第四百七話 信頼の理由
踏み込む決断をつけた純恋。未知数だが、勝利への道筋はある。
「翠、二体の間を抜けるで。他のみんなはその援護や。」
まずはたどり着くこと。それが第一段階。だが・・・当然不安点もある。
近距離戦を得意とする者達が空を飛べないのは痛い。
受け止めた時、足を支えるのは地面ではなく沖田の烏の体となる。
朱雀の一撃を非力な烏が受け止められる訳がなく、迫られればなす術がない。
「千夏さん。」
「・・分かっています。」
そうなると中遠距離を得意とする純恋と千夏が肝となる。
必死に戦っている楓や騰蛇がこちらに近づけまいと抑えてくれるだろうが、
遠距離攻撃は飛んでくるだろう。それに後ろの二人が何もしてこないなんてことはあり得ない。
それを対処できれば近づくことができる。
「やるで・・・。」
少しでも遅れれば勝機を失う。純恋は震えた携帯電話を取りだし、画面を一瞬確認した後、
沖田の指示を送る。
勢いよく翼を羽ばたかせた烏は戦う二体の化け物の間を抜けようとするが、
脇で戦う二体が簡単に許すはずがない。
「くっ・・・!!」
「ぐあっ!!!」
純恋達を視界に捕えた瞬間、隠していたギアを上げ相対する二人を吹き飛ばす。
通してはならないと全力で隙を生み、純恋達へと襲い掛かった。
「来るで!!!」
朱雀はその鋭い爪を、足の遅い玄武は戦闘の中で使っていた巨大な岩を。
足止め、そして止めを刺すには十分な一撃を放ってくる。
「日輪煌々御来光!!!」
「雨叢雲剣!!!」
純恋は迫り来る朱雀に向けて。そして千夏は迫り来る巨大な岩に向けて魔術を打ち放つ。
生半可な炎など焼き尽くす太陽。そして風と水の混合魔術であり、
すさまじい勢いで放たれた水は向かってくる岩をいとも簡単に絶ち切っていく。
「これで・・・。」
二人魔術によっていなせたと判断した沖田が烏に早く飛ぶように指示を送る。
この危険地帯を抜けようと、烏は必死に翼を羽ばたかせるがその決断が間違っていると
言う様に体に火をまとう朱雀が目の前に現れた。
「なっ・・・!?」
「こいつ・・・無理やり突破したんか・・・!!」
太陽の炎に身を焦がしながらも、なんと純恋達の行方を阻みに来た。
「くっ・・・!!」
どうにかしようと沖田は得物を引き抜くが、巨大な体を持つ朱雀を相手するには
あまりに刀身が小さい。対人戦に特化した武術ばかりを習得してきた自分に後悔を抱きつつ、
それでも何とかしようと得物を振りかぶるが、隣に居た純恋が大声で制止した。
「戦うな!!このまま突っ走るで!!!」
そう言い放った純恋の視線。それは朱雀ではなく、何もないはずの大空を見上げていた。
「っ・・・!!!」
一体何があるのか。今の沖田にはそんなことはどうでもよかった。
何もできない自らの判断より、打開策を練る純恋の言う事をただ聞いていた方が良い。
「さて・・・・・。」
明日数秒もすれば爪が目と鼻の先まで迫ってしまう。
そうなれが後は走馬灯をゆっくりと眺めるだけだろう。
「・・・・・?」
目の前まで迫る朱雀。だが、その大きな体に影が覆いかぶさる。
「千代包の光矢!!」
目の前まで迫り、走馬灯が頭の中によぎったその時。
視界が一瞬光に包まれ思わず目を閉じてしまう。
「・・・・・・・・?」
そして目を開いたその時。先ほどまで目の前にあった朱雀の爪どころか
大きな翼や体が消えてなくなっており、残されていたのは空に舞った朱色の羽達だった。
「さすが、いいタイミングや。」
切り開かれた道を烏はスムーズに軌道を伸ばしていく。
一体何が起きたのか、沖田は純恋が見つめている地上に目を落とすと
朱雀を押し込んでいる光を放つ大きな烏がそこにはいた。
「もうええで!八咫烏!!」
朱雀を押し込んでいた八咫烏は純恋の声を聞くと有利な状況を手放し引いていく。
そして、二体の横を過ぎ去ったこちらへ合流を果たした。
「・・よかったのか?」
「ああ。先は長いからな。アンタの力は強大や。ここで不用意に消費しちゃアカン。」
烏の横に付けた八咫烏に純恋が触れると、光が純恋にも渡っていき神融和を果たす。
「さて、ここからが勝負やで。」
二体を突破し、後衛を務めている天后と天空に近づける。だが、
この状況を千夏は快く思っていない。
「・・純恋さん。突破できたのは良いですが、挟撃の危険があります。」
敵の懐に飛び込んだはいいが、二体ずつに挟まれる最悪の状況に
足を踏み入れている事実を告げる。
「ここまで来てのこのような事を尋ねるのは申し訳ないですが・・・策はあるのですか?」
楓達が再び朱雀と玄武と相対しており、足止めは可能だろうが
先程の様に突き放される危険性は十分にある。
そうなれば朱雀達は再び距離を詰め、武力で押しつぶされる未来は容易に考えられる。
