第四百四十七話 残された時間で成すべき事
『先ほども言いましたが、あなた方全員の傷を癒すには時間が無い。
申し訳ないですが、龍穂中心に話をさせていただきましょう。』
俺たち全員と語り合う事に決めた泰兄は再度口を開き始める。
『我々と龍穂。そして・・・日ノ本の民は千何年と続く因果に巻き込まれた。
それだけは間違いのない事実。そうですよね?』
もし、俺がいなければ東京、そして日ノ本全土にいる日ノ本の人達は避難しておらず、
俺達の戦いに巻き込まれる事さえなかった。それは・・・避けられない事実だ。
『あなた方はこれから赴くことになります。日ノ本全てを背負う決戦へと。
賀茂龍穂。あなたはその戦いに生き残る事は出来ますか?』
そんな事、誰も分からない。だが、俺は頷く。不確定な未来でも生き残る決意を
既に俺は決めているからだ。
「俺は生き残る。みんなと未来を掴むため。
そして・・・こんな腐り切った日ノ本を変えるために。」
『その言葉を聞けただけでも満足です。まあ、ここまで来た時点で強い決意を
固めていなければお話しにならないのですが。』
決意が俺をここまで連れてきたと言っても過言ではない。
そしてその決意を生んでくれたのは、間違いなく隣に立つ仲間達。
『心意気は分かりました。ですが・・・それだけでは足りません。
我々が持つ因果。そして使命はあなた方の覚悟だけでは背負える軽いものではない。
中途半端な覚悟でこの先に踏み込めば確実にやられる。
ですから・・・少し確認しておきたいことがあるのです。』
泰兄が俺達の何かを確認すれば・・・果たして俺は勝てるのだろうか?
これからの話し合いが決して無駄だと思うわけではないが、
僅かな時間の話し合いで力が上がるとは考えられない。
『・・龍穂。何でも言いますが先ほどの発言、私は嬉しく思いますよ。
兼定から聞いていました。貴方は腐り切った神道省を変える。そう言い放ったと。』
俺の目標。ここまでの戦いの果てに目指す夢。
仙蔵さん、平さん。そして・・・泰兄を葬った賀茂忠行が蝕んだ神道省を
変えるのがこれまでの戦いの理由だ。
『当時のあなたは何も知らなかった。当然です。我々があなたの情報を意図的に
遮断していたのですから。それでも・・・身の丈を知らない大きな発言であることは
変わらない。ですが、激しい戦いを積んだあなたの視線は遠い未来ではなく、
足元へ落ちていった。目標のため、一歩ずつ進んでいった証です。』
「・・何が言いたいのさ。」
『こら、ちー。せっかく私が良い雰囲気を作っているのですから口を挟まないでください。』
・・真面目な話をしていたはずなのに、口を挟んだちーさんに対して
ふざけたような態度を取っている。前置きが台無しだが、兄として接することができる
最後の機会だ。仲睦まじい景色を水を差さない様にただ黙ったその姿を眺めていた。
『要は段階を踏んだという事。それは成長の証。あなたは自らの夢のため、
目標を一つ一つ達成しているという事なのですよ。』
「そんな・・・俺は・・・。」
『はぁ・・・。何故そこで認めないのです。謙遜は建前としてかなり重宝しますが、
自信を身に着けるには大きな障害となるのですよ?あなた、いつもそんな感じなのですか?』
謙遜をしている自覚は無い。ただ俺は、俺だけの力でここまで来たわけではない。
仲間達がいたからこそだと純恋達の方を見ると、腕を組みながら何度も大きく首を頷いていた。
『・・その様子だとずっとこんな感じだったのですね・・・。
龍穂。これからはあなたに付き添う彼女達の事も考えて行動なさい。』
同じ様な事を何度も言われてきたが、まさかこんな場面で叱られるとは思ってもいなかった。
「はい・・・・・。」
これも大切な話なのだろうが・・・何故俺は怒られているのか。
これまでの行いが悪かったのだろう。
『さて、話しはそれましたが続けましょう。あなたは夢へと着実に近づいている。
それは素晴らしい事です。ですが・・・それであなたは賀茂忠行に勝てますか?』
泰兄の問いに俺はすぐさま答える事が出来ず、そして深く考えても答えなど出てこない。
