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第四百四十八話 ささやかな願い

『・・正解です。』


消えかかっている泰兄。残された時間は少ないと全身でその姿を見つめる。


『権威、格。そして家柄。その全てと・・・圧倒的な実績。

それが無ければ神道省長官にはなり得ない。』


歴代の長官達。その全員が安倍家や賀茂家など、歴史に名を遺した偉人の血を引く名家が

その座についてきた。


『私も一度、皇に言われたことがあります。長官の座につかないかと・・・。

ですが、我が土御門家の血は既に汚れている。

歴代の長官に私の祖先が着いていたこともありましたが、これ以上権威あるその椅子を

汚してはならない。ですから、お断りをしたのです。』


土御門家。傍から見れば神道省長官に座るにふさわしい名家。

その血を引いた泰兄が座るのなら、誰しも納得する事だろう。


「・・でも、それは俺も同じ—————————————」


『確かにあなたは賀茂忠行の血を引いている。ですがその血は

命を狙う先祖との戦いで穢れを浄化し、高潔な血液へと昇華されている。』


三道省合同会議が終わった後に語られた賀茂家の歴史。

皇や親父、そして兼兄から語られた歴史通りならば、泰兄の言い分に筋が通る。


『私の穢れた血とは大きく異なる偉大な血です。あなたにはあの椅子に座る資格がある。

そして・・・その資格を確実な実績へと変えるには賀茂忠行を倒すしかない。

逆に言えば奴を倒すことであなたはあの椅子に座ることができるのです。』


それは・・・確かにそうなのだろう。だが、ここまで戦ってきた経験があるからこそ、

そんな簡単な話ではないと確信できる。


『あなたの考えている事は分かります。そんな簡単にはいかない。必ず何か落とし穴がある。

そして肝心な所で自身が持てなくなるあなただからこそ、

そんな簡単に周りが認めるはずがない。民意で座ることができる椅子ではない。

そう思ってはいませんか?』


・・心が読めるのか。それとも俺の事を深く理解しているのか。

どちらにせよ、心中全てを見た様な発言を聞き、大きく頷く。


『それは違う・・・と言いたい所ですが、あなたの想像通りです。

神道省の高官達の全員が、ほぼ空いているに等しい椅子に座ることを夢見ている。

その野望を叶えるために、あなたが椅子につくことを阻止する事でしょう。

ですが・・・あなたにはこれまでの過程で手にして来た仲間達がいる。』


伊達様、真田様。服部さんもそうだ。三道省の高官や長官が俺には付いている。


『彼らもまた、賀茂家の因果に巻き込まれた者達。必ずや力になってくれるはずです。』


「因果を断ち切れば・・・関係が切れるわけじゃないんだな・・・。」


『・・分かってきましたね。因果というのは決して悪い意味だけではないのです。

因果という繋がりが断ち切られた時、残されるのはその過程。因果という繋がりの中で

どう接してきたかがだけが残る。あなたが巻き込んで来た方々とどう接してきたかで

その後の関係値が決まりますが・・・あなたであれば大丈夫でしょう。』


迷惑をかけた時もあったが、決して関係を崩したことは無い。

それに真田様や伊達様は俺の事を支えてくれると公言してくれている。

きっと・・・神道省を駆ける際に力を貸してくれるはずだ。


『ですが・・・それでもどうにかしてそして来る輩も出てくるはず。

そういう時は、今の様に力を合わせて戦いなさい。そうすればあなたは頂点の椅子に

座ることができる。』


「・・でもそれは、賀茂忠行を倒した後の事だろ?」


『ええ、そうです。いつでも、あなたはしっかりと足元を見ているのですね。

目の前の事を確実に成し得るために。それが出来ていれば・・・大丈夫です。』


何が・・・大丈夫なのだろうか。俺に賀茂忠行を討ち果たすことができるのか。

その不安はどうやってもぬぐえない。


『・・最後に。先ほど言った背負ってもらいたいことを、聞いてもらってもいいですか?』


最期にという言葉に、俺達に緊張が走る。

これが・・・泰兄の最後の言葉。この不安を残したまま、去って欲しくない。


『兼定から聞いているとは思いますが・・・あなたには神道省の頂点に立ち、

この日ノ本を変えてもらいたい。我らが成し得なかった、成し得る事が不可能だった夢を・・・

貴方に叶えていただきたいのです。』


夢・・・。兼兄達が変えようとして足掻いたが、成し得る事を諦めた夢。

自らの生まれで神道省長官という椅子に座る資格が無いと手放した・・・夢。


「夢・・・。」


『あなたの旅路の終着点は同じ。それも・・・もしかすると我々が指示したのかもしれません。

ですが、先ほども言った通り。着実にその歩みを進めてくれている。

私のお願いはもはやないも同然です。』


そうだ。俺はこの人がきっかけで国學館に転校し、ここまでやってきた。

形だけとはいえ、敵対していたが・・・どうやら俺はこの人の手のひらの上を

ずっと歩んできたことになる。


『なので・・・あなたが背負う使命、因果を・・・・・ほんの少しだけ

肩代わりさせていただきたいのです。』


「えっ・・・?」


かた・・・代わり・・・?一体、そんな事・・・。


『ふふっ。無理だと言わんばかりの顔ですね。ええ、その通りです。』


俺の驚いた顔を見た泰兄は楽しげに笑う。だが、その眼は冗談を言っている様には

見えないほどに真剣そのもの。


「・・ふざける所じゃないよ。」


『分かっていますよ。ゆーの言う通り、ふざけている場合じゃありません。

時間もありませんし、早急に済ませましょう。』


泰兄は俺達の方へ近づいてくると、集まってくるように指示を送る。


『肩代わりなんてふざけたことは出来ません。私には私にしか、龍穂には龍穂にしか

出来ない事がある。ですから今から行うのはおまじない程度の事。』


もう・・・現世に体を保てなくなってきている。いつ体が背景の中へと

消えて行ってもおかしくはない。

この姿を見て、警戒する者は誰一人としておらず、俺の近くへ集まった全員を

見渡した泰兄は柔らかな笑顔を浮かべる。


『ですか・・・それが肝心な所で効いてくるのです。何せ、人とは感情で動く生き物。

思いは思いを繋ぎ、心を繋ぐ体を突き動かす。』


そしてそのまま・・・俺の方へ手を伸ばすと、人差し指で俺のおでこを突いた。


「あっ・・・・・。」


『その間抜け顔。変わりませんね。』


実家から出ていったあの時。俺が知る優しい泰兄の封じられていた最後の記憶。

本当に最後・・・。だがあの時と違うのは、ちゃんと言葉をもらえる。


『・・・・・・・・・・・・。』


じっと・・・こっちを見つめる泰兄。別れの・・・最後の言葉を、俺はただ静かに待った。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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