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第四百十六話 時間と仲間から来る焦り

片野との攻防は結果として相打ちに終わった。だが、過程は大きく異なる。


「少し焦ったが・・・こんなんじゃやられねえよ。」


からめ手を使いながらの攻め。奴を強敵として認めた上での攻めだった。

思惑通りに事を進め、勝利へとぐっと近づいたと思ったがそれは幻想。

俺に振り回されていた片野だったが、最終的には自らの実力で全てを立て直してしまった。


「なかなかやるな。今のやり取りでルルイエで戦った時の事を鮮明に思い出したよ。」


脳に刻まれていた人間の記憶を俺が思い出せてしまった。

出来れば・・・忘れていて欲しかった。自らが上位存在であり、俺達に対して

舐め腐っていてくれた方がまだ隙をつけただろうに。


「・・その時と同じ末路を辿らせてやるよ。」


だが、俺にはまだ純恋達がいる。それに戦い始まったばかり。

何を弱気になっているんだと自らを鼓舞しながら片野に言い返した。


「いや、そうはならない。何故なら・・・・。」


奴は触手を天に向ける。すると・・・収まっていた地震が最後火山を揺らしていく。

俺のブラックホールではなく、別の何かが与えた振動。

それはつまり・・・奴が仕掛けてきたという事なのだろう。


「ここからは俺の番だからな。」


緑色の火山が突然怒りだし、火口から大量の溶岩を打ち放つ。これは・・・厄介な事になった。

辺り一面の広範囲攻撃。これでは俺だけではなく壁に隠れて気を伺っている純恋達や

下にいる白達にも攻撃の手が伸びてしまう。

だが・・・全てを対処するには相当な範囲の魔術操作を行わないといけない。

そうなると意識がそちら側に持っていかれ、先ほど俺が片野に仕掛けた事を

そのまま返される事は誰の眼からしても明らかだった。


(どうする・・・。)


見ると溶岩だけではなく、緑色の岩石も空中に飛んでいる。

まともに当たれば命の保証所か確実に命を奪われてしまう。


『余計な事を考えんな!!!』


目の前に広がる光景を何とか対処しようとしたその時。

控えている純恋の声が飛んできて、黒い風の内側から大量の魔術が打ち放たれる。

風の拳、太陽の魔術など様々攻撃が溶岩や岩石に向かって飛び放たれると

人体に影響の少ない小さな石のみが地上に向けて落ちていった。


『勝手に追い込まれんなや!!背中は任せて龍穂は龍穂二しかできないことをせえ!!!』


念話で伝わってくる純恋の怒号。正常な判断が付けられずに無意識のうちに一人で戦う道に

進みかけていた俺の背中を掴み、必死に引っ張り上げてきた。


『・・分かった。』


仲間を守りながら勝てる相手ではないと思考を切り替え、奴を見つめる。

火山か、それとも本体か。どちらを狙うにせよ、もたもたしていれば

落とし子達が東京を踏み荒らしてしまう。

悩んでいる暇さえない。どう転んでも精神的アドバンテージは奴にある。

打開策が生まれない状況で突っ込んでいけない事は分かっているが・・・

もう攻め込むしか手立てはない。


(クソッ・・・!!!)


ケライノーやアルテミスと共に突っ込もうとする俺の姿を見て、奴はにやりと笑った。

こいつ・・・狙いだったのか。


「欲張りな奴だな。二兎追う者は・・・全て失うと分かっているだろうに。」


俺を見て呟いた奴の指摘は痛いほど的確。最悪のビジョンが頭の中に浮かび上がっていた。


「さて・・・摘ませてもらうよ。」


俺を倒すために火山が動き始める。山が細かく動き出し、なんと人の形に変わってしまう。

翠の火山の巨人。こいつで・・・俺を仕留める気だ。

こいつを最短で倒し、奴が驚いた隙に海岸に魔術を打ち込む。

あの巨大な奴らを倒すのであれば、それなりに強力な奴が必要だ。

最悪のビジョンを最高に変えるため、必死に頭を働かせる。


「・・・・・!!!」


だが、目の前に迫る影に気が付くことが出来なかった。

集中を切らした覚えはない。だが・・・結果として、俺の目の前にオトゥームの巨大な

剣が迫っていた。


(回避・・・いや、そんな暇はない・・・!!)