「それに我々だけでは手数が足りません。人数はいますが、飛べない桃子さん達を
一人とは考えられない。体ではなく、翼で戦力を数えなければなりません。」
「それに関しては大丈夫や。楓達には後で合流してもらうからな。」
「合流・・・?それはあまりにも・・・。」
浅はかだと言いかけた千夏に向けて、純恋は手を伸ばす。
「時間なかったから伝えられへんかったのは謝るわ。
でも・・・安心してほしい。だから、”錫杖”を貸してくれへんか?」
勝機とは策略によって道筋を作り上げて掴み取るもの。
参謀を務めることが多かった千夏はそう思っていたが、目の前にいる純恋の様に
環境の変化に即座に対応し、流れに身を任せて授かるものでもあると千夏は実感する。
「・・分かりました。」
こういった感性の違いは摩擦を生んでしまうが、千夏は純恋に絶対の信頼を置いている。
この子が龍穂を追い込むマネなんてするはずがない。にわかに信じがたいが、
未来から帰ってきたその決意の強さに、千夏は信頼を置いており
何も疑うことなく錫杖を手渡した。
「まったく・・・龍穂に渡す物に変な仕掛けをするなんて・・・。」
受け取った純恋は錫杖に文句を言いながら受け取る。
そして・・・力を込めると、錫杖の先に光が満ちると、その光が天に一本の道筋となって
撃ちあがる。
「これは・・・。」
「私達の位置を知らせる仕掛けや。そんで・・・。」
見たことの無い術式が現れると、杖の影が伸び始め中から誰かが這い出てくる。
「おっと・・・出番やな。」
現れたのは雑賀。錫杖の作り手である雑賀が姿を現した。
「あいつらと連絡を取ったら、まさかアンタから返事が返ってくるとは思わんかったわ。」
「そやな。まさか俺も連絡を取るとは思わんかったわ。」
純恋が連絡を取っていた・・・にしてはあまりにかけ離れた会話をしている。
それでも貴重な援軍が来てくれたのには変わりない。だが、
雑賀一人ではこの状況を変えられないのは明白。
「さて、一仕事してもらうで。」
「一仕事か・・・。また重い仕事やな。報酬、期待してええんか?」
「ここにいることが一番の報酬やろ。日ノ本を救った一員になれるんやで?」
純恋の一言にケチだといちゃもんをつける雑賀だったが、
仕方がないとため息をつき、懐に手を伸ばす。
「まあ、お前さんの男に後々請求させてもらうわ。」
傭兵気質の雑賀は龍穂からの報酬を期待すると呟くと、胸元から取り出した
筒の長い拳銃を取り出すと、戦っている楓達の上に何かを打ち放つ。
「目くらましや。今のうちにお仲間をこっちに呼び寄せぇ。」
灰など様々な物を混ぜた目くらましは楓と騰蛇にも降り注ぐが、
式神契約を繋いだ桃子が騰蛇に指示を送ると、察知した楓が背中に飛び乗り
視界を狭められた二体に生まれた隙を縫ってこちらに向かってくる。
「・・これで、俺の仕事は終わりやな。」
楓達を合流させた後、得物を懐に戻した雑賀は別の方向を向く。
「えっ・・・?我々を助けに来てくれたのでは・・・?」
「それは”これから来る奴ら”の仕事や。人の仕事を奪うなんて
恨みを買う様な事はしない主義なんでな。」
「・・・・・援護に行くんか?」
雑賀の視線は謙太郎達が降りた護国神社に刺さっている事に純恋が気が付く。
「・・腐れ縁って奴や。見て見ぬふりをして死なれても困るんでな。」
「腐れ縁ってのは切っても切れないものの事を言うんやで。
繋ぎに行きたいほどに大切に思っとるんやな。」
純恋の言葉を聞いた雑賀は立ち尽くすだけ。
「・・・・・そうやな。」
そしてやっと帰ってきたのは軽口を叩く雑賀にしてはらしくない素直な一言だった。
「明るい奴の近くにいると運気が入り込んでくる。商人の俺にとって必要な奴なんや。」
「最後に出てくるのがそれか・・・。まあ、アンタは仕事をしてくれた。
私達に止める権利はない。行ってくるとええわ。」
いつもの軽口に戻った雑賀は烏の背中から飛び降りていく。
だが、桃子達が戻ってきただけで状況は好転していない。
このままだと千夏の言う通りになってしまう。
「ははっ!!!面白いことになっているな!!!」
朱雀達がこちらに向かおうとしていた時。聞いたことのある大声と共に
がら空きとなった二体の背中を爆発が襲う。
「来たな・・・。」
「こんな面白い事、なんで早く連絡を寄こさなかった!!!
まったく・・・相変わらず冷たい奴だ!!!」
不意を突かれた朱雀達だったが、すぐさま立て直し大声の主の元へ視線を向ける。
そこには烏の背に乗る学生達の姿。織田陽菜とその配下達の姿があった。
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