・・そう言う事じゃ・・・。」


『私と居たかった。ただそれだけ。』


そうそれだけ。千夏さんが泰兄に向けた心情。たったそれだけなんだ。

傍にいてくれればよかった。


『理と感情をぶつけ合っては折り合いがつかない。

なので・・・・・ここは、私も感情に身を任せましょう。』


俺達の前に膝を着き、手伸ばした先は千夏さんの上。

そして・・・そのまま優しく、頭の上に落とされた。


『私だって・・・あなたを置いていきたくはなかった・・・。

貴方の記憶を封印すると決めた時から・・・

悲しむことは分かり切っていたのですから・・・。』


優しく撫でる手はこめかみ、そして頬へたどり着く。

流れた涙を拭きとり・・・あやすように額と額を合わせる。


「だったら・・・!!」


『でも・・・付いてきてしまえばあなたを危険に晒すことになる・・・。

貴方を失う事など、私に考えられるはずがないじゃないですか・・・。』


千夏さんから聞いた話しだけでも、泰兄が可愛がっていたことは伝わってきた。

この人を置いて・・・立ち去るのは心苦しかっただろう。


「でも・・・!!」


『あなたには生きていて欲しかったのです・・・。分かってください・・・。』


泰兄ほどの人であれば、理屈で千夏さんを丸め込むことなど簡単だろう。

それでも、感情をぶつけ合う。納得などさせる気は一切ない。


『三道省合同会議の場であなたがさらされた時・・・心が締め付けられました・・・。

でも、全てはあなたのため・・・。他の高官達にあなたの身柄を取られれば

手出しは出来ない・・・。龍穂と共にいることがあなたにとっての最善・・・。

ああするしかなかったのです・・・!』


頬に触れる優しい手が震えだす。泰兄が・・・懺悔を吐き出すと同時に。


『許してください・・・!!あなたを・・・生かすためには・・・!!!』


心に溜まっていた後悔を吐き出していく。三道省合同会議の場で見せた冷徹な姿の中には

必死に偽りを作り上げていた泰兄がいたんだ。


『許して・・・・・・下さい・・・・・・。』


出てくるのは・・・謝罪と涙だけ。心は悲しみに支配されており、

このまま消えてなくなってもおかしくない。


「・・わかり・・・ました・・・。」


それほどまでに全力で全てを吐き出した泰兄の手に、優しく手を添えたのは

同じく涙を流していた千夏さん。


「くる・・しいですけど・・・。なっとく・・・できないですけど・・・・・。

でも・・・でも、うけいれます・・・。」


泣きじゃくりながらも、必死に声を出して泰兄を許す。

いや、許しきれはしないだろう。でも・・・これ以上、泰兄が苦しむ姿を見るのは嫌なんだ。


「ずっと・・・覚えておきます。あなたが私を置いていった事・・・。

許さなければ、今度は忘れません・・・。」


忘れない。忘れなければ・・・覚えていられる。

千夏さんらしくない当たり前のことを口にしているが、記憶から思いで消える悲しみを

知っているからこその言葉だ。


『許しては・・・くれないのですか・・・?』


「許しません・・・!絶対、ゆるしません・・・!!」


触れている手を解き、泰国を抱きしめる。これが最後。

偶然か、はたまた必然か。本来触れられない体の感触を確かめる様な優しい抱擁。


『・・・・・・・分かりました。』


許しを得られなかった泰兄だがその表情には悲しみは無く、晴れやかな笑顔で抱擁に答える。


(良かった・・・な。)


心残りを払拭できることは、俺達が決戦に集中できる何よりも好材料。

しかも・・・・・泰兄の言葉は俺達の背中を押してくれる。

お互いの存在を確認する様にゆっくりと抱擁を済ませた後、

泰兄が千夏さんを俺に預け立ち上がる。


『・・・・・・・・・・・・・。』


この中で声をかけられていないのは俺だけ。これが・・・・・本当に最後の言葉。

俺に決意を秘めさせようとする泰兄の表情は硬く、そして覚悟を決めた視線で俺を見つめていた。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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