『奴は日ノ本を主張に収めようとしている。そして・・・それを足掛かりに
世界へと進行するつもりです。以前成し得なかった地球征服。
それを阻止するした古き英雄達、そして・・・敵対する同格の神。
それらを全て討ち果たし、奴はこの地球を手にするつもりなのですよ。』
星空にはそれだけのメンバーが集まっているが、
それは俺達がクトゥルフの地球侵攻の最後の砦であることに俺は気が付かなかった。
『日ノ本のためとだけ考えていたあなたはいつの間にか、地球のために戦う事に
なっていたのです。その事実を・・・受け止められますか?』
あまりに規模が大きすぎる話に、俺は想像すらつかない。
それを受け止めた方が良いのか。それとも深く考えた末に背負った方が良いのかさえ
分からない。
「・・泰兄さ。そんな言いかたをする必要はないんじゃないの。」
どうすればいいか分からない俺を見たちーさんが再び口を挟む。
「どちらにせよ、龍穂は戦う事に変わらないんだ。
それがどういう意味を持つなんてことは後から付いてくる事だろ。」
『ちー。あなたは分かっていない。戦いの本質。勝利の真意。
勝利とは結果だけではなく、何を得たか。何を成し得たのかを理解していないと
足元をすくわれるのですよ。』
・・泰兄は俺に何かを分からせようとしている。この先の戦いがどういう意味を
持っているのか。そして・・・それを理解させて俺に何かを成し得て欲しいようだ。
『龍穂。もう一度考えて欲しい。あなたが持つ夢。そして・・・その因果。
全てを巻き込む因果を持ったあなたが勝利を収めることで一体何が起こるのか。
何を得るのか。何を変えることができるのか。それが分かっていない状況で
貴方を戦場に出す事は出来ません。』
「俺が・・・勝利を収めることで・・・。」
泰兄、兼兄。楓、白、純恋や桃子。千夏さんやその他全員まで巻き込んだ俺の使命。
『そうです。あなたという存在に全員が巻き込まれた。
いえ、全員があなたと言う存在に惹かれ、ここまでやってきたのです。
そんなあなたが賀茂忠行に勝利を収めることで・・・。』
思いつかない俺を見つめながら泰兄は答えを導きだそうとしてくれているが、
その声が徐々に弱くなっていく。
『・・調子に乗り過ぎましたね。』
見ると泰兄の体がさらに透けていっており、後の景色が透き通ってしまっている。
もう時間が無い。泰兄が現世に留まっている内に答えを出さなければならない。
「俺は・・・・・。」
純恋達だけではない。俺は日ノ本中の人間を巻き込んでしまっている。
だが、それの因果の作り上げたのは賀茂忠行。
根源を断つことによって、因果は消えてなくなる。
「俺が勝つ事が・・・全員を救う事になる・・・。」
『そうです。それはどういう事なのでしょう?』
「・・・・・英雄になるってことや。」
えい・・・ゆう・・・?深く考えている俺の頭の中に純恋の声が響く。
「アンタはこの日ノ本を救った英雄。そんで、世界を救った英雄になる。
まあ、世界中に奴らはそこまで認識することは無いやろうけど、日ノ本の奴らは
歓喜するやろうな。」
『・・そこまでとはいかないでしょう。ですが・・・英雄というのは
収まるべき椅子に座るべき。民衆はそう考えるはず。
そして・・・・・長きに渡り、座るべき者がいない椅子が存在するはずです。』
長きに渡り・・・座るべき者がいない椅子・・・?
それは・・・・・一つしかない。
「神道省・・・長官。」
『・・・正解です。』
消えかかっている体。もう見えていない足で歩きながら泰兄は龍脈の元へ向かっていく。
これが・・・泰兄が俺達にくれる最期の言葉。
そう頭が理解した時、心に悲しみが現れるが聞き逃すわけにはいかないと胸を張り、
全身で泰兄の姿を見つめた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
少しでも興味を持っていただけたのなら評価やブックマーク等を付けていただけると
励みになりますのでよろしくお願いします!




