第四百十九話 木星を護る者達
皆と壁を引いて片野と相対する。もう、俺の心を蝕む制限は存在しない。
「来やがったな・・・。」
それに・・・久々というか、初めてだ。猛共に戦うのは。
「・・・・・・・・・。」
無言のまま、猛はゆっくりと立ち上がる。以前は俺が指導する側だった。
鍛錬を積んでいたのは知っていたが、まさかこうして肩を並べ合って戦うなんて
思ってもいなかった。
(感慨深いな・・・。)
色々あったが・・・素直にうれしい気持ちが先行する。
友人として師事のようなことをしていた傍ら、その時とかけ離れた姿は成長幅の大きさを
実感する。陀金と相性が良かったとはいえ・・・制御できるだけの力をつけるには
どれだけの鍛錬をしたのだろうか?
「さて・・・行こうか。」
猛と意思疎通が果たしてできるのか。あの巨体で言語を話せるのかは分からない。
だが・・・それは何とかするしかない。
これまでを振り返るのはこの戦いが終わってからでも遅くはない。
何せ、しゃべりたいことが多すぎる。
「・・一対二になって余裕が生まれたか?調子こきやがって・・・。」
自分の思い通りに事が進まなかったのか、片野は苛立ち始める。
正直に言って、先ほどの攻防はかなり追い込まれていた。
それは肉体的ではなく、精神的圧迫を強いられていたがそれは全て晴れた。
そして・・・それは今、奴の心に襲い掛かっている。
「余裕か・・・。そうかもな。」
余裕は生まれたかもしれない。だが、安堵は出来ない。
目の前にいる敵は強大だ。例え猛と力を合わせたとしても、勝てるかどうかわからないほどに。
それに純恋達が抑え込まれればすぐさま助けに行かなければならず、
心を圧迫する制限は決してなくなっていない。
「ちょっと押し込んだけだ。それもお前の力ではなく、隣にいるデカブツがな。」
「そうだ。勝負は始まったばかり。たった今、火蓋が切られたばかりなんだよ。」
まともな勝負をさせてもらえなかった。それが奴らの狙いだったのだから。
術中にはまっていた。ここからが・・・本当の勝負。
「・・猛。前に出れるか。」
これだけの巨体だ。後衛を務めれば中遠距離からの攻撃で狙われるに決まっている。
大きな体に備え付けられた圧。長い腕と先に着いた巨大な拳。
仮に動きが遅くとも、かすっただけでも勝負が決まりかねないほどの一撃を持った
猛の一挙手一投足に奴は注意を向けなければならない。
前線に置かない理由はなく、俺の意図を察したのか猛は何も語らずに前に足を踏み出した。
「さて・・・。」
俺の務めは猛の援護だが・・・同時に敵を仕留める事も視野に入れなければならない。
陀金の力をどれだけ操れるのか分からないが、体を使えるだけなのであれば
どれだけ巨力な一撃を持っていようと奴はうまくいなすだろう。
いなすことをさせない様な動きを取らせ、出来た隙で命を削り取る一撃を
放たなければならないが、先ほどの攻防で俺の威力不足が露呈してしまっている。
詠唱などの準備時間が限られていたことは事実だが、新たな選択肢を作り出す良い機会でもある。
「・・俺も前に出よう。」
さらに引き出されたハスターの力をより繊細に扱うために頭を働かせていると、
隣に居たイタカが猛と共に前に出る。
「大丈夫か?」
「心配するな。それより、ここから先の戦いでこれほどの余裕は生まれることはまずない。
戦いの中でしか得られない事は多くある。有効に使う事だな。」
魔力操作は脳のリソースを多く持っていく。目で見えない空気の操作であればなおさらだ。
もう慣れてしまったと言えばそれまでだが、新たな術を生むことを考えれば
魔力操作は無い方がいいに決まっている。
後方支援を務める俺にその余裕を生むためにイタカは前に出る判断をつけた。
「・・すまないな。」
「礼は後にしろ。」
それより油断はするなと声をかけてくれる。相手は三体の神・・・いや、二体の神を
その身に宿した宇宙の神だ。何が起きても叶わない。
「分かっているよ。」
久々に・・・安心できるというか、心に余裕がある戦闘だ。
命の取り合いをしている以上、そんな余裕が生まれる事の方がおかしいのは分かっている。
だが・・・猛と共に戦えること。そして、その力が強大であり
どれだけ成長したのかを見ることができるこの高揚感。
これがこの緊迫した心を麻痺させているのだろう。
「あんま・・・舐めんなよ・・・・!!!」
配置を確認した俺が前に出てない事に苛立った片野は太く、たるんだような触手で
オトゥームの剣の柄を握って猛に振り下ろそうとする。
