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第四百十八話 無貌の神

「きりがないわね・・・。」


東京の街で指揮を執っていたアルは思わずつぶやいてしまう。

無数の妖怪達と戦っている誰もが思っていた異変。どれだけ倒しても

沸いてくる鱗を持った妖怪達。


「百鬼夜行の陣を破壊していますが・・・それでも出てきますね。

一体どれだけ仕込んでいたのか・・・。」


どれだけ沸いてくる妖怪達の中には鱗を持たない者もいる。

妖怪の代表格である鬼。だが頭部が欠損しており、その代わりに触手が蠢いていた。


「あの鬼を出してきたという事は数は確実に減らしています。

滅入らずに頑張りましょう。」


泰国が千仞に所属した後、忠行にばれないように行った数少ない密告。

その中に妖怪と深き者ども達を掛け合わせるという実験が行われていたと記されていた。

自分が所属していた研究室で行われていた実験の対象を妖怪に変えた

あまりに惨い実験に嫌気が刺した泰国は妖怪の死骸を使った研究に切り替えたと

報告があった。だが・・・結果として、目の前に広がっている景色は

泰国の努力が水の泡となり、罪の無い妖怪達が犠牲になった事を示していた。


「・・遅れました。」


アル達に近づいていた妖怪達の頭が突然吹き飛ぶと、上から春が姿を現す。


「彼らに援軍を届けてきました。これで事態が好転するかと。」


「お疲れ様。八海まで行ってきたんでしょ?大変だったわね。」


「いえ、それより・・・こちらの詳細を聞きたい。」


八海で修練を積んだ龍穂の友人達。彼らが犯した罪を清算する絶好の機会であり、

この状況を打破できるだけの力を持っている。

片野東亜は強力な相手なのは間違いないが、彼らになら任せても問題ないと

春はアル達への支援をするために情報を欲する。

ノエルとアルは自分達と竜次達の動きを簡潔に報告する。


「独断での行動は謝ります。龍穂君達への支援を行うことなく地上で戦っている事も同様です。」


「いえ、その判断間違っていない。状況があまりに悪かったとはいえ、

あれだけの相手であっても彼らは倒さなければならない。

ここから先、もっと強大な相手と命を取り合いをしなければならないのですから。」


「・・そうね。」


「ですが・・・正直に申し上げると状況はマズいのはこちらと言えます。

龍穂君達は明確な敵と戦っていますが、あなた方は目的不明の大軍と相対している。」


「そうなのよね・・・。」


現れた妖怪達は東京の街を荒しているわけではなく、白を狙っているわけでもない。

そして龍穂達を狙う訳でもなくただこの街を闊歩しているだけ。


「動向が分かる様な何かがあればよいですが、敵の動きに明確な指針が無い。

リーダー格の者もいないとなると・・・正直に言えばお手上げです。」


これ以上戦っても何も得られないのなら引いた方がいいのではとノエルは呟いてしまう。

敵の意味の無い行動に付き合う必要性を感じられないのは当然の判断と言えるだろう。


「・・本当にそうかな?」


決断を下すことができない二人をあざ笑うかのような言葉が響くと、

春の影から兼定が出てくる。


「お疲れ様。ずいぶんな言いぶりね?それなりの根拠があっての発言であって欲しいのだけど。」


「まあ、一応な。」


焦り一つない兼定を見た二人は、何かしらの情報を持って帰ってきたと確信する。

だが・・・兼定の口から放たれたのは二人の抱いた希望を粉々に打ち砕く報告だった。


「取ってきた情報は二つ。”安倍晴明の遺体を護れなかった”。

そして・・・”これ以上こいつらと戦っても意味がない”。」


「・・・・・前者は後回しです。後者は認められない。

つい先ほど戦う意味はある様な口ぶりでした。」


「そう言う意味で言った訳じゃない。こいつらには明確な目的がある。」


そう言うと、一枚の札を空中へ放り出す。風に乗った札は先に見える戦う白の部隊を超え、

闊歩する妖怪達の群れの中で飛び込んでいくと、先ほどまで地に足を付けていた奴らが

大量に宙に舞った。


