第四百五話 貴人の新たな力
辺り一面に現れた触手。壁となった触手は一斉に俺達の方へ向かってくる。
「何や・・・これ!?」
あまりに突然の出来事に全員が戸惑っており、対応できずにいる。
つい先ほどまで優位に立っていた。だが・・・わずか十秒もしない間に
窮地に陥ってしまった事実を脳が理解できずにいる。
「・・・・・・!!!」
このままではマズイ。少しでも対応が遅れると全員が触手に飲み込まれてしまう。
「黒い恒星!!!」
頭で理解するより先に体が反応し、貫かれたスプートニクの魔力を使い
全てを引き寄せ破壊するブラックホールを生み出す。
この触手の原因は間違いなく貴人。いや、もはや貴人と呼べないのかもしれないが
奴をどうにかしなければみんなが危ない。
俺達に近づく触手達の根元に現れたブラックホールは固い皮膚を削り取っていき、
全てを断ち切っていく。その瞬間、俺達に向かって来ていた触手達が力尽きたように
勢いを失くし、地面へと落ちていった。
「やるねぇ・・・。不意を打ったつもりだけど、難なく対応して来るなんてさ。」
聞こえてくる貴人の声。先ほどまでは女性特有の高い声だったが、
その中にもう一つの声が混ざっている。その声はあまりに不快。
人ではなく、神ですらない。そんな不気味な声が混じった声は俺達の心を逆なでる様な
あまりに気持ちの悪い声だった。
「・・龍穂君。」
あまりの光景に身を固めていた千夏さん達が俺の後ろにやってくる。
離れていては触手に分断され各個撃破を狙われると判断したからだろう。
「あれは・・・なんや?」
「分からない。だけど・・・貴人の力じゃない事だけは確かだ。」
「そうさ。私にもやっと回ってきたんだ。宇宙の神の力がね!」
落ちていく触手の中に見えた貴人の肌は血が通っていないのか青白い所か
真っ青になってしまっている。宇宙の神。クトゥルフの配下と一体になった貴人がそこにはいた。
「やっとこれで・・・”晴明に会える”!この力を使えば・・・私の悲願が達成される!!」
下半身には先ほど見えた無数の触手が生えており、変わり果てた自らの体を
確かめる様に両手で自分の体を触れている。
薄く生えた鱗を一枚一枚確認しているのか、まるで舐め回すようにゆっくりと触れていく。
人とは程遠い姿だが、どれほどあの力を欲していたのかが伝わってきた。
「悲願・・・だと?貴様、一体何を企てているんだ?」
桃子を背に乗せている騰蛇は貴人に向かって苛立ちながら尋ねる。
騰蛇の悲願。晴明に会えると嬉々としながら叫んでいたが、当然のことながら
安倍晴明はとっくに亡くなっている。
「騰蛇!馬鹿なあんたには分からないだろうね!!私は手に入れたのさ!!
晴明を蘇させる力を!!」
蘇りなんて出来やしない・・・と反論したいが、場合によっては可能なのは
神道省での戦いで証明されてしまっている。賀茂忠行は確か・・・安倍晴明の魂を吸収している。
その魂を取り出し、適性の体に入れる事が出来れば・・・蘆屋道満の様に
現世に蘇ることが出来てしまう。
「・・蘇らせてどうする。」
楓と共にいた白虎が貴人に尋ねる。現世に安倍晴明を呼び出した所で一体何になる。
強大の力を持った安倍晴明が現世に現れれば・・・。
「神にでも仕立て上げるつもりか?奴は既に祀られている。
魂が解放されれば・・・神として崇め奉られるのはお前も分かっているはずだ。」
「・・神?はっ、そんな事私が望むと思っているのかい?
私が蘇らせるのはね、”私だけの物にするためさ”!!」
貴人は自らの野望を恥ずかしがる素振りさえ見せずに堂々と言い放つ。
「貴様・・・!!!」
その言葉を聞いた瞬間。十二天将達に怒りの炎が燃え上がり、
貴人に対して強い殺意が向けられた。
「アンタ達も分かっているだろう?あいつは・・・魅力的すぎたのさ。
人にしろ妖怪にしろ。神にだってそうさ。あいつの魅力に惹きつけられた。
だからこそ、私達十二天将は奴に付き従った訳だけど・・・今となっては後悔しているよ。」
貴人は開いた両手を開くと、手のひらをこちらに見せながら神術の用意を始める。
「アンタ達なんか呼び出さず、一人で行けばよかったってね。
こんな思いをするんならなおさらさ。晴明が死んだあの日から今日まで、
私は一時も忘れなかった。あいつの顔、声、掛けてくれた言葉。
その全てを・・・自らの物だけにしたい。ただそれだけさ。」
なんと女々しい事であり、人間臭い奴なのだろう。
こいつは安倍晴明に思いをはせていた。その思いだけでここまでの行動を起こしたんだ。
「・・馬鹿なのは貴様だ。この雌猿が。」
「なんとでもいいな!でも・・・最後にあいつの立っているのは私だよ。」
用意された神術が解放されると、空中に神力で描かれた陣が浮かび上がる。
その陣は光を放ち、中から何かを呼び出そうとしているが、決して先ほどの妖怪達ではない。
あまりに強い力。妖怪達とは比のならない強さを持った何かを召喚しようとする貴人に対し、
すぐさま空弾を打ち放ち、いくつかの陣を破壊するが
どうしても抑えきれず、三つの陣が残ってしまった。
「出てくるぞ!!警戒してくれ!!!」
一体何を召喚するつもりなのか。どれが来ようと厄介なのは陣から出る威圧感で
伝わってきている。
「懐かしい顔を見せてやろう・・・。ほれ、感動の再会だ!!」
出てきたのは目の虚ろな紅い大きな鳥と亀。そして男女の神が現れたが
この姿に俺達はどこか見覚えがあった。
(あれは・・・騰蛇達と一緒だ・・・。)
操られていた騰蛇達に似た状態の何かが召喚される。
その身体的な特徴。そして・・・青さんと白虎の様子を見て俺はその存在を察する。
「クソッ・・・!!!」
赤い鳥と亀。あれは恐らく・・・残された四聖獣の二柱。
「玄武・・・朱雀・・・・。」
貴人が召喚したのは十二天将達。青さん達以外の奴らを召喚してきた。
「ご名答!!玄武、朱雀!!そして・・・天后、天空だ!!」
貴人が名を呼ぶと、力の入っていなかった体が反応し、大きな雄たけびを上げる。
正常とは思えない獣の様な叫び。これは・・・説得は出来ないだろう。
雄たけびの後、十二天将達は襲い掛かってくる。
だが、俺ではなく後ろのみんなに向かって勢いよく飛びついた。
「来るで!!!」
各々が飛び込んでくる奴らに対応するが、その勢いはすさまじい。
恐らく何らかの手段で強化されているのだろう。踏ん張り切れずに距離が離れていく。
「クソッ!!!」
急いでみんなの元へ駆けつけようとするが、顔の横に何かが通り過ぎていくと
頬に小さな痛みが生まれる。
「アンタは行かせないよ。私と遊んでもらうからね。」
辺り一面に知らばった触手が俺の行く手を阻んでいる。
少しでも背中を見せれば、すぐさま心臓ごと突き刺さるだろう。
新たな力を見せていた貴人。宇宙の神の力は強大であり、簡単には行かない。
だが・・・俺が遅れれば純恋達も危なくなってくる。全てを迅速に片づけなければならない。
心に生まれる確実な焦り。それは貴人からもたらされたものであり、
全てを背負って且つ、勝利を掴み取らなければならなかった。
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