その姿を見た猛は膝を曲げ、両腕を上げる。まさかあの剣を受け止めようと考えているのかも
知れないが、いくら固い鱗を身に纏っているとはいえ生身で刀身を受け止めるのは
あまりにリスクが高すぎるだろう。
「・・・!!!」
実戦経験の無さからくる誤った決断かとイタカがカバーの体勢に入る。
片野は受け止められるのなら受け止めて見ろと力強く剣を振るうが、
事の結末は俺達が予想した光景を大きく裏切っていた。
「・・・!?」
勢いよく吹き飛んだ片野。体を覆っている醜い皮膚に突き刺さった猛の腕によって
その巨体は宙に浮いている。
剣を受け止めようとした動きはフェイク。膝を曲げたのは爆発力のある一歩を踏み込むため。
そして腕を一瞬にして引っ込めた後、強力な一撃を叩きこんだ。
「あれは・・・。」
その姿を見て、俺とイタカは驚きを隠せない。
それは猛がフェイクを混ぜて攻撃を行った点ではなく、その踏み込んだ足跡にある。
あれだけの巨体が強く足を踏み込めば、その下にあるコンクリートが無事で済むはずがない。
だが、足跡さえ一切残さない見た目と反して何も壊すことの無い踏み込みは
俺が扱う一兎流で使われる兎歩そのもの。
「あの巨体で扱うか・・・。」
「相当な鍛錬を積んだな・・・。」
東京の我が物にしようと企む忠行の配下である片野はこの街がどれだけ破壊されても
構わない乱雑な立ち回りを行う事が出来る。
一方猛はこの街の破壊を望んでおらず、この場所で戦う事だけでも
大きな足かせとなるだろう。
だが、あの精度で兎歩を使えるとなると話しは違う。
コンクリートにヒビさえ入らないほどの柔らかでしなやかな歩法は
足枷を外す所かその背中に羽を与え、縦横無尽に立ち回れることを片野に示していた。
「クソッ・・・!!」
想定外の一撃を喰らった片野は面を喰らい、苛立ちをさらに高めていく。
奴を覆う醜い皮膚がその衝撃を和らげ、内部のへの衝撃を弱めたが
確実なダメージをもらった事には変わらない。
不意を打たれた片野だが、すぐさま体勢を立て直し体に強固な鎧を身につける。
「緑柱石雨!!!」
そして片野が選択肢したのは広範囲での迎撃。俺の含む全員が喰らう様に
鋭い石の雨が天から降り注ぐ。
あれだけの踏み込みを見れば簡単に引き剥がすことはできないと察し、
仲間への攻撃で距離を引きはがそうと試みている。
「・・龍穂。」
「ああ。これは・・・俺の出番だな。」
イタカの力では鉱石を凍り付かせる事は出来るが、それでは攻撃を止めたことにならない。
全てを破壊する必要があり、その役目は必然的に俺に回ってくる。
この攻撃は純恋達にも届く範囲で放たれたおり、放置をすればただじゃすまない。
そのカバーに俺が集中し、猛を放ってくとでもあいつは考えたのだろうが、
そんなことを俺がするはずがない。
「木星を護る神々(ゼウスのあいじんたち)。」
呪文を唱えると、俺の周りに色とりどりの空気の玉が回っていく。
ゆっくりと、まるで生きている様に色を変えていく玉に指示を出すと
降り注ごうとする鉱石の雨を何とかするために空へ向かって浮かび上がっていく。
「・・ここまでになると、魔術ではなくもはや神の力だな。」
イタカが何かを言っているが、耳に届くことは無い。
俺が作り上げたのは木星の周りを護る衛星達。イオ、エウロペ、ガニメデ、カリスト。
ギリシャ神話を由来として名付けられた星々だが、名付け親はかの有名なガリレオ・ガリレイと
言われているが、ゼウスの愛人達に模して付けたのはドイツの天文学者であるシモン・マリウス。
これらを一定距離に配置し、新たに指示を与える。
その身に込めた空気を震えさせると、辺りに空気達も共鳴していく。
「・・主神の怒り(ゼウスのいかり)。」
空気の震えが最大に達すると、その震えは降り注ごうとする鉱石の雨達の硬い殻に
ヒビを入れてその身が砕けていく。
「なっ・・・!?」
一度崩れてしまえば全てが壊れていく。強い振動に体を保つことが出来ず
緑の砂へと姿を変えてしまう。
(これ・・・は・・・?)
その場にいた全員が驚きの表情を浮かべてたことだろう。だが、その中でも
俺だけは驚いた理由が違う。鉱石の雨が砂に変わった事ではなく、
空気を震えさせることで見えた景色。いや、きっとこれは・・・衛星達を
呼んだことで何かを掴んだのかもしれない。
「・・・少し時間を稼いでくれ。」
その掴んだイメージを作り上げるため、猛とイタカに向かって指示を送る。
木星の真の姿を・・・俺は作り上げようとしていた。
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