第四百二十一話 化け物と人
姿を変えようとしている片野。せっかく三体の神の力を手にしたというのに
俺や猛に手も足も出ない状況を打破しようとしている。
「・・・どうする。」
「どうするもこうも無い。止めを刺すまでだよ。」
人間である俺が止めを刺せとハスターは言っていた。その真意を俺はまだ分からない。
だが、人の上に立とうとしている俺がここで逃げ出すのは間違っている。
これ以上、日ノ本に化け物をのさばらせないためにも俺が倒すしかない。
「猛。後ろに下がってくれ。」
巨体を持つ猛を後ろに下げる。この巨体を生かすためであれば先程と変わらず
前線に出すのが一番だが、俺に近づいてくる気配を感じ取っていたからだ。
「龍穂!!!」
俺達を仕切っていた風の壁を降ろし、鉱石の巨人と戦っていた純恋達と合流を果たす。
各々が軽い傷を負っているが、そのどれもが致命傷に至っていない。
「助かったで・・・。龍穂の球が無ければ危なかったわ・・・。」
俺が作り出した四つの衛星は、体が鉱石で作られている巨人にも効果があったようで
思いをしない所で助けになっていた様だ。
「そうか・・・。みんな、聞いてくれ。」
俺が声を上げると視線がこちらに向く。だが、それは決して俺を見ている訳ではない。
「なんや・・・あれ・・・?」
奥で姿を変えている片野に視線を集まっている。
カタノゾーアの時でさえ地球上には存在しないであろう醜い姿をしていたが、
奴はそのぶよぶよとした皮膚を波打つように動かして姿を変えようとしている光景は、
この世の物の生物とは思えない動きであり、見た者に得体のしれない恐怖を与える。
「これが・・・龍穂が戦っている敵なのか・・・。」
俺について来てくれている純恋達はまだ慣れているが、陽菜や明智は初めて見る光景。
心の衝撃を与えるには十分な景色だろう。
だが・・・明智はその光景を冷静に見つめており、陽菜ほどの動揺はしていない様に見える。
(確か・・・業に所属しているって言ったよな。)
どういう立ち位置にいるのか分からないが、兼兄と共に仕事をしたことがあるなら
このような光景を目にしたことがあるのかもしれない。
「・・・・・・・。」
冷静なまま、耳に手を添えてしゃべり出す。神力が込められており、どうやら何かしらの
神術を使っているようだが、おそらく連絡を取っているのだろう。
相手は兼兄か毛利先生か。どちらにせよ、俺達の状況は無効に伝わっている事だろう。
「・・俺は前に出るよ。みんなは猛の後ろで援護を頼む。」
「・・・・・嫌やって言っても行くんやろ?」
「ああ。」
あのような化け物に純恋達を殺されてたまるか。俺が・・・ケリをつけなければならない。
「俺が・・・化け物に一番近い俺が—————————」
あのような異形の化け物、俺でなければ相手できない。
素直に言葉をかけ、納得してもらおうとするが返事の代わりに俺のふとともに鈍い痛みが届く。
「阿保。何言ってるんや。」
その痛みを届けたのは当然純恋。いつもの様に怒られるのだろうと思っていると、
腕や頭、額に次々と痛みの波が押し寄せてきた。
「いっ・・・!?」
「・・・・・・・・・・・。」
桃子や楓、そして千夏さんも俺の言葉に異議を唱えているのか静かな怒りの瞳が
俺の顔に向けられている。
「あまり卑下をなさらないでください。あなたは人間、あの様な化け物とは違います。」
以前純恋に止められたことを思い出す。その時も・・・相手は片野だった。
人を殺めそうになった俺を必死に止めてくれた事、忘れもしない。
人の道を逸れるな。そう必死に伝えてくれた。やはり・・・人というのは人が作るものなのだと
改めて実感する。
「・・・・・ごめん。」
間違った事を言ってしまった。これは・・・素直に謝るしかできない。
俺は人の捨ててはいない。それを証拠に、人と共に歩んでいる。
「猛。みんなを頼めるか?」
皆と共に歩むため、そして人であり続けるため。猛にみんなを頼むと
大きな顔を縦に振って体を変えている片野の方を向く。
「イタカもだ。頼む。」
「・・分かった。」
これで俺の手元に残る式神は全て純恋達に託した。俺一人で片野と戦うために。
「行ってくる。」
思えば・・・片野とは長く戦ってきた。涼音が命を立とうと仕組んだ修学旅行。
八海の禁則地から入り込んだルルイエ。だが、これで最後だ。
「ぐっググッ・・・!!!」
苦しみの声を体から漏らしている。こいつは本当に人間ではなくなってしまった。
俺と戦っていた時はまだ人であっただろう。
宇宙の神を使役していたとはいえ、まだ人と歩んでいたのだから。
「グッアアアァァァァァァァァ!!!!」
苦しみが最高潮に達したのか、大きな雄たけびを上げる。
それと同時に込められている力も最大限に高まっていく。
「・・・・・・・・・・・。」
一体どんな姿に変わるのだろうか?これ以上、復活を願わない様に心と体をへし折るためにも
奴の全てを引き出すためにその姿を見つめる。
苦しそうな雄たけびの中、皮膚の下でうごめていた何かがぶよぶよとしたそれを突き破り
隠していた姿を露わにする。
(・・・・・惨いな。)
その姿を見た俺は思わずつぶやいてしまう。皮膚を突き破って出てきたのは・・・なんと腕。
まるで青痣を身に纏ったような不気味な色をした腕が何本も皮膚を突き破ってくる。
それだけではない。足の姿も見えており、醜い皮膚には顔のような何かが浮かんでいる。
「おま・・えは・・・分かる・・・か?」
その顔が口を動かし、俺の尋ねてくる。その声はまさしく片野の声。
本当に・・・化け物だ。
「俺はな・・・生まれた瞬間・・・一人だった・・・。
血のつながった人間を・・・見たことが無い・・・。」
自らの生まれ、そして孤独を語る。
「おれにとっちゃ・・・忠行様が親だ・・・。かけがえのない・・・親・・・。」
「親のために俺を殺すとでもいうのか?お前の意志はどうした。
お前自身の意志で俺を殺すんじゃないのか?」
明らかに意識が朦朧としている。三体の神を掛け合わせた片野の体は形を保てておらず、
意識さえも崩れてしまうそうになっている。
だが、俺が戦いたいのは片野東亜。あのような化け物に勝利を収めても意味がない。
そう思い奴に声をかけるが、返事は返ってこない。
「おや・・は・・・・ぜっ・・たい・・・。」
俺の言葉なんて耳に入れることなく、片野の意識は化け物の中に溶けていく。
この様子だとまともな思考さえも出来ていないはず。それなのに賀茂忠行の名を出すと言う事は、
こいつの行動の根源には賀茂忠行の存在があるんだ。
「・・終わらせてやるよ。」
出来れば、片野東亜に勝利を収めたかった。何度も挑んできたこいつに俺が出来る
唯一のけじめだったはず。だが、どういう理由か分からないが、それはもう難しいらしい。
これほどの化け物相手であれば、容赦は必要ない。真正面から・・・ぶっ潰すだけだ。
異形の化け物のとなった片野に対し、得物を握りしめて対峙する。
貯めに貯めた力を使い、哀れなこいつを賀茂忠行の手から解放しなければならない。
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