空気に紛れる余裕はない。だが、これだけ迫っているとケライノーの形を変えるしか方法が無い。

だがそうしてしまうと落とし子達を抑える手数を失ってしまう。

どうしても時間が足りない。だが、受けることも避ける事も許されない。

何処にも正解がない状況に頭が固まってしまう。

犠牲・・・どちらかを犠牲にしなくてはならない。俺か・・・東京か。

一人か、この街の未来か。その選択肢が剣として迫ってきているが、俺には選べない。


「終わりだ。」


辛うじて作り出した空弾を剣に打ち放つが、ほんの少し押し返すだけで

威力は落ちずにこちらに向かってきた。

空気を止めるが・・・もう遅い。荒く、禍々しい刃が俺を断ち切ろうと振り落とされる。


「まったく・・・。」


目と鼻の先。薄皮に刃が引っかかったその時。横から聞こえてきた声と共に

何かが飛び込んで来たかと思うと視界が一気に晴れていく。


「悪い癖だな。あいつの言う通り、この状況で二兎なんて負うべきじゃない。」


俺の目の前に現れたのは・・・黒いスーツを着た。それは・・・兼兄だった。


「全てを背負う必要なんてない。お前は前だけを見ろと何度も言っているはずだぞ。」


俺を背に立ちふさがる兼兄。確か・・・皇を守っていたはず。


「お前・・・空気読めないな。ここで終わらなければならないんだよ。こいつは。」


兼兄の助太刀に明らかに不満を見せる片野。それもそのはず。

あのまま剣が振り落とされれば俺は確実に死んでいた。


「助太刀ってもんはな。ギリギリで駆けつけるのが恰好は良いが、助けられる本人は

たまったもんじゃない。余裕がある内に助けてこそ、本当の助太刀だ。」


頼りになる背中。だが、いつもと違うのは頭に大きな角が生えているのが見える。

後ろからでも見えるほどの立派な角。体に秘めている力もいつもと違う上に強大となっている。


「・・で?お前も俺と戦うってのか?」


「いや、お前を倒すのは龍穂の役目だ。俺はただ、俺の役目を果たしに来ただけさ。」


そう言うと、片野がいるにも関わらず後ろを向き俺と向き合う。

そして・・・俺の両頬を挟むように強く叩いてきた。


「足並みをそろえることが共に戦う事じゃない。それだけは理解しろ。」


時には後ろに引かせることも大切だと兼兄は語る。

それは・・・俺も分かっている。だが・・・。


「純恋ちゃん達がそれを望んでいないのは俺も理解している。

だがこのわずかな小競り合いであの子達も理解しただろう。

自分達も強い。それでも・・・自分達が歯が立たない者がいると言う事をな。」


壁の後ろにいた純恋達。反撃の狼煙を上げる準備を整えていたはずが、

結局の所まともに魔術を放てていない。それならば・・・落とし子と戦う言ってもらった方が

マシだっただろ。


「さて・・・お前達が出来ないのなら、その役目は俺が引き継ごう。

龍穂がしっかりと前だけを見つめられるようにな。」


言いたいことを言い終えた兼兄は再び片野の方へ振り向く。

このまま戦う様に口ぶりだが・・・得物を手にすることは無い。


「何をしようとしているのか分からないが・・・お前ら二人を相手しても、俺は負けない。

因縁の相手だしな。」


ここまで戦ってきた俺は当然、先ほど言っていた兼兄とその式神であるニャルラトホテプに

対して言っているのだろう。見るからに神融和をしておらず、

片野は兼兄を追い詰めて影の王を引き出す気でいる。


「やってみるといい。出来るものならな。」


得物さえ持っていない兼兄は片野を煽る。

すると緑の巨人に先ほど持っていた剣を渡すと、大きく振りかぶり俺達を叩き潰す気だ。


「兼兄・・・!!!」


このままではマズイ。どうにかして止めなければと空気の操作を行おうとするが、

兼兄は背中を向けたまま右手を伸ばし、手のひらをこちらに見せてくる。


「・・手を出さなくていい。」


目の前に敵が凶刃を振るおうとしているにも関わらず、まるで他人事のように呟く。

一体、この人には何が見ていると言うんだ?


「お前らを潰せば・・・俺は認めてもらえる・・・!!

あの人に・・・王となるあの人の傍に仕えれば・・・!!!」


俺達に向けて明らかな怒りを持った片野は緑の巨人を動かし、腕を振り下ろそうとする。

そうなってしまえば・・・俺達どころか純恋達も命を落とすだろう。


「人の思いってのは・・・不思議なもんだな。」


「こんな状況で・・・!!」


「”あいつら”さ。お前のために必死こいて強くなって・・・。

そんで、ここまでやってくるなんてな。」


何かを呟いた後、緑の巨人のすぐ横に突然大きな影が現れる。

そして・・・大きな鱗を持った腕が這い出てくる。


「なっ・・・!?」


大きな手のひらが地面を掴み、本体が出てきたかと思えば緑の巨人がバランスを崩す。

みると・・・見たことのあるもう一体の巨人が、わき腹の開いた緑の巨人に襲い掛かり

力任せでねじ伏せている光景が目の前に広がっていた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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