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第四百四十九話 忘れ形見たちへの頼み事

再びの・・・別れ。もう二度と・・・会う事は無い。


『・・・そんな悲しい顔をしないでください。』


そう認識した俺の心は悲しみに染まっていく。今生の別れは、通常一度だけ。

その時の光景は大きな傷となって、俺の心に深く刻み込まれている。

何故・・・。一体何故、俺はこの人ともう一度別れなければならないのか。

今生の別れを・・・もう一度しなければならないのか。俺にはわからない。


「なんで・・・・・。」


『何故・・・でしょうね。あの時、あなたと私は別れた。

もう二度と会うことない。ですが、それでよかったのだと今でも思っています。

あそこであなた方を逃がすには・・・命を賭して戦うしか方法ありませんでしたから・・・。』


それは・・・そうだ。あの時、あの場に少しでもいてしまえば俺は賀茂忠行に命を

奪われていた。


「・・・・・・・・・・・。」


・・泰兄はあの時できなかった笑顔での別れを望んでいる。

せっかくもう一度会えたのに、以前の別れを引きずるなんてなんと女々しい事だろう。


「・・分かった。」


何とか涙を抑え、泰兄へと顔を向ける。笑顔は・・・強張った顔では作れそうにない。


『・・それでこそ男です。』


ああ・・・。俺は・・・何度同じことを繰り返すのだろう。

成長していない。この光景も・・・あの別れの悲しみを我慢する幼い

俺の姿そのものじゃないか。だけど、きっと・・・これでいいのだろう。

泰兄の手のひらの上で、そして泰兄が知らない所でほんの少し成長した俺を見せるのは

背伸びした姿が正しい。そう・・・なのだろう。


『では、まずは・・・ちー達から行きましょう。』


精一杯虚勢を張る俺を後回しにし、ちーさん達の前に立って声をかける。


『ここまで・・・大変でしたね。』


たった一言の労いの言葉。わずかな言葉にどれだけの重量が乗せられているのだろうか。


「まあ・・・そうだね。」


『相変わらず、湿っぽいのは苦手ですか?』


「苦手だよ。別れなんて・・・少なければ少ない方がいいでしょ。」


『そうですね・・・。ですが、来てしまったものは仕方がありません。

日ノ本に来てからというもの、よくぞここまで成長してくれました。

そして・・・何より家族を大切に思ってくれている事を誇りに思います。』


血のつながりの無い家族。その代わりに思いで繋がりあう絆が彼らを家族へと昇華させた。


『その誇りを忘れず、そして・・・誰からも奪われることなく、

これからも生き続けて欲しい。これは私からのお願いです。』


お願い・・・か。何と重い願いなのだろうか。


「・・・・・分かった。」


二人は目を背けながら、泰兄のお願いを受け入れる。

生き続けるには・・・勝利を掴み取る以外の手段は存在しない。


『次に・・・純恋さん達にお願いがあります。』


純恋、桃子、そして・・・楓。俺に付いてきてくれた三人に対し、

ちーさん達と同じ様にお願いを頼み込む。


『あなた方の活躍は耳にしておりました。龍穂をここまで支えてくれた事、

彼の兄として感謝申し上げます。』


「・・私達も、アンタの事は龍穂から聞いてるで。ちゃんと・・・兄やったんやな。」


『ええ。龍穂は弟であり、私は兄。血のつながりなど関係ない。

そしてあなた方は龍穂に寄り添う大切な存在。そんなあなた方には・・・

龍穂と共に天寿を全うして欲しい。』


天寿か・・・。それは、大きく出たものだ。


「当たり前や。私達は龍穂と一緒に生き残る。お願いされなくても分かっとる。」


『頼もしいですねぇ・・・。ですが、二兎を得るのは難しいですよ?』


泰兄の忠告に、純恋は鼻で笑って答える。安心しろ。全てを得る覚悟はあると

堂々と言い放った。


『そうですか・・・。それは安心しました。』


安堵した様に笑顔を浮かべると、その近くにいた陽菜達にも視線を向ける。


「・・私にも何かあるのか?」


『ええ。あなたには・・・まずは礼を。我々が成し得なかった京都校の

古き風習の改革を行ってくれた事について感謝を申し上げたい。』


「改革など・・・私は居心地の良い場所を作っただけだ。」


『それが我々には成し得なかった。だからこそ感謝を申し上げているのです。』


深々と頭を下げた泰兄を見た織田は、口惜しそうにそっぽを向く。


「・・・・・あなた方のおかげだ。もし、私が当時の京都校にいたのなら

何もできずに潰されていただろう。あなたが・・・神道省で頭角を現し、

古くから続く若き芽を摘む悪しき風習を失くしてくれたおかげで私は自由に過ごせている。」


悪しき風習とは・・・以前毛利先生が言っていた任務の押し付けだろう。

本来神道省の職員や高官が行う様な任務の全てを国學館の生徒に押し付けていた。

労力を使わず、実習という名目で最低限の賃金で働かせる事が出来る学生に

全てを押し付けていた悪しき風習を失くしたのは・・・この人だ。


『確かに、私は国學館の生徒達の不当な扱いを取り除くために尽力しました。

ですがそれを現実にしたのはあなた。きっかけを上手く使った自分自身を誇りなさい。』


「光を私に預けたのにか?業の隊員を小娘に預けるなど聞いたことが無い。

きっかけ所か道筋までも私に与えたではないか。」


『おっと。その文句は兼定にお願いしますね?それに関して、私は何もしていない。

ですが・・・あなたらしくないですね。無礼、不遜。それでいて・・・隠しきれない品と魅力。

兼定から受けた報告とはあまりにかけ離れた姿です。』


「・・死者に見栄を張っても意味がないだろう。それに・・・影から私をここまで

導いてくれた者の最後に礼一つ言えない人間になるのは御免だ。」


陽菜の影の落とす一言。もしかすると・・・蘆屋道満に体を乗っ取られた父親に対して

何かしらの後悔を心に抱えているのかもしれない。


『・・・・・見栄を張らず、本音で接してくれた事。大変感謝します。

我々の想定では東は龍穂。そして西はあなたに任せるつもりでした。

我々が成し得なかった事を果たし、日ノ本を背負って立つ若者を育て上げる。』


「なんだ・・・。結局、貴様の手のひらの上ではないか・・・。」


『ですが・・・あなた方は出会い、そして今同じ道を歩んでいる。

貴方の中にある力及ばなかった自身への苛立ち。それは弱者の特権。

その苛立ちを力と変えて・・・どうか、龍穂と共に歩んでやってほしいのです。』


泰兄の言葉を聞いた陽菜はこちらにほんの一瞬視線を移すが、

呆れたように小さく笑うと、いいだろうと視線を合わせて願いを受け取った。


『次は・・・・・。』


次々と、そして手短に言葉をかけていく。火嶽、拓郎。関係性が薄いと思われる者でも、

その者にしか叶える事が出来ない願い事を頼み込んでいく。


『・・・・・さて。』


そして・・・残されたのは俺達だけ。小さく泣いている千夏さんと・・・それを支える俺。

今度こそ、しっかりと・・・別れを伝えなければ。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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