「目的・・・?どうしてそう言えるの?」


「東京中に散らしていた白達と業の報告を受けた。百鬼夜行の陣は東京中に出現しており、

妖怪達は数を増している。そして・・・酒呑童子にやられた奴らの様に

目的を持って行動している個体は一つもないとな。」


「答えになっていません。今ここにいても出せる様な情報を語っただけです。」


不機嫌そうに見上げるノエルを見た兼定は、その小さな頭に手を乗せてその綺麗な髪を

逆立たせる様に乱暴に撫でる。


「焦るな。よく考えろ。何故敵はここを動かないのか。

それは動けないのか、動く必要が無いのか。どっちだと思う?」


乱暴に撫でられる手を払いのけたノエル達。

焦っていたのか、先ほどまで自分達が持ちえなかった選択肢を必死に頭を回転させて

答えようとする。


「正解は動く必要が無いからだ。”既に目的を達成している可能性が高い”。」


「目的を達成している・・・?ここを陣取ることが奴らの目的だと?」


東京にいる事だけが妖怪達の目的であり、それを達成した今

戦う必要もないのだと兼定は語る。


「それ以外ない。そして・・・それが目的であると裏付ける話しをお前達も聞いているはずだ。」


「聞いているって・・・他の子達からの情報は無いわ。何を根拠に・・・。」


「そこじゃない。純恋ちゃんから聞いているはずだぞ?」


純恋からの持たされた情報はもう一つの未来。既にパラレルワールドとなった

先で体験した絶望の世界戦。


「・・この状況を打破できるような情報があったとは思えませんが・・・。」


「代々木公園での出来事・・・と言えば分かるでしょう。」


春の言葉を聞いても、ノエル達はピンと来ていない。

代々木公園で行われた深き者ども達によるミサ。それが何を意味しているか、

二人は答えにたどり着くことができない。


「・・・・・奴らは呼ぼうとしているんだよ。”クトゥルフ”をな。」


このまま時間をかけてもしょうがないと妖怪達の意図を伝える。

それは・・・奴らの総大将である賀茂忠行が使役する式神の名だった。


「・・少し待ってください。」


その名を聞いた二人は驚くが、それと同時にひどく不可解な顔で兼定を見つめる。


「賀茂忠行は・・・クトゥルフを所持していないの?」


式神として使役している。その言葉とあまりに矛盾した行動を二人は飲み込めない。


「どうやらそうらしい。それで・・・こいつらを儀式の媒体に使うんだろう。」


「でも・・・それなら意味がないなんてことは無いはずよ。

むしろ、こいつらを早く殲滅しなきゃクトゥルフが召喚されるじゃない。」


「それを・・・みすみす見逃すというのですか?」


意味がなくともやらなければならない。敵の親玉を抑え込めれば大金星にぐっと近づける。


「・・お前達が手を出すことは無いってことだ。」


そう言うと兼定の影が動き出し体を覆っていく。


「部隊を引かせろ。無駄な戦力消費は避けたい。」


体を漆黒染めた兼定は宙へ浮かび始める。魔術も神術も使っていない。

だが・・・まるでそれが変哲もない日常であるように。


「春。竜次達も引かせてある。全部隊に対して治療を行わせてくれ。」


「・・あなたは?」


漆黒の王。今の兼定を現すにふさわしい言葉はそれ以外ないだろう。

影に沈んでいく春達に向かい、兼定は優しい口調で言葉を放つ。


「後で追いつく。頼んだぞ。」


全体に指示を送った春達は影に沈み、白の全部隊が引いたことを確認した漆黒の王は

両手を合わせると小さく呟く。


「・・・・・這い寄る混沌はいよるこんとん。」


その一瞬東京全土が暗闇に包まれる。一秒も無いわずかな時間だったが

太陽が失われたと思うほどの暗闇は東京全土にいる生物達に驚きを与えた事だろう。

それが神術である事、そして・・・絶望が待ち受けている事を妖怪達は

知る由もなかった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

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