第四百十七話 予想外の援軍
見たことのある巨人。緑の鉱石に包まれた火山の化身をいとも簡単に押しのけた巨人。
忘れない。いや、忘れてたまるものか。
八海、ショッピングモールと戦った化け物。それは泰兄が使役していた宇宙の神であり、
今は・・・俺の友人の中にいるはずだ。
「さて・・・”総力戦”だ。」
まともな説明さえもせず、兼兄は呟く。
目の前で暴れているのは・・・あいつなのかさえ分からない。
「兼兄・・・。」
「俺が出来るのはこれだけだ。酒呑がうるさいんでな。」
何もせず、ただ巨人を呼び出した兼兄はそのまま去ろうとする。
このままいかせる訳にはいかない。さすがに説明をしてもらわなければ納得できない。
影に沈もうとする兼兄の服を掴もうとする。
「安心しろ。お前の思った通りだよ。」
だが、手に伝わってくるはずの布の感触は一切感じられず影に沈んでいく。
掴もうとした腕が体を貫いており、先ほどまでいた兼兄が影となって沈んでいった
光景だけが視界に映し出されていた。
「面倒な奴がきたもんだ・・・!!」
片野の意識が俺から緑の巨人に移され、鉱石の巨人と共に戦おうとしたその時。
遠くから大きな衝撃音が響く。
兼兄が姿を現してから事が大きく動き出しており、音が鳴った方に視線を移すと
東京に足を踏み入れていた落とし子達が全て海に引きずり戻されていた。
「なんだ・・・?」
巨大な落とし子達を引きずるなんてありえるのか。離れた湾岸で一体何が起きているのか
思わず見つめてしまう。ここからでも分かるほど、高い水しぶきが上がっている海。
落とし子達もゆっくりと立ち上がり、自らを引きずり下ろした奴に向けて
拳を振り下ろそうとするが、悠然とした体を動かせない奴らとは比較にならないほど
俊敏な動きをした何かが海の中から飛び出し、振り上げた腕に噛みついた。
「・・・・・・・・。」
あの時。泰兄と戦ったショッピングモール内で戦った二体の神。
そのもう一柱が味方であるはずの落とし子の腕をかみ砕き、再び海に引きずり込もうと
身を引いている姿が見える。何故そんなことが起きているのか、答えは一つだけ。
八海で秘匿の場で修業を積んでいた”猛と真奈美”が俺を助けに来てくれたのだろう。
『・・一度体制を立て直そう。』
二人のおかげで俺の精神的不利は無くなった。不安の種を掘り起こしてくれたおかげで
純恋達と戦う算段をつけることができる。
本当なら・・・今すぐに出て猛の支援に向かい、共に片野を討ち果たしたい所だが
それでは純恋達を危険に晒し続けてしまう。
片野と緑の巨人が俺から視線を完全に外しているタイミングで
しっかりと足並みをそろえないといけない。
「・・あれはなんだ。」
純恋達と合流を果たすと、共にいた陽菜が開口一番尋ねてくる。
「あれは・・・・・俺の友人だ。あんな姿だが、信頼してくれていい。」
俺の回答に、そうかと一言だけ返事が返ってきた。
化け物を友人と呼んだ俺に向ける視線は疑惑が乗せられているが、純恋達の反応を見て
今は深く詮索をするべきではないと判断したのだろう。
「ひとまずや。どう戦うかやな・・・。」
突然姿を現した片野に対応する方が無理だった。冷静に振り返ればはっきりと断言できる。
「・・片野は俺がやる。」
そんな相手と純恋達が戦うのは流石に難しい。ここは俺一人だけで戦う事こそが最善。
俺の言葉を聞いた純恋は明らかに不満そうな表情を浮かべるが、
自分達があの状態の片野出来ることはあまりに限られている事を察して口をつぐむ。
「みんなはあの緑の巨人を頼む。二体の距離を離した後、各個撃破を狙おう。」
「それはええけど・・・あの龍穂の友達に任せるのはだめなんか?
あの様子なら一人で任せてもええと思うけど・・・。」
猛の猛攻をどうにかしようと片野は剣を振りかざして襲い掛かるが、
見た目より素早く攻撃を躱している。確かに俺達で二体の距離を離せば話が早い。
「じゃあ・・・桃子達は俺と一緒にあの片野と戦って生き残れるか?
あの様子だと、まだ隠している力がある。それを受けて俺がカバーできる保証はない。
たった一人で奴の攻撃を少しでもいなせるのなら・・・それでもいい。」
肝心なのは分断する事ではなく、誰が片野の相手をするか。
先程純恋が口を出さなかったことがその結果を示しており、誰一人として声を上げることは無い。
「・・戦いは続く。この先でもみんなの力は必要になる。
それに、俺はみんなと生き残りたい。その目的に向けて足並みをそろえよう。」
兼兄が言っていたことはこういう事なのだろう。
まだまだ俺は学ぶ事が多いとつくづく実感する。
「・・・・・分かった。」
策の意図と俺の意志を確認したみんなは納得した表情で受け入れてくれた。
後は・・・。
「申し訳ないが、猛は俺の方へもらう。そうしないと片野を完全に止められないからな。
だからこそ、今の時点で陣形と策を組みたい。緑の巨人に対しての陣形、牽制から締めまで。
近、中、遠距離でどう戦うかとか全て洗いざらい話しておこう。」
強大な敵相手に余るほど選択肢があっても足りないぐらいだ。
戦いの中で全てを決めるのには限度がある。出来ることはしておこうと
純恋達と案を出し始める。
案を聞きながら猛の戦いを眺めていると、やはり片野達が押し込み始めた。
人数不利もあるが、どうやら俺の予想通りまだまだ手札を残している様だ。
「・・こんなもんか。」
全体で出来る限りの策を出し終える。問題は出した策を状況に応じて切っていくか。
司令塔が必要だが、適任がこちらにやってきていた。
「お待たせしました。」
ちーさん達に会うために地上に言っていた千夏さんが帰ってきてくれる。
俺が念話で状況を伝えていたため、出ていた策の全ては把握している。
「千夏さん。お疲れの所申し訳ないですが・・・お願いできますか。」
「分かっています。行きましょう。」
これ以上猛を放っておくと、追い込まれてしまう。
大切な友人を・・・失うわけにはいかない。
「万里の壁。」
合図を送り、純恋達を前線に行かせ魔術を唱える。
「終わりだ!!!」
猛の体勢を崩し、致命的なダメージを与えようと襲い掛かろうとした
片野との間に黒い壁を敷いて距離を取る。
俺が作り出した黒い風の壁は片野の剣の一撃を阻むと、すぐさま形を変える。
緑の巨人と片野。二人の分かつ壁を作り上げ猛の元へと急ぐ。
「・・ここからだ。」
一度手放しそうになった勝機。それを取り戻してくれた猛を助けない訳にはいかない。
片野との決着を再びつけるためにも、得物を強く握りしめた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
少しでも興味を持っていただけたのなら評価やブックマーク等を付けていただけると
励みになりますのでよろしくお願